バーティル・リントナー
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バーティル・リントナー | |
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| 生誕 |
1953年 |
| 市民権 |
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| 職業 | ジャーナリスト・作家 |
| 著名な実績 | ミャンマー政治問題の専門家として |
| 配偶者 | Hseng Noung |
| 公式サイト | Asia Pacific Media Services |
バーティル・リントナー (Bertil Lintner、1953年 - )は、スウェーデン出身のジャーナリスト、作家、戦略コンサルタント。アジアの政治、犯罪、安全保障問題の専門家であり、特にミャンマー(ビルマ)に関する報道で国際的に高い評価を受けている。
長年にわたりタイのチェンマイを拠点に活動し、かつては『ファー・イースタン・エコノミック・レビュー』のミャンマー特派員、スウェーデンの日刊紙『スヴェンスカ・ダーグブラーデット』およびデンマークの『ポリティカン』のアジア特派員を勤めた。現在は『アジア・タイムズ』の特派員および「アジア・パシフィック・メディア・サービス」の共同代表を務める[1]。
1953年にスウェーデンで生まれたが、国籍はスウェーデンではない。父親はオーストリア人で、祖父とともにナチスの強制収容所に入れられた経験を持つ。その後、父親はスウェーデンに逃れ、リントナーが生まれて6ヶ月に家族で一時南米に移住した。幼い頃から、ナチスへの抵抗運動や、収容所で亡くなった家族の友人の話などを聞いて育ち、自由と正義、独裁政権に反対する強い意志を育くんだと自ら語っている[2]。
1975年、22歳の時にスウェーデンを離れ、ジャーナリストと作家を志しながら、中東、インド亜大陸、東南アジア、香港、日本、オーストラリア、ニュージーランドまで陸路で旅する。1977年と1979年にミャンマーを訪れ、その際、若いミャンマー人男性から軍事独裁、少数民族や民主化活動家に対する弾圧の話を聞いてミャンマーに魅せられ、当時誰も書いていなかったミャンマーを専門とすることを決意する[2][3][4]。
1979年12月はからタイ北部のチェンマイに定住し、ミャンマーの少数民族武装勢力と接触を始める。1980年12月、タイ側から国境を越え、ミャンマーの政府非支配地域へ入り始めたが、ミャンマー軍(国軍)に動きを察知され、1981年に観光客としてミャンマーを訪れた際は軍情報局の尾行がついた。1981年から2012年までリントナーはミャンマーへの入国を禁止された[2][4]。
1981年、当時シャン州軍(SSA)の暗号係だったシャン系ミャンマー人のセンノウン(Hseng Noung、シャン語とミャンマー語に堪能)と出会い、1983年2月、結婚した。その後、彼女は写真家となり、リントナーの仕事を支えた[5]。
1985年から1987年にかけて、彼を一躍有名にした「18ヶ月の旅」を敢行。インド北東部ナガランド州からビルマ北部の反政府勢力支配地域を徒歩とボートで横断し、中国国境に至る2,275kmを踏破した。この旅には妻のセンノウンも同行し、旅の途中で娘が生まれた。この過酷な旅の記録は、後に著書『Land of Jade』(1989年)として出版され、ミャンマー内戦の実態を世界に知らしめた[2]。
1989年には秘密裏に2度ミャンマーを訪問し、アウンサンスーチーおよび国民民主連盟(NLD)の選挙戦を取材した。しかし、その後、協力者が何人か逮捕されたので、以後、安全が確保されるまで二度とミャンマーを訪問しないと決意。次にリントナーがミャンマーを訪れることができたのは2012年だったが、2021年ミャンマークーデター後、再び入国禁止となった[4]。
活動と専門分野
ミャンマーの内政と軍政分析
ミャンマー軍政に対しては一貫して批判的であり、2011~2015年のテインセイン政権に対しても見せかけだと批判していた[6]。この点、軍政に対して一定の評価をする、同じくミャンマー研究の第一人者・ロバート・テイラーとは対照的で、リントナーはテイラーのネ・ウィンの評伝『General Ne Win: A Political Biography』を「西洋の学者が書いた冷酷な独裁者の最も媚びへつらう描写の一つとして、文学史に刻まれるに違いない」と辛辣に批判している[7]。
一方、国軍の能力に対しては一定の評価をしており、『Land of Jade』で次のように語っている[8]。
私は国軍の戦闘能力に相当な敬意を抱いていた。たしかに、辺境地帯の民間人に対するその扱いは容赦なく、政治的にも軍事的にも極めて逆効果な政策であった。また、医療支援の不足と不十分な兵站のために、極めて多くの犠牲者を出していた。しかし、それでも依然として効果的で経験豊富な軍事組織であり、東南アジア地域ではおそらく他に類を見ない勇気と忍耐力を備えており、ベトナムの歴戦の軍隊に匹敵するほどであった。 — バーティル・リントナー
少数民族武装勢力(EAO)と国境地帯の歴史
ミャンマーの少数民族武装勢力についての造詣が深い。1985年から1987年にかけての長期旅行中、カチン独立機構/軍(KIO/A)とビルマ共産党(CPB)の根拠地を訪れた経験は、のちに『The Rise and Fall of the Communist Party of Burma (CPB)』と『The Kachin: Lords of Burma's Northern Frontier』に結実した。『Burma in Revolt: Opium and Insurgency since 1948』はその集大成である[9]。
内戦の帰趨には悲観的で、反乱軍の目標はバラバラで、統一的な司令部もなく、連携も取れておらず、勝利の見込みは薄いと主張している。また、少数民族武装勢力や民主派が掲げる「連邦制」にも懐疑的である[9]。
彼らの唯一の共通目標は軍事政権を打倒することだ。しかし、もしそれが成功したらどうなるだろうか?大混乱になるだろう。 — バーティル・リントナー
また、1989年と2012年の2回、スーチーと面会しているが、「2012年、私は彼女がまったく別人であることに気づきました。よそよそしく冷たく、ビルマの民族問題に対する理解がほとんど、あるいはまったくありませんでした」と失望を表明している[9]。
中国のミャンマーへの関与
中国は、ミャンマーをインド洋への出口として地政学的に重要視しており、そのために、ミャンマーの内政・内戦の大きな影響力を及ぼしているというのが持論である。また、中国は歴代の軍政・国軍と関係を維持しつつ、CPBやワ州連合軍(UWSA)に兵器を供給し続けていることから、中国がミャンマーに求めているのは「コントロール可能な不安定( instability which they control)」と主張している[10]。
中国は安定を重視し、混乱を嫌うとよく言われます。確かに彼らは混乱を望んでいないかもしれませんが、ある程度の不安定さ、そして彼らがコントロールする不安定さは、彼らの長期的な利益、つまりミャンマーの政治において主要な支配的プレーヤーとなることに繋がるのです。 — バーティル・リントナー
アジアの国際組織犯罪と「シャドー・エコノミー」
「黄金の三角地帯(ゴールデン・トライアングル)」における麻薬生産・密造、マネーロンダリング、人間の移動などを長年調査している。著書『Blood Brothers』(2002年)では、アジアの三合会(Triads)などの犯罪組織が、いかに政治家やビジネス界と癒着(クローニー資本主義)し、地域の不安定化を招いているかを暴露した。近年ではマカオの犯罪組織とミャンマー軍政の関与についても注視している[11][12]。
インド洋・アジア太平洋の地政学的競争
ミャンマーを、中国とインド、そして米国による戦略的競争の接点として捉えている。中国の「真珠の首飾り」戦略やインド洋への進出、それに対するインドの対抗策、米国の「インド太平洋戦略」が地域情勢に与える影響を論じている。近著『The Costliest Pearl』(2019年)では、この地政学的なパワーバランスの変化を詳述している[13]。
職歴・所属
出典[3]
- 『ファー・イースタン・エコノミック・レビュー』(香港):ビルマ特派員(1982年-2004年)
- 『スヴェンスカ・ダグブラーデット』(スウェーデン):東アジア特派員(1995年-2014年)
- 『ポリティケン』(デンマーク):東南アジア特派員(1995年-2003年)
- 『アジア・パシフィック・メディア・サービス』(香港):東南アジア特派員(2004年-現在)
- 『ジェーンズ・インフォメーション・グループ』(アメリカ):シニア・アナリスト(2004年-)
- タイ外国人記者クラブ(FCCT):会長(1993年1月 - 1995年1月)
その他、『ウォール・ストリート・ジャーナル』、『ワシントン・ポスト』、『ニューヨーク・タイムズ』、『エーヤワディー』、日本の『AERA』、『SAPIO』など、世界30カ国以上のメディアに寄稿。
受賞歴
- 2004年:アジア出版協会(SOPA)賞(北朝鮮に関する報道に対して)
- 2014年:アジア出版協会(SOPA)賞(ミャンマーの宗教対立に関する報道に対して)
- ジョン・D・アンド・キャサリン・T・マッカーサー財団より3度の執筆助成金を受領[14]。
主な著作
※2026年3月の時点で邦訳はない。
- Outrage: Burma's Struggle for Democracy
- 出版: 1989年(Review Publishing / White Lotus)
- 内容: 1988年のビルマ民主化運動(8888民主化運動)を詳細に記録した記念碑的作品。
- Land of Jade: A Journey from India through Northern Burma to China
- 出版: 1989年(Kiscadale / Orchid Press)
- 内容: 1985年から1987年にかけて、妻と娘と共にインドからビルマ北部を経て中国へ歩いた18ヶ月、2,275kmの旅の記録。
- The Rise and Fall of the Communist Party of Burma (CPB)
- 出版: 1990年(Cornell University Southeast Asia Program)
- 内容: ビルマ共産党(CPB)の起源から崩壊までの歴史を分析。
- Burma in Revolt: Opium and Insurgency since 1948
- 出版: 1994年(Westview Press / Silkworm Books)
- 内容: ビルマ独立以来続く、麻薬取引と武装勢力の反乱の構造的な関係を詳述。
- The Kachin: Lords of Burma's Northern Frontier
- 出版: 1997年(Teak House Books)
- 内容: カチン族の歴史、文化、およびビルマ北部国境地帯における政治的役割。
- Blood Brothers: Crime, Business and Politics in Asia
- 出版: 2002年(Allen & Unwin, Sydney)
- 内容: アジアにおける組織犯罪、ビジネス、政治の癒着を追及した調査報道。2003年に Palgrave Macmillan から『Blood Brothers: The Criminal Underworld of Asia』として再刊。
- Great Leader, Dear Leader: Demystifying North Korea Under The Kim Clan
- 出版: 2005年
- 内容: 金一族による統治の実態と、ミャンマーとの軍事協力ネットワークを分析。
- Merchants of Madness: The Methamphetamine Explosion in the Golden Triangle
- Aung San Suu Kyi and Burma's Struggle for Democracy
- 出版: 2011年(Silkworm Books)
- 内容: アウンサンスーチーの半生と民主化への闘い。
- World.Wide.Web: Chinese Migration in the 21st Century — and How It will Change the World
- 出版: 2011年(Orchid Press)
- 内容: 21世紀における中国人のグローバルな移住パターンとその地政学的影響。
- Great Game East: India, China and the Struggle for Asia's Most Volatile Frontier
- 出版: 2012年(Harper Collins / Yale University Press)
- 内容: インド北東部を舞台にしたインドと中国の戦略的競争。
- China's India War: Collision Course on the Roof of the World
- 出版: 2018年(Oxford University Press)
- 内容: 1962年の中印国境紛争の再検証と現代的な意味合い。
- The Costliest Pearl: China's Struggle for India's Ocean
- 出版: 2019年(Hurst & Company)
- 内容: 現代の「真珠の首飾り」戦略など、インド洋における中国の覇権争い。
- The Wa of Myanmar and China's Quest for Global Dominance
- 出版: 2021年(Hurst)
- 内容: ミャンマー最大の武装組織・ワ州連合軍(UWSA)と中国の関係、および中国のグローバル戦略への影響。
- The Golden Land Ablaze: Coups, Insurgents and the State in Myanmar
- 出版: 2024年(Hurst)
- 内容: 2021年ミャンマークーデター以後のミャンマーの混迷と内戦の現状を分析。
- The End of the Chinese Century?: How Xi Jinping Lost the Belt and Road Initiative
- 出版:2024年(HarperCollins)
- 内容:中国の一帯一路構想がなぜ行き詰まったのかを分析したノンフィクション。
- Young Tigers: Chao Tzang Yawnghwe and the Shan Rebellion in Myanmar
- 出版: 2025年 (Silkworm Books)
- 内容: シャン州軍(SSA)の指導者サオ・ツァン・ヨンフェの生涯とシャン族の反乱の歴史。