バリー・ロペス
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バリー・ロペス | |
|---|---|
| Barry Holstun Lopez | |
| 生誕 | 1945年1月6日(81歳) |
| 死没 |
2020年12月25日(75歳没) |
| 国籍 |
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| 職業 | 随筆家・小説家・ネイチャーライティング作家 |
| 活動期間 | 1966年 – 2020年 |
| 配偶者 |
サンドラ・ランダーズ(1967年–1998年離婚) デブラ・グワートニー(2007年–) |
| 受賞 | 全米図書賞(1986年) |
バリー・ホルスタン・ロペス(Barry Holstun Lopez、1945年1月6日 - 2020年12月25日)は、アメリカの随筆家・ネイチャーライティング作家・短編小説家である。自然と人間との関係性を倫理的・精神的な次元で探求した文章で知られ、アメリカの環境文学における最重要人物の一人と広くみなされている。
代表作『Arctic Dreams: Imagination and Desire in a Northern Landscape』(1986年)で全米図書賞を受賞した。作家のロバート・マクファーレンはガーディアン紙でロペスを「現存する最も重要な荒野の書き手」と評した[1]。
生涯を通じて80か国以上を旅し、北極圏、南極大陸、熱帯雨林など地球上の最も辺境の地を探索した。自然科学・先住民族の知・哲学・文学を融合した独自のスタイルで、人間と自然界の「尊厳ある関係」を問い続けた。2020年12月25日、転移性前立腺がんにより75歳で没した。
幼少期・青年期
ロペスは1945年1月6日、ニューヨーク州ポートチェスターに、バリー・ホルスタン・ブレナンとして生まれた[2]。幼少期をカリフォルニア州南部の農業地帯(サンフェルナンド・バレー周辺)で過ごし、その後ニューヨーク市のアッパー・イースト・サイドに移った。両親は1950年に離婚し、母はエイドリアン・バーナード・ロペスと再婚。エイドリアンはバリーと弟を養子に迎えたため、「ロペス」という姓を得た[3]。
幼少期に、母の知人である小児性犯罪者ハリー・シャイアーから4年以上にわたり性的虐待を受けた。この体験は長年秘匿されたが、2013年に『ハーパーズ・マガジン』誌への寄稿エッセイで初めて公に告白した[4]。
ニューヨーク市のイエズス会系ロヨラ・スクールを1962年に卒業した後、ノートルダム大学へ進学し、コミュニケーションアーツの学士号(1966年)を取得した。さらにオレゴン大学大学院で創作とジャーナリズムを学んだが、学位取得の前に退学し、1970年にオレゴン州カスケード山脈西麓のマッケンジー川上流沿いに居を定め、専業作家としての生活を始めた[5]。
作家としての活動
エッセイや短編小説を1966年頃から発表し始め、1978年の『Of Wolves and Men』(オオカミと人間)で注目を集めた。同書は全米図書賞最終候補となり、ジョン・バロウズ・メダルとクリストファー・メダルを受賞した[6]。
その後、5年以上にわたって北極圏を旅し、その経験を結晶化させた『Arctic Dreams: Imagination and Desire in a Northern Landscape』(1986年)を刊行。同書は全米図書賞(ノンフィクション部門)を受賞し、ロペスの名を国際的に確立させた[7]。
キャリアを通じて、『ハーパーズ・マガジン』の寄稿編集者を長年務め、『ナショナル ジオグラフィック』『パリ・レビュー』『Orion』などの雑誌にも寄稿した。またコロンビア大学、アイオワ大学、カールトン・カレッジなどで教鞭を執った[8]。
2001年、テキサス工科大学がロペスの原稿・日記・フィールドノート・書簡などのアーカイブを取得し、「ジェームズ・E・ソウェル家族コレクション」を設立。ロペスは2003年から死去するまで同大学の初代招聘特別研究員を務めた[9]。
晩年
2013年に転移性前立腺がんと診断された。この体験によって他者への深い共感が育まれたとロペス自身が述べている[10]。2019年、30年をかけて書き上げた回想録的大作『Horizon』を刊行した。
2020年9月、マッケンジー川上流の自宅周辺で「ホリデー・ファーム火災」が発生し、50年以上にわたって書き続けた個人日記を含む未公開アーカイブの大部分が焼失した[11]。2020年12月25日、オレゴン州ユージーンにて永眠。享年75歳。
学術的業績
ロペスは、いわゆる「ネイチャーライティング(自然文学)」の枠を超え、人間生態学・人類学・先住民族の知・倫理学・哲学を融合した独自の批評的散文を確立した。自然科学の厳密さと精神的・詩的洞察を組み合わせる手法で、アメリカの環境文学に新たな可能性を切り開いた[12]。
『Of Wolves and Men』では、西洋科学・先住民族の神話・歴史・民俗学の視点を統合して、オオカミと人間の複雑な関係性を描いた。この手法はその後の自然文学に大きな影響を与え、「新しいナチュラリズム」と呼ばれる潮流の先駆とされる[13]。
『Arctic Dreams』においては、ミチコ・カクタニ(ニューヨーク・タイムズ)が「北極について書かれた本であることは、『白鯨』がクジラについての小説であることと同様だ」と評したように、北極の地理・生態・先住民文化・探検史を壮大なスケールで描き出した[14]。
先住民族の知識体系と西洋的な自然観の橋渡しを試みたことも重要な貢献である。ロペスはカトリックの信仰を持ちながら、先住民族の宇宙観・倫理観に深く共鳴し、「土地との尊厳ある関係」という概念を生涯にわたって追求した[15]。
主な著作
ノンフィクション
- Desert Notes: Reflections in the Eye of a Raven(1976年、Sheed, Andrews & McMeel)
- Giving Birth to Thunder, Sleeping with His Daughter: Coyote Builds North America(1977年、Sheed Andrews and McMeel)――北米先住民の「コヨーテ」伝説を収録
- Of Wolves and Men(1978年、Scribner)――全米図書賞最終候補、ジョン・バロウズ・メダル、クリストファー・メダル受賞
- Arctic Dreams: Imagination and Desire in a Northern Landscape(1986年、Scribner)――全米図書賞受賞
- Crossing Open Ground(1988年、Vintage Books)――エッセイ集
- The Rediscovery of North America(1992年、Vintage Books)
- About This Life: Journeys on the Threshold of Memory(1998年、Random House)――エッセイ集
- Apologia(1998年、University of Georgia Press)
- Home Ground: Language for an American Landscape(2006年、Trinity University Press)――デブラ・グワートニーとの共編
- Horizon(2019年、Penguin Random House)――回想録的大作
- Embrace Fearlessly the Burning World(2022年、Random House)――死後刊行のエッセイ集
フィクション
- River Notes: The Dance of Herons(1979年、Andrews and McMeel)
- Winter Count(1981年、Scribner)
- Crow and Weasel(1990年、North Point Press)――ヤングアダルト向け寓話
- Field Notes: The Grace Note of the Canyon Wren(1994年)
- Resistance(2004年)
- Light Action in the Caribbean(2000年、Knopf)
- Outside(2014年)
受賞・栄誉
- 全米図書賞(ノンフィクション部門)、1986年――『Arctic Dreams』
- 全米図書賞最終候補、1978年――『Of Wolves and Men』
- 全米図書批評家協会賞最終候補、1986年
- ジョン・バロウズ・メダル――『Of Wolves and Men』
- クリストファー・メダル――『Of Wolves and Men』
- グッゲンハイム・フェロー
- ランナン財団フェローシップ
- マクドウェル・フェローシップ
- 全米科学財団フェローシップ
- プッシュカート賞(フィクション・ノンフィクション両部門)
- デポール大学聖フランシスコ・アシジ賞
- Image誌デニス・レバートフ賞
- ジョン・ヘイ・メダル
- アメリカ芸術アカデミー文学賞(2020年)
- サンバレー・ライターズ・カンファレンス「世界の作家賞」初代受賞(2020年)
- エクスプローラーズ・クラブフェロー(2002年)[16]
思想・考え方
ロペスは、「人間と土地の尊厳ある関係」の回復をめざす。彼は自然を客体として操作・消費する西洋的な態度を批判し、土地・動物・人間が共に構成する「共同体」の倫理を問い続けた。「自然文学(ネイチャーライティング)の本当のテーマは自然ではなく、自然を失いつつあるコミュニティの崩壊である」と述べ、自然についての文章が実は政治的・倫理的・社会的な問いを内包すると主張した[17]。
先住民族の知識体系への深い敬意もロペスの思想の柱である。彼は「先住民は物理的世界のニュアンスにずっと注意深く、見るものをより多く見る。ある場所との歴史は時間の奥行きを風景に与える。そして土地と同じ倫理的宇宙に生きている」と語り、この三つの資質を「孤独に対する人間の根本的な防御」と表現した[18]。
物語(ストーリー)の力についても独自の思想を持った。「物語は土地から生まれ、人間の心に秩序をもたらす。土地が癒すのと同じように、物語もあなたを癒す」と述べ、語ることの行為を共同体の維持と精神的健康に不可欠なものと位置付けた[19]。
カトリック信仰の影響も作品全体に通底している。イエズス会教育を通じて培われた「比喩で思考する能力」、「共感と慈悲」「正しく生きる意志」がロペスの倫理的態度の根底にあると彼自身が語っている。ただし彼は「カトリック作家(大文字のC)になろうとしたことは一度もない」とも述べ、特定の宗派より広い精神性を志向した[20]。