ウイルスの進化
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最終共通祖先 (LUCA)とウイルス


ウイルスは古代から存在してきた。細菌(バクテリア)、真核生物(ユーカリオタ)、古細菌(アーキア)の生物の3ドメインの各ドメインとウイルスとの関係を解明してきた分子レベルの研究によれば、生命の分岐以前に、ウイルスタンパク質が最終共通祖先(英語:Last universal common ancestor、LUCA)に感染していたことが示唆されている[4]。
LUCAとは現生生物(細菌とアーキアと真核生物)の共通祖先のことで、クラウングループの中では最初の生物であるが、ステムグループまで含めれば、最初の生物ではない可能性がある[5]。
LUCAにウイルスが感染したということは、生命の進化の初期にいくつかのウイルスが出現したことを示しており[6]、おそらく複数回発生したことを示す[7]。また、共通祖先の構造遺伝子とゲノム複製遺伝子の置換を通じて、新しいウイルスグループが進化の全ての段階で繰り返し出現してきたことも示唆されている[8]。
仮説の種類
ウイルスの起源と進化に関する古典的仮説にはウイルス優先仮説、還元仮説、脱出仮説の三種あり、それぞれの限界が指摘されきたが、しかし、近年のウイルス学はこうした仮説を再評価する段階にあり[8][9][10]、共進化仮説やキメラシナリオ仮説などが出現している。
ウイルス・ファースト仮説
還元仮説・縮退仮説
脱出仮説・流浪仮説
共進化仮説・泡理論
- 共進化仮説(Coevolution hypothesis)・泡理論 (Bubble Theory): 生命が誕生した当初、初期レプリコン (自己複製が可能な遺伝情報の断片) の集団が熱水泉や熱水噴出孔といった食物源の近くに存在したと仮定する。この食物源は、自己集合してベシクルになる脂質様分子 (lipid-like molecules) も産出した。また、ベシクルはレプリコンを包み込むことがあった。食物源に近いレプリコンはよく生育できたが、食物源から遠く離れたところでは希釈されていない最良の資源はベシクルの中ということになる。したがって、進化的圧力はレプリコンを2つの道すじに沿って発展させることになった。1つはベシクルとの融合であり、これが細胞になっていった。もう1つは、ベシクルに侵入し、そのリソースを利用して増殖し、別のベシクルに向けて旅立つというものである。これがウイルスになっていった[15]。
キメラ起源仮説
- キメラ起源仮説(Chimeric-origins hypothesis):ウイルスの複製モジュールや構造モジュールの進化を分析した結果に基づいて、ウイルスの起源に関するキメラ的仮説が2019年に提唱された[8]。このキメラ起源仮説によると、ウイルスの複製モジュールは原始の遺伝子プールから生まれた (ただし、その後のウイルスの長い進化の過程で、宿主となる細胞によって複製にかかわる遺伝子が置換される事態が多数発生した)。これとは対照的に、ウイルスの構造にかかわる主要なタンパク質をエンコードする遺伝子は、さまざまなウイルスが進化する過程で、機能的に分化した宿主細胞のタンパク質から進化した[8]。この仮説は3つの伝統的な仮説のいずれとも異なっているが、ウイルス・ファースト仮説と脱出仮説の要素が組み合わさったものである。
レトロウイルス
内在性レトロウイルス
RNAウイルスと宿主である人類とは共進化してきた。ウイルスが生物のゲノムに内在化した痕跡である「ウイルス化石」としてはこれまでにレトロウイルスが知られる[16]。生物はレトロウイルスの遺伝子をゲノムに組み込み、内在性レトロウイルス(Endogenous retrovirus, ERV) として遺伝し、ゲノムの多様性を広げてきた[16]。
ほ乳類とレトロウイルスの進化的軍拡競争:APOBEC3遺伝子
内在性レトロウイルス(ERV)は、宿主のゲノムに残るウイルス感染の痕跡であり、哺乳類においてゲノムの大きな割合を占めることから、哺乳類の祖先はレトロウイルス感染にさらされてきたと考えられる[17]。哺乳類は、レトロウイルス感染に対抗するためにウイルス感染防御機構を進化させてきた[17]。
このような感染防御を担う遺伝子にAPOBEC3遺伝子(Apolipoprotein B mRNA editing enzyme, catalytic polypeptide-like 3)がある[17]。APOBEC3遺伝子は、核酸のシトシンのアミノ基を脱アミノ化し、ウラシルへと転換する酵素である[17]。レトロウイルスの複製の逆転写過程において合成されるマイナス鎖(ナンセンス鎖)のウイルスゲノム中のシトシンをウラシルに変異させることにより、プラス鎖(センス鎖)のウイルスゲノムにグアニンからアデニンへの変異を蓄積させる[17]。こうしてウイルス遺伝子にミスセンス変異、ナンセンス変異が挿入され、ウイルス遺伝子の機能が失われることにより、ウイルス感染を阻害する[17]。
ほ乳類の進化においてAPOBEC3ファミリー遺伝子は遺伝子重複により多様化してきたが、これはレトロウイルスの複製・増殖を抑制するために引き起こされた可能性が考えられる[17]。
2019年12月、東京大学医科学研究所感染症国際研究センター システムウイルス学分野の佐藤准教授らは、160種のほ乳類ゲノム配列のメタ解析により、過去に大量のレトロウイルス感染を経験したと思われる種ほど多様なAPOBEC3遺伝子を持っていることが明らかとなった[17]。これにより、APOBEC3ファミリー遺伝子とレトロウイルスが、ほ乳類の進化の過程において、進化的軍拡競争を繰り広げ、共進化してきたことが強く示唆された[17]。
ボルナウイルス
脊椎動物のRNAウイルスの進化史
RNAウイルスは脊椎動物の疾患(インフルエンザ、C型肝炎、エボラウイルス感染症)を引き起こすことが知られている。
2018年、Yong-Zhen Zhangらの研究グループは、これまでのRNAウイルス研究が哺乳類と鳥類のRNAウイルスに重点が置かれていたのに対して、魚類、爬虫類、両生類のRNAウイルスを調査した[18]。この研究で、哺乳類と鳥類に感染することが知られている脊椎動物特異的なウイルスのファミリー(インフルエンザウイルス、フィロウイルス、ハンタウイルスなど)が両生類、爬虫類、魚類にも存在していることが判明した[18]。Zhangらは、脊椎動物のRNAウイルスの進化史はその宿主の進化史とほぼ一致しており、これらのRNAウイルスの進化が数億年前に始まったことが示唆されると論じた[18]。