コジマプロダクション設立後、小島秀夫は「新しいことに挑戦する」という理念を掲げ、既存のジャンルにとらわれない新規IPの創出に注力していた。2019年に『DEATH STRANDING』を発売し、独立したゲームクリエイターとして異例の成功を収めた小島は、さらに新しい表現を求めてホラーゲーム『OD』の開発にも着手していた。その一方で、独立からの約10年間、小島のもとには『メタルギア』『ZONE OF THE ENDERS』『P.T.』『ボクらの太陽』などの、コナミ在籍時に手がけた過去作の新作や、復活を望む古参ファンからの声も寄せられていた[2][9]。
本作のプロジェクトが立ち上がる直接的な契機となったのは、小島自身の個人的な体験であった。小島は、自身の家系に早死の傾向があったことから寿命への意識はあったものの、新型コロナウイルスのパンデミック下であった2020年に大病を患い手術を経験したことで、人生の有限性を強く再認識することとなった。「制作はもう続けられないかもしれない」と感じるほど心身ともに衰弱し、遺書と共に企画案の詰まったUSBメモリを秘書に託すほどの状態であったという[2]。
この経験を経て、小島は今後の創作について深く思い悩むことになる。「残された時間でどんなゲームを何作作るべきか?」また以前から多数のオファーがあった「映画制作の道へ進むべきか?」という葛藤もあった。この迷いについて友人の映画監督ギレルモ・デル・トロに相談したところ、「君が創っているものは唯一無二の“映画”だ。今のままの物創りを続けるべきだ」と強く後押しされた。この助言を受けた小島は、ひとまずゲーム制作を継続する決断を下した[10]。
そして、ファンから最も強く要望されていた「諜報(エスピオナージ)アクションゲーム」を最優先で制作することを決断し、本作『PHYSINT』の企画をスタートさせた。
小島は自身のラジオ番組において当時の心境を、「本当は全く別のモノを企画していて、それをやりたかったが、毎日のように『メタルギア...メタルギア...(を作って欲しいというファンの声があった)。』コロナ禍で大病を経験したので、人生が残り10年と考えた時、そこまで望まれるのであれば(作ろうと思った)。」と回顧している。なお、本作が『メタルギア』シリーズとは異なる作品であることも強く示唆している。「メタルギアは作りません」と明言したほか、「(既存のジャンルの中で)新しいことをします」「『メタルギア』だと思ってやると”ちゃうやないか”と絶対言う」といった趣旨の発言もしており、あくまで独立した新規IPであることを強調している[11]。