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ながら運転

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ながら運転(ながらうんてん、英: distracted driving)とは、スマートフォン・携帯電話の通話や操作、カーナビゲーションなど画面の注視、飲食、喫煙といった、運転以外の行為をしながら車両を運転することの総称である。英語では「注意をそらされた運転」を意味するdistracted drivingと呼ばれ、世界保健機関(WHO)は運転者の注意の分散を視覚的・認知的・身体的・聴覚的の4種類に分類している[1]。

日本では道路交通法第71条第5号の5が、自動車・原動機付自転車・自転車の運転中(停止しているときを除く)に、携帯電話等を手で保持して通話すること、および車内に取り付けられ若しくは持ち込まれた画像表示用装置の画像を注視することを禁じている[2]。違反は「携帯電話使用等(保持)」と、交通事故を起こすなど道路における交通の危険を生じさせた「携帯電話使用等(交通の危険)」に区分され、後者は交通反則通告制度の対象外として刑事手続の対象となる[3][4]。規制は1999年11月の走行中の使用禁止、2004年11月の保持行為への罰則導入、2019年12月の罰則引上げ、2024年11月の自転車に対する罰則強化、2026年4月の自転車への交通反則通告制度の適用と、段階的に強化されてきた[5][6][3][7]。警察庁の分析では、2021年から2025年の合計で、携帯電話等を使用していた場合の死亡事故率は使用していない場合の約3.4倍である[8]。疫学研究や運転シミュレータ実験では、携帯電話を使用中の運転者の事故リスクは非使用時の約4倍で、ハンズフリー機器でもリスクは大きく下がらないことが繰り返し報告されている[1]。多くの国が運転中の手持ち使用を法律で禁止しているほか、欧州連合では運転者の注意散漫を検知して警告する装置の装備が義務化され、日本でも同種の装置の搭載義務化の方針が報じられている[9][10]。

定義と分類

アメリカ合衆国運輸省道路交通安全局(英語版)(NHTSA)は、ながら運転を「運転から注意をそらすあらゆる活動」と定義し、電話での通話やテキストメッセージの送受信、飲食、同乗者との会話、オーディオ・エンターテインメント・ナビゲーション機器の操作を例に挙げている[11]。アメリカ疾病予防管理センター(CDC)は、注意の分散を「視覚的(道路から目を離す)」「手動的(ハンドルから手を離す)」「認知的(運転から心を離す)」の3種類に分けて説明している[12]。WHOとNHTSAが2011年に共同で公表した報告書『Mobile phone use: a growing problem of driver distraction』は、これに着信音への反応などの聴覚的な分散を加えた4種類に整理し、携帯電話の使用は視線・手・意識のいずれをも運転から離すが、運転行動への影響が最も大きいのは会話に伴う認知的な分散であるとしている[1]。

日本の道路交通法上の「携帯電話使用等」は、手で保持しなければ送受信できない無線通話装置を通話のために使用する行為と、車両に取り付けられ若しくは持ち込まれた画像表示用装置に表示された画像を注視する行為の2つからなる[2]。通話については保持が要件だが、画像の注視については装置を手で持っているか否かを問わない。ただし罰則の適用は、装置を手で保持して注視した場合(保持)と、注視により交通の危険を生じさせた場合(交通の危険)に限られる[4][13]。対象となる画像表示用装置には、携帯電話・スマートフォンのほか、カーナビゲーション装置やテレビなどが含まれる[4]。車両が停止しているときは対象外であり、傷病者の救護または公共の安全の維持のため走行中に緊急やむを得ず行う通話も除かれる[2]。「注視」の目安について警察庁は、運転者が画像を見ることにより危険を感じる時間は運転環境により異なるが、各種の研究報告は2秒以上見ると運転者が危険を感じるという点で一致しているとし、時速60キロメートルで走行する自動車は2秒間に約33.3メートル進むと説明している[4]。

一方、イギリスやオーストラリア・ニューサウスウェールズ州の規制は、信号待ちや渋滞で停止している間も携帯電話を手に持って使用することを違法としており、停止中を除外する日本の規定とは範囲が異なる[14][15]。

携帯電話やカーナビゲーション以外にも、テレビやDVDの視聴[16]、オーディオやエアコンの操作、新聞や書籍への視線、飲食、喫煙、化粧、同乗者への意識の集中、車外の景色への注視など、運転者の注意を運転以外に向けるあらゆる行為がながら運転に含まれる[11][17]。アメリカの100台の車両を対象とした自然運転研究では、動く物を取ろうとする動作(オッズ比8.25)、車外の物への視線(3.70)、読書(3.38)、化粧(3.13)、手持ち機器のダイヤル操作(2.79)で事故・ニアクラッシュのオッズ比が有意に上昇し、飲食(1.57)は上昇したものの統計的に有意ではなかった[18]。

事故の機序と研究

疫学研究

1997年に『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン』に発表されたケース・クロスオーバー研究では、物損事故を起こした携帯電話所有者699人の通話記録を分析した結果、通話中の衝突リスクは非使用時の約4倍(相対リスク4.3、95%信頼区間3.0から6.5)であり、ハンズフリー機器(5.9)は手持ち(3.9)に比べて安全上の利点を示さなかった[19]。2005年に『BMJ』に発表された西オーストラリア州パースの研究は、病院での治療を要する事故を起こした運転者456人を対象に、事故直前10分以内の携帯電話使用が事故の可能性を約4倍(オッズ比4.1)に高め、ハンズフリー(3.8)でも手持ち(4.9)と同様にリスクが上昇していたと報告し、「ハンズフリーの使用はより安全というわけではない」と結論した[20]。WHOはこれらの知見を踏まえ、携帯電話を使用している運転者は使用していない運転者に比べて事故に関与する可能性が約4倍高く、ハンズフリーは手持ちより大幅に安全ということはなく、テキストメッセージの送受信は事故リスクを著しく高めるとしている[1][21]。

実験研究

ユタ大学のストレイヤー(David L. Strayer)らはドライビングシミュレータを用いた一連の実験で、携帯電話での会話中は模擬信号の見落としが2倍に増え、検出した信号への反応も遅くなること、この影響は手持ちとハンズフリーで同様であることを2001年に報告した[22]。2003年の研究では、ハンズフリー通話中の運転者は視線が向いている対象への注意そのものが低下しており、前方車両のブレーキへの反応の遅れや、注視していた看板の記憶の低下は、視覚入力に対する注意の減少(不注意による見落とし)によって説明できるとした[23]。2006年には、携帯電話で会話しながら運転する者と血中アルコール濃度0.08%の飲酒運転者をシミュレータ上で直接比較し、通話中の運転者はブレーキ反応が遅れて事故が増える一方、飲酒運転者は車間を詰め強くブレーキを踏む攻撃的な運転になるという違いはあるものの、運転条件を統制すれば携帯電話使用に伴う運転能力の低下は飲酒運転と同程度に深刻になり得ると報告した[24]。

これらの個別研究を統合したメタアナリシスも複数ある。ホーリーとウィッケンズは23研究を統合し、携帯電話での会話による運転成績の低下は主に反応時間の課題に現れ、車線維持への影響は小さいこと、ハンズフリーと手持ちで結果のパターンが同様であることを示した[25]。ケアードらの2008年のメタアナリシス(33研究、約2,000人)では、携帯電話関連の課題全体で反応時間が平均0.25秒延び、手持ちとハンズフリーの差はなく、運転者は車間距離を広げたり速度を落としたりして十分に補償してはいなかった[26]。同じグループによる2014年のテキストメッセージに関するメタアナリシス(28研究、977人)は、運転中のメッセージの入力と読み取りが、視線移動、刺激の検出、反応時間、衝突、車線内の位置、速度、車間距離のいずれにも悪影響を及ぼすと結論している[27]。

アメリカ自動車協会(AAA)交通安全財団が2013年に公表したストレイヤーらの研究は、脳活動の計測と運転成績の指標を組み合わせて運転中の各種作業の認知的負荷を評定する尺度を作成し、ハンズフリー通話や音声入力による電子メールの操作が高い認知的負荷を運転者に課し、視線が前方にあり両手がハンドルにあっても視覚的な手がかりの見落としや反応の遅れ、一種の視野狭窄が生じることを示した[28]。

自然運転研究

実際の運転中の車両に記録装置を取り付けて事故やニアクラッシュ(事故に至りかけた事象)の直前の行動を分析する手法を自然運転研究(naturalistic driving study)という。NHTSAが2006年に公表した「100台自然運転研究」の分析では、事故の78%、ニアクラッシュの65%に何らかの不注意が関与しており、前方道路から目を離した視線の合計が2秒を超えると、目的を問わず事故・ニアクラッシュのリスクが通常の運転の2倍以上になること、複雑な副次的作業はリスクを3倍に高めること、手持ち機器のダイヤル操作のオッズ比は2.8であることが示された[18]。同じ研究グループが2014年に『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン』に発表した研究では、免許取得直後の若年運転者42人において、携帯電話のダイヤル操作(オッズ比8.32)、携帯電話に手を伸ばす動作(7.05)、テキストメッセージの送受信(3.87)が事故・ニアクラッシュのリスクを有意に高め、経験のある運転者109人でもダイヤル操作でリスクが上昇した(2.49)[29]。2016年に『米国科学アカデミー紀要』に発表された905件の事故を用いた分析は、運転者側の要因(エラー、機能低下、疲労、注意の分散)が事故のほぼ90%に存在し、手持ちの電子機器は使用率もリスクも高いと結論した[30]。商用車については、アメリカ連邦自動車運送業者安全局(FMCSA)が委託した研究で、運転中にテキストメッセージを操作する商用車運転者が事故・ニアクラッシュ・意図しない車線逸脱などの安全上重大な事象に関与するオッズは、そうでない運転者の23.2倍と推計された[31]。

日本における実験・研究

日本自動車連盟(JAF)は2016年10月、教習所のコースで視線計測装置を装着した5人のモニターに「通常の運転」「メールアプリ使用」「ゲームアプリ使用」「ハンズフリー装置で通話」の4パターンで走行させるユーザーテストを実施した。メールやゲームの操作中は視線がスマートフォンの画面と前方の狭い範囲に集中し、横から飛び出したボールに気づかず衝突する、赤信号を見落として通過する、ハンドル操作が不安定になり対向車線にはみ出すなどの結果が見られた。ハンズフリー通話では視線の軌跡は通常の運転と似ていたものの前方を漫然と見ている状態になり、ボールの飛び出しへのブレーキが遅れて衝突したり、ウインカーの操作が遅れたりした[32]。JAFは2014年12月にも自転車乗車中の「ながらスマホ」について同様のテストを行い、画面に視線が集中して赤信号を見落として通過したり、子どものマネキンに衝突したりする例を報告している[33]。

喫煙

喫煙では、タバコに火をつけようとしたり、タバコの火を消そうとして事故を起こしたり[34]、火のついたタバコを落としてしまい、慌てて拾おうとして気を取られ、事故を引き起こした例がある[要出典]。近畿運輸局の資料によれば、喫煙の際の脇見時間を計測したところ、「シガーライターを取りにいくとき」「シガーライターでタバコに火をつけるとき」「シガーライターを元に戻すとき」など、数回に分けて1秒から1.2秒ずつほど脇見しており、時速50キロメートルでの1.2秒の脇見では約17メートル走行することから、追突事故の回避や子供の飛び出しには対処できないとしている[35]。東北大学などの研究グループは、茨城県の40歳から79歳の住民97,078人を1993年から20年間追跡したコホート研究で、男性では1日20本以上喫煙する現行喫煙者の交通事故死亡のハザード比が非喫煙者の1.54倍(95%信頼区間0.99から2.39)と、有意水準にわずかに達しない正の関連を認め、女性では関連を認めなかったと2019年に報告している[36]。

日本

統計

警察庁は、携帯電話・スマートフォン等の使用が要因となって発生した交通事故を「携帯電話使用等に係る交通事故」として集計し[37]、死亡・重傷事故については「携帯電話等使用による死亡・重傷事故」として分析している[8]。走行中の携帯電話の使用が禁止された1999年(平成11年)には、携帯電話に関係する人身事故が2,583件発生し、使用形態別では受信操作時の事故(1,146件、44.4%)、事故類型別では車両相互の追突事故(1,886件、73.0%)が最も多かった[5]。2016年(平成28年)には携帯電話使用等に係る交通事故が1,999件発生し、5年前の2011年と比較して約1.6倍、特にスマートフォン等の画面を見たり操作したりして起きた「画像目的使用の事故」は約2.3倍となった。同年の死亡事故は27件で、うち画像目的使用の事故が17件(約63.0%)を占めた[38]。2018年(平成30年)は2,790件と2013年の約1.4倍に増加し、カーナビゲーション装置等の注視中の事故が多く発生した[39][3]。罰則を引き上げた改正道路交通法が施行された翌年の2020年(令和2年)は1,283件と、2019年の2,645件から大幅に減少した。警察庁はこの減少を改正法の施行、広報啓発、交通指導取締り等の推進によるものとしている[40][4]。2020年の内訳はカーナビゲーション装置等の注視に起因するものが677件で約5割、携帯電話の画像目的使用が520件で約4割であった[37]。しかし2021年以降、携帯電話使用等に起因する交通事故は再び増加傾向にある[4]。

死亡・重傷事故に限ると、第1当事者が一般原動機付自転車以上の携帯電話等使用による死亡・重傷事故件数は、2020年の67件を底に増加を続け、2025年(令和7年)には148件(死亡事故26件、重傷事故122件)となった。2025年の内訳は画像目的が死亡23件・重傷113件、通話目的が死亡3件・重傷9件である[8]。2021年から2025年の合計で見ると、携帯電話等を使用していた場合の死亡事故率(第1当事者が一般原動機付自転車以上の交通事故件数に占める死亡事故件数の割合)は2.7%で、使用していない場合の0.8%の約3.4倍である。また、携帯電話等使用による死亡・重傷事故の人的要因は前方不注意が91.8%を占め、使用していない場合の26.9%の約3.4倍となっている[8]。

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携帯電話等使用による死亡・重傷事故件数の推移(第1当事者が一般原動機付自転車以上)[8]
年20152016201720182019202020212022202320242025
死亡事故 2320262529121519263226
重傷事故 6252738380556474103106122
合計 857299108109677993129138148
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自転車についても、自転車運転者の携帯電話・スマートフォン等の使用が要因となった死亡・重傷事故(自転車が第1または第2当事者)は2015年の6件(2014年以降の最少)から増加傾向にあり、2024年(令和6年)には28件と2014年以降で最多となった。2020年から2024年の合計では19歳以下が約6割を占める[13]。2025年は22件(画像目的20件、通話目的2件)で、3年ぶりに減少した[8]。

取締り

交通安全白書によれば、警察はスマートフォン等の画面の注視に起因する交通事故の増加傾向を踏まえ、携帯電話使用等の交通指導取締りを推進している[41]。警察庁によれば、全体で年間約403万件の取締りが行われている中で、運転中の携帯電話使用等については年間約18万件の取締りが実施されており、2025年中は全体の約4.5%に及ぶ[4]。2004年11月の罰則導入直後の同年11月・12月の取締り件数は3万4,700件であった[6]。交通安全白書に掲載された反則行為としての告知件数(携帯電話使用等違反)の推移は次の表のとおりである。警察庁は2016年当時、スマートフォンの普及により画像注視に起因する交通事故が増加傾向にあることから携帯電話使用等の取締りを推進したとしている[42][43]。なお2019年12月以降、携帯電話使用等(交通の危険)は交通反則通告制度の対象外となったため、以下の件数は携帯電話使用等(保持)のみを含む[3]。

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携帯電話使用等違反の反則告知件数の推移
年件数反則告知全体に占める比率出典
2016年964,42715.0%[42]
2019年715,30913.0%[43]
2020年308,2395.5%[44]
2021年289,9565.4%[45]
2022年251,7805.2%[46]
2023年213,8425.0%[47]
2024年196,3624.9%[41]
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法規制の沿革

1999年(走行中の使用の禁止)
1999年(平成11年)の道路交通法の一部改正により、同年11月1日から、走行中における携帯電話等の使用が禁止された[5]。警察庁は、この禁止以後、携帯電話に関係する交通事故は減少したものの依然として多数発生しているとして、走行中は携帯電話等を使用しないこと、運転前に電源を切っておくことなどの広報啓発を進めた[5]。
2004年(保持行為への罰則)
道路交通法の一部を改正する法律(平成16年法律第90号)により、2004年(平成16年)11月1日から、運転中の携帯電話使用等違反そのものが罰則の対象となった。施行後の同年11月・12月の取締り件数は3万4,700件であった[6]。2019年11月30日まで適用された罰則は、携帯電話使用等(保持)が5万円以下の罰金、反則金は大型車7,000円・普通車6,000円・二輪車6,000円・原付車5,000円、基礎点数1点、携帯電話使用等(交通の危険)が3月以下の懲役または5万円以下の罰金、反則金は大型車1万2,000円・普通車9,000円・二輪車7,000円・原付車6,000円、基礎点数2点であった[38][3]。
2019年(罰則の引上げ)
2018年に携帯電話使用等に起因する交通事故が2,790件と2013年の約1.4倍に増加した情勢を踏まえ、携帯電話使用等の罰則等を引き上げる道路交通法の一部を改正する法律(令和元年法律第20号)が2019年(令和元年)6月に公布され、同年12月1日から施行された[3][41]。携帯電話使用等(保持)については、新たに自由刑として6月以下の懲役が設けられ、罰金の上限が5万円から10万円に、反則金が大型車2万5,000円・普通車1万8,000円・二輪車1万5,000円・原付車1万2,000円に、違反点数が1点から3点に引き上げられた。携帯電話使用等(交通の危険)については、罰則が3月以下の懲役または5万円以下の罰金から1年以下の懲役または30万円以下の罰金に引き上げられ、交通反則通告制度の対象から外れて刑事手続の対象となり、違反点数は2点から6点(免許停止処分の対象)となった[3][48]。なお、その後の刑法等の一部を改正する法律の施行に伴い、道路交通法上の「懲役」は「拘禁刑」に改められている[2]。
2024年(自転車への罰則強化)
道路交通法の一部を改正する法律(令和6年法律第34号)のうち第71条第5号の5等の改正規定が2024年(令和6年)11月1日に施行され、同号の対象が「自動車又は原動機付自転車」から「自動車、原動機付自転車又は自転車」に拡大された。これにより、自転車を運転しながらスマートフォン等を手で保持して通話する行為や画面を注視する行為にも、自動車等と同じ罰則が適用されることになった(罰則の内容は現行の罰則を参照)[4][2][40]。
2026年(自転車への交通反則通告制度の導入)
同法のうち16歳以上の自転車運転者を交通反則通告制度(いわゆる「青切符」)の対象とする規定が2026年(令和8年)4月1日に施行された[7]。自転車の携帯電話使用等(保持)は反則金1万2,000円の反則行為となり、携帯電話使用等により実際に交通の危険を生じさせた場合は従来どおり刑事手続(いわゆる「赤切符」)で処理される[4][49]。携帯電話使用等(保持・交通の危険)は、3年以内に2回以上検挙された自転車運転者が受講を命じられることがある自転車運転者講習の対象となる危険行為にも含まれている[49][7]。

現行の罰則

2026年時点の道路交通法における携帯電話使用等の罰則等は次のとおりである[4][2]。

さらに見る 区分, 内容 ...
区分内容罰則(法定刑)反則金基礎点数
携帯電話使用等(交通の危険) 携帯電話等を通話のために使用し、または画像表示用装置の画像を注視(保持・非保持を問わない)して、交通事故や歩行者の妨害など道路における交通の危険を生じさせた場合1年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金(第117条の4第1項第2号)適用なし(非反則行為)6点(免許停止処分の対象)
携帯電話使用等(保持) 携帯電話等を通話のために使用し、または携帯電話等を手で保持して画像を注視した場合6月以下の拘禁刑または10万円以下の罰金(第118条第1項第4号)大型車2万5,000円、普通車1万8,000円、二輪車1万5,000円、原付車1万2,000円、自転車1万2,000円3点
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自転車による違反には点数は付されない[4]。運転免許を有する者が自転車で違反しても免許の点数には影響しないが、特に悪質・危険な違反をした場合には6か月を超えない範囲で免許の効力が停止されることがある[49]。

なお、都道府県公安委員会規則には、傘を差すなど視野を妨げ、又は安定を失うおそれのある方法で二輪車や自転車を運転することを禁止する規定を置くものがある[50]。

判例

2018年3月、スマートフォンの地図アプリを見ながらの高速道路上の運転で1人が死亡、4人が負傷した交通事故の裁判において、大津地方裁判所は求刑を上回る懲役2年8か月の実刑判決を言い渡した(自動車運転処罰法違反)[51]。政府広報は、自転車のながらスマホで相手にけがを負わせた場合には重過失傷害罪などに問われ、被害者から損害賠償を求められることもあるとしている[40]。

車両側の対策

国土交通省は2026年6月、交通政策審議会自動車部会技術安全ワーキンググループがとりまとめた報告書「交通事故のない社会を目指した今後の車両安全のあり方について」を公表し、安全運転サポート車(Ver 2.0)の推進の柱の下で現行装置の高度化や新規追加の例としてドライバーモニタリングシステム(英語版)(DMS)を挙げた[52]。時事通信は2026年8月24日、国土交通省が国産車と輸入車を対象に、スマートフォンを操作しながらの脇見運転や居眠り運転を検知して警告するDMSの搭載を義務化する方針を固めたと報じた。同報道によれば、同省は2026年9月に省令を改正し、2031年から新型車に、2033年には継続生産車にも搭載を義務付ける方針で、義務化の要件は、脇見運転については時速20キロメートルから50キロメートルで6秒間、時速50キロメートル以上で3.5秒間前方から視線をそらすと作動すること、居眠り運転については時速70キロメートルから130キロメートルの一定の水準で検知することとされ、DMSの新たな国際基準が2026年3月に国連欧州経済委員会の自動車基準調和世界フォーラムで採択されたことを受けた道路運送車両の保安基準の改正として行われる[10]。

広報啓発

警察庁はウェブサイト「やめよう!運転中のスマートフォン・携帯電話等使用」で危険性、事故の発生状況、条文・罰則を公開し、日本語・英語・中国語のリーフレットやポスターを配布している[4]。2017年春の全国交通安全運動では「運転中のスマートフォン等の操作等の禁止の徹底」が全国重点に関する推進項目として設定され、日本自動車工業会も「ながら運転」防止の広報啓発キャンペーンを実施した[38]。国家公安委員会が定める「交通の方法に関する教則」は、自動運転車で自動運行装置を適切に使っている場合を除き、走行中はスマートフォンなどの携帯電話などを使用したり、カーナビゲーション装置などに表示された画像を注視したりしてはならないとし、運転する前に電源を切ったり、ドライブモードに設定したりするなどして呼出音が鳴らないようにすることを求めている[4]。政府広報オンラインも、罰則、事故の発生状況、2秒間に進む距離などを解説する記事を掲載している[40]。

各国の統計と規制

WHOとNHTSAの2011年の報告書は、各国で運転中の携帯電話使用に関する法規制が導入されているが、その多くは手持ちの使用を禁止するもので、ハンズフリーまで禁止を拡張した国はポルトガルなど少数であると整理し、対策として、問題の規模を把握するデータ収集体制の整備、法規制の導入と執行、大規模な車両群を持つ雇用主の方針、危険性を周知する広報キャンペーンを挙げている[1]。

アメリカ合衆国

NHTSAによれば、2024年にはながら運転が関与する交通事故で3,208人が死亡した[11]。これは交通事故死者全体の8%に当たり、うち437人(死者全体の約1%)が携帯電話の使用が関与した事故で死亡している[17]。NHTSAは、テキストメッセージの送受信は視線を5秒間道路から離すもので、時速55マイルではアメリカンフットボールの競技場の全長を目を閉じて走るのに等しいと説明し、毎年4月を「ながら運転啓発月間」(Distracted Driving Awareness Month)として、全国的な広告キャンペーンと警察の集中取締り「Put the Phone Away or Pay」を組み合わせている[11]。CDCによれば、NHTSAの啓発キャンペーン「U Drive. U Text. U Pay.」は2014年4月に始まった[12]。2024年の全国観測調査では、日中の任意の時点で交差点に停止した運転者の1.9%が手持ちの電話で通話し、4.5%が手持ち機器を操作しており、16歳から24歳と推定される運転者では操作の割合が8.7%に達した[17]。

規制は主として州法による。2001年にニューヨーク州が全運転者を対象とする手持ち通話の禁止を初めて導入し、道路安全保険協会(英語版)(IIHS)によれば2026年7月時点で32州とコロンビア特別区が全運転者の手持ち通話とテキストメッセージを禁止し、別の17州がテキストメッセージのみを禁止している。通話とテキストを禁止する州のうち21州は電子機器を手に持つこと自体を禁止しており、33州とコロンビア特別区は10代の運転者についてハンズフリーを含む電子機器の使用を全面的に禁止している[17]。IIHSは、通話やテキストのみを対象とする法律より、機器の保持自体や幅広い用途を禁止する包括的な法律の方が有望であるとし、オレゴン州とワシントン州では包括的な禁止の施行後に追突事故率が有意に低下した一方、カリフォルニア州では低下が見られず、法律の文言(一時停止中への適用の明示、「保持」自体の禁止)や罰則の重さが結果に影響している可能性を指摘している[17]。

連邦レベルでは、2009年10月1日に署名された大統領令13513号が連邦職員に対し公務での運転中のテキストメッセージを禁じた[53]。連邦自動車運送業者安全局(FMCSA)は2010年9月の規則で州際通商に従事する商用車運転者のテキストメッセージを禁止し、違反者への民事罰と商用車運転資格の停止、運送事業者が運転者にテキストメッセージを求めたり許容したりすることの禁止を定めた[31]。さらに2011年12月の規則で商用車運転者の手持ち携帯電話の使用を制限し、複数回の違反に対する資格停止を導入した[54]。

欧州連合

欧州連合(EU)は、自動車の型式認証に関する一般安全規則(規則 (EU) 2019/2144)で、乗用車と商用車(M・N類)に「高度運転者注意散漫警告」(advanced driver distraction warning、ADDW)の装備を義務付けた。ADDWは「運転者が交通状況への注意を維持することを助け、注意が散漫になったときに運転者に警告するシステム」と定義され、新型式の車両には2024年7月7日から、全ての新車には2026年7月7日から適用される[9]。技術要件を定めた委任規則 (EU) 2023/2590は、市場にある技術の成熟度を踏まえて長時間の視覚的な注意散漫への警告に焦点を当てたもので、欧州委員会は断続的な注意散漫や認知的な注意散漫などへの対応を2027年7月までに検討するとしている[55]。同規則は、運転者の注意監視システムが目的に必要な範囲を超えてデータを継続的に記録・保持してはならず、第三者がアクセスできないことも求めている[9]。

イギリス

イギリスでは、運転中またはオートバイの運転中に電話、カーナビ、タブレットなどデータを送受信できる機器を手に持って使用することは、オンラインかオフラインかを問わず違法であり、テキストの送信、通話、写真や動画の撮影、ウェブの閲覧のいずれも許されない。この規制は信号待ちや渋滞での停止中、機内モードの機器にも適用される。例外は、停車が危険または非現実的な場合の緊急通報や、安全に駐車している場合などに限られる。Bluetoothヘッドセット、音声操作、ダッシュボードのホルダー、内蔵カーナビなどによるハンズフリーでの使用は、機器を一度も手に持たず、前方の視界を妨げない限り認められる。違反には6点の違反点数と200ポンドの罰金が科され、運転免許試験合格から2年以内の運転者は免許を失う。裁判所に送致された場合は運転禁止や最高1,000ポンド(大型貨物車・バスは2,500ポンド)の罰金の対象となる[14]。

ドイツ

ドイツの道路交通令(Straßenverkehrs-Ordnung、StVO)第23条第1a項は、通信・情報・整理のための電子機器(携帯電話、自動車電話、タッチスクリーン、タブレット、ナビゲーション機器、テレビ、動画再生機器などを含む)について、機器を手に取ったり保持したりせず、かつ音声操作・読み上げ機能のみを使うか、道路・交通・視界・天候の状況に適した短い視線移動で操作する場合に限って使用を認めている。頭部装着型の映像表示機器(ビデオグラス)の使用は禁止される。停止中の車両は適用除外だが、自動車の場合はエンジンが完全に停止しているときに限られ、アイドリングストップ機能による自動停止はエンジンの停止とはみなされない[56]。

ポルトガル

ポルトガルの道路法(Código da Estrada)第84条は、走行中に運転を妨げるおそれのあるあらゆる機器を継続的に使用・操作することを禁止し、特にヘッドホンと無線電話機器を挙げている。ただし、単一のイヤホンまたはマイクを備えたハンズフリー方式で継続的な操作を要しない機器は例外とされ、違反には250ユーロから1,250ユーロの罰金が科される[57]。WHOの2011年の報告書は、ポルトガルを携帯電話の禁止をハンズフリー機器にまで拡張した少数の国の例として挙げていた[1]。

オーストラリア

ニューサウスウェールズ州では、正規免許保持者であっても運転中に携帯電話を手に持って使用することは違法で、信号待ちや渋滞で停止している間も同様である。ホルダーに固定した電話に触れることは通話、音声再生、ナビゲーションなどの運転補助の用途に限って認められ、テキストメッセージや電子メール、SNSなどを使う場合は車両を交通の流れの外に駐車しなければならない。仮免許・初心者免許(学習者、P1、P2)の運転者はハンズフリーを含め一切の使用が禁止される。違反の罰金は434オーストラリア・ドル(スクールゾーン内では577オーストラリア・ドル)で、違反点数は5点(違反点数倍加期間中は10点)である[15]。同州政府は2019年11月29日、12月1日から人工知能を用いた携帯電話検知カメラの運用を正式に開始すると発表した。最初の3か月は周知期間として警告書が送られ、その後は当時の罰金344オーストラリア・ドル(スクールゾーン内では457オーストラリア・ドル)と違反点数5点が科されるとされた[58]。固定式と可搬式のカメラが赤外線フラッシュで全ての通過車両を撮影し、人工知能ソフトウェアが違反の可能性がある画像を自動判別したうえで、訓練を受けた担当者が複数段階で確認して初めて罰金が発行される。違反の証拠を含まない画像は通常1時間以内に消去される[15]。

台湾

台湾の道路交通管理処罰条例第31条の1は、自動車の運転者が道路の走行中に携帯電話・コンピュータ等を手持ちで使用して発着信、通話、データ通信その他運転の安全を妨げる行為をした場合に3,000台湾ドル、オートバイの運転者の場合に1,200台湾ドルの罰金を定めている。同条はまた、自動車・オートバイの運転者が走行中に火のついたタバコを手に持ち、吸い、または火をつけて他人の走行の安全に影響を与える行為をした場合に1,200台湾ドルの罰金を科す[59]。運転中の喫煙を禁止する改正案は2014年11月に立法院を通過したもので、火のついたタバコを窓の外に出す行為も処罰の対象とされ、市民が撮影した写真を証拠として通報することもできる[60]。

朝鮮民主主義人民共和国

北朝鮮では、運転中の喫煙と携帯電話の使用、窓の外へ手を出す行為を禁止し、疲労運転も制限する道路交通法の改正が行われた。朝鮮中央テレビが2026年5月24日に改正内容を解説する番組を放送したもので、AFPBB Newsに配信されたKOREA WAVEの記事は、改正は2024年9月15日の最高人民会議常任委員会で行われたとみられ、個人の車両所有許可の拡大や電動自転車の普及による交通量の増加を反映した措置とみられると報じている[61]。

技術的対策

車両側の対策としては、運転者の視線やまぶたの動きを車内カメラなどで監視し、脇見や居眠りを検知して警告するドライバーモニタリングシステムがある(EUの装備義務化と日本の方針は欧州連合・車両側の対策を参照)[10]。IIHSは、カメラを用いた運転者注意監視システムを、注意の散漫の原因を問わず運転者の注意を道路に戻すことができる有望な技術と位置付け、衝突回避技術と合わせて注意散漫関連の事故を減らす手段としている[17]。

携帯電話側の対策として、Appleは2017年6月に発表したiOS 11で「運転中の通知を停止」(Do Not Disturb While Driving)機能を導入した。iPhoneが運転中であることを検知すると自動的に通知を消音して画面を暗いままにし、よく使う連絡先に運転中で返信できない旨の自動返信を送ることができる[62]。IIHSがiPhone所有者を対象に行った全国調査では、運転時に自動で作動するよう設定していたのは約5人に1人にとどまった[17]。車載機器との連携では、Android AutoやCarPlayのように携帯電話を車両のマイク・スピーカー・画面に接続して簡略化した画面を表示する方式は、自動車メーカー純正の車載システムより注意散漫の水準が低いこと、音声コマンドによる操作では手で操作する場合に比べて道路から視線を離す時間が短くなることが報告されている。一方、音声認識システムの事故リスクへの影響は明らかになっておらず、NHTSAは車載情報機器(2012年)と携帯型・後付け機器(2016年)について視覚的・手動的な注意散漫を最小化するための自主的ガイドラインを公表している[17]。

脚注

関連項目

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