オールドメディア
情報化時代以前に支配的だったマスメディア機関
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オールドメディア(英語: old media)とは、情報化時代以前に支配的だったマスメディア機関のことである。レガシーメディア(英語: legacy media)、伝統的メディア(英語: traditional media)などとも呼ばれ、一般に新聞、雑誌、テレビ、ラジオなどが含まれる。英語の legacy media は、インターネット以前から存在する情報、ニュース、娯楽の伝統的な受け取り方を指し、新聞、テレビ、ラジオなどが例として挙げられる。[1]
「オールドメディア」は、インターネットを基盤とするニューメディア(new media)との対比で用いられることが多い。日本語では、従来型の媒体を分類する語として使用される場合に加え、新聞・テレビなど既存の報道機関を批判的に指す語として使用される場合がある。[2]
一方、メディア研究では、「古いメディア」と「新しいメディア」を技術の成立時期だけによって明確に区分することには限界があると論じられている。メディアは社会的な利用方法や技術環境の変化に伴って継続的に変化するため、「新しい」「古い」という区分は相対的なものとされる場合がある。[3]
対義語はニューメディア。
概要
日本におけるオールドメディア
とりわけ、日本において「オールドメディア」という言葉は「オールドメディア」とされるメディアに対する批判的な意味合いを持つ。
2024年東京都知事選挙
「オールドメディア」という言葉が2020年代に広く政治的文脈で使用されるようになった背景の一つとして、2024年東京都知事選挙におけるSNS・動画の利用が挙げられる。明治大学の井田正道による選挙分析では、候補者に関する情報源はテレビ28.4%、インターネットニュース18.8%、選挙公報12.7%、新聞10.0%、SNS8.6%、YouTube7.4%の順であり、SNSやYouTubeがテレビなどの従来型メディアを上回ったわけではなかった。[7]
同研究では、石丸伸二への投票とニューメディア接触との関連が分析され、ニューメディア接触が投票行動を説明する要因の一つとして確認される一方、政治不信そのものについては仮説が支持されず、選挙運動のスタイルが「石丸ブーム」を形成した要因として示唆されている。[8]
この研究結果は、SNSの影響力が拡大していることと、既存メディアの影響力が失われたことを同一視することには注意が必要であることを示している。SNSを利用した候補者が支持を伸ばした場合でも、テレビ、インターネットニュース、選挙公報など複数の情報源が同時に有権者の判断に関与しているからである。
2024年兵庫県知事選挙
2024年兵庫県知事選挙では、SNSと既存メディアの関係がさらに注目された。NHKの出口調査をもとにした日本ファクトチェックセンターの分析によれば、投票の際に最も参考にした情報として「SNSや動画サイト」を挙げた人が30%で、新聞とテレビの各24%を上回った。また、「SNSや動画サイト」を参考にした回答者の70%以上が斎藤元彦に投票したとされた。[9]
ただし、これらの数値だけからSNSが選挙結果の原因となったと結論付けることはできない。大阪産業大学の研究では、兵庫県知事選におけるSNSの問題を、インターネットとマスメディアという単純な二項対立ではなく、選挙における情報源の変化や「うわさ」の復権というメディア論的な観点から分析している。[10]
慶應義塾大学の研究者による分析でも、2024年兵庫県知事選では、選挙期間中の報道量が抑制されることでいわゆる「ニュースの空白」が生じ、出所や検証が十分でないコンテンツがSNS上で可視性を得やすくなった可能性が指摘されている。また、YouTube上では特定候補の公式チャンネルや政治系チャンネルの長尺動画が大きな再生数を獲得する一方、伝統メディアの公式チャンネルは再生数の獲得で苦戦したと分析されている。[11]
2025年以降
2025年以降、日本ではSNSや動画共有サービスが選挙・政治情報の流通において存在感を増す一方、新聞・テレビなど既存メディアの報道姿勢や情報の選択をめぐる批判も続いた。この時期には、こうした批判が「オールドメディア」という表現によってSNS上で可視化され、個別の報道内容や訂正・謝罪をめぐる議論へ発展する例もみられた。
第27回参議院議員通常選挙では、国民民主党や参政党などSNSを積極的に利用する政党の議席増が注目された。一方、自民党、立憲民主党など従来から大きな議席を有してきた政党も引き続き多数の議席を獲得しており、政党の勢力変化をSNS利用のみで説明することはできない。選挙後には、SNSを含むインターネット上の情報と既存メディアの報道との関係が改めて議論された。[12]
また同年8月31日、首相官邸前で石破茂首相の退陣を求める[石破やめろデモ」が行われ、主催者発表で約4000人が参加した。デモでは、参議院議員通常選挙での自民党の敗北や、政府の外交・外国人政策などについて批判する声が上がった。同年7月には、石破首相の続投を求める「石破辞めるなデモ」も行われており、TBS NEWS DIGは両者を対比して、有権者の間でも石破茂首相の進退をめぐって意見が分かれていると報じた。[13][14]
この「石破辞めろデモ」をめぐっては、既存メディアの報道姿勢も議論の対象となった。SNS上では、「石破辞めるなデモ」に比べて「石破辞めろデモ」の報道が少なかったとして、新聞・テレビなどを「オールドメディア」と批判する投稿が広がった。また、自民党の西田昌司参議院議員も、両デモの報道量の違いを問題視し、既存メディアの報道姿勢を批判した。[15]
ただし、「石破辞めろデモ」が既存メディアによって報道されなかったと一括りにすることはできない。TBS NEWS DIGなどはデモ当日に報道しており、産経新聞なども翌日以降に報道している。このため、この問題については、報道の「有無」ではなく、各社がどの程度の紙面・放送時間・見出しなどを割いたのかを比較した上で評価する必要がある。[16]
2025年12月には、「オールドメディア」が「現代用語の基礎知識 選 2025 T&D保険グループ新語・流行語大賞」のトップテンに選ばれた。これにより、「オールドメディア」という表現が、政治的な批判語としてだけでなく、2020年代の日本社会におけるメディア環境の変化を表す一般的な社会現象としても広く認知された。[17]
2026年1月には、毎日放送(MBS)の情報番組『よんチャンTV』で、衆議院総選挙をめぐる政党の分類を「優しくて穏やかな日本」と「強くてこわい日本」に分ける表現が放送された。このうち自民党、日本維新の会、参政党を「強くてこわい日本」とした表現について、MBSは翌日に訂正・謝罪し、1月29日には虫明洋一社長も「非常に不適切」だったとして謝罪した。MBS側は、「こわい」は国民に対する脅威という意味ではなく、周辺諸国から見て外交・安全保障上「手強く、侮れない日本」という意味だったが、番組上の表現が意図を適切に伝えなかったと説明した。[18][19][20]
この事例では、放送内容がSNS上で拡散され、既存テレビメディアの報道姿勢を批判する議論が広がった。その一方、放送局自身が訂正・謝罪を行い、表現に至った経緯を説明したため、既存メディアの問題を論じる際には、批判そのものだけでなく、誤りの訂正、説明責任、自律的な検証といった側面も考慮する必要がある。
韓国におけるオールドメディア
韓国では、新聞、テレビ、ラジオなどの従来型メディアを指して「レガシーメディア」(韓国語: 레거시 미디어)と呼ぶ用法がみられる。韓国のメディア研究では、レガシーメディアはデジタル・プラットフォームやソーシャルメディアなどと対比される一方、従来型メディア企業がデジタル環境に進出することによって両者の境界が曖昧になる現象も研究対象となっている。韓国放送学会の研究では、MCN(マルチチャンネルネットワーク)と既存放送事業者との事業上の相互浸透を分析し、動画プラットフォームの発展によって従来の放送産業自体が変化していることが指摘されている。[21]
メディア構造
韓国のニュース環境では、新聞・放送だけでなく、ニュースポータルの役割が大きい。特にネイバー (企業)とダウムは長期間にわたってニュースの流通・消費において中心的な役割を果たしてきた。ロイタージャーナリズム研究所の調査では、韓国のオンラインニュースはNaverなどのポータルへの依存度が高く、新聞社や放送局などの報道機関は第三者プラットフォームを介して読者や視聴者に到達する構造を形成してきたことが指摘されている。韓国のポータルメディアを対象とした研究でも、ポータルは自らニュースを取材・制作する主体とは異なるものの、多数の報道機関からの記事を集約・配置することによってニュース流通における重要な役割を担うと分析されている。[22][23]
このため、韓国の「旧来型メディア」を新聞・テレビなどの媒体だけで定義すると、ニュース流通の実態を十分に説明できない。韓国では、新聞社や放送局が制作したニュースがポータルを通じて配信され、ポータル上で多数の報道機関の記事が並列的に利用される構造が発達したためである。2011年の韓国のポータルメディア研究では、Naver Newsなどのポータルは伝統的メディアと比較して速報性、相互作用性、関連記事の提供などを特徴としていると分析された。[24]
新聞・放送の地位
韓国では、新聞と放送が依然として主要なニュース供給者である一方、紙媒体の新聞はデジタル化への適応を迫られている。ロイタージャーナリズム研究所は、韓国のメディア環境について、競争力のある公共・民間放送局が存在する一方、新聞産業はデジタル化への対応に苦しんでおり、オンラインではNaverなどの韓国企業が所有するポータルがニュース流通を強く支配してきたと報告している。[25]
一方、韓国の伝統的メディアは単純にデジタルメディアに置き換えられたわけではない。放送局や新聞社は、Webサイト、ニュースアプリ、YouTube、ショート動画などに進出しており、既存メディアとデジタルメディアの間ではコンテンツや事業モデルの相互浸透が進んでいる。韓国放送学会の研究でも、MCNと既存放送事業者が事業面で相互に接近していることが分析されている。[26]
YouTubeとニュース消費の変化
韓国ではYouTubeがニュースの主要な情報源の一つとなっている。ロイタージャーナリズム研究所の2024年「Digital News Report」では、調査対象者の51%が週1回以上YouTubeでニュースを利用しているとされ、2023年の同調査では53%に達していた。2024年の韓国ではNaverなどのオンラインポータルが依然として最大のニュース流通経路であったものの、YouTubeなどソーシャル動画プラットフォームの重要性が高まっている。[27]
韓国では、こうした変化に伴って「YouTubeジャーナリズム」と呼ばれる現象も研究されている。韓国の研究では、YouTubeが従来型ジャーナリズムとは異なる速報性、利用者との相互作用、個人による発信などを持つ一方、伝統的メディアもYouTube向けコンテンツを制作することで対応していることが論じられている。[28]
ポータルから動画プラットフォームへ
2020年代半ば以降、韓国のニュース流通では、ポータルから動画プラットフォームへの移行もみられる。ロイタージャーナリズム研究所の2025年「Digital News Report」では、韓国でニュース消費そのものが各年齢層で減少する中、Naverなどのオンラインポータル経由のニュース利用も低下し、YouTubeでニュースを利用する回答者は50%に達した。さらに2026年版では、ポータルでのニュース利用が2021年以降毎年低下する一方、オンライン動画プラットフォーム、とりわけショート動画によるニュース利用が前年から大幅に増加したと報告されている。[29][30]
この変化は、単純な「新聞・テレビからSNSへ」という移行とは異なる。韓国では、新聞や放送局が制作したニュースがまずポータルに集約され、その後、YouTubeやSNSなどの動画プラットフォームにも流通するという複合的な構造が形成されている。2026年のReuters Instituteの報告では、Naverなどのポータルが依然として韓国で最も広く利用されるニュース源であり、テレビ、ソーシャルメディア、紙媒体がこれに続く一方、動画・ショート動画の利用が上昇しているとされる。[31]
政治的分極化とメディア
韓国の従来型メディアには、保守・進歩の政治的対立と関連した明確なイデオロギー的傾向が存在すると研究されている。2018年の研究では、朝鮮日報、中央日報、東亜日報などが保守系、ハンギョレ、京郷新聞などが進歩系の新聞として位置付けられ、韓国の新聞産業では民主化以降、政治的な立場の違いが顕著になったと分析されている。[32]
2024年に発表された韓国新聞の党派性に関する研究では、1980年代後半の民主化以降、新聞産業が経済的な危機に直面する中で、政治的・経済的利害と結び付いた「敵対的党派性」が韓国新聞の報道モデルとして形成されたと論じられている。また、政治的に分極化したニュース利用者や類似メディアの台頭によって、この構造そのものが既存メディアの存立を脅かす要因になっていると指摘されている。[33]
2026年の研究では、韓国の伝統的メディアにおける利用者の選択的接触と政治的分極化について、2012年から2016年までのパネルデータを用いた分析が行われ、利用するメディアの組み合わせが同質的になるほど政治的態度の分極化と関連する可能性が示された。同研究は、韓国の伝統的メディアには保守・進歩の明確な政治的傾向が存在し、それぞれの利用者が特定のメディア群を選択的に利用することが政治的分極化を理解する上で重要だとしている。[34]
レガシーメディアとYouTubeの関係
韓国では、YouTubeなどの新しいプラットフォームが既存メディアを一方的に駆逐しているというより、両者が競争と協業を同時に進めている。韓国のメディア産業については、既存放送局がYouTube向けの動画を制作する一方、YouTubeで活動するクリエイターが既存放送へ出演するなど、従来型メディアとデジタル・クリエイターの境界が曖昧になる「ビッグブラー」が指摘されている。[35]
韓国放送通信大学の研究者による2024年の政策研究では、YouTubeが利用時間の面で既存放送を代替する側面がある一方、既存放送局が制作したコンテンツそのものはYouTubeなど複数の経路を通じて継続的に消費されており、プラットフォームの観点では競争、コンテンツの観点では共存という二つの側面が存在すると論じられている。[36]
信頼性をめぐる問題
韓国では、既存メディアに対する信頼度の低さも長く指摘されてきた。ロイタージャーナリズム研究所の2023年調査では、ニュース全般を信頼すると回答した割合は28%で、調査対象市場の中でも低い水準だった。その一方、2026年の調査ではニュース全般への信頼は30%となり、主要なテレビ局・新聞社のブランドに対する信頼度はいずれも前年から上昇した。[37][38]
一方、YouTubeを中心とする動画プラットフォームへのニュース流通の移行も新たな問題を生んでいる。韓国言論振興財団は、YouTubeを利用したニュース消費について、利用者の利便性や関連コンテンツへのアクセスといった利点がある一方、推薦アルゴリズムによる情報の偏り、情報品質、インフルエンサーによるニュース発信などを課題として挙げている。ロイタージャーナリズム研究所も、韓国でYouTubeにおけるクリエイターやインフルエンサーの影響力が高まることで、オンラインで流通するニュースの品質に対する懸念が生じているとしている。[39]
ハンガリーの国営メディアによる謝罪
2026年7月7日、ハンガリーの公共テレビM1はニュース放送を一時停止し、画面に「公共メディアは嘘をついてはならない。長年にわたりそうしてきたことをお詫びする」という趣旨の謝罪文を表示した。放送では、公共メディアを「将来、独立し信頼されるもの」に改革するためニュースサービスを一時停止すると説明された。同時にKossuth Rádióでもニュース放送が停止され、公共メディア全体のニュース部門の再編が行われた。[40][41]
この措置は、2026年4月の総選挙でフィデスに代わって政権を獲得したティサ党のペーテル・マジャル政権による公共メディア改革の一環として行われた。新政権は、オルバーン政権下で公共メディアが政治的影響を受けてきたとの批判を踏まえ、ニュース部門の再編と独立性・信頼性の回復を掲げた。ロイターは、改革には過去の公共メディアの報道姿勢を転換する意図がある一方、長年低下してきた視聴者からの信頼を回復することは容易ではないと報じている。[42]
7月11日には、M1、公共ラジオ、デジタルプラットフォームなどでニュースサービスの段階的な再開が始まり、MTVAは新たな「ニュースサービス原則」に基づき、正確性、事実性、公平性、政治的中立性を重視すると発表した。[43]
この出来事は、既存の新聞・テレビなどを指す「オールドメディア」が、単に技術的に古い媒体であるだけでなく、メディアの所有、政治的独立性、報道倫理、公共放送の制度設計といった問題とも結び付いていることを示す事例として注目された。
「オールドメディア」という概念に対する批判
「オールドメディア」という区分そのものに対する批判も存在する。
第一に、メディアの「古さ」を技術の成立時期だけで判断することは困難である。新聞社や放送局はデジタル技術を導入し、WebサイトやSNSなどを通じて情報を発信しているため、企業や組織を単純に「古いメディア」と分類することには限界がある。[44]
第二に、「新しいメディア」も時間の経過とともに社会に定着する。ある時点で「新しい」とされた技術が普及すれば、その技術は後の新技術との比較で「旧来型」とみなされる。この意味で「オールド」と「ニュー」は固定された属性ではなく、相対的な概念である。[45]
第三に、SNSなどのニューメディアにも情報の選別機能が存在する。SNSではアルゴリズム、プラットフォームの規約、利用者のフォロー関係などによって情報への接触機会が左右されるため、既存メディアだけが情報を選別しているわけではない。[46]
したがって、オールドメディアとニューメディアの違いを「一方的な既存メディア」と「自由で双方向的なSNS」という単純な対立として説明することには限界がある。