フィッシャーの自然選択の基本定理
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ある生物の集団が遺伝型の違いによりのタイプに分けられるとし、この集団の「現在の世代」、「子孫の世代」におけるタイプ
の頻度がそれぞれ
、
であるとし、タイプ
の各個体が残した子孫の数を
とし、これらをその個体の適応度とみなす。(
はどちらの世代でも同じ値であるとする)。
現在の世代、子孫の世代におけるの期待値をそれぞれ
、
とし、
とする。適応度の定義から、子孫の世代におけるタイプの生物の頻度
は(集団に属する個体数を
とすると)、
である。
性質 (フィッシャーの自然選択の基本定理) ― 上述のように記号を定義するとき、以下が常に成立する[5]:
ここでは
の分散
である。
は平均適応度の変化量であり、進化の速度を表していると解釈できるので[5]、この定理は、生物集団内における適応度の分散
が大きいほど、進化の速度
が大きい事を意味していると解釈できる[5]。
フィッシャーの自然選択の基本定理は自然選択の項のみのプライス方程式
での場合に相当するので、証明はプライス方程式の項目を参照されたい。
歴史
この定理は、フィッシャーが1930年に出版した「The Genetical Theory of Natural Selection(自然選択の遺伝学的理論)」の中で初めて定式化された[3]。フィッシャーはこの定理を物理学におけるエントロピーの法則になぞらえ、「これほど類似した法則が生物科学の中で最高の地位を占めるであろうことは、少なからず示唆に富む」と述べている。弱い選択と弱いエピスタシスの場合の近似として、1965年に木村資生が準連鎖平衡のモデルを導入した。[6][7]
フィッシャーとアメリカの遺伝学者シューアル・ライトの適応度地形に関する論争によって、この定理は集団の平均適応度は常に増加することを意味すると(モデルがそうではないことを示しているにもかかわらず)広く誤解されることになった[8]。1972年、ジョージ・プライスがプライス方程式にてフィッシャーの自然選択の基本定理が確かに正しいことを示したが(フィッシャーの証明も誤字が数ヶ所あるが正しい)、定理に大きな意義は見いだせなかった。プライスの指摘した、それまで定理の理解を困難にしていた複雑な点は、この定理の与える公式が遺伝子頻度の変化のうち一部――自然淘汰によるものと言える部分――についてのものであって、変化の全体についてのものではないことである[9]。
交絡因子のため、フィッシャーの自然選択の基本定理の検証は非常にまれであるが、2007年にダニエル・ボルニック(英語版)が自然集団でこの効果を検証した[10]。
参照
- ↑ Crow, J.F. (2002). “Here's to Fisher, additive genetic variance, and the fundamental theorem of natural selection”. Evolution 56 (7): 1313–1316. doi:10.1554/0014-3820(2002)056[1313:phstfa]2.0.co;2. PMID 12206233.
- ↑ Fisher's Fundamental Theorem of Natural Selection Revisited by Sabin Lessard
- 1 2 Fisher, R.A. (1930). The Genetical Theory of Natural Selection. Oxford, UK: Clarendon Press
- ↑ Edwards, A.W.F. (1994). “The fundamental theorem of natural selection”. Biological Reviews 69 (4): 443–474. doi:10.1111/j.1469-185x.1994.tb01247.x. PMID 7999947.
- 1 2 3 市橋伯一、金井雄樹『進化の原理と基礎: 計算機シミュレーションで理解する進化の物理』東京大学出版会、2025年3月28日。ISBN 978-4130626286。 }
- ↑ Kimura, Motoo (1965). “Attainment of quasi-linkage equilibrium when gene frequencies are changing by natural selection”. Genetics 52 (5): 875–890. doi:10.1093/genetics/52.5.875. PMC 1210959. PMID 17248281. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC1210959/.
- ↑ Singh, Rama S.; Krimbas, Costas B. (28 March 2000). Evolutionary Genetics: From molecules to morphology. Cambridge University Press. p. 267. ISBN 978-0-521-57123-4. https://books.google.com/books?id=flmuDNNpYTIC&pg=PA267
- ↑ Provine, William B. (May 2001). The Origins of Theoretical Population Genetics: With a new afterword. University of Chicago Press. pp. 140–166. ISBN 978-0-226-68464-2. https://books.google.com/books?id=8Mj0ptluGeQC&pg=PA163
- ↑ Price, G.R. (1972). “Fisher's "fundamental theorem" made clear”. Annals of Human Genetics 36 (2): 129–140. doi:10.1111/j.1469-1809.1972.tb00764.x. PMID 4656569.
- ↑ Bolnick, D.I.; Nosil, P. (2007). “Natural selection in populations subject to a migration load”. Evolution 61 (9): 2229–2243. doi:10.1111/j.1558-5646.2007.00179.x. PMID 17767592.