ガロア理論
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概要
ガロア理論は、代数方程式の解の性質を、その係数が作る体と、解を添加してできる拡大体との関係(対称性)を通じて理解する理論である。
代数方程式と体の拡大
代数方程式の係数は、ある体 K(基礎体。例えば有理数体や実数体など)に属しているとする。この方程式の根(解)を K に添加してできる体 L(多項式の分解体)を考えることで、方程式の性質を体の拡大 L/K の構造として捉えることができる。
例えば、二次の多項式 x2 − 2ax + b = 0 の二つの根は である。係数の体 K が を含んでいない場合、根を含む体 L は、K に を添加した拡大体となる。
ガロア群とガロア対応
体 L の自己同型写像のうち、基礎体 K の元をすべて不変に保つ(動かさない)ものの全体を考える。これらは写像の合成に関して群をなす。これを拡大 L/K のガロア群と呼び、Gal(L/K) などと表す。 ガロア群の元は、多項式の根を互いに入れ替える置換として作用するが、根の基本対称式(すなわち方程式の係数)は不変に保つ。
ガロア理論の基本定理(後述)によれば、以下の対応関係(ガロア対応)が成り立つ。
- 中間体(K ⊂ M ⊂ L)と、ガロア群の部分群(Gal(L/K) ⊃ H)は、一対一に対応する。
- この対応において、部分群 H がガロア群の正規部分群であることと、対応する中間体 M が K の正規拡大であることは同値である。
この対応により、無限に多くの元を持つ「体」の構造の分析を、有限個の元しか持たない「群」の構造の分析に帰着させることができる(対象とする拡大が有限次の場合)。
方程式の可解性
ガロア理論の最も有名な応用の一つは、代数方程式が「代数的に解ける」か、すなわち係数に対する四則演算と冪根(ルート)の有限回の組み合わせで解が表せるか、という問題の解決である。 体論の言葉で言えば、これは係数体 K から出発して、ある元の n 乗根を添加して体を拡大する操作(冪根拡大)を繰り返し、その拡大体の塔 の最上層 Km に方程式の根が含まれるか、という問題に言い換えられる。
一般に、与えられた多項式が分離的である(重根を持たない)と仮定すると[注釈 1]、そのガロア群について以下が成り立つ。
- 方程式が代数的に解ける ⇔ そのガロア群が可解群である。
可解群とは、アーベル群(交換可能な群)を因子に持つ組成列が存在する群のことである。
- 4次以下の対称群は可解群であるため、4次以下の代数方程式(二次方程式、三次方程式、四次方程式)には一般に解の公式が存在する。例えば、一般の三次方程式のガロア群は対称群 または巡回群 であり、いずれも可解群である。
- 5次以上の対称群は可解群ではない(アーベル-ルフィニの定理)。したがって、5次以上の代数方程式には、一般には代数的な解の公式が存在しない。
ガロア理論の基本定理
体 L を体 K の有限次ガロア拡大(すなわち、L は K の正規拡大かつ分離拡大)とする。 このとき、「L と K の中間体 M」 と 「ガロア群 Gal(L/K) の部分群 H」 の間には、以下の1対1対応(ガロア対応)が存在する。
- (M の各元を不変に保つ Gal(L/K) の元全体)
- (H の各元によって不変に保たれる L の元全体)
これについて次の等式が成り立つ。
ただし、Gal(L/M) は拡大 L/M のガロア群であり、LH は H の作用で不変な L の元を集めた L の部分体を指す。
したがって、「L と K の中間体 M」 と 「ガロア群 Gal(L/K) の部分群 H」の間の相互の対応を与える写像
は互いに逆であり、全単射になることがわかる。また、この対応はあきらかに包含関係を逆にしている。
つまり、中間体が M1 ⊃ M2 ならば φ(M1) ⊂ φ(M2) であり、 部分群が H1 ⊃ H2 ならば ψ(H1) ⊂ ψ(H2) となる。
さらに、この対応において拡大次数と群の指数(位数)は対応する。すなわち、
が成り立つ。 また、中間体 が の正規拡大であることと、対応する部分群 がガロア群 の正規部分群であることは同値である。このとき、剰余群 と のガロア群の間には、自然な群同型
が成り立つ。
有限体上のガロア群
有限体上のガロア理論は、理論の基本的かつ明瞭な応用例を提供する。有限体 Fq(q = pn は素数 p の冪)の任意の有限次拡大 Fqm / Fq はガロア拡大である。
そのガロア群 は次数 m の巡回群となる。
このガロア群は、フロベニウス写像(またはフロベニウス自己同型) によって生成される。すなわち、
である。ガロア理論の基本定理により、中間体は の部分群と1対1に対応する。巡回群の部分群は拡大次数 m の各約数 d に対してただ一つ存在し、これに対応して次数 d の中間体 がただ一つ存在する。
無限次拡大と現代的定式化
抽象代数学においては、方程式とその分解体という具体的な対象から離れ、抽象的に定義された体の代数的拡大を取り扱う。拡大体の自己同型と部分群の間の対応が成り立つように、分離性と正規性と呼ばれる二つの条件が要求される。この二つを満たすような代数拡大は ガロア拡大 (Galois extension) と呼ばれる。
無限次ガロア拡大
有限次とは限らない一般のガロア拡大 L/K においては、ガロア群 Gal(L/K) にはクルル位相と呼ばれる位相が入り、位相群となる。このとき、ガロア理論の基本定理における部分群は「閉部分群」に限定することで成立する。 一般に体 K の有限次分離拡大の「合併」として K の分離閉包 K sep が考えられ、そのガロア群 GK = Gal(K sep/K) は絶対ガロア群と呼ばれる。これは K の有限次分離拡大のガロア群の射影極限となっている。
グロタンディークのガロア理論
アレクサンドル・グロタンディークは、ガロア理論を圏論的に再定式化した(ガロア圏)。 体 K に対しその絶対ガロア群 GK が推移的かつ連続に作用する有限離散空間 X が与えられたとする。このとき X から K sep への写像の空間 (Ksep)X に対する GK の作用
が考えられる。この作用の下で固定されている写像たちのなす部分代数は、X の任意の一点の固定部分群に関する K sep の不変部分体と同型になる(X の点の取り替えは K sep の中での共役な部分体の取り替えに対応する)。X への作用の推移性を外すことは K の有限次分離拡大体の代わりに K 上の有限エタール代数を考えることに対応し、こうして K 上の有限エタール代数のなす圏と GK が連続に作用する離散有限空間のなす圏との間の反変圏同値が得られる。これを出発点としてアレクサンドル・グロタンディークによるガロア理論の圏論的定式化が得られる。これにより、体のガロア理論はスキームのガロア理論へと一般化され、体の絶対ガロア群はスキームのエタール基本群として捉え直された[1]。
グロタンディークのガロア理論において古典的なガロア理論は次のように理解される。K上のエタール代数はアフィンスキーム Spec(K) の上のエタール層を表しており、埋め込みK → K sep に対応する射 Spec(K sep) → Spec(K) が表す「幾何学的点」でのファイバーをとる操作は、一つの関手 FK sep: A → HomK(A, K sep) を定める。この関手(ファイバー関手)は、K 上のエタール代数の圏 EtK と、絶対ガロア群 GK が連続的に作用する有限集合の圏 BG との間の圏同値を導く。また、絶対ガロア群 GK はこのファイバー関手の自己同型群として復元され、特定の公理を満たしている関手 からガロア群を復元できることが分かる。また、上の圏同値によって、体 K上の ガロアコホモロジーは、Spec(K) 上のエタール・コホモロジー理論と同値となる。
逆問題
歴史
ガロア理論の概念的な萌芽は、ラグランジュによる代数方程式の解法(特にラグランジュ分解式)における根の置換に関する考察に見られる。また、ガウスは、1の冪根(円分方程式)の研究において、その解の構造が巡回群によって記述されることを実質的に示していた。アーベルは、ガロアに先立ち、一般の五次方程式が冪根によって解けないことを証明した。

ガロアは1832年の(死の原因となる)決闘の前日に、友人のオーギュスト・シュヴァリエに宛てて、ガロア理論と楕円関数論に関する数学的業績を要約した手紙を書いた。その後、1846年になって、リウヴィルがガロアの功績を知って自分の雑誌にガロアの論文集を掲載した[2]ことで、多くの数学者が刺激を受けることになった。デデキントは1855年から1857年にかけてゲッティンゲン大学でガロア理論に関する最初の講義をおこなった[3]。そのとき、デデキントはガロアの理論を「ガロア理論」(独: Galois-Theorie)と名づけた[4]。早い時期に、ベッチ、クロネッカー、ケイリー、セレは群概念を厳密化していった。カミーユ・ジョルダンによって1870年に発表された『置換と代数方程式論』 (Traité des substitutions et des équations algebraique) はガロア理論に関する包括的な解説として最も古いものである。1871年にデデキントは四則演算で閉じた(数の)集合を「体」(独: Körper)と名づけた。また、デデキントとウェーバーは1882年に代数関数体とリーマン面の代数的理論を構築した[3]。
ソフス・リーによって導入されたリー群は代数方程式に対するガロア理論の類似を微分方程式に対して確立しようという試みの中から生まれたとされている。その後、エミール・アルティンは、ガロア理論を、体の自己同型群と部分群の対応として捉え直し、線型代数学の手法を用いて理論の公理的な再定式化を行った[5][6]。現代におけるガロア理論の標準的な叙述の多くは、アルティンによるこの定式化に基づいている。アレクサンドル・グロタンディークによって圏論的な定式化と数論幾何・代数幾何への応用が押し進められた。