ティモシー症候群

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ティモシー症候群
Timothy syndrome
概要
分類および外部参照情報

ティモシー症候群[1](ティモシーしょうこうぐん、英語: Timothy syndrome)は、身体の形成異常、神経学的障害、発達障害などを特徴とする常染色体顕性遺伝の遺伝性疾患である。QT延長症候群不整脈、心臓の構造異常、手指や足趾がつながってしまう合指症英語版自閉スペクトラム症などを伴うことがある。ティモシー症候群は電位依存性カルシウムチャネルの一つであるCav1.2の遺伝子変異に関連する疾患群の臨床的表現型の一つである[2]

ティモシー症候群1型の最も顕著な特徴は合指症(1000-3000人に1人[3])とQT延長症候群(先天性は5000-7000人に1人[4])がともにみられることである。他の症状としては徐脈不整脈(94%)や心奇形の一つである動脈管開存症(59%)、自閉スペクトラム症(評価可能なほど長く生存した患者の80%)などがある[5]。鼻が扁平化するといった顔面奇形は約半数に認められる[5]。ティモシー症候群1型の小児はエナメル質の形成に乏しいために歯が小さく[6]虫歯になりやすい[5]。これらの症状により平均寿命が2.5歳とかなり致命的であるが[5]、なかには20代中盤から後半まで生存する例も多数報告されている[7]

ティモシー症候群2型は従来の1型と大部分は同様の症状を示す。2型の1型との違いは合指症が見られないことや関節過可動性のような筋骨格系の異常があること、股関節の形成不全を起こしやすいこと、などがある。ティモシー症候群2型の患者にはの突出といった顔面奇形も認められる[8]

ティモシー症候群の罹患児が出生する際は母体への致命的な苦痛により、帝王切開によって出生することが多い[9][10]

病態生理学

ティモシー症候群は常染色体顕性遺伝形式で遺伝する。

ティモシー症候群には従来の1型と2つ目のタイプである2型という2つの型が存在する。どちらもカルシウムチャネル Cav1.2をコードするCACNA1C遺伝子の変異によって起こる。ティモシー症候群のCACNA1Cにおける変異はチャネルの電位依存的な不活性化による閉鎖を遅らせ、細胞の興奮性を高めることで症状を来す[7]

ティモシー症候群の両タイプはCANA1Cの変異により起こるが、これらの変異は1型ではエクソン8Aの、2型ではエクソン8の変異が原因である。エクソン8とエクソン8Aはどちらかしか存在しえない。エクソン8Aは心臓、脳、消化管、肺、免疫系、平滑筋などに高発現している。エクソン8はこれらの領域に発現しているうえ、その発現量が約4倍もエクソン8Aより高い[7]

ティモシー症候群1型においてはG406R(406番目のグリシンアルギニンへの変異)が発見されている。Cav1.2は6回膜貫通の膜貫通領域が4つ連なった24回膜貫通の単量体一つでイオンチャネルを構成している。各6回膜貫通部分はN末端側からS1~S6と順に名付けられており、G406は最もN末端側の膜貫通領域のS6の細胞内側に存在する。この位置のグリシンは保存されており適切な電位依存的な不活性化に重要であるようである[5]。ティモシー症候群2型の変異も同様で、G406R変異が別のスプライシングの形式のチャネルにおいて起こったものである。2型で発見されている変異にはG406から少しN末端側にある部分のG402S(402番目のグリシンのセリンへの変異)もある[8]。ただし、G402S単独での変異ではティモシー症候群の症状がなく単に不整脈が起きただけの症例もあり、G402S変異のみではティモシー症候群発症には至らないと考えられている[11][12]。G406R変異によるチャネル機能への影響はティモシー症候群の2タイプで同一である[8]。これらの変異により適切な電位依存的な不活性化が欠如すると内向き電流が延長することで心筋における活動電位英語版脱分極が長引き、QT延長症候群や不整脈の原因となる。エクソン8はエクソン8Aよりも心臓でより発現しているため、ティモシー症候群2型の患者は1型の患者よりも心臓への障害が悪化する[7]

患者で発見された変異と同一の変異を持つブタのモデルからカルシウムの過負荷状態が心臓の拍動の伝播を遅くすることによりリエントリー性不整脈の基盤になっているということが明らかになった[13]CaMKIIの自己リン酸化がナトリウム電流を減少させ、これにより伝導を遅くしていると考えられる[13]

ティモシー症候群は常染色体顕性遺伝により遺伝するものの、発症したときの致死率の高さから両親の片方に変異がありそれを受け継いで発症するケースは稀である。そのため、多くのティモシー症候群の患者は出生前に生殖細胞で変異が生じたことによって罹患していると考えられている[7]。このような発症形式はde novo変異(新生変異)と呼ばれる[14]

診断

ティモシー症候群に罹患した2歳半の女児の合指症。手指の環指小指と足趾の第2・3趾に合指症が見られる。

ティモシー症候群の診断はCACNA1Cに変異があれば診断できる、というわけではなく、変異を持っていても発症しない場合がある。その例としてモザイクにより発症しない例がある。CACNA1Cのエクソン8やエクソン8Aに変異があればティモシー症候群1型や2型と診断を下すこともできるが、そうでない場合でも非典型的な変異によるティモシー症候群も確認されているため、臨床医の判断に委ねられる[7]

治療

プロプラノロールを含め交感神経β受容体遮断薬は心臓のリズムを維持するペースメーカーとともに治療として望ましいと考えられている。カルシウム電流に異常をきたす、というティモシー症候群の特徴から、カルシウム拮抗剤が治療薬として想定されるが、L型カルシウムチャネル阻害薬の臨床試験によるとそこまで効果的でないと考えられている[15]

予後

ティモシー症候群と診断された患者の予後は非常に悪い。ある研究で対象となった17人の患児のうち、死亡した10人の平均死亡年齢が2.5歳であった。生存した患者らも3人は自閉症、1人は自閉症スペクトラム障害と診断され、それ以外の患者らも言語発達に重度の遅滞があった[5]

G402S変異のある患者では不整脈を除いてはほぼ正常であったという症例もある[8]。同様に、2人のティモシー症候群患者を子に持つ母にも同じ変異があったが、明らかな表現型の見られない保因者であった。この2つの症例ではモザイクにより疾患の重症度が低かったと考えられる[8][5]

歴史

ティモシー症候群の何例かは1990年代には既に報告されていた。しかし、それがカルシウムチャネルの異常であると関連づけられたのは2004年からで、それ以来、この疾患を初めて特定し、様々な表現型の異常を分析したKatherine W. Timothyにちなんでティモシー症候群と呼ばれるようになった[5][16]

出典

関連項目

外部リンク

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