ラジオギャラクシー・ズー

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Radio Galaxy Zooのロゴマーク

ラジオギャラクシー・ズー:Radio Galaxy Zoo:RGZ)は、クラウドソーシングによるインターネット上の市民科学プロジェクトで、遠方銀河内に潜む超大質量ブラックホールを探すことを目的としている[1][2]

このプロジェクトは、同様のクラウドソーシング型市民科学プロジェクトを多数ホストしているウェブポータル、ズーニバースにホストされている。RGZの科学者チームは、電波画像からブラックホールや宇宙ジェットを見つけ、それに対応する母銀河を探して結び付けることを目指している。 市民科学者と呼ばれるボランティアユーザーによって提供される多数の分類を利用して、ブラックホールの様々な段階やその起源についての完全な描像を構築することが目標とされた[3][4]

参加したユーザーは、提示される空の一部分の電波画像とそれに対応する領域の可視光・赤外線画像を見て、電波画像に写っている天体に対応する天体が可視・赤外画像にも存在するかを尋ねられる。また、電波画像に見える構造についていくつかの類型に分類するよう尋ねられる。この「分類」を次々と行っていく形でプロジェクトに参加する。

このプロジェクトは2010年に天体物理学者のレイ・ノリス英語版がズーニバースチームと共同で設立し、ユーザーによる解析を募る前にまず、2020年代に観測が予定されている宇宙の進化地図英語版計画(EMU)で発見できるであろう数百万個の銀河系外の電波源を相互識別するという前準備を行う必要があった。 現在RGZは2人の科学者、Julie BanfieldとIvy Wongが代表を務めている[5]。 RGZの本格運用は2013年12月17日から始まり[3]2019年5月1日にすべての画像の分類を終了した[6]

オーストラリア望遠鏡コンパクトアレイ

このプロジェクトの科学者チームは主にオーストラリアの研究者を中心に構成されており、ズーニバースの開発者やその他研究機関の支援を受けている[7]。 プロジェクトに使用されている電波画像は、アメリカの超大型干渉電波望遠鏡群で実施された20cm電波微弱撮像スカイサーベイ(Faint Images of the Radio Sky at Twenty-Centimeters :FIRST)で1993年から2011年に撮影されたデータを主に使用している。その他、オーストラリアのニューサウスウェールズ州にあるオーストラリアコンパクト電波干渉計(ATCA)で行われたオーストラリア望遠鏡広域サーベイ(Australia Telescope Large Area Survey :ATLAS)のデータも使用している。比較用の赤外線画像には、NASA広視野赤外線探査機(WISE)とスピッツァー宇宙望遠鏡で観測されたデータを使用している[7]

RGZの成果

ブラックホールジェット

RGZが出版した主な科学的成果論文として、次の5つがある。

i) ラジオギャラクシー・ズー:目視調査によって得られた母銀河と電波形態 (2015年11月)[1][8]

ラジオギャラクシー・ズーの最初の12か月間で集まった分類結果についての論文で、分類が完了すれば最終的に17万個以上の電波源についてその電波の母銀河と電波での形状について特定できるとしている[1]。 プロジェクトで使用しているデータについても詳しく説明しており、FIRSTとATLASサーベイの1.4GHzの電波画像を組み合わせたデータと、WISEの波長3.4μmとスピッツァーの3.6μmの中間赤外画像を組み合わせたデータの仕様が紹介されている[1]。その目的は、この分類を完成させることで母銀河となる天体の特性の数を調べることのほか、稀で極端な電波構造を発見することも含まれる[1]

オーストラリア国立電波天文学研究センター英語版(ICRAR)は論文出版時にこのプロジェクトについて、ボランティアのブラックホールの発見能力は専門家並みに優れていることを紹介している[9]。 研究チームは訓練を受けた市民科学者10人と、プロの天文学者10人に100枚の画像を分類してもらい、集まった分類のクオリティを定量評価することでその精度を担保している。

最初の論文とともにそれまでのラジオギャラクシー・ズーでの分類の統計も公表された。120万枚以上の電波画像が観察され、6万個以上の電波源が母銀河に同定された。同じ分類を1人の天文学者が行うと、1週間で40時間行っても完了におよそ50年かかるとされている[9]

広角テール電波銀河の例、3C 83.1B

ii) ラジオギャラクシー・ズー:巨大な広角電波銀河を通じての貧弱な銀河団の発見 (2016年5月)[10][11]

ラジオギャラクシー・ズーで見つかった巨大な広角テールを持つ特異電波銀河を通じて、非常に低密度な超銀河団RGZ-CL J0823.2+0333を発見したとする論文である。 この特異電波源の母銀河である2MASX J08231289+0333016の周辺環境を調べていくうちに、この銀河が貧弱な銀河団に所属していることが判明した。 電波での形態分類で、まず母銀河はその周囲の物質や貧弱な銀河団に対してかなりの速度で移動していることが分かった。そして、その銀河団中の活動銀河核が1000万年間隔で2回活発になっていることも分かった[10]。これらの事実は、発見された銀河が新しく見つかった銀河団と何らかのつながりがあることを示唆している[10]

レイ・ノリスは本研究を紹介するウェブメディアThe Conversationでの記事「どうやって市民科学者は巨大銀河団を発見したか」の中で実際の発見経緯を詳しく説明している[5]。2人のロシアの市民科学者Ivan Terentev と Tim Matornyがラジオギャラクシー・ズーに参加していた際、奇妙な形をした電波源に気付いた。 知らせを受けたチームがよく調べると、その天体はC字型の広角テール銀河(WATG)を形成する電波の塊の列の1つにすぎなかった。 主任科学者のJulie Banfieldはこの時について「誰も考えていなかったことが起こった」と振り返っている[5]

WATGは、通常は一直線に伸びて見えるブラックホールからのジェットが、銀河間ガスの影響でC字型に曲がることで生じる。 つまり、この特徴の存在は銀河間ガスの存在の確かな証拠であり、銀河間にそのようなガスが広がっている天体といえば宇宙で最大の天体である銀河団を意味する[5]。 2人の市民科学者によるこのWATGの発見は知られている中でも最大級のものであり、この銀河団には彼らの名前が付けられた。 地球から10億光年以上離れたこの銀河団には少なくとも40個の銀河が含まれており、私たちの宇宙を作る網目構造のフィラメントと層の交点に相当する[5]。 銀河団はその重要性にもかかわらず発見が困難な天体で、WATGを探すことは発見方法としては有用であるが、そもそもWATG自体が非常にまれな存在である。

2人の市民科学者はアメリカ国立電波天文台のウェブサイトでインタビューに応じており[12] 、Matornyは「今でも驚きは醒めず、さらに新しい電波銀河を探すためのモチベーションになっている」と、加えてTerentevは「今回科学のプロセス全体を目の当たりにすることができ、その一部分に参加することまで叶った」と語っている。

iii) ラジオギャラクシー・ズー:ハイブリッド形態の電波銀河の捜索 (2017年12月)[13]

ハイブリッド形態の電波銀河(HyMoRS)とは、その中心核の両側で、ファナロフ・ライリー分類上では別々の形態を持つ珍しい種類の電波銀河である。 ラジオギャラクシー・ズーによって、新たに25個のHyMoRS候補が発見された。 これらのHyMoRSの地球からの距離は赤方偏移でz=0.14から1.0に位置する。このうち9個の母銀河は既にスペクトルが観測されており、クエーサーやグリーンピース銀河が含まれる。 本研究では、こうした形態の銀河の起源については未だ未解明としつつ、こうした電波源は多様な姿で見つかり始めているとしている[13]。 また、こうした候補天体の確認には高分解能な追跡観測が必要だが、ラジオギャラクシー・ズーで全天の電波サーベイから追跡の候補を事前選別することの有用性、市民科学者による複雑な電波源の分類の信頼性の高さも評価されている[13]

ARC全天天体物理学センター英語版(CAASTRO)のウェブサイトに掲載された「市民科学者が発見した多数の銀河の二面性」という記事でこの研究成果についてさらに解説がされた[14]。 この研究のリーダーである科学者Anna KapinskaとIvan TerentevのチームはHyMoRSをずっと探し続けていた。 こうした銀河は、それぞれが全く異なる特徴を持つのではなく、複数の特徴が組み合わさって存在する。 HyMoRSがさらに発見されることで、こうした銀河がどのようにその形態に変化したのか、なぜそのような特異な特徴が生まれるのかを理解することになる。さらに、その知見はすべての銀河がどのように進化するかをより良く理解することに繋がる[14]

最初にHyMoRSであると認識された天体は2002年に発見され、以降30個以上が発見されてきたが、ラジオギャラクシー・ズーで一気に25個が発見されたことで発見数は2倍近くになった。 ジェットを放つブラックホールを持つ銀河は、ファナロフ・ライリーIとファナロフ・ライリーII(FR Iと FR II)に分類される。 FR I銀河のジェットは銀河から外側へ遠ざかるにつれて減衰するが、FR II銀河のジェットはその末端で明るくなり、ホットスポットと呼ばれる強い放射を示す領域を端に持つ[14] 。 2つのタイプの違いの原因として、中心ブラックホールの挙動、周辺環境の物質密度の違い、距離が異なることによる錯視効果が挙げられている[14]

iv) ラジオギャラクシー・ズー:電波源天体の宇宙論的配列 (2017年11月)[15]

巨大メートル波電波望遠鏡

2017年11月に、Omar Contigianiが率いるチームが王立天文学会月報で、電波源の相互配列に関する論文を出版した[15]。 FIRSTとTIFR GMRTスカイサーベイ(TGSS)のデータを使って、最大級の楕円銀河が放つプラズマで満たされたジェットという、最も強力な部類の電波源を調査した。 この2サーベイでの調査は、それぞれ7000と17000平方度の領域に存在する、それぞれ30059個と11674個の広がった電波源の優先方向を含む2つの位置角カタログを作ることで行われた[15]。 FIRSTのサンプルはラジオギャラクシー・ズーで、TGSSのサンプルは自動選別処理で抽出されたものである。 FIRSTのサンプルからは、配列が局所的に揃ってる証拠が、偶然ではない確率が98%として見つかった。これは、当時発表された、巨大メートル波電波望遠鏡を使った科学者チームによる別の研究結果を裏付けている。なお、TGSSのサンプルは、同様の検証を行うには密度が低すぎた。この結果は、宇宙論的距離においては相対的配列が存在することを示唆している[15]

v) ラジオギャラクシー・ズー:深層学習によるコンパクト・拡散された電波源の分類 (2018年5月)[16]

2018年5月、Lukicらのチームは王立天文学会月報に機械学習技術に関する論文を発表した。それまでの数年間で機械学習の技術は天文学に応用されており、銀河の形態分類にも応用が試みられている中、その機械学習アルゴリズムに学習させる訓練用データとして市民ボランティアによるこれまでの分類を用いることが検討されている[16]

後継プロジェクト

初代のラジオギャラクシー・ズーの運用終了後、新たなズーニバース上のプロジェクトとして2020年2月にはヨーロッパの電波望遠鏡群である低周波アレイ(LOw Frequency ARray:LOFAR)で取得した銀河の画像から活動銀河核を探すラジオギャラクシー・ズー LOFARが始まった。このプロジェクトは2023年3月までの約3年間にわたり運用された[17]

さらに2024年7月からは、建設中のスクエア・キロメートル・アレイの試験機であるオーストラリアスクエア・キロメートル・アレイパスファインダー英語版(ASKAP)で実施されている宇宙の進化地図英語版計画(EMU)で取得された電波画像を使用したラジオギャラクシー・ズー EMU(日本語版タイトル:とある電波の銀河目録:EMU)が開始され、現在も運用中である[18]。このプロジェクトは日本人参加者のボランティアにより日本語化がなされ、国立天文台水沢VLBI観測所でSKA1サブプロジェクトを進めている赤堀卓也特任研究員がその監修にあたった。

ギャラクシー・ズーの宝石 (ZooGems)

プロジェクトの終了後、2年間にわたってハッブル宇宙望遠鏡によってラジオギャラクシー・ズーで発見された興味深い天体のうち105個について詳細観測を行う観測プログラムが、ハッブル宇宙望遠鏡のプログラム番号15445番としてウィリアム・キール主任研究員のもとで採択された[19][20]。 これまでのギャラクシー・ズープロジェクトやその姉妹・後継プロジェクトでは、当初の銀河の分類という目的を超えて天体物理学の観点から非常に興味深い天体が数多く見つかっている。 グリーンピース銀河と呼ばれるスターバースト銀河や、ハニーの天体と呼ばれる活動銀河核の電離エコー、逆回転渦巻銀河中のダスト、疑似的なバルジによる活動銀河核といったこうした天体は既にハッブル宇宙望遠鏡で追跡され、興味深い知見が得られてきた[19]

NASAの働きかけにより、ズーニバースの特設インターフェースによる投票システムで合計304個の天体がハッブル宇宙望遠鏡による観測対象に選ばれ、科学的進展が得られることが期待されている[19] 。キールは「個々の天体を独立して観測する研究は、研究テーマとして物足りないかもしれないが、全ての天体を合わせることで興味深い研究を行うことができる」と述べている[20]

ギャラクシー・ズーの宝石と名付けられたこの観測は2023年9月に、300個の候補から193個を実際に撮影して終了した。 ウィキメディアコモンズにCategory:Zoogemsとしてその多くの画像が公開されている。

関連項目

出典

外部リンク

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