ウェストミード・プログラム

From Wikipedia, the free encyclopedia

ウェストミード・プログラム: Westmead Program)は、主に6歳未満の幼児を対象とした吃音への介入法である。通称は「ロボット・トーキング(Robot Talking)」。オーストラリアシドニー工科大学にあるオーストラリア吃音研究センター(ASRC)のナターシャ・トライコフスキー(Natasha Trajkovski)らによって開発された。主な特徴は、音節リズム発話(STS)と呼ばれる、各音節をリズムに合わせて一定の強さで話す発話様式を用いる点にある[1][2][3]

ウェストミード・プログラムは、吃音の症状を軽減し、最終的に「吃音がない、あるいはほとんどない状態」を自然な発話で維持することを目標とする。介入は治療期と維持期の2つのステージで構成され、言語聴覚士の指導・監督のもと、保護者が日常生活の中で介入を実施する[4]

特徴

本プログラムの中核をなす技法は、音節リズム発話(Syllable-Timed Speech: STS)である。STSとは、発話を構成する各音節を、メトロノームのような等間隔のリズムに合わせて発声する方法を指す。この手法では、通常、各音節に含まれる母音の長さが均等になるよう調整される。例えば、「お・か・あ・さ・ん・が・ご・は・ん・を・つ・く・る」(英語の例:The chil-dren are play-ing on the tram-po-line)のように、一音節ずつ一定のビートに合わせて発話する。低年齢児に対しては、「リズムでお話しする」「ロボットさんのお話し」といった比喩的な呼称を用い、理解しやすい形で導入されることが多い[4]

STSの練習は、日常生活の中で継続的に行われる。初期段階では、1日4〜6回、1回あたり5〜10分程度の短時間練習が実施される。保護者が発話のモデルを示し、自然な会話の中でSTSを用いるよう促す[1]

練習は、当初はゆっくりとしたペースで開始し、段階的に自然な発話速度、イントネーション、音量および声の高さへと近づけていく。まず、短い文を用いた模倣から開始し、ゆっくりとしたペースで正確なリズム発話を行う。音節を断続的に区切るのではなく、滑らかにつなげて話すこと(レガート)が重視される。その後、絵本の読み聞かせなどを通じて、簡単な会話場面へと発展させていく[4]。技法が自己流(スタッカートなど)に変化してしまうのを防ぐため、正しいSTSのモデルを録音し、音源を家庭での参照用として活用することもある[1]

練習は子どもにとって楽しい経験であることを重要とし、過度な訂正や強制は避ける。飽きが生じないよう工夫し、肯定的な雰囲気を保つことが重視される。練習時間外においても、日常会話の中で数文程度、STSによる発話を促す場合がある。促しは友人や仲間の前ではなく、家族とのリラックスした環境で行う。この際には、「今のはリズムでお話しできるかな」といった穏やかな声かけが用いられる。ただし、吃音が生じた直後に修正目的で促すことは推奨されていない[1]

子どもの動機づけを維持するため、シール帳や言語的賞賛などの報酬を個別に設定する場合がある。報酬は主に、吃音の有無に対してではなく、練習セッション(STS)に協力的に取り組んだことに対して与えられる[2]

評価と移行

第1ステージから第2ステージへの移行にあたっては、言語聴覚士と保護者の双方による吃音重症度スコア(Severity Rating; SR)を用いた評価が行われる。コンサルテーション開始時には、保護者と言語聴覚士が子どもとの会話を観察し、それぞれの吃音重症度スコアを比較することで、評価基準の一致を確認する[4]

言語聴覚士による評価では、吃音重症度スコアが0(吃音が全く認められない状態)または1(極めて軽微な吃音がまれに観察される状態)であると判断されることが条件とされる。一方、保護者による評価では、コンサルテーション前の1週間において、毎日の吃音重症度スコアがすべて0または1であることに加え、その7日間のうち少なくとも4日以上が0(吃音なし)である必要がある[4]

これらの基準は、隔週に実施されるコンサルテーションにおいて、2回連続して達成されなければならない。吃音がない、または極めて軽度な状態が一定期間安定して維持されていると判断された場合、第2ステージへ移行する。第2ステージは、安定した状態を長期的に維持することを目的とし、それまで日常生活で1日4〜6回行っていた練習セッションを、数ヶ月から1年ほどかけて段階的に減らしていく[1]

有効性

オーストラリア吃音研究センター(ASRC)のトライコフスキーらにより、2019年にウェストミード・プログラムとリッカムプログラムの大規模なランダム化比較試験(RCT)が実施された。この研究では、就学前児91名を対象に、リッカムプログラム群、ウェストミード・プログラム2群(STSを使用した群を1群、STSに加え言語的フィードバックを追加した群を2群とする)の計3群が比較された。

その結果、研究開始から9か月後の時点において、吃音音節率の減少に関して群間に統計的に有意な差は認められず、いずれのプログラムも吃音を有意に軽減させる効果を示した。一方で、治療効率の指標である第1ステージ完了までのクリニック受診回数には差がみられ、第1ステージ完了までの受診回数の中央値は、リッカム群が30回であったのに対し、ウェストミード1群は18回、ウェストミード2群は16回であった。よって、ウェストミード・プログラムはリッカムプログラムより少ない受診回数で第1ステージを完了する傾向が報告された。

本研究ではリッカム群のドロップアウト率が27.3%、ウェストミード群は42.9%(1群)、43.3%(2群)であることが示され、ウェストミード・プログラムの脱落率がリッカムプログラムより高いことも明らかとなった。両プログラムは吃音軽減において同程度の有効性を有するが、治療効率や継続性の観点には相違があり、臨床現場ではリッカムプログラムが第一選択とされつつ、代替的介入法としてウェストミード・プログラムが位置づけられている。一方、ウェストミード・プログラムは学齢期の子どもに対して推奨されることが比較的多く、特に発話量が非常に多い子ども、注意力や行動面に課題を有する子ども、あるいは家庭の生活リズムが多忙で集中的な保護者介入が困難な場合には、初期介入として検討されることがある。言語障害を併発している場合には、ハイブリッド型のプログラムも適用されることがある[5]

外部リンク

関連項目

脚注

Related Articles

Wikiwand AI