グリーンピース銀河

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ギャラクシー・ズーで発見されたグリーンピース銀河
ハッブル宇宙望遠鏡が撮影した3個のグリーンピース銀河

グリーンピース銀河(グリーンピースぎんが、:Pea galaxy,Pea,Green Pea,GP)は非常に高い星形成率を示す青色でコンパクトなスターバースト銀河の種類である[1][2][3]スローン・デジタル・スカイサーベイ(SDSS)で撮影された画像上に小さく緑色に写っていたことから、論文など含めてこの名前で呼ばれるようになった。

グリーンピース銀河が最初に発見されたのは2007年のことで、オンライン上の市民科学プロジェクトであるギャラクシー・ズーに参加していたボランティアの市民科学者がフォーラムページで話題にしたことがきっかけである[4][5][6]

グリーンピース銀河は赤方偏移z = 0.112 - 0.360の間の距離で発見されている、酸素輝線が豊富なコンパクトな銀河である[1]。これらの低質量銀河の大きさの上限は差し渡しで16,300光年 (5,000 pc)で、典型的には通常の銀河の置かれる環境より3分の2ほどの低密度環境にある。グリーンピース銀河の地球からの距離の平均は赤方偏移でz = 0.258であり、平均質量は太陽の32億倍ほど、星形成率は年間で10太陽質量程度であり、2階電離酸素英語版([O III])の等価幅は69.4nmであり、また低い金属量を示す[1][7]。 [OIII]の強い輝線を波長500.7 nmの位置に示す。[OIII](O++)は可視スペクトルの禁制線英語版であり、非常に低密度下でしか生じない[1][8]。SDSSの全天体の測光カタログからグリーンピース銀河の条件に適合する天体を絞り込んだところ、全体でも40222天体しか当てはまらず、非常に珍しい天体であることが分かった[1]

グリーンピース銀河は近傍宇宙において最も低質量ながら最も活発な星形成銀河である[9]。ギャラクシー・ズーを創設した1人である天体物理学者のケビン・シャウィンスキー英語版は、こうした銀河は宇宙初期には普通に存在していたが、現在の宇宙には見られず、グリーンピース銀河の研究を通じて初期宇宙での星形成や銀河の進化について何か分かるかもしれないと評している[8]

グリーンピース銀河は宇宙の年齢が現在の4分の3しかなかった頃から存在しており、初期宇宙における銀河の形成と進化を知る手掛かりとなる[10]2012年2月にグリーンピース銀河をカナリア大望遠鏡で詳細観測した結果を発表した論文から、グリーンピース銀河は自身を構成するほとんどの質量の恒星を数十億年前に形成した古い銀河であると考えられるようになった。その研究で観測対象になった3個のグリーンピース銀河のうち1個からマグネシウムの存在が分光確認され、古い恒星であることが分かったためである[11]

ハッブル宇宙望遠鏡が宇宙起源分光器英語版で撮影したGP_J1219の近紫外画像[12][13]。スケールバーは1秒角を表し、この天体の距離26.9億光年上では10750光年の幅に相当する。

2016年1月にはネイチャー誌から、ハッブル宇宙望遠鏡による観測によって、グリーンピース銀河J0925+1403がライマン連続光子英語版(LyC)のリークを8%のリーク率で起こしている天体だと発見したとする論文が出版された[14]。 同様にハッブル宇宙望遠鏡を用いた追加観測からさらに4個のLyCをリークしているグリーンピース銀河が見つかった[15]。 先駆けて2014年から2015年にかけてその他の2個のグリーンピース銀河GP J1219とGP J0815がLyCリーク天体候補であるとされ、この2天体が、高赤方偏移のLyα・LyCリーク天体に類似する低赤方偏移の天体であるとされた[9][16][17]。 近傍宇宙でLyCリーク天体を発見することは初期宇宙で起こった宇宙の再電離についての理論的手掛かりになる[16][17]

グリーンピース銀河は、ギャラクシー・ズーや姉妹プロジェクトのラジオギャラクシー・ズーで発見された特に興味深い天体をハッブル宇宙望遠鏡で観測するギャラクシー・ズーの宝石プログラムにおいても、観測対象に多く含まれている[18]。観測候補300天体のうち、75個がグリーンピース銀河である。グリーンピース銀河の発見に使われた画像はSDSSの画像なので、ハッブル宇宙望遠鏡でさらに質の高い画像が得られる。

発見

ギャラクシー・ズーは2007年7月から始まったオンライン上の市民科学プロジェクトで、約100万個に及ぶ膨大な数の銀河の形態分類を行うことを目的としている[19][20]。 プロジェクト開始から2日後の2007年7月28日に、ギャラクシー・ズーのページ内に設けられたフォーラムページで、 'Nightblizzard'と名乗る市民科学者が銀河と思われる2個の緑色の天体について投稿した[6]。 そして8月12日には、後にハニーの天体で知られる市民科学者ハニー・ファン・アーケルによって"Give peas a chance"という名前のスレッドがフォーラム上に立てられ、様々な緑色の天体の投稿が集まった[6]。このスレッド名はジョン・レノンの楽曲『Give Peace a Chance』のパロディーであるように面白おかしさ半分で始まったディスカッションであったが、2007年12月までにこうした特異な天体のいくつかは、何か明確な1つの分類グループであることがはっきりとしてきた。

これらのグリーンピース銀河は、SDSSの画像上では分解されていない緑色の天体として写っている。この緑色は、グリーンピース銀河がとても明るい酸素の高次電離スペクトルによる輝線で輝いており、SDSSの分色方法ではこの輝線は、より短波長のgバンドや、より長波長のiバンドと比べて中間の波長を持つrバンドで明るい輝度を持ち、SDSSのカラー合成ではrバンドはRGBの緑色に割り振られることによる[1][21]。"Peas Corps"を自称するグリーンピース銀河の愛好家たち(これもアメリカ版青年海外協力隊であるPeace Corpsをもじったものである)は100個以上のグリーンピース銀河を集め、最終的には2008年7月にCarolin Cardamoneが立ち上げた専用の集約スレッドにまとめた。このコレクションは精査され、コンピューターが100万個のギャラクシー・ズーの対象天体を検索する際の条件値を提供し、最終的に251個のグリーンピース銀河を抽出した。

SDSSの第7期データリリースに含まれる80個のグリーンピース銀河

そして2009年11月、C. Cardamoneらが王立天文学会月報に「ギャラクシー・ズーのグリーンピース銀河:コンパクトで極端な星形成を行う銀河のクラス」と題した論文を発表し、それまでフォーラムなどで明らかにされてきた251個のグリーンピース銀河と、そのうち80個についてSDSSが取得していたスペクトルから星形成率を測定した内容について報告した[1]。この論文の中では、Elisabeth Baeten, Gemma Coughlin, Dan Goldstein, Brian Legg, Mark McCallum, Christian Manteuffel, Richard Nowell, Richard Proctor, Alice Sheppard, Hanny Van Arkelの10人のボランティアの参加者が特に多大な貢献をしたとして謝辞が述べられており、「彼らがグリーンピース銀河が日の目を見るチャンスを与えた」と言及されている。

当初の80個のグリーンピース銀河の分光リストはSDSSの第7期データリリース(DR7)で公開されていたものだが、そこにはもしSDSSのサンプルに含まれていればグリーンピース銀河に分類されていたであろう、他の天体カタログに含まれている銀河は入っていない。一例として2009年4月にJ. J. Salzerらがアストロノミカルジャーナル・レターで発表した論文「中間赤方偏移で~L*の輝度を持つ金属欠乏銀河の集団」では[22]キットピーク国立天文台(KPNO)で実施されたKPNO国際分光サーベイ(KISS)で取得されたスペクトルから[23]、赤方偏移0.29 – 0.42の範囲の15個の星形成銀河がピックアップされている。 これら15天体のうち3個(KISSR 1516, KISSR 2042, KISSRx 467)はSDSSではグリーンピース銀河のような色で写っており、Salzerらは「これら新しい銀河のグループかも知れず、これまでも中間~高赤方偏移の銀河の金属量に関する研究が数多くされてきたことを思えば、こうした天体に今まで気づかれていなかったのは奇妙にも思える」と言及していた[22]

類似天体

ブルーベリー銀河

ブルーベリー銀河英語版はグリーンピース銀河よりもさらに暗く低質量で、より太陽系の近くに位置する銀河のグループである[24]。 これらは通常高いイオン化率を持つとても小さなスターバースト矮小銀河で、スターバースト銀河の中では最も小さい恒星質量と金属量を持つが[25]、中には大質量なブルーベリー銀河も見つかっている[26]。 ブルーベリー銀河のうち2個は最も金属量の小さい銀河として知られているが、ブルーベリー銀河の多くはグリーンピース銀河のような低密度環境に存在している[25]。 ブルーベリー銀河はグリーンピース銀河よりもさらにコンパクトな銀河で、天の川銀河の1/3000以下のサイズしかない[27]。 ブルーベリー銀河は最も年齢の若い星形成銀河のグループであり、年齢の中央値は7000万年以下である[28]2011年にIzotovらが行った分類では、グリーンピース銀河、ブルーベリー銀河、そして「紫ブドウ銀河」と呼ばれる集団は、それぞれ違う距離帯にある高輝度でコンパクトな銀河であるとされた[29]

2017年にHuanらが最初にブルーベリー銀河について報告した時のサンプルは40個だったが、LAMOST英語版サーベイの第9期データリリースで得られたデータからSiqi Liuらはグリーンピース銀河などに加えて270個のブルーベリー銀河を含む1417個の新しいコンパクト銀河を発見した[30]。これは、それ以前に見つかっていた数のほぼ2倍に相当する[31]。研究者は測光バンド内で現れる輝線の位置が異なるためカラー合成画像でも異なる色をもつコンパクト銀河について、金属量や環境、星形成率について体系的な研究も行っている[32]

リトルレッドドット

V字型の広帯域輝線を持つグリーンピース銀河(ローカルなリトルレッドドット)

ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の最近の観測により、リトルレッドドット英語版(LRD)として知られる、ビッグバンから6億年から15億年後の宇宙に存在する小さな明かり銀河の集団が多く見つかっている[33]。これらの天体は超大質量ブラックホールによって引き起こされた活動銀河核を持つ銀河であると考えられているが[34]、他の理論も提唱されている[35]2025年にRuqiu Linらがアストロフィジカルジャーナル・レターに発表した論文ではリトルレッドドットとグリーンピース銀河が関連している可能性を報告している[36]。 この研究では以前収集された観測データを使って、広帯域な輝線をもつ活動銀河核を有している近傍のグリーンピース銀河が、リトルレッドドットと似たような特徴を持つと指摘している。こうした大質量のブラックホールを持つグリーンピース銀河のスペクトルがリトルレッドドットと似ていたためである。論文では、グリーンピース銀河がリトルレッドドットや高赤方偏移の広帯域輝線活動銀河核の、近傍宇宙における代替サンプルになる可能性があり、遠方天体では実現困難である高感度・高空間分解能な観測を、遠方天体では難しい紫外線・可視光線によって行うことで、リトルレッドドットの紫外線放射の起源といったいくつかの謎にアプローチできうるとしている[36]

電波の検出

2012年2月に、Sayanらが「グリーンピース銀河からの電波の検出:若い銀河の磁場への影響」と題した、グリーンピース銀河の磁場特性についての論文を発表した[37]。 論文中で、若い銀河の磁性の進化や起源についての難しい課題を提起する予想外の観測結果が得られたことが報告されている。銀河の年齢は、グリーンピース銀河内で現在起こっている星形成を観察し、もっとも最近のスターバーストの年齢を推計することで推定している。グリーンピース銀河はとても若い銀河で、観測された恒星集団のモデルによると年齢が1億年、天の川銀河の1/100しかないとされる。ただし、グリーンピース銀河のスターバーストが全て同時に始まったのか、それとも複数のスターバーストが進行しておりより古いスターバーストで生じた恒星集団の光が隠れているのかという疑問が存在する。

Chakrabortiらは巨大メートル波電波望遠鏡(GMRT)で得られたデータや超大型干渉電波望遠鏡群(VLA)のアーカイブ観測データから、32個のグリーンピース銀河からのフラックスを重ね合わせて、3回の3時間のGMRTでの低周波観測をmJyレベルのフラックスが期待できる候補天体に行うことで電波の検出を検証した。 その結果GMRTで観測した3個のグリーンピース銀河の平均の磁場の強さはB~39 μGで、より一般的にも全てのグリーンピース銀河がB~30μGを超える磁場を有していた。なお天の川銀河の磁場がB~5μG程度である。現在は、グリーンピース銀河の磁場についてはダイナモ理論によるシード磁場の増幅と、銀河の寿命についての磁場の振る舞いに基づいて理解が進んでいる[37]

2021年にはKanekarらが19個のグリーンピース銀河について、グリーンバンク望遠鏡アレシボ天文台を用いて水素の21cm線放射を始めて検出したと報告した[38]。これによりグリーンピース銀河の原子ガスの総量が初めて推定された。

Borkarらが「グリーンピース銀河の電波特性」と題して発表した論文では、VLAを用いてグリーンピース銀河の電波特性を調べた結果が報告された[39]。 3個のグリーンピース銀河を観測し電波のスペクトル分布を調べることで、活動銀河核の存在について検証された。グリーンピース銀河やブルーベリー銀河の新しく取得した観測やアーカイブデータの両方を用いて、その電波源の検出可能性を評価し、電波輝度を理論や経験則から予想される値と比較した。その結果、検証した矮小銀河については非常に低輝度で、経験的に予測される値を大きく下回った[39]

関連項目

脚注

外部リンク

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