バイオ炭
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バイオ炭(バイオたん)またはバイオチャー(biochar)は、バイオマスの熱分解後(炭化)に残る、炭素と灰から成る軽量で黒い残渣であり、木炭の一形態である[1]。国際的なバイオ炭イニシアティブによれば、バイオ炭は「酸素制限下のバイオマスの熱化学変換から得られる固体物質」と定義されている[2]。
「バイオ炭」という言葉は20世紀後半の英語の新語であり、ギリシャ語の「βίος」(生命)と「char」(木炭)から派生した。[3] この言葉は、土壌、水域の生息地、および動物の消化系に見られる生物学的なプロセスに関与する木炭という意味合いを持つ。
バイオ炭は酸性土壌の土壌肥沃性を向上させ、土壌養分の利用可能性、土壌通気性、および土壌水の浄化を改善し、人工肥料の使用量を減らし農業生産性を向上させることが期待される[4]。その他バイオ炭には、伐採木材の焼成、貯水、飼料、コンクリート添加剤など、さまざまな利用法がある。
バイオ炭は土壌中で何千年もの間安定である[5]。その高い非分解性は、ピロジェニック・カーボン・キャプチャー・アンド・ストレージ(PyCCS、熱分解由来炭素の捕捉と貯蔵)の概念につながり[6][7]、地球大気中二酸化炭素をバイオ炭の形で炭素隔離することを可能とすることから[5]、地球温暖化を緩和する手段としても期待されている[8][9][10]。
利用法各論
炭素隔離による地球温暖化の緩和
バイオ炭製造プロセスも原料バイオマスの最大50%相当量の二酸化炭素を放出するが、残りの炭素はほぼ無期限に安定する[10]。バイオ炭の炭素は数世紀にわたり土壌に残り、したがってその分大気中への温室効果ガス排出を抑制するのみならず、土壌の水質と肥沃度を改善し農業生産性を向上させ、原生林にかかる環境負荷を軽減する[15]。
バイオ炭は数百年から数千年にわたって炭素を土壌中に固定する。[16][17][18][19][20] このことからバイオ炭を長期的な安定した土壌炭素貯留地として排出二酸化炭素を削減する提案が、2000年代初頭になされた。[21][22][23] この技術は、ジェームズ・ハンセン[24]やジェームズ・ラブロック[25]を含む科学者たちによって提唱されている。2010年の報告書はバイオ炭の持続可能な利用により、世界の二酸化炭素、メタン、および亜酸化窒素(N2O)のネット排出量が年間最大で18億トン二酸化炭素換算量(CO2e)削減される可能性があると推定、食糧安全保障、野生生物生息地、または土壌保全を危険にさらすことなく実現できるとした。[10] ある実験ではわずかなバイオ炭の添加でも、亜酸化窒素の排出を最大80%削減し、メタンの排出はほぼ消失した[26][27]。
気候変動に対する個々人の行動の一つとして、バイオ炭を庭の土壌に添加することで[28]より多くの炭素を吸収固定することができる。[29] 2020年の研究によれば発展途上国でも、家庭用の調理コンロを改良型に置き換えバイオ炭を得ることにより、二酸化炭素排出削減に寄与することができる[30]。
2021年のレビューでは、バイオ炭による年間二酸化炭素削減可能量は16億から32億トンと推定され[31]、その年バイオ炭のコストはヨーロッパの炭素価格の範囲内にあったものの、[32] まだEUまたはイギリスの排出取引制度の対象にはなっていなかった[33]。2023年までにはこれが炭素クレジットにより収益化可能なビジネスになった[34] 。
土壌改良

バイオ炭は劣化した熱帯土壌に対し多くの点で土壌改良する[35]。その多孔質な性質は、水と水溶性養分の両方を保持する。土壌生物学者のエレイン・インガムは、その微生物の生息地としての適性を強調し、有益な微生物で事前に充填されたバイオ炭は良い土壌を作り植物の健康を促進すると指摘した[36]。
研究ではバイオ炭は、用量、原料、熱分解温度、土壌含水量、土壌質感、および表面特性に依存して、砂質土壌を通じた大腸菌の混入を抑制した。[37][38][39] 高いカリウムと高いpHを必要とする植物[40]に対し、バイオ炭は収量を向上させる効果を示した。[41]
バイオ炭は、水質を改善し、土壌からの温室効果ガスの排出・土壌養分の流失・土壌の酸性を減少させ、[42] その結果より少ない灌漑と肥料で作物を収穫せしめる。[43][44] 複数の国で実施されたプロジェクトFERTIPLUSのもとでの堆肥とバイオ炭の応用は、土壌湿度、作物の生産性、品質などを良好に改良した[45]。
植物の収量を著しく向上させるには、1ヘクタールあたり2.5-20トン(1エーカーあたり1.0-8.1トン)のバイオ炭使用が推奨される。しかし発展途上国では農業用バイオ炭の入手可能量はバイオマスの入手可能量と生産時間に制約されるので、妥協案として低コストのバイオ炭肥料複合体に少量のバイオ炭を使用することが提案されている[46]。
バイオ炭は多様な土壌に柔軟に適応して使用することができる[47]。たとえばバイオ炭をコロンビアのサバンナ土壌に使用した実験でも養分流出を減少させ、より多くの養分を作物に供給した[48]。バイオ炭はその多孔質な構造と高い比表面積により、水分や養分を良好に保持する[49]。
土壌汚染軽減に関して10 %のバイオ炭使用で実施された研究では、植物中の汚染物質レベルを最大80 %まで低減し、クロルダンとDDXの含有量はそれぞれ68%と79%低減させた。[50] とはいえこのことはバイオ炭がそれら殺虫剤農薬の有効性を低下させうることを意味する。[51][52]
時にはバイオ炭は植物の葉の真菌病に対する系統的な応答をも引き起こし、土壌伝染性病原体に対する植物の耐性を向上させる[53][54][55]。西ヨーロッパの土壌では土壌の肥沃性の増加のみならず病気への抵抗力の向上に効果が現れている[45]。
バイオ炭や土壌の組み合わせによっては有害な作用を及ぼす場合もあり、どのように使っても有用なものではない[44]。バイオ炭の効能は、土壌の種類や健康状態(劣化または健全)、気温、湿度などに依存し、[56] バイオ炭の特性[57]と用量[55]に依存することはわかっているものの、そのメカニズムはよく解明されていない。[58]
スラッシュアンドチャー農法
アマゾン盆地でのスラッシュアンドバーンからスラッシュアンドチャーの農法への切り替えは、森林伐採と二酸化炭素排出の両方を減少させ、作物の収量を増加させうる。スラッシュアンドバーンとスラッシュアンドチャーはともに焼畑農業と訳されるが異なるもので、前者では切り払った(スラッシュ)植生を完全に焼き払って(バーン)灰にしてしまうが(すなわち焼却)、後者では焼き払う代わりに土で覆ったり炭焼き炉を使用したりしてバイオ炭(チャー)とし(すなわち炭化、「製造」の項を参照)土壌に漉き込む。
この違いにより、前者スラッシュアンドバーンは土壌の有機物炭素のわずか3 %[59]しか残さず大量の二酸化炭素排出を伴い地球温暖化の一因であることに加え、その土壌は当初は灰による養分供給があるものの速やかにその養分は流出し、その農地はやがて放棄され農民が別の土地で再びスラッシュアンドバーンを繰り返すので著しい環境破壊につながる。
それに対し後者スラッシュアンドチャーは最高50%[60]の炭素を残し土壌に還元固定することで土壌の耕運性、肥沃性、生産性を向上させ、必要な肥料量を減らし、それにより肥料の生産と輸送からのコストと排出をも削減する[61]ことで温暖化の抑制につながる上、バイオ炭の安定性により土壌の生産性をほぼ無期限に維持しうるので別の土地でこれを繰り返す必要がなく、環境破壊はスラッシュアンドバーンより遥かに少ない。
飼料
バイオ炭は何世紀にもわたり、家畜の飼料にも使用されている。[62][63][64] 西オーストラリアの農夫であるダグ・パウは、バイオ炭を廃糖蜜と混ぜて飼料として使用することを試みた。彼は反芻動物(牛など)ではバイオ炭が消化を助け、動物げっぷ中のメタンの発生を減少させることができると主張した。現地での証拠によれば、この飼料はアンガスクロス牛の体重増加を改善した。[65] さらに、そのバイオ炭が混ざった動物のフンを土壌に埋め込むことを機械でなくフンコガネにさせた。そのフン中の窒素と炭素は土壌表面ではなく土壌中に組み込まれ、これにより亜酸化窒素と二酸化炭素の発生量が減少し、土壌の肥沃性を向上させた。彼はこの取り組みにより2019年の西オーストラリアランドケアアワードで、オーストラリア政府の農業土地管理イノベーション賞を受賞した。[66][65] 彼に続き2つの試験が乳牛に関しても行われ、乳量が増加し臭いが減少したという結果をもたらした。[67]
コンクリート添加剤
コンクリートミックスの重要な構成要素である普通のポートランドセメント(OPC)は、生産に多くのエネルギーすなわち二酸化炭素排出を必要とし、セメント生産は世界の二酸化炭素排出の約8 %を占める。補助セメント材料(SCM)はコンクリートの特性を維持または向上させつつOPC使用量を減らすための添加剤である。バイオ炭は効果的なSCMであり、したがってセメント生産に伴う二酸化炭素排出量を減少させる。研究によればバイオ炭を1-2 %重量濃度とすることが、コストと強度の観点から見て最適であった。[68] 3点曲げ試験を行った結果、通常のOPCコンクリートと比較し2 %のバイオ炭含有量のコンクリートは7日後の曲げ強さが15 %向上した。[69] バイオ炭コンクリートは高温耐性と透水性の低減にも有望な結果であった。[70] バイオ炭コンクリートのライフサイクルアセスメントによると、バイオ炭濃度が高いほどOPCの削減と相関し生産時の二酸化炭素排出が減少する。[71] さらに他の産業廃棄物由来SCM(フライアッシュやシリカフュームなど)と比較し、バイオ炭は毒性が少ない。
再生可能燃料
水や有機液体(バイオエタノールなど)などの液体媒体と混合されたバイオ炭は、バイオ炭ベースのスラリーとして知られる新タイプの燃料となる。[72] 大規模なバイオマスのフィールドや設備での遅い熱分解の適用により、独自の特性を持つバイオ炭スラリーが製造され、これらはバイオマスが豊富でディーゼル発電機に大きく依存している地域にとって有望な燃料となっている。[73] この燃料は石炭スラリーに似ているが再生不能な化石燃料の石炭とは全く異なり、再生可能な燃料資源である。
プラスチック汚染対策
プラスチック廃棄物またはリサイクル品をバイオマスと混成して熱分解することで、バイオ炭の利点を有する「人工バイオ炭」を作り出し、プラスチック汚染問題の解決をも目指す研究が数多く行われている。[74][75][76]
製造
バイオ炭は、酸素の存在しない(すなわち燃焼させない)条件下でバイオマス熱分解によって生産される高炭素で微細な残渣であり、このプロセスにより、固体物質(適切なバイオ炭)、液体(熱分解オイル)、およびガス(合成ガス)の混合物が生成する。バイオ炭製造に使用される一般的な作物には、さまざまな樹木種とエネルギー作物がある。これらのエネルギー作物(たとえば、ナピアグラスなど)には、短時間で樹木よりも重量当たりより多くの炭素を蓄積できるものがある。[77]
バイオ炭製造専用でない作物からのバイオ炭の収量を示す値として、バイオ炭製造に使用したその作物のバイオマス残渣からバイオ炭製品への比率(Residue-to-Product Ratio、RPR)および残渣の未利用部分の収集率(Collection Factor、CF)が使われる。たとえばブラジルではサトウキビを年間約460百万トン収穫し[78]、その茎のRPRが0.30で、通常は畑で焼却される残渣のCFが0.70である。[79] これにより、バイオ炭やバイオエネルギーを得ることができる残渣は年間約100百万トンと見積もられる。さらにバガス(通常ボイラーで非効率的に燃焼されているサトウキビの廃棄物、RPR=0.29 CF=1.0)も追加すると、使用可能な原料は合計230百万トンとなる。ただし一部の残渣は土壌に残し、肥料コストとその肥料製造に係る温暖化ガス排出を防ぐ必要がある。[80]
アマゾンの穴・溝法[12]は熱分解オイルや合成ガスを収穫せず、その原料のバイオマスが木などとして生存成長中に捕捉した量よりは少ないものの、二酸化炭素および他の温室効果ガスやいくらかの有害物を空気中に排出する。商業規模のシステムは、農業廃棄物や製紙の副産物、一般ゴミさえも処理し、液体とガスの生成物を捕捉することで有害物質を排除する。[81][82] 2018年X Prize Foundationを受賞した大気中水捕捉装置は、発生させたガスを乾燥する段階で飲用可の水を得るものであるが、バイオ炭製造を優先目的としたものではない。[83][84]

途上国の小規模農家では、作物くず(例:トウモロコシの茎、稲わら、または小麦わら)を積み上げその上部を点火し、灰を土や水でかけてバイオ炭を作る。この方法は、特別な装置を必要とせず簡便で、作物くずを燃やすよりも大幅に少量の煙しか排出せず、「トップダウンバーン」または「コンサベーションバーン」として知られている。[86][87][88]
アメリカではバイオ炭のほとんどをガス化装置で製造している。[89] ガス化プロセスは、酸化、乾燥、熱分解、および還元という四つの主要な段階から成り立っている。[90] ガス化プロセスにおける熱分解中の温度は、250–550 ℃、還元段階は600–800℃、燃焼段階は800–1000℃である。[91]
熱分解からの収量は、熱分解の温度、時間、および加熱速度などの条件による。[92] これらのパラメータは、バイオ炭またはエネルギー源(熱分解オイル、合成ガス)のどちらの生産を優先するかで調整できる。[93] 400–500℃では、より多くのバイオ炭が生成するが、700℃以上の温度では、液体およびガス燃料成分の収量が増加する。[94] 熱分解は通常秒単位で進行するため、高温での熱分解はより迅速である。したがって加熱速度の増加は、温度が350–600℃の範囲にあると、バイオ炭の収量を減少させる。[95] 通常の収量は、バイオオイルが60%、バイオ炭が20%、合成ガスが20%であるが、熱分解をゆっくり進行させることでバイオ炭収量を約35%に増加できる。[94]
熱分解はいったん始動すると正のエネルギーを生み出す。高速熱分解装置を運転するために必要なエネルギーは、典型的には出力されるエネルギーの約15%である。[96] 熱分解プラントでは得られる合成ガスを使用して、運転に必要なエネルギーの3-9倍のエネルギーを生み出すことができる。[12]
熱分解以外にも、半炭化と水熱炭化もバイオマスに適用できるが、これらの生成物は厳密にはバイオ炭とは定義されない。半炭化プロセスから得られる生成物には揮発性有機成分が含まれており、その性質は原料のバイオマスとバイオ炭の中間である。[97] 水熱炭化も炭素豊富ではあるが、熱分解プロセスによるものとは明らかに異なる性質の生成物を与える。[98] そのため、水熱炭化から得られる生成物は「ハイドロ炭[99]」と呼びバイオ炭から区別する。
熱触媒脱重合分解はマイクロ波(電子レンジと同じ加熱原理)を利用して有機物をバイオ炭に効率的に変換する方法で、産業規模で使用されており約50 %のバイオ炭が生産されている。[100][101]
製造プロセスと産物の特性の関係
バイオ炭の物理的および化学的特性は、原料および技術によって決定される重要な要素であり、特定の用途での性能を示す指標である。国際バイオ炭イニシアティブが発表したガイドラインは標準的な評価方法を揚げている。[2] 元素組成、pH値、多孔性などである。元素組成比(水素、炭素、酸素)は、極性や芳香族性など含有する有機化学構造と相関する。[102] バン・クレヴェレン図は、バイオ炭の製造プロセスでの元素組成比の変化を示す。[103] バイオ炭製造プロセスでは、水素と酸素の放出とそれに伴う炭素含量の増大により、水素/炭素および酸素/炭素の元素組成比が減少する。[104]
製造温度は得られるバイオ炭の特性、特に分子炭素構造に影響する。450–550℃の初期熱分解では非晶質の炭素構造が残るが、温度がこの範囲を超えると、非晶質の炭素が段階的に乱層構造の、芳香族性の高いシート状グラフェン炭素に変換する。したがって得られるバイオ炭の導電性と[105][106][107]炭素原子の芳香族度と固有の耐性が製造温度とともに増加する。[108] 後者の性質は大気中の炭素捕捉・固定の目的にとって重要である。
中央集約型、分散型、および移動型装置
中央集約型システムでは、バイオマスはセントラルプラント[109]に運ばれてバイオ炭に加工されるが、分散型システムとして各農家または農家グループが窯を運転することもできる。移動型システムとしては装置を備えた車両がバイオマスのある農場に移動し現地で炭化する。その車両の動力は処理されるバイオマスからの合成ガスで供給され、産物のバイオ炭は農場に残し、バイオ燃料(熱分解オイル)は製油所または貯蔵施設に送られる。これらシステムのどれが使われるかは、輸送コスト、処理されるバイオマスの量、電力グリッドへの電力供給能力などによる。
北米、オーストラリア、およびイギリスのさまざまな企業が、バイオ炭またはその製造ユニットを販売している。スウェーデンでは、「ストックホルム・ソリューション」と呼ばれる都市の樹木植樹システムがあり、これは都市の森林の成長を支えるために30 %のバイオ炭を使用している。[110] 2009年の国際バイオ炭コンファレンスでは、農業用途向けに1000ポンド(450 kg)の製造能力を持つ移動型バイオ炭製造装置が展示された。[111]
研究

バイオ炭に関する研究は2009年頃から盛んになった[112]。ISI Web of Scienceにインデックスされたトピックで"biochar"または"bio-char"という言葉が含まれる論文数は2005-2012年の間は1,038、続く2013-2023年の間は34,528にのぼる[113]。コーネル大学、エジンバラ大学(専門の研究ユニットを有する)[114]、ジョージア大学,[115][116]、イスラエルの農業研究機構(ARO)、ヴォルカニセンター[117]、スウェーデン農科大学[118]、デラウェア大学などで研究が進められている。一部の地域では、市民の興味とバイオ炭への支持が政府のバイオ炭の利用に関する研究を促進している。[119][120]
バイオ炭は数年から数千年にわたる長い土壌中滞在時間により土壌中に炭素を固定する。さらにバイオ炭は、作物収量を増加させることでも間接的に炭素固定を促進し、潜在的には炭素の鉱化(炭素が石灰石として取り込まれることなど[121])を減少させることがある。実験室での研究ではδ13Cの同位体炭素組成を測定することで、バイオ炭が炭素の鉱化に及ぼす影響を明らかにしている。[122]
ベルギーの耕作地から得られた土壌を用いた研究では、1870年以前の木炭製造の窯から得られた木炭が豊富な黒い斑点がある地域でのバイオ炭の長期的な効果が調査され、これらの「黒い斑点」の表土はその外側の隣接する土壌よりも土壌有機炭素濃度が高かった(黒い斑点の表土3.6 ± 0.9%、隣接土壌2.1 ± 0.2%)。これらの土壌では少なくとも12年間トウモロコシが栽培されていたため、おそらくトウモロコシによる土壌への炭素連続供給があったとされる。δ13Cの同位体炭素組成を調べると、「黒い斑点」では13.1‰に対し、隣接土壌で27.4 ‰および周辺地域で収集された木炭で25.7‰と明らかに異なる同位体組成を示し、トウモロコシ由来の炭素濃度が「黒い斑点」で有意に高かったことを示している(0.44% vs. 0.31%; p = 0.02)。「黒い斑点」表土壌とこれらの斑点の隣接土壌が収集され土壌呼吸および物理的な土壌分別が行われた。総土壌呼吸(130日間)は木炭に影響されなかったが、土壌中の木炭が増加するにつれて、土壌中のトウモロコシ有機炭素量あたりのトウモロコシ由来の炭素呼吸は約半分に減少した(p < 0.02)。全体としてこの研究は、土壌バイオ炭が炭素の環境中の移動を減少させその炭素を土壌中に固定する能力を示している。[123]
土壌の溶解有機物の蛍光分析によれば、バイオ炭添加によりバイオ炭炭素起源と考えられる(Humic substance)蛍光成分が増加した。分光学的顕微鏡法により、芳香族炭素がバイオ炭の原料残渣またはバイオ炭の添加土壌中の微粒子中に蓄積し、それが粘土性鉱物と共在している構造が明らかにされた。それに対し芳香族炭素と多糖類炭素の共在はバイオ炭土壌では一貫して減少したことから、土壌炭素の安定化において減少した炭素代謝が重要なメカニズムである可能性が示唆された。[124]
半乾燥地域や劣化した生態系の粗い土壌に対するバイオ炭の潜在的な可能性に関して、研究と実地調査が行われている。ナミビアではバイオ炭が気候変動への適応策として探索されており、地元の豊富な侵食性バイオマスからのバイオ炭の地元生産と応用を通じて、地域コミュニティの干ばつへの強化された耐性と食料安全保障を図る取り組みが行われている。[125]
さらにバイオ炭は、製薬、パーソナルケア用品[126]、および下水処理のフィルタリング媒体としてペルフルオロアルキル物質[127][128][129]などの除去などに関しても応用が試みられている。