オーラルフレイル
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オーラルフレイル(英: oral frailty[1], oral frail[2])は東京大学高齢社会総合研究機構の特任教授辻哲夫・教授飯島勝矢らが示したフレイルの前段階であるプレフレイル。口から食べ物をこぼす、ものがうまく呑み込めない、滑舌が悪くなる等といった軽微な衰えを見逃した場合、全身的な機能低下が進むことを示し、これをオーラルフレイルと名付けた[3]。
2013年に厚生労働省事業におけるワーキンググループにおいて、フレイル予防における口腔機能の維持・向上の重要性を医師をはじめとした歯科以外の関連職種が容易に認識できることを目標とし、医科、歯科、栄養、老年社会学を包括したシステマティック・レビューとして検討が行われた[4]。その結果から、口から食べ物をこぼす、ものがうまく呑み込めない、滑舌が悪くなる等といった軽微な衰えを見逃した場合、全身的な機能低下が進むことから早期の対応が必要であることが示された[3]。飯島らはこれをオーラルフレイルとし、プレフレイル(フレイルの前段階)であると位置づけ、国民の口に対する健康リテラシー向上を目的としてその概念を提唱した[5]。
その明確な定義はまだ定まっていない[6][7]が、平野浩彦は『加齢に伴うさまざまな口腔環境(歯数など)および口腔機能の変化,さらに社会的,精神的,身体的な予備能力低下も重なり,口腔機能障害に対する脆弱性が増加した状態』が2017年現在の妥当な定義であるとしたうえで、今後のブラッシュアップが必要であるとしている[4]。2015年には、日本歯科医師会がこれまでの8020運動に加えて新たな国民運動として展開させていくことを決定し、啓発活動も行われるようになった[2][7]。
高齢者に対する歯科医療は、これまで「いかに形態障害や機能障害を補い、能力障害や社会的不利を引き起こさないか」を中心に進められてきた[8]。長寿・高齢化が進み、健康寿命の概念が浸透してきたことや、介護予防の概念として危険な老化の予防が導入され、咀嚼や嚥下などの口腔機能の低下がそのチェックリストに入るようになったことで、誰もがなじめる可視化されたモデルが必要となっていた[8]。また、大規模高齢者虚弱予防研究「栄養とからだの健康増進調査」(柏スタディ)にて、舌圧・歯式・残存歯数・機能歯数・唾液細菌数・ガム咀嚼・グミ咀嚼・舌の厚さ・最大咬合力・滑舌などの口腔機能を調査したことにより、フレイルと口腔機能の低下に関係があることが示されていた[7][5]。
状態
フレイルのフロー概念図において、健康な状態から虚弱が進むにつれ、社会的・心の(心理的)フレイル期(第一段階)、栄養面のフレイル期(第二段階)、身体面のフレイル期(第三段階)、重度フレイル期(第四段階)と進行する[3]。
初期の社会的・心理的フレイル期において、生活範囲・活動量・意欲の減少・低下などが原因で口腔への関心、歯科受診、自身での口腔清掃の中止や悪化がおこり、このために栄養のフレイル期へと可逆的に虚弱が進行する[7]。栄養のフレイル期においては、咀嚼機能の低下(口からものをよく食べこぼす)や嚥下機能の低下(ものがうまく呑み込めない)、滑舌が悪くなる等の症状がおこり、これらが原因で食欲低下や偏食・栄養の偏りなどが起こり、それにより身体的フレイル期へと可逆的に機能低下が生じる[7]。身体的フレイル期においては、咬む力や舌の動きが悪くなることからサルコペニアやロコモティブ症候群などが引き起こされ、不可逆的に重度フレイル期へと移行する[7]。
このため、口腔機能における初期の咀嚼機能の低下(口からものをよく食べこぼす)や嚥下機能の低下(ものがうまく呑み込めない)、滑舌が悪くなる等といった軽微な衰えをオーラルフレイルと位置づけ、これを見逃した場合には全身的な機能低下が進むことを示した[3]。
本人の自覚はなく、早期発見が難しいとされる[9]。
早期発見のための評価
飯島勝矢らは国民に早期に衰えの兆候に気が付くようにするため、市民がわかりやすく相互にチェックできる簡易評価法を考案した[10]。
白石愛らはオーラルフレイル対策に有効なスクリーニングとして、歯科医療関係者以外でも短時間の訓練で容易に判定可能な改定口腔アセスメントガイド(Revised Oral Assessment Guide:ROAG)[11]を紹介・翻訳している[12][13]。
フレイルチェック
フレイルチェックは飯島らが市民に早期に衰えの兆候に気が付くようにするため開発・実施しているフレイルの評価法で、市民が東京大学高齢社会総合研究機構の講習を受講してフレイルサポーターとしてそのチェックを行う[10][14]。2015年には千葉県柏市のみならず、神奈川県茅ヶ崎市[15]や小田原市でもフレイルサポーターが養成され、フレイルチェックが行われる場所も増加傾向である[14]。
このチェックの項目における重要なポイントとしてオーラルフレイルが存在する。オーラルフレイルに関係するチェック内容としては簡単な質問の他、咬筋の触診、オーラルディアドコキネシス検査、General Oral Health Assessment Index[16][17](GOHAI)が行われる[14]。
咬筋の触診は、自身で咬筋を触った状態で噛みしめを行ってもらい、筋肉が固くなっているか否か、左右差の有無を自身にて測定する[18]。
オーラルディアドコキネシスは、音声の交互反復運動をできるだけ速く行わせて構音器官の運動速度と規則性を検査するもので[19]、日本では/pa/,/ta/,/ka/の三種類を検査することが多い[20]。フレイルチェックでは/ta/もしくは/ka/を5秒間計測して5回以下を赤とする[18]。
GOHAIは過去三ヶ月間の口に関する問題についての12の質問で、口腔に関するQOLを評価する調査で[21]、表現の変更や解釈の追加なども認められていない[21]。そのまま実施し、58点未満を赤とする[18]。
加速因子
予防
対策
活動
「オーラルフレイル」の調査や研究は2017年5月現在も継続中である。しかしながら、2017年現在、「フレイル」という言葉自体の認知度が1割以下という現状であり、啓蒙活動が進められている[26]。
日本国
2016年に厚生労働省医政局が開催した在宅医療及び医療・介護連携に関するワーキンググループにて飯島勝矢を参考人としてオーラルフレイルを含めたフレイルについての議論がなされた[27]。
自治体
兵庫県は、兵庫県健康づくり推進プラン(第2次)(2017年度から2021年度)において、オーラルフレイルの予防による全身虚弱や認知症の予防をその取組方針の一つとした[28]。
神奈川県は、未病対策の連携協定をサンスターと締結、この中で、高齢者の未病対策としてのオーラルフレイル概念の普及などについて連携・協力を行うとしている[29][30]。
京都市保健所は平成29年度京都市保健所運営方針として、京都市口腔保健推進行動指針を見直し、オーラルフレイルなどの新しい概念を加えた京都市口腔保健推進実施計画(仮称)を策定する方針を示した[31]。
研究機関
2015年にオーラルフレイルをより定量的・客観的に示すための研究[32]が科学研究費助成事業として採択されたのを始めとし、早期発見[33]や予防[34][35]、オーラルフレイル発生のプロセス[36]、全身的なフレイルとの関係[37]等を調べる研究に科学研究費が支給され始めている。
日本歯科医師会
日本歯科医師会は、2012年に飯島勝矢を講師としてオーラルフレイルに関する組織内勉強会を開催した。これが、オーラルフレイルに対する日本歯科医師会の最初の組織的な取り組みである[2]。その後、2015年3月には従来の8020運動に加え、オーラルフレイルを新たな国民運動として展開させていくことを発表した[2][38]。 また、学会における見解を必要とするとの判断から、日本老年歯科医学会や行政との意見交換会の開催を進めている[2]。
神奈川県歯科医師会
オーラルフレイルの予防啓発のためのCMを作成、テレビ神奈川で放送している[26]。
日本歯科医学会
日本老年歯科医学会
日本老年歯科医学会は健康と口腔機能障害の間にオーラルフレイルと口腔機能低下症があるとして、口腔機能低下症の疾患概念や診断基準をまとめた[39]。これは口腔機能低下へのアプローチを推進する事を目的とし、オーラルフレイルについては地域保健事業や介護保険事業での対応を行うとした[39]。
企業
資生堂は、オーラルフレイルへの化粧療法の有効性を啓発している[40][41]。単に口腔機能の低下を防ぐだけでなく、口紅を塗る際に鏡を見ることで自身の口や唇を意識するようになるなどの効果があるとしている[42]。