お墓がない!
1998年の原隆仁監督による映画
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あらすじ
1997年の夏、ベテラン人気女優の桜咲節子は新作映画『宣告』で、末期がんで闘病中の娘を支える母親役を演じることになった。節子は、役作りのために大学病院で検査を受けたが、医師の様子から自分ががんに侵され余命幾ばくもないと勘違い。仕事仲間に病気を伏せながら撮影に臨む節子は、がんを患う娘役の若手女優・一風弓の休憩中の態度を注意して現場がピリつく。死を意識する節子だが、それ以上に気がかりなのは自分の墓を持っていないことで、お盆の話をするスタッフの「お墓がない人はみじめ」との言葉を耳にして不安になる。
世間に“あの桜咲節子が墓を持っていない”と知られたくない節子は、一般の老婆に変装して偽名を用いて霊園会社の霊園見学ツアーに参加する。しかし気に入った墓が見つからないまま帰宅した節子のもとに、ツアー案内役を務めた新人・川嶋から電話が入る。川嶋は営業社員としての技術は未熟だったが、帰り際の様子が気になったため電話で節子に手助けを申し出て、翌日から2人で墓探しをすることに。
再び変装した節子は、川嶋が運転する車で寺や霊園などを色々と巡り、墓にも様々な形や供養施設があることを知るが、自分の墓にするには何かが足りない。一方何も知らされていない節子のマネジャー・敏子や監督・西大路陽三たちは、「節子が失踪した!」と大騒ぎ。とあるスターの墓に訪れた節子は、たくさんの花束に囲まれた風格ある墓を気に入り、川嶋に「これを参考にしてほしい」と告げる。夜になって自宅近所で川嶋と別れた直後に敏子が現れ、注意された節子は病院で末期がんの診断を受けたことと自身が入るための墓を探していたことを打ち明ける。
次の日、『宣告』の撮影に臨んだ節子は弓のいまいち真剣味を感じない演技に、末期がんである自身を重ねて強くダメ出しをする。控室で敏子になだめられた節子は、「お墓がないと死んだ後に世間から忘れられるのが怖い。自分に合ったお墓がどうしても欲しい」と気持ちを吐露する。前日の節子との帰り際に末期がんの話を耳にした川嶋は、独身の彼女のために後日川嶋家の夕食に招き、皆で楽しいひと時を過ごす。
節子から葬儀の準備を頼まれた川嶋は、葬祭部の上司に頼んで葬儀の仕組みや費用についてかいつまんで教わり始める。ほどなくして節子と川嶋は、遺体移送の様子を特別に見学させてもらって具体的な知識を得たり、葬儀に関わる人の本音を垣間見る。一方『宣告』の撮影で節子から役に真摯に向き合うことの大切さを教わった弓は、態度を改めて役者業に取り組むようになる。
翌日節子は川嶋と再び墓探しに向かうが、被っていたウィッグがふとした拍子に外れたことで有名女優の桜咲節子であることが彼にバレる。川嶋から「お墓がないことは、全然恥ずかしいことじゃないです」と慰められた節子は、翌日から変装を辞めて墓探しをすることに。だがこれまでの間、日本の葬式に対する様々な仕来たりにふれた桜咲は、郊外の霊園に向かう道中で川嶋に車を停めさせる。節子は川嶋に「大事なのは墓よりも、送る人と送られる人の心が通い合うことだ」という結論を出したことを伝え、突如墓探しを終わらせる。
『宣告』の撮影も終盤を迎えるが、弓の葬儀シーンで強い思い入れが湧いた節子は台本や演出に納得できず、自らによる台本の書き直しを西大路に頼み込む。しかし西大路が首を縦に振らずに撮影は一時中断となり、弓に励まされた彼女が監督に謝りに行こうとした所、突然意識を失って病院に運ばれる。幸い大事には至らず、病室で意識を取り戻した節子は、敏子に協力を得て台本の書き直し作業に取り掛かる。
数日後退院した節子は西大路と和解し、手直しした台本による弓とのラストシーンを撮り終え、監督や敏子たちから拍手喝采を浴びる。敏子が、節子の末期がんを診断した医師に詳しい話を聞きに行くと、節子の勘違いであることを告げられる。節子に「がんは節子の勘違い」と言うと恥をかかせるため、敏子は医師に頼んで彼女に“奇跡的にがんが治った”と告げてもらう。川嶋に再会した節子は、一人前の営業マンに成長した彼を称えた後、引き続き女優業に邁進するのだった。
キャスト
- 桜咲節子
- 演 - 岩下志麻
- 主に映画界で活躍するベテランの人気女優。作中の劇中劇の映画『宣告』の主演である、末期がんの娘を献身的に支えるシングルマザーを務める。邸宅で優雅な一人暮らしをしている。無宗教者。実は元々は孤児で、キリスト教系の孤児院「ひかりのいえ」で育った過去があり、このため先祖代々の墓を持っていない。17歳で芸能界入った頃から事務所の方針なのか、世間には「子供の頃は実家が裕福で女中が5人もいたお嬢様女優」ということになっている。社会人経験がないまま芸能界に入り、普段はどこに行くにも何をするにもマネジャーの手を借りてきたため、世間知らずで1人でバスに乗ったことすらない。これまで墓について考えたことがなかったため、様々な墓があることや檀家制度、宗派や葬儀費用などについて無知である。オペラ曲「トゥーランドット」がお気に入りで、自宅や愛車で時々聴いている。好物は、「うなとく」(浜松にある鰻屋)の鰻、夕張メロン、ボルドーのワイン。閉所恐怖症である。
- 変装時は「かすが あき」を名乗り、着物を着て短髪の白髪のウィッグにメガネをかけ、話し方も普段とは変えている。また、変装時に一般人の前では普通に立って歩いているが、敏子など仕事関係者と偶然出会った時は、さらに誤魔化すため腰を曲げて杖をついて歩く。川嶋との出会いから数日後に女優であることを隠すために“学校の先生だった”と嘘をついたため、以後彼の前では元教師の設定で会う。
- 川嶋一平
- 演 - 袴田吉彦
- 霊園運営会社「聖香メモリアル」営業部の若手社員。朗らかで思いやりのある性格で人当たりが良い。霊園見学ツアーの案内役を担当し、仕事で必要な基本的な墓地の価格などの説明はできるが、社員歴がまだ浅いためツアー参加者から突っ込んだ質問や文句を言われると対応に困ることがある。霊園会社に就職してから「縁起が悪い」ということで恋人にフラレたり、入院した友達の見舞いに行って追い出されるなどの憂き目に合っている。かすがの正体が、有名女優の桜咲節子であることを知らないまま墓探しを始めた後、彼女が「連絡を取りやすいように」と購入した2台の携帯電話のうち1台を渡され、以後お互いの専用電話として使用する。節子の墓探しや葬儀の準備に協力したことで、彼女や先輩社員などとのやり取りを通じて営業社員として成長していく。
- 一風弓(いちかぜゆみ)
- 演 - 安達祐実(特別出演)
- 人気沸騰中の若手女優で、これまでは主にテレビドラマで活躍してきた。劇中劇の映画『宣告』では、準主役である闘病中の17歳の少女・おがわはるか役を演じる。『宣告』の製作発表会見の席では、記者から初共演となるお互いの印象について問われた際、お互いに和やかな関係を装いながら牽制し合う。また、人気女優ということもあって普段は生意気でふてぶてしく、ベテランの節子にも臆することなく思ったことを率直に口にする。このように節子とゴタゴタしているが、本番ではお互いに仕事として割り切って仲の良い母子を演じる。撮影中に自身の演技や休憩中の態度にまで色々と口出ししてくる節子を面倒臭そうに対応するが、ある時彼女の迫真の演技を目の当たりにして態度を改め、その日を境に女優として1人の女性としても一皮むける。
節子の仕事関係者
- 松江敏子
- 演 - 高橋ひとみ
- 節子のマネジャー。節子や白鷺からは、「まっちゃん」と呼ばれている。独身。お盆休みで撮影が休みになった日に、白鷺から頼まれて都内にある彼の家の墓参りに同行する。節子より年下で「先生」と呼び慕っているが、ベテラン女優の彼女に対等に意見したり、時には叱ることもできる数少ない存在。ある日節子が撮影スタジオに来ず自宅にもいないことに慌てふためくと同時に、有名人気女優なため「1人でうろうろして騒ぎになっているのでは?」と心配する。節子から末期がんであることを知ってからは、彼女の気持ちに寄り添った対応をするようになる。
- 白鷺幸三
- 演 - 橋爪功
- 映画会社「RAIDEN PICTURES」社長。『宣告』の製作を行う。「今の日本の映画界でまともに客呼べるの桜咲節子だけ」と、彼女の集客力を高く評価している。5年前に妻を亡くしており、墓は都内の寺(村井住職の寺)にあり、物語の前半で墓参りに訪れる。節子の失踪により、撮影スケジュールが遅れることや映画が無事完成できるかを心配する。その後敏子から、節子が末期がんにかかっている話を聞く。
- 川田
- 演 - 三上大和
- 節子の専属運転手。節子の愛車であるロールスロイスらしき白い車や、彼女がスタジオの敷地内を移動するためのリリーフカーを運転する。また、節子や敏子からの指示で、節子の好物のそれぞれの販売現地にまで買い出しに行くなどの雑用を色々とこなす。『宣告』の撮影が始まって間もない頃に節子の自宅まで迎えに行ったが見当たらず、スタジオで待っていた敏子から彼女の居場所を聞かれて「さぁ(分かりません)」と正直に報告してお目玉を食らう。
- 西大路陽三
- 演 - 石橋蓮司
- 『宣告』の監督。撮影期間中に節子が失踪騒動を起こしたり、節子が弓の演技や態度を巡って現場がピリピリしたり、弓がわがままを言うたびに気を揉んでいる。また、節子のせいで撮影現場が混乱しても大女優の彼女には気を遣って文句を言えないため、下っ端のスタッフに強気に叱りつけている。『宣告』の監督として自分なりに心血を注いできたが、後日弓の葬儀シーンについて、節子が祭壇にダメだしと共に台本の書き換えをお願いしてきたことで、葬式のリアリティを求める彼女と意見が対立する。
- おおた
- 演 - 仁科貴
- ADらしきスタッフ。地方出身者で、実家は地主。スタッフたちとお墓参りの話題になって、「お墓がない人は死んだらどうするんですかね?(あの世で幸せになれるの?)」と答える。『宣告』の撮影開始から数日後、他のスタッフから「節子さんが消えた」という話を聞き、西大路に伝えるが、詳細を尋ねられて「さぁ(分かりません)」と答えたため怒られる。
霊園運営会社「聖香メモリアル」
- 辻沼信一
- 演 - 村野武範
- 営業部課長。川嶋の上司。川嶋と2人でかすが(節子)たち霊園ツアー参加者を担当。参加者を郊外の霊園に案内し、営業トークで墓地の購入契約を結ぼうとする。口が達者で、見学客が色々な理由で墓の購入に不安を感じても、「こう考えるのはどうでしょう」と提案するなど臨機応変に対応する。表向き物腰は柔らかいが、契約数を伸ばすことを第一に考えているため、墓を買う気があまり感じられない客には不快感を露わにすることがある。作中では企画段階ではあるが「墓地の定期使用権」[注 1]を提案している。物語の前半で節子から余計なことを言われたため怒るが、その後彼女が実は有名女優だったことを知って態度を一変させ、ゴマをすって購入代金が高い墓の契約を結ぼうとする。
- せきね
- 演 - 竹下宏太郎
- 営業部の社員で、川嶋より先輩。ある日川嶋と昼食を食べながら、墓石販売会社である自社の商売魂たくましい販売方法[注 2]を説明する。この販売方法に感心すると同時に、社員ながら儲け主義なこの業界に少なからず怖がっている。
- 高木登
- 演 - 田口トモロヲ
- 葬祭部チーフで、顧客からの質問に答える「葬祭相談コーナー」を担当。葬祭ディレクター技能審査の資格を保有している。川嶋から「(節子の)葬祭ディレクターをやらせてほしい」と頼まれ、断ろうとするが熱意に押されて引き受ける。川嶋にできるだけ葬儀を安く済ませる方法[注 3]などを簡潔に教える。
- ミヨ
- 演 - 土屋久美子
- 葬祭部社員。川嶋が高木から葬式について仕事を教わっていた時に、「とのむら総合病院」の担当社員からの電話を受ける。その電話の伝言である「患者が死んだため、遺体搬送をお願いします」を高木に伝え、病院に向かう彼が礼服に着替えるのを手伝う。
川嶋家
霊園見学ツアー参加者
- 敏江
- 演 - 天地真理
- 未亡人で、喪服らしき全身黒い服装でツアーに参加する。辻沼から「寿陵[注 4]は縁起が良く、長生きをすると言われている」と教えられる。辻沼から「墓地の定期使用権」という購入方法があることを知るが、夫が生前人見知りが激しかったことから「赤の他人と一緒のお墓じゃ心配」と気持ちを吐露する。
- サワ
- 演 - 石井トミコ
- 墓地を案内しながら辻沼が言った「亡くなられた人は土に還る」という言葉を聞いて、「骨壺に入ってコンクリート(納骨棺。カロート)に入ってどうやって土に還るの」と独り言を言う。ツアーの昼休憩で会社から出された無料の弁当を食べながら、節子と会話する。
- メガネをかけた参加者
- 演 - 松井紀美江
- 墓購入などにかかる費用をとにかく重視しており、見学中に持参した計算機やメモ帳を使って川嶋や辻沼から提示された墓地販売に関する数字を聞くたびに計算する。霊園の施設内に場所を移した後、辻沼から墓地の定期使用権について説明を受けるが、他人と同じ墓に入ることに躊躇し、別の考え方で判断することを提案される。
節子の墓探し、葬儀見学で出会う人たち
- 村井
- 演 - 桜井センリ
- 都内の1300年以上の歴史を持つ由緒ある寺の住職。自分を墓を持ちたい節子がたまたま自身の寺に訪れ、墓というものをよく知らない彼女に「いくら永代供養料などを積まれても、檀家として墓守をする人がいないと受け入れられない」と説明する。
- 山田
- 演 - 織田無道
- 木々に囲まれた落ち着いた雰囲気の庶民的な寺の住職。ある時川嶋に連れてこられた節子に、「うちは過去の宗派は問いません。檀家になってくれれば墓の受け入れをします」と告げる。
- 看護婦長
- 演 - 柴田理恵
- とのむら総合病院で働く。男性患者の妻(遺族の夫人)に遺体の早期引取りを申し出て、病院が手配した葬儀社(聖香メモリアル)での移送を勧めるが遺体搬送の葬儀屋を巡って意見が別れ、この様子を見ていた節子が突然話に入ってきたため戸惑う。
- 遺族の夫人
- 演 - 友里千賀子
- 団地の7階の部屋に家族で暮らしていたが、とのむら総合病院に入院中だった夫を病気で亡くしたばかり。この未亡人と夫の遺体安置のされ方などを、節子と川嶋が葬儀の勉強の一環として、少し離れた場所から見学する。中学生ぐらいの息子と病院の遺体安置室で悲しみに暮れ、看護婦長から遺体の今後の扱いについて説明をされる。
- 中村
- 演 - 秋野太作
- 天照山のとある大きな寺の住職。辻沼から話を聞いて、有名ベテラン女優である桜咲節子の葬儀と供養を引き受けることを希望する。「お金の話を御本尊の前でするのは良くない」との考えを持っている。だが実際にはお金が大好きな生臭坊主で、節子に「戒名の費用が高ければ高いほどあの世で幸せになれる」と告げる。
その他
- 田部井医師
- 演 - 金田明夫
- 『宣告』のクランクイン前の節子が、役作りの一環として検査を受ける病院の医師。節子の脳のレントゲン画像を見て「貧血気味」と診断し、念の為MRIと検査入院を勧める。後日敏子と白鷺に節子の末期がんは「彼女の勘違い」と伝えるが、有名女優に恥をかかせないよう2人から“奇跡的に治った”ということにして一芝居打つよう頼まれる。
- 夢野
- 演 - 八木亜希子
- とあるテレビ番組のリポーター。『宣告』の撮影スタジオに出演番組のカメラマンと共に訪れる。スタジオで休憩中の節子にインタビュー取材し、どういうことを考えながら本作の撮影に臨んでいるかなどを尋ねる。
- 若松
- 演 - 高松英郎
- ヤクザの組長らしき人物。節子のファンで、これまで色々と彼女の出演映画を見てきた。腕に入れ墨が掘ってある。組員と訪れた池のある広い庭がある茶店で、かすがの格好をした節子に偶然出会うが、長年のファンということで変装を見破り、彼女にサインをねだる。
- おでん屋のおやじ
- 演 - ミッキー・カーチス
- ある夜、仕事終わりの川嶋が客として訪れた屋台の店主。おでんを提供していたところ、川嶋から客のどこを見ておでんを売るかを尋ねられて、自分なりのやり方を答える。