リッカムプログラム
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リッカムプログラムの理論的基盤は、1960年代から1970年代にかけて、アメリカ合衆国のミネソタ大学などで行われていた吃音研究にある。これらの研究では、オペラント条件づけの原理に基づき、吃音行動を軽減する試みがなされていた。具体的には、特定の反応(滑らかな発話)に対して報酬を与えることで、発話行動そのものを変容させる方法が検討されていた[2]。
ミネソタ大学で行われていたこれらの研究に関心を持ったオーストラリア人研究者ロジャー・インガム(Roger Ingham)は、その知見をオーストラリアに導入した。彼の指導を受けていたマーク・オンスロー(Mark Onslow)は、シドニーのリッカム病院(Lidcombe Hospital)における吃音ユニットで、本格的な臨床研究を開始した[2]。
研究の初期には、ミネソタで用いられていた方法、すなわち子どもが吃音を示すと視覚的・象徴的な「罰」を与える手法(例:人形劇が暗くなるなど)も試行されたが、十分な成果は得られなかった。そのため、オンスローと同僚らは、臨床経験を踏まえて方法の再検討を行った[2]。
1980年代半ばには、シドニー大学リッカム・キャンパス、リッカム病院、バンクスタウン・ヘルス・サービスに所属する専門家らの共同研究により、現在のリッカムプログラムの基礎が確立された[1]。
特徴
介入開始前には、吃音の程度を把握するための評価が行われる。評価には吃音重症度評価(SR: Severity Ratings)が用いられ、保護者が日常生活における子どもの発話をもとに、毎日測定・記録する。SRは10段階で構成されている[3]。
介入はステージ1(治療段階)とステージ2(維持段階)の2段階で構成されている。
ステージ1:治療段階
このステージでは、「吃音がない」または「吃音の頻度が極めて低い」状態に到達することを目標とする。セッションは原則として1日1回、約15分間実施される[4]。
ステージ1では、保護者が子どもの発話に対して言語的フィードバックを行う[3]。フィードバックの方法は5種類に分類される。「吃音のない発話に対するフィードバック」と「吃音に対するフィードバック」は、5:1の比率(褒める回数を圧倒的に多くする)にすることが推奨される[2]。
吃音のない発話に対するフィードバック
- 賞賛:滑らかな発話に対して「今の話し方、すごく滑らかだったね!」のように、ポジティブに評価する。
- 承認:賞賛よりも中立的な表現。感情を込めすぎず、事務的に「滑らかだったね」と事実のみを伝える。
- 自己評価を促す:子ども自身に自分の発話が滑らかだったか確認させる。(例:「今の、滑らかだった?」)
吃音に対するフィードバック
- 自己修正を促す:吃音が生じた語や文を言い直すよう促す。(例:「『絵を描いた』をもう一度言える?」)スムーズに言い直せた場合は、賞賛または承認が与えられる。
- 知らせる:「少し詰まったね」などと、中立的かつ簡潔に吃音があった事実を伝える。
吃音に対するフィードバックは、保護者が吃音のない発話へのフィードバックを十分に習得し、かつ子どもにとって適切であると判断された場合に限り、ステージ1の後半で導入される[5]。
この段階では、子どもが安心して会話を楽しめることが重視され、フィードバックによって心理的な負担や緊張を与えてはならないとしている。また、会話の自然な流れを妨げないよう配慮する必要がある[5]。
子どもが自発的に自分の話し方を褒めたり、吃音後に自ら言い直すなどの自己修正を行った場合には、その気づきや努力を賞賛する簡潔なフィードバックが追加される[5]。
吃音への反応は、保護者が明確に吃音であると判断できる場合に限って行う。吃音かどうか判断が難しい場合には、指摘や言及を行わないことが原則とされている[5]。
ステージ2:維持段階
ステージ2の目的は、吃音が消失した状態、または極めて軽度な状態を長期的に維持することである。子どもが日常会話において、数週間にわたり毎日「吃音がない」または「極めて軽度な吃音」状態を安定して示した場合に開始される[3]。
臨床家との相談頻度は、治療の進行に応じて徐々に減少する。通常は、2週間ごと、4週間ごと、8週間ごと、16週間ごとへと間隔が延長される。ステージ2の完了には、一般に12か月以上を要するとされている[3]。
吃音が再発した場合、保護者は臨床家の指導のもと、15分程度の練習セッションを再開したり、言語的フィードバックの頻度を増加させたりする対応がとられる[3]。