アンディ・クラーク (認知哲学者)

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生誕 (1957-11-20) 1957年11月20日(68歳)
出身校 スターリング大学(B.A.、1981年;Ph.D.、1984年)
受賞 FBA(英国学士院フェロー)
FRSE(スコットランド王立学士院フェロー)
アンディ・クラーク
Andy Clark
生誕 (1957-11-20) 1957年11月20日(68歳)
国籍 イギリスの旗 イギリス
出身校 スターリング大学(B.A.、1981年;Ph.D.、1984年)
受賞 FBA(英国学士院フェロー)
FRSE(スコットランド王立学士院フェロー)
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アンディ・クラーク(Andy Clark、1957年11月20日 - )は、イギリスの哲学者認知科学者。現在はサセックス大学の認知哲学教授を務める。

デイヴィッド・チャーマーズとの共著論文「拡張された心」(1998年)で提唱した拡張された心仮説の主唱者として国際的に知られるほか、身体化認知(embodied cognition)・予測的処理(predictive processing)・ヒューマン‐テクノロジー融合(トランスヒューマニズム)の哲学的研究において世界をリードする論者である。英国学士院(FBA)およびスコットランド王立学士院(FRSE)のフェローに選出されている。

クラークは1957年11月20日ロンドンで生まれた。スターリング大学で哲学を学び、1981年に学士号(B.A.)、1984年に博士号(Ph.D.)を取得した。[1]

その後はグラスゴー大学・サセックス大学で教職に就いたのち、ワシントン大学セントルイス校で哲学・神経科学・心理学プログラムのディレクターを7年間務めた。その後インディアナ大学ブルーミントン校で認知科学プログラムのディレクターに就任し[2]、さらにエジンバラ大学で論理学・形而上学の教授兼議長(Chair in Logic and Metaphysics)を歴任した。2012年頃からサセックス大学認知哲学教授として現職にある。またマッコーリー大学(オーストラリア)とも連携している。[3]

クラークは意識経験における環境の役割を探求するCONTACT共同研究プロジェクトの創設メンバーの一人である。[4]現在は認知神経科学者のアレクサ・モーコムとともに、イングランドのブライトンに在住している。

学術的業績

拡張された心仮説

クラークの最もよく知られた業績は、デイヴィッド・チャーマーズとの共著論文「拡張された心」("The Extended Mind"、1998年)において提唱された拡張された心仮説(Extended Mind Thesis; EMT)である。この論文は哲学誌『Analysis』第58巻第1号(1998年1月)に掲載された。[5]

クラークとチャーマーズは、「心はどこで終わり、残りの世界はどこから始まるのか?」という問いに対して、「能動的外在主義」(active externalism)という第三の立場を提示した。彼らの論点は、環境内のオブジェクトが認知プロセスの構成的な一部として機能しうるというもので、「等価性原理」(parity principle)によって裏付けられる。すなわち、もし環境内のある部分が、脳内で行われていれば認知プロセスと見なされるような機能を果たしているならば、それは実際に認知プロセスの一部である、という主張である。

この論文の中で、クラークとチャーマーズはオットーとインガという思考実験を用いる。アルツハイマー病を患うオットーはノートブックに情報を書き留め、記憶として利用する。健常者のインガは脳内記憶で同じことを行う。両者の差異は、記憶の支持媒体が生物学的か否かだけであり、オットーのノートブックはオットーの認知システムの一部をなす、とクラークらは主張する。[6]

この仮説はその後、クラーク単著の『スーパーサイジング・ザ・マインド』(Supersizing the Mind、2008年)でさらに発展・擁護された。

身体化認知と環境への埋め込み

1998年の著書『ビーイング・ゼア』(Being There: Putting Brain, Body, and World Together Again、MIT Press)は、伝統的な記号主義的AI観に対する批判を展開し、知性が本来「身体化」されていることを論じた先駆的著作である。クラークはここで、適応的成功を促す上での身体と局所的環境の役割を強調し、認知は脳単独の営みではなく、脳・身体・世界の相互作用によって形成されると主張した。[7]

コネクショニズム(人工ニューラルネットワーク)の哲学的含意を論じた初期著作『マイクロコグニション』(Microcognition: Philosophy, Cognitive Science, and Parallel Distributed Processing、MIT Press、1989年)も、心の哲学認知科学の架け橋として評価が高い。

予測的処理理論

クラークは2016年の著書『サーフィン・アンサーティ』(Surfing Uncertainty: Prediction, Action, and the Embodied Mind、Oxford University Press)において、予測的処理(predictive processing; PP)の哲学的枠組みを本格的に展開した。この枠組みによれば、脳は感覚入力を受動的に受け取るのではなく、絶えず感覚刺激を予測し、予測誤差(prediction error)を最小化しようとする積極的な予測機械である。知覚・行動・学習は、脳の階層的な予測とその下流への誤差フィードバックの双方向的カスケードとして記述される。[8]

2023年の著書『経験機械』(The Experience Machine: How Our Minds Predict and Shape Reality、Pantheon Books)では、同枠組みをより広い読者に向けてわかりやすく提示し、慢性疼痛・精神疾患・神経多様性への応用可能性についても論じた。この著作は、知覚そのものがある種の「制御された幻覚」(controlled hallucination)であるという着想を軸に展開される。[9]

ナチュラルボーン・サイボーグ論

2003年の著書『ナチュラルボーン・サイボーグス』(Natural-Born Cyborgs: Minds, Technologies, and the Future of Human Intelligence、Oxford University Press)において、クラークは人間を「生まれながらのサイボーグ」と位置づけた。人間は他の種とは異なり、道具・技術・表記体系などの「認知テクノロジー」と深い自己変容的な関係を結ぶ能力を本質的に持っており、こうした融合は手術や埋め込みを必要とせずとも生じると論じた。[10]

主な著作・論文

書籍

  1. Clark, A. (1989). Microcognition: Philosophy, Cognitive Science, and Parallel Distributed Processing. MIT Press.
  2. Clark, A. (1993). Associative Engines: Connectionism, Concepts, and Representational Change. MIT Press.
  3. Clark, A. (1997). Being There: Putting Brain, Body, and World Together Again. MIT Press.
  4. Clark, A. (2001). Mindware: An Introduction to the Philosophy of Cognitive Science. Oxford University Press.
  5. Clark, A. (2003). Natural-Born Cyborgs: Minds, Technologies, and the Future of Human Intelligence. Oxford University Press.
  6. Clark, A. (2008). Supersizing the Mind: Embodiment, Action, and Cognitive Extension. Oxford University Press.
  7. Clark, A. (2016). Surfing Uncertainty: Prediction, Action, and the Embodied Mind. Oxford University Press.
  8. Clark, A. (2023). The Experience Machine: How Our Minds Predict and Shape Reality. Pantheon Books.


主要論文

  1. Clark, A., & Chalmers, D. (1998). The Extended Mind. Analysis, 58(1), 7–19. doi:10.1093/analys/58.1.7
  2. Clark, A. (2013). Whatever next? Predictive brains, situated agents, and the future of cognitive science. Behavioral and Brain Sciences, 36(3), 181–204.
  3. Clark, A. (1994). Doing without representing? (with J. Toribio). Synthese, 101, 401–431.

受賞・栄誉

  • 英国学士院フェロー(Fellow of the British Academy; FBA)
  • スコットランド王立学士院フェロー(Fellow of the Royal Society of Edinburgh; FRSE)
  • Google UK アカデミック・コンサルタント(非常勤)[11]

思想・考え方

クラークは「心は頭蓋骨の内側に閉じ込められたものではない」と主張する。彼は一貫して、身体環境の三者が切り離しがたい認知システムを形成するという見方を擁護してきた。拡張された心仮説において彼が提示した「等価性原理」は、脳内の処理と環境内の処理を機能的等価性の観点から判断するものであり、心の境界を脳の境界と同一視する直観的な「皮膚と頭蓋の要塞」観を根本から問い直す。

予測的処理の枠組みでは、知覚は外界からの情報を積み上げる「ボトムアップ型」の受動的プロセスではなく、脳が事前に抱く「トップダウン」の予測と感覚誤差信号の継続的な照合として理解される。この見方によれば、私たちが経験する現実は、常に隠れた予測と期待によって色づけられた「制御された幻覚」であり、慢性疼痛や統合失調症などの病態もこの予測メカニズムの機能不全として解釈できると彼は主張する。

「ナチュラルボーン・サイボーグ」論では、テクノロジーとの融合が現代の現象ではなく、言語・文字・数字体系から続く人類固有の進化的特性であることを論じる。クラークにとって、道具や技術は単なる「使用物」ではなく、認知システムの構成要素として脳と同等の地位を持ちうる。こうした主張は、環境設計が自己設計でもあることを含意し、AIやデジタル技術の急速な発展に対する哲学的応答としても注目されている。[12]

発言

クラークの思想の理解を助けるため、キーワードごとに分類した彼自身の説明等の発言を以下に引用する。

拡張された心
「個人の思考と理性が、脳の内側のみ、あるいは生物としての皮膚の袋の内側のみで行われる活動ではないということを、私たちは認識しなければなりません。これは、物理的・社会的世界を構築することが、同時に自己の構築であることを示しています。私たちは世界を作り上げる中で、自分自身の心と理性の能力をも、大きく再構成しているのです。」
(原文:"It matters that we recognize the very large extent to which individual human thought and reason are not activities that occur solely in the brain or even solely within the organismic skin-bag. In building our physical and social worlds, we build (or rather, we massively reconfigure) our minds and our capacities of thought and reason.")[13]
認知の漏れ出し
「認知は脳と世界へと漏れ出しています。フィードバック・フィードフォワード・フィードアラウンドという複雑なループが、脳・身体・世界の境界を縦横に行き交い、心の局所的メカニズムはすべて頭の中にあるわけではないのです。」
(原文:"According to EXTENDED, the actual local operations that realize certain forms of human cognizing include inextricable tangles of feedback, feed-forward, and feed-around loops: loops that promiscuously criss-cross the boundaries of brain, body, and world. The local mechanisms of mind, if this is correct, are not all in the head. Cognition leaks out into body and world.")[14]
予測的処理と知覚
「感覚情報はしばしば経験の出発点と見なされてきましたが、予測する脳の科学が示す役割はそれとは異なります。今や現在の感覚信号は、すでに行われている情報に基づいた推測(予測の試み)を洗練・修正するために用いられます。重荷を担うのは、今や予測の方なのです。」
(原文:"Whereas sensory information was often considered to be the starting point of experience, the emerging science of the predictive brain suggests a rather different role. Now, the current sensory signal is used to refine and correct the process of informed guessing (the attempts at prediction) already taking place. It is now the predictions that do much of the heavy lifting.")[15]
テクノロジーと人間の融合
「私たちの世界が賢くなり、私たちのことをよく知るようになればなるほど、世界がどこで終わり、人間がどこから始まるのかを言い当てることが、ますます難しくなっていきます。」
(原文:"As our worlds become smarter, and get to know us better and better, it becomes harder and harder to say where the world stops and the person begins.")[16]
認知テクノロジーの意義
「認知テクノロジーは、人間の知性を構成する問題解決システムの、深く不可欠な構成要素です。それらは、私たちの心を形成する計算装置の正当な一部として理解されるべきものです。」
(原文:"Cognitive technologies are deep and integral parts of the problem-solving systems that constitute human intelligence. They are best seen as proper parts of the computational apparatus that constitutes our minds.")[17]

関連項目

脚注

外部リンク

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