コンデンシン
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真核生物型

多くの真核生物では、現在コンデンシン I とコンデンシン II と呼ばれる2つの複合体の存在が知られており、それぞれ5つのサブユニットから構成される(図2)[3][4]。そのコアとなるサブユニット(SMC2とSMC4)は、SMCタンパク質と総称される ATPアーゼのファミリーに属する[5][6]。コンデンシン I とコンデンシン II は、この2つの SMC サブユニットを共有する一方、それぞれに固有なセットの制御サブユニット(2つの HEATリピートサブユニット[7][8]とひとつの kleisin サブユニット[9])を持つ。CAP-D2 と-D3、CAP-G と-G2、CAP-Hと-H2は、互いに paralogous な関係にあるが、それぞれのペアの中での一次構造上の相同性は極めて低い(進化的考察の項参照)。これらの制御サブユニットは、non-SMC サブユニットと総称されることもある。いずれのコンデンシンも、総分子量650-700 kDa程度の巨大なタンパク質複合体である。
コンデンシンのコアサブユニット(SMC2とSMC4)は、これまで調べられた全ての真核生物に保存されている。コンデンシン I に固有の制御サブユニットも同様であるが、コンデンシン II に固有のサブユニットを保持しているかどうかは種によって大きく異なる。
- 例えば、ショウジョウバエ (Drosophila melanogaster) のゲノムには、コンデンシン II の制御サブユニット CAP-G2 の遺伝子が欠けている[10]。また、昆虫では、CAP-G2に限らずCAP-D3やCAP-H2の遺伝子を失っている種が頻繁にみられる[11]。コンデンシン II に固有のサブユニットは進化の過程で大きな淘汰圧に晒されているらしい。
- 菌類(出芽酵母 Saccharomyces cerevisiaeや分裂酵母 Schizosaccharomyces pombe)のように、コンデンシン II に固有のサブユニットを全て失っている種も存在する[12][13]。しかし、単細胞性の原始紅藻 (Cyanidioschyzon merolae) では、そのゲノムは酵母とほぼ同一のコンパクトサイズであるにもかかわらず、コンデンシン I と II を共にもっている[14]。すなわち、ゲノムの大きさとコンデンシン II の保持との間に強い相関関係があるとは言えない。
- 線虫 Caenorhabditis elegans はコンデンシン I と II を有するが、中期染色体における両者の局在パターンが他の生物とは大きく異なっている。これはこの生物がホロセントリック(染色体腕部全長に沿って多数のセントロメアが散在する)という特殊な染色体構造をもつためと考えられている[15]。また、C. elegans は、コンデンシン I に類似した第3の複合体(コンデンシン I DC を有し、これは遺伝子量補償 (dosage compensation [DC]) の主要な制御因子として働いている(図2)[15]。コンデンシン I DCでは、コンデンシン I の5つのサブユニットのうち SMC-4 が DPY-27 と置き換わっている。コンデンシン I DC は、進化的には比較的新しい産物であり、Caenorhabditis 属でも一部の種にのみ見出される。
- シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)は、2つの SMC2 パラログ(CAP-E1とCAP-E2)を有する。それぞれの変異は必ずしも生育を妨げないが、2重変異は胚性致死となる[16]。
- 繊毛虫テトラヒメナ (Tetrahymena thermophila) は、コンデンシン I のみを有する。しかし、二つの制御サブユニット(CAP-D2とCAP-H)にはそれぞれ複数のパラログ(paralog)が存在し、その中には大核(遺伝子発現機能を有する)と小核(生殖機能を有する)に特異的に局在するものがある[17]。すなわち、この種では、異なる制御サブユニットをもち異なる細胞内局在を示す複数のコンデンシン I 複合体が存在する[18]。これは、他の生物種では観察されないユニークな特徴である。
- 繊毛虫ゾウリムシ (Paramecium aurelia)は、2つの SMC4 パラログを有する。そのうち、SMC4-1 は全ての核(小核・大核・形成中の大核)に局在することから、染色体構築と分離という、よく知られたコンデンシンの役割を果たしているらしい。一方、SMC4-2 は形成中の大核にのみ見出され、DNA 削減(DNA elimination)という特殊な過程に必須であることが報告されている[19]。
以下の表に、代表的なモデル真核生物におけるサブユニットの名称を整理する。
| 複合体 | サブユニット | 脊椎動物 | ハエ | 線虫 | 出芽酵母 | 分裂酵母 | シロイヌナズナ | テトラヒメナ |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| コンデンシン I & II | SMC2 ATPase | CAP-E/SMC2 | Smc2 | MIX-1 | Smc2 | Cut14 | CAP-E1 & -E2 | Smc2 |
| SMC4 ATPase | CAP-C/SMC4 | Smc4 | SMC-4 | Smc4 | Cut3 | CAP-C | Smc4 | |
| コンデンシン I | kleisin | CAP-H | CAP-H | DPY-26 | Brn1 | Cnd2 | CAP-H | Cph1,2,3,4 & 5 |
| HEAT-IA | CAP-D2 | CAP-D2 | DPY-28 | Ycs4 | Cnd1 | CAP-D2 | Cpd1 & 2 | |
| HEAT-IB | CAP-G | CAP-G | CAPG-1 | Ycg1 | Cnd3 | CAP-G | Cpg1 | |
| コンデンシン II | kleisin | CAP-H2 | CAP-H2 | KLE-2 | - | - | CAP-H2/HEB2 | - |
| HEAT-IIA | CAP-D3 | CAP-D3 | HCP-6 | - | - | CAP-D3 | - | |
| HEAT-IIB | CAP-G2 | - | CAP-G2 | - | - | CAP-G2/HEB1 | - | |
| コンデンシン I DC | SMC4 variant | - | - | DPY-27 | - | - | - | - |
コンデンシンは、真核生物が有する3種類の SMCタンパク質複合体の一つである。残りの2種類は、姉妹染色分体の接着と間期染色体の組織化に関わるコヒーシン、そして DNA修復とゲノム安定性に関わる SMC5/6 複合体である[5][6]。
原核生物型

SMC-ScpAB: コンデンシンに類似したタンパク質複合体は原核生物にも存在し、やはり染色体(核様体)の構築と分離に関与している。その代表的なものが、SMC-ScpAB であり(図3左)[20]、これが真核生物型コンデンシンの祖先であると考えられている(進化的考察の項参照)。SMC-ScpAB は、真核生物型コンデンシンに比べて、より単純なつくりをしている。例えば、真核生物型の SMC サブユニットがヘテロ2量体であるのに対し、原核生物型の SMC サブユニットはホモ2量体である。制御サブユニットのうち、ScpA は kleisin ファミリーに分類されるため[9]、SMC-kleisin 3量体の基本構造は真核細胞と原核細胞の間で保存されているといってよい。一方、ScpB は kite ファミリー[21]に分類され、真核細胞型の HEATリピートサブユニット[7][8]とは大きく異なる。
MukBEF: 多くの真正細菌と古細菌が SMC-ScpAB を有するのに対し、ガンマプロテオバクテリア綱(gammaproteobacteria)に属する一部の真正細菌(大腸菌を含む)は、SMC-ScpAB の代わりに MukBEF を有する[22]。MukBEF は、kleisin サブユニット MukF を介して2量体化する(図3中央:dimer-of-dimerと呼ばれることもある)。MukE は kite ファミリーに属する。SMC-ScpAB と MukBEF のサブユニットを比較したとき、一次構造レベルで類似性を見いだすことは困難であるが、電子顕微鏡像[23]や変異体が示す欠損表現型[24][25]から判断すると、2つの複合体は機能的なホモログであると推測することができる。そのため、両者はあわせて原核生物型コンデンシンと呼ばれることが多い。
MksBEF/Wadjet: より最近になって MukBEF に似た第3の複合体(MksBEF)の存在が報告されている[26]。緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)は、SMC-ScpAB と MksBEF を有し、両者は異なる様式で染色体構築と分離に貢献している[27]。一方、放線菌(Corynebacterium glutamicum)では、SMC-ScpAB が染色体構築と分離を担い、MksBEF はヌクレアーゼサブユニット MksG と共にプラスミド防御に特化している[28][29]。MksBEFG は、Bacillus cereus の JetABCD[30][31]および Mycobacterium smegmatis の EptABCD [32]のオーソログ (ortholog)であり、これらの種が共有するプラスミド防御システムは Wadjet と総称される(図3右)。
以下の表に、代表的なモデル原核生物におけるサブユニットの名称を整理する。
| 複合体 | サブユニット | B. subtilis | C. crescentus | E. coli | P. aeruginosa | C. glutamicum | B. cereus |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| SMC-ScpAB | SMC ATPase | SMC | SMC | - | SMC | SMC | SMC |
| kleisin | ScpA | ScpA | - | ScpA | ScpA | ScpA | |
| kite | ScpB | ScpB | - | ScpB | ScpB | ScpB | |
| MukBEF | SMC ATPase | - | - | MukB | - | - | - |
| kleisin | - | - | MukF | - | - | - | |
| kite | - | - | MukE | - | - | - | |
| MksBEF & Wadjet | SMC ATPase | - | - | - | MksB | MksB | JetC |
| kleisin | - | - | - | MksF | MksF | JetA | |
| kite | - | - | - | MksE | MksE | JetB | |
| nuclease | - | - | - | - | MksG | JetD | |
分子構造

コンデンシン複合体のコアとして働く SMC 2量体は、極めて特徴的な V 字構造を形成する(図4;SMCタンパク質の項を参照)。その形状は、原核生物型・真核生物型ともに電子顕微鏡によって捉えられている[23][33]。SMC 2量体の腕部の長さは ~50 nmにも達する(これは2重鎖 DNA ~150 bpに相当する)ことからも、コンデンシンがいかに巨大なタンパク質複合体であるかがわかる。一方、高速 AFM (atomic force microscopy) 観察によると、SMC 2量体の腕部はこれまで予想されていた以上にフレキシブルな構造をとっているらしい[34]。
SMC2量体に non-SMC サブユニットが結合してコンデンシン複合体を作るスキームは、以下の通りである(図4)。まず、kleisin サブユニットの N 末端ドメインが一方の SMC のネック(ヘッドドメインに近いコイルドコイル領域)に結合し、C 末端ドメインがもう一方の SMC のキャップ(ヘッドドメインの一部)に結合する。こうして形成される SMC-kleisin 3量体は、非対称なリング状構造をとる。最後に、2つの HEAT サブユニット(あるいは2つの KITE サブユニット)が kleisin の中央領域に結合して、ホロ複合体を形成する。尚、原核生物型 MukBEF と Wadjet は、kleisin サブユニットを介して、2量体化する(図3;dimer-of-dimerと呼ばれることもある)。
個々の複合体あるいはサブ複合体の構造情報については以下の報告がある:
分子活性
DNA コンパクション活性
コンデンシンに想定される分子活性の中で直観的に一番わかりやすいものは、DNA を折り畳んで長さを短縮させる活性(DNA コンパクション活性)である。実際に、magnetic tweezers による単分子 DNA 操作技術を用いると、精製したコンデンシン I が ATP の加水分解に依存して DNA の長さを短縮させることをリアルタイムで観察することができる[51][52]。一方、optical tweezers による単分子 DNA 操作技術とカエル卵抽出液を組み合わせた実験からは、分裂期の抽出液中に存在する複数の DNA コンパクション活性のうちドミナントなものはコンデンシンに由来するという観察も報告されている[53]。

スーパーコイリング活性
アフリカツメガエル卵から精製した標品を用いた初期の研究から、コンデンシン I が ATP 加水分解に依存して 2重鎖 DNA に正のねじれを導入する活性を有することが見出された(図5左)[54]。この活性は、正の DNA超らせん化活性、あるいはポジティブ・スーパーコイリング(positive supercoiling)活性と呼ばれることも多いが、コンデンシンは DNA を切断・再結合することはできないので、いわゆるトポイソメラーゼ活性とは異なることに注意したい。同様の活性は、線虫や酵母のコンデンシンにも見出されている[55][56]。また、ツメガエルのコンデンシン I はより高次の(ソレノイド状の)スーパーコイル構造を導入することも示された[57]。これらの活性は、Cdk1 キナーゼを介したリン酸化によって分裂期特異的に促進されることから、分裂期の染色体凝縮に直接関与する本質的な反応のひとつであると考えられている[57][58]。コンデンシンは、この活性を通して DNA の折り畳みに関与するとともに、トポイソメラーゼ II による姉妹染色分体の分割と分離を促進しているのかもしれない[59]。
ループ押出し活性
コンデンシンが有する分子活性のうち、現在最も注目を集めているのが、ループ押出し活性(loop extrusion:図5右)である。DNA を「押し出して」ループを形成するという活性は、まず理論的に考察され、その後のコンピュータ・シミュレーションでも分裂期染色体を構築するのに十分であることが示唆された[60]。実験的には、まず出芽酵母のコンデンシンが ATP 加水分解に依存して2重鎖 DNA 上を移動するモーター様活性を持つことが示され[61]、次にループが押し出されて成長する過程が可視化された[62]。さらには、単一 DNA 上で衝突したコンデンシンが互いに乗り越える様子や[63]、コンデンシンが自身よりもはるかに大きな障害物を乗り越えることができる様子も観察されている[64]。コンデンシンによるループ押出し活性の分子メカニズムについては、構造解析からの知見も併せて現在活発に研究されている[65][66]。SMC サブユニットの ATPase サイクルとカップルして複数のサブユニットが複数の様式で DNA と相互作用することが想定されており[44][46][49]、その分子メカニズムは極めて複雑なものであるらしい。ループ押出し活性がスーパーコイリング活性とどのような関係にあるのかという問題についても断片的な知見が得られている[67][68][69]。一方、分裂期におけるコンデンシンサブユニットのリン酸化がループ押出し活性にどのような影響を与えるのかという問題についての報告はまだない。
ループ捕獲活性
ループ押出しメカニズムを支持するデータは蓄積しているものの、生体内でそれが起こっている直接的な証拠は得られていない。ループ押出しに代わるメカニズムとして、ループ捕獲(loop capture あるいは diffusion capure)と呼ばれるメカニズムが提唱されている[70][71][72]。これは、まず第1の DNA セグメントを捕獲したコンデンシンが、同じ DNA 分子にあって確率的に近接してきた第2のセグメントを捕獲する結果としてループが形成されるというメカニズムである。押出しメカニズムと捕獲メカニズムが共存している可能性も否定できない。
染色体構築活性
スーパーコイリング活性やループ押出し活性は、主に裸の DNA を基質とした実験から示された活性である。より生理学的条件に近い試験管内機能アッセイとして、カエル卵抽出液を用いた染色体再構成系がある[3]。この実験系では、分裂期に停止した未受精卵から調整した抽出液を用いることにより分裂期特有の染色体構築を試験管内に再現することができる。そして、内在性のコンデンシンを除去した抽出液に野生型あるいは変異型のコンデンシン複合体を添加することにより、その染色体構築活性を検定することができる。この実験系を用いた解析から、コンデンシン I の SMC サブユニットによる ATP 結合と加水分解が染色体構築に必須であることや、2つの HEATリピートサブユニットの拮抗作用とコンデンシン間相互作用がダイナミックな染色体軸の構築制御に関与していることが示されている[73][74][75] 。また、リンカーヒストンがコンデンシンと競合的に働いて染色体の形態に影響を与えることも報告されている[76]。さらに驚いたことに、ヌクレオソーム形成を抑えた条件下においても、コンデンシンに依存して染色体に似た構造を作ることが可能であることが示されている[77]。この観察は、コンデンシンがヌクレオソーム構造を持たない DNA に対しても生理学的に意味のある活性を有していることを示唆している。
一方、最近になって精製タンパク質を用いた試験管内染色体再構成系が開発され、コンデンシン I の染色体構築における必須性が確かめられている[78][79]。この実験系では、簡単な基質(精子核)に6種の精製タンパク質(コアヒストン、3種のヒストン・シャペロン、トポイソメラーゼ II、コンデンシン I )を加えるだけで、単一染色分体(複製過程を経ない一本の染色分体からなる染色体)を試験管内に再構成することができる。この再構成系においてコンデンシン I が染色体構築活性を持つためには、分裂期特異的なリン酸化が施されている必要がある。一方、必須なヒストン・シャペロンして同定されたものの一つが FACT と呼ばれるシャペロンである。FACT は、ヌクレオソームの一過的な不安定化と再形成を促進することにより、コンデンシンがヌクレオソーム繊維を折りたたむ作業を助けているらしい。
コンデンシン I とコンデンシン II
コンデンシン I とコンデンシン II の分子活性は、どの程度似ており、どの程度異なっているのであろうか? 両者は2つの SMC サブユニットを共有するが、それぞれに固有の3つの non-SMC サブユニットを持つ(図2)。これら non-SMC サブユニットの作用バランスが微妙に異なることが、2つの複合体のループ形成スピード[80]や染色体構築活性[73][74][81][82]の違いに反映されているらしい。また、種々の変異を導入することにより、コンデンシン I にコンデンシン II 様の染色体構築活性を持たせたり、逆にコンデンシン II にコンデンシン I 様の活性を持たせたりすることが可能である[82]。
数理モデリングとコンピュータ・シミュレーション
最近では、コンデンシンの分子活性をもとに、分裂期染色体構築の数理モデリングとコンピュータ・シミュレーションが盛んに行われている。代表的なものとして、ループ押出し(loop extrusion)モデルをもとにした試み[60]、ループ捕獲モデルをもとにした試み[70]、ループ形成とコンデンシン間相互作用を併せた試み[83]、bridging-induced attraction を仮定した試み[84]が報告されている。
分裂期における機能
体細胞分裂


体細胞分裂の細胞周期を通じて、コンデンシン I とコンデンシン II は異なる時空間制御を受けている[85][86]。例えばヒト培養細胞では、コンデンシン II が細胞周期を通じて核内あるいは染色体上に局在するのに対し、コンデンシン I は間期では細胞質に存在する。このことから予想されるように、前期核内での染色体凝縮は主にコンデンシン II によって担われている(図6)。前中期にはいって核膜が崩壊すると、コンデンシン I は初めて染色体と接触することができるようになる。前中期以後の染色体凝縮には、2つのコンデンシンが必須である。
こうした2つのコンデンシンの細胞内局在制御は、カエル卵抽出液を用いた再構成系[87]やマウスの卵母細胞[88]や神経幹細胞[89]においても同様に観察されることから、少なくとも脊椎動物では生物種や細胞種を超えた普遍的な制御機構のひとつであるらしい。実際、最近の研究から、コンデンシン I を強制的に間期核内に移行させるとその後の分裂期の染色体分離に異常が生じることが示されている[90]。こうした細胞内局在の生理学的意義については、2つのコンデンシンの作用順序(まずコンデンシン II が働き始め、次にコンデンシン I が働く)を規定している可能性が指摘されている[91]。
ヒトの中期染色体では、コンデンシン I とコンデンシン II は共に染色分体の中心軸上に局在するが、その分布は重複しないように見える(図7)。生細胞内における発現抑制実験[4][89][92]やカエル卵抽出液中での免疫除去実験[87]によると、2つのコンデンシンは独自の機能をもちながらも協調して中期染色体の構築に貢献していることが示されている。また、コンデンシンの機能に欠損が生じても細胞周期は特異的なステージで停止するわけではない。染色体構築に異常をもったまま後期に進入した細胞は、後期ブリッジ(anaphase bridge)と呼ばれる分離異常を顕在化しつつ、そのまま細胞質分離へと突入することが多い[93]。
体細胞分裂における2つのコンデンシンの必須性は、種によって異なる。
- マウス(Mus musculus)では、コンデンシン I と II のそれぞれが胚発生に必須の役割を果たしていることが、遺伝子ノックアウト実験から示されている[89]。両者は重複する機能を持つと共に、それぞれ独自の機能も有する。
- 原始紅藻やシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)はコンデンシン I と II の両方を有するにもかかわらず、コンデンシン II は体細胞分裂に必須ではない[14][94]。
- 線虫の初期胚では、コンデンシン II が主要な役割を果たしており、両者の関係が見かけ上逆転している[15]。これはホロセントリック染色体という特殊な構造をとっているためかもしれない。
- ショウジョウバエは、コンデンシンII に固有のサブユニットの一つ (CAP-G2)を失っている。CAP-D3 と CAP-H2 は、体細胞分裂に必須ではなく、減数分裂で大きな役割を果たしている[95]。
- 出芽酵母や分裂酵母をはじめとする菌類は、コンデンシン II に固有のサブユニットをすべて失っている[12]。コンデンシン I が体細胞分裂と減数分裂の両方で機能する。
こうした種間の違いは、染色体構築やゲノムサイズの進化を考える上で大きな示唆を与えてくれるものである(進化的考察の項参照)。以下の表に、代表的なモデル真核生物の体細胞分裂における2つのコンデンシンの必須性をまとめる。
| - | マウス | ショウジョウバエ | 線虫 | 出芽酵母 | 分裂酵母 | シロイヌナズナ | 原始紅藻 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| ゲノムサイズ | ~2,500 Mb | 140 Mb | 100 Mb | 12 Mb | 14 Mb | 125 Mb | 16 Mb |
| コンデンシン I | 必須 | 必須 | ? | 必須 | 必須 | 必須 | 必須 |
| コンデンシン II | 必須 | 必須でない | 必須 | - | - | 必須でない | 必須でない |

2010年代以降、細胞周期における染色体の構造変換が Hi-C (High-throughput chromosome conformation capture) の手法を通して解析されるようになっている[96]。コンデンシンの欠損が分裂期の染色体構築に与える影響についても、出芽酵母[97][98]、分裂酵母[99][100]、ニワトリ(Gallus gallus)DT40細胞[101]において報告されている。
特に、DT40細胞の解析から得られた描像(まずコンデンシン II が大きなループを形成し、次にコンデンシン I がそれを分割するように小さなループを形成する)は、これまでの細胞生物学・生化学的手法から推測されていた描像[87][92][91]とよく一致する(図8)。より最近では、コンデンシンとコヒーシンの機能的相互作用(”Rules of engagement”と称される)についても、Hi-C とポリマーシミュレーションを用いた解析が進んでいる[102][103]。
一方、定量的画像解析から、ヒト細胞の分裂期染色体上に局在するコンデンシン I と II の数を推定する試みも報告されている[104]。
減数分裂
コンデンシンは、減数分裂期の染色体構築とその動態制御においても重要な役割を担っている。これまでに出芽酵母[105]、ショウジョウバエ[95][106]、線虫[107]において遺伝学的手法を用いた解析が報告されている。マウスでは、抗体による機能阻害実験[88]および条件的遺伝子ノックアウト解析[108]が報告されている。哺乳類の減数第一分裂では、コンデンシン II の貢献がコンデンシン I のそれに比べてより大きいようにみえる。また、体細胞分裂で示されているのと同様に[89]、減数分裂においても2つの複合体の機能が一部重複している[108]。減数第一分裂と体細胞分裂の間で、スピンドルチェックポイントに対する二つのコンデンシンの関わりが異なることは、両者の染色体構造の違いを考えたとき大変興味深い[109]。なお、コヒーシンとは異なり、コンデンシンには減数分裂期に特異的に働くサブユニットは見つかっていない。
分裂期以外での機能
コンデンシンは細胞分裂期の染色体凝縮に関わるタンパク質複合体として発見されたが、その後の研究から分裂期以外の時期においても多彩な染色体機能に関わることが明らかになっている。
- 線虫 C. elegans では、コンデンシン I に類似した第3の複合体(コンデンシン IDC)が遺伝子量補償の主要な制御因子としてX染色体の高次構造変換に関わっている[114]。不思議なことに、この種では、コンデンシン I が脊椎動物のコヒーシンに相当する役割(間期染色体の組織化)を果たしているばかりでなく[115]、SMC に類似した SMCL-1 が存在する[116]。SMCL-1 はヒンジやコイルドコイルドメインを欠いた小さなタンパク質であり、コンデンシンの負の制御因子として働く。SMCL-1 は、Caenorhabditis 属の中でもコンデンシン IDC を有する種のみに存在することから、2つのコンデンシン I を精妙に制御するために進化したと考えられている。
- ショウジョウバエでは、コンデンシン II のサブユニットが、多糸染色体の解体とトランスベクション(相同染色体の対合を介した転写制御の抑制])[117]、および染色体テリトリーの形成[118][119]に関与する。ショウジョウバエで観察されるこれらの現象はすべて染色分体間の相互作用が弱められる結果として起こるものであり、その背景には共通のメカニズムの存在が想定されている。
- 哺乳動物細胞においても、コンデンシン II が間期ゲノムの組織化と機能発現に大きな役割を果たしている可能性が高い。実際、ヒト細胞ではコンデンシン II による染色体凝縮の準備過程(複製が完了した領域を組織化して分割していく過程)は、既にS期の間から始まっている[120]。さらに最近の研究によれば、コンデンシン II はコヒーシンと協調して間期染色体テリトリーの確立と維持に貢献している[121]。
- マウスの間期核では、セントロメア周辺のヘテロクロマチン領域が集合してクロモセンター(chromocenter)という核内構造が形成されることが知られている。興味深いことに、コンデンシン II を欠いた細胞ではクロモセンターが過集合している様子が観察される[89]。すなわち、コンデンシン II は間期核内においてヘテロクロマチン領域の集合を抑制する機能をもっているらしい。
- 渦鞭毛藻(Dinoflagelate)Crypthecodinium cohnii は、非ヌクレオソームからなる液晶 (liquid crystal) 状の巨大な染色体を有する。この生物では、SMC4がS期の進行に必須の役割を示すとともに、液晶状染色体のコンパクションにも関わっている[122]。
- マラリア原虫(Plasmodium)では、SMC2/SMC4 がこの寄生虫の増殖と感染に必須の役割を果たしている[123]。
制御
時空間制御

コンデンシンは細胞周期の過程で時空間制御を受ける。しかし以下に示すように、その様子は種によって異なる(図9)。
- 菌類は、一種類のコンデンシンしか持たない。また、多くの菌類では分裂期に入っても核膜は崩壊しない(closed mitosis)。出芽酵母のコンデンシンは細胞周期を通じて核内に存在し、分裂期にその機能を発揮する。一方、分裂酵母のコンデンシンは、間期には細胞質に局在し、分裂期になると核内に移行して染色体凝縮を誘導する[12]。
- 脊椎動物細胞の間期では、コンデンシン II が核内に局在するのに対し、コンデンシン I は細胞質に存在する[85][86]。分裂前期核内での染色体凝縮は、コンデンシン II が担う。前中期にはいって核膜が崩壊すると、コンデンシン I は染色体と接触することができるようになり、その後の染色体凝縮には2つのコンデンシンが協調的に関わる。分裂終期において、いかにしてコンデンシン II が核内に留まりコンデンシン I が核外に排出されるのかという問題については理解が進んでいない。
翻訳後修飾による制御

コンデンシンのサブユニットは、細胞周期依存的に様々な翻訳後修飾を受ける[124]。なかでも分裂期におけるリン酸化が一番よく研究されている。Cdk1 の主なターゲットである S/TP 配列は、コンデンシンサブユニットの末端に位置する天然変性領域(intrinsically disordered regions: IDRs)に集中する傾向にある[125]。しかし、その分布や生体内制御における貢献は種によって大きく異なる。
- 脊椎動物では、コンデンシン I の CAP-H サブユニットの N 末端のリン酸化が、分裂期特異的な染色体結合制御の一端を担っているらしい(図10左)[128]。生化学的解析からは、Cdk1 によるリン酸化がコンデンシン I のスーパーコイリング活性[58][57]と染色体構築活性[78]に必須であることが示されている。
- 脊椎動物のコンデンシン II では、CAP-D3 サブユニットのC末端の Cdk1 によるリン酸化が複合体の活性制御に関与している(図10右)[129][130][81][82]。コンデンシン II のサブユニット CAP-D3 はプロテインフォスファターゼ PP2A-B55 の基質としても同定されている[131]。
Cdk1 以外にも、いくつかの生物種において、コンデンシン I の aurora B [132][133]や polo [56]による正の制御および CK2 (Casein kinase 2) による負の制御[134]が報告されている。コンデンシン II の制御においては、polo [135]、および Mps1 [136]の関与が示唆されている。
SLiMによる制御
最近では、Short Linear Motifs (SLiMs) と総称される短いアミノ酸配列によるコンデンシンの制御が注目されている。
- 出芽酵母では、Sgo1 と Lrs4 の SLiM が、CAP-G サブユニットとの相互作用を介してコンデンシンをペリセントロメア領域と rDNA 領域にそれぞれリクルートすることが報告されている[137]。
- ヒトコンデンシン I では、CAP-H N 末端領域にある SLiM 様配列が複合体の活性抑制に必須の役割を果たしていることが示された[128]。その後の研究から、この配列が CAP-D2 C 末端領域の配列と共に CAP-G サブユニットと相互作用すること、さらにクロモキネシン KIF4A の SLiM がこれらと競合して複合体の活性抑制を解除するというモデルが報告されている[138]。
- ヒトコンデンシン II では、小頭症の責任タンパク質 MCPH1 の SLiM が、CAP-G2 サブユニットとの相互作用を通して、その活性抑制に関わっている[139][140]。一方、分裂期では、M18BP1(CENP-A のセントロメアへの積載に関わる Mis18 複合体のサブユニット)の SLiM が、MCPH1 の SLiM と競合することにより、コンデンシン II の活性化を促す[141]。
- C. elegansでは、M18BP1 のオーソログ (ortholog)である KNL-2 のリン酸化がコンデンシン II のローディングに関わっていることが報告されている。尚、このリン酸化は CENP-A のローディングには必須ではない[142]。
上記の SLiM を介した相互作用は、それ自身あるいはその周辺領域のリン酸化によってさらに重層的に制御されているらしい。
タンパク質分解による制御
ショウジョウバエでは、SCFSlimbユビキチンリガーゼの働きを通してコンデンシン II の CAP-H2 サブユニットが分解されることが報告されている[143]。
遺伝疾患との関わり
- ヒト小頭症の責任タンパク質のひとつ MCPH1 はコンデンシン II の抑制因子として働くことが報告されている[139]。このタンパク質に欠損をもつ患者から採取した細胞では、コンデンシン II の過剰な活性化が引き起こされ、非分裂期においても凝縮した染色体が観察される[144]。さらに最近になって、コンデンシン I 及び II のサブユニットの hypomorphic 変異(遺伝子機能の一部を低下させるマイルドな変異)そのものが小頭症の原因になっていることも報告されている[145]。しかし、コンデンシンの精密な制御と小頭症発症の間にどのような関係があるかについてはよくわかっていない。
- マウスでは、コンデンシン II サブユニットの hypomorphic 変異がT細胞の分化に特異的な影響を及ぼすことに加え[146]、T細胞リンパ腫を引き起こす[147]。
- ゼブラフィッシュでは、コンデンシン II サブユニットが造血幹細胞と造血前駆細胞の分化に必須の役割を持つことが報告されている[148]。
神経幹細胞や造血幹細胞は、他の体細胞とは異なる特殊な分裂様式をもつ。そうした細胞種においてコンデンシン変異の影響が顕在化しやすいという観察は大変興味深い。
進化的考察
原核生物にも単純なつくりをしたコンデンシン複合体が存在することから[20][22]、コンデンシンの進化的起源はヒストンのそれよりも古いことになる。

現在推測されているコンデンシンの進化のシナリオは、以下の通りである(図11)[149][150] 。
- 真核生物の祖先となる古細菌において、SMC の重複が起こり、canonical SMC から non-canonical SMC が生まれた(non-canonical SMCは、SMC5/6の祖先となった)。
- 真核生物発生(eukaryogenesis)の初期において、canonical SMC の重複と kite から HEAT への置換が起こり、コヒーシンとコンデンシンの共通の祖先が生まれた。
- 次に、2度目の SMC の重複が起こり、コヒーシンとコンデンシンのそれぞれの祖先が生まれた。
- 最後に、コンデンシンの祖先において non-SMC の重複が起こり、コンデンシン I とコンデンシン II が生まれた。
- 真核生物の最後の共通祖先(last eukaryotic common ancestor: LECA)は、コンデンシン I とコンデンシン II の両方を有していたと考えられる。その後の進化の過程で、コンデンシン II 固有の non-SMC サブユニットの一部あるいは全てを失う系統が現れた(サブユニット構成と系統分布の項参照)。
真核細胞の2つのコンデンシン複合体は、どのように使い分けられているのだろうか?上記のように、体細胞分裂に対する2つのコンデンシンの貢献の重みは種によって異なる(体細胞分裂の項参照)。哺乳類では両者が同程度の重みをもっているものの、多くの生物種ではコンデンシン I がより重要な役割を果たしている。そうした種では、コンデンシン II は(体細胞分裂への関与が軽減され)他の様々な染色体機能に関わることが可能になったのではないかと考えられる[94][117]。コンデンシン II の保持とゲノムサイズに見かけ上の相関はないが、ゲノムの巨大化に伴ってコンデンシン II の重要性が増しているようにも見える[14][89]。また、Hi-C 技術を駆使した最新の研究では、コンデンシン II の機能と間期クロマチンの組織化の型(テリトリー型と Rabl 型)の関連が進化の視点から議論されている[151]。一方、初期胚と体細胞の間でもコンデンシン I と II の重みは変化しており、分裂期染色体の形状の違いにも影響を与えている[87]。このように、2つのコンデンシンの発現と機能のバランスは、真核生物の進化や発生の過程において大きく変化するとともに精妙に制御されているらしい。LECA が2つのコンデンシンを有していたことが、その後の染色体構造と機能の進化に大きな可能性と可塑性を生み出したのではないかと推測することができる。
