キリム (絨毯)
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歴史
織りの技法

キリムは、縦糸と横糸を交互にきつく織り込むことにより作られており、パイルのない平らな表面ができる。キリムの織り方はタペストリーの織り方であり、技巧の面からいうと、横糸が表面に出る平織り、すなわち平行な横糸が下側にきつく引っ張られることで、垂直な縦糸が見えなくなるような織り方である[4]
色の境目に達すると、横糸は境目から折り返される。もし色の境目が垂直な一本線となる場合には、2つの異なる色の境目部分には垂直なスリットが形成される。このため、キリムのほとんどは「スリット織り」の織物に分類される。これらのスリットは、幾何学模様を強調した、非常にくっきりしたデザインを作り出す効果を有するため、コレクターはこれらのスリットを好む。インターロックのように、スリットを避ける織り方をした場合、デザインはよりぼやけたものとなる[5]。
横糸は、視覚的デザインや色の効果を有するもので、ほとんどの場合ウールである。これに対し、見えなくされる縦糸は、ウールの場合もコットンの場合もある。縦糸は織物の端部分でのみ見えるようになっており、フリンジを形成している。フリンジは通常の場合、織物が緩んだりほどけたりすることのないよう、束ねられている[5]。
モチーフ

トルコのキリムには多数のモチーフが用いられており、それぞれのモチーフには多くのバリエーションがある。Güran Erbekにより著書『Kilim』において付された説明とともにそのいくつかをここで紹介する[6]。広く用いられるモチーフは、女性、母性、多産を象徴する図形であるエリベリンデである[7]。他のモチーフとしては、自分たちの家畜をオオカミから守りたいという部族の織り手の願いが込められている、オオカミの口や足のモチーフ(トルコ語:Kurt Aǧzi、Kurt İzi)、サソリに刺されないことを願うモチーフ(トルコ語:Akrep)といったものがある。また、織り手の家族を邪視(トルコ語:Nazarlık、これ自体もモチーフとなる)から守るためのモチーフもあり、邪視が矢(トルコ語:Haç)のシンボルによって4つに分割されているものや、鉤(トルコ語:Çengel)、人間の目(トルコ語:Göz)、またはお守り(トルコ語:Muska、神聖な韻文が中に入れられた三角形の包みになっていることが多い)のシンボルにより邪視から守られているというものが挙げられる。絨毯には単にお守りの図柄が織り込まれるのではなく、お守りがそこにあることが邪視から守る力を与えるとして、お守りの実物が織り込まれる[8]
- 腰に手を当てた女性の模様(エリベリンデ)。母性と多産の象徴。
- 目の模様(Göz)。邪眼を追い払う。
- お守り(Muska)。守護と幸運の象徴。
- オオカミの口の模様(Kurt Aǧzi)。家畜をオオカミから守る。
- サソリ(Akrep)。サソリから身を守る。
絨毯と商業
キリムはパイル織りの絨毯よりも安価であるため、絨毯の初心者コレクターはキリム集めからコレクションを始めることが多い。キリムはパイル織りの絨毯に比べて二流である(劣後している)とみなされているにもかかわらず、近年、キリム自体がコレクションの対象とされてきており、高品質のキリムには高値がつけられている。キリムがパイル織り絨毯よりも劣っているとみられていた点は、実際は、土着の用途のために製造された絨毯と、商品用として厳密に製造された絨毯の違いにすぎなかった。キリムは大規模な輸出商品ではなかったため、パイル織り絨毯とは異なり、外国の市場に合わせてデザインを変更する必要がなかった。コレクターが、伝統的な土着の織物に価値を見出すようになってからは、キリムは人気が出るようになった。その後、西洋で新たに知られるようになったキリムの品質は、以下の3つの要素により損なわれることとなった。第1の要素は化学染料の発達である。伝統的なキリムの魅力の重要な要素の一つは、織糸を手染めすることによりそれぞれの色の色調にばらつきが出るため、abrashと呼ばれるまだらな色合いができることであった。ヴィクトリア朝の後半に開発された化学染料(アニリンを用いたもの)によりabrashは生じなくなり、キリムは色鮮やかになったが、しばしば色褪せが生じるようになった。第2の要素は中央アジアにおいて遊牧が行われなくなってきたことである。定住が始まると、織物に各部族の特色が表れづらくなった。第3の要素は、キリムの商品性が新たに発見されたことそれ自体の帰結である。絨毯は個人での使用のためではなく、輸出して外貨を獲得するために製造されるようになったため、土着のスタイルや、絨毯の社会的な意味合いは失われた。伝統や、織り手の家族の求めるもの・織り手自身の願いや不安に従ってではなく、市場に合うように模様や色が選択されるようになった[9][注釈 1]。
