完全加法族
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概要
名称
動機付け
X 上の測度とは、X の部分集合に実数を割り当てる写像で、集合の「大きさ」や「容積」の概念を明確にしたものと考えることができる。望むべくは、互いに素な集合の和の測度が、個々の集合の測度の和になること、特にそれが互いに素な集合の無限列に関してさえも成り立つことである。
X の部分集合「すべて」に対してそのような測度を与えられると考えたいところではあるが、これは多くの自然な状況設定において不可能である。例えば選択公理からは、実数直線内の部分集合のふつうの「長さ」を測度とするとき、ヴィタリ集合のような測度を持たない部分集合が存在することが示される。そのような理由から、測度を持つ特別な X の部分集合からなるより小さな族を代わりに考えなければならない。このような集合は可測集合と呼ばれ、それらの族は可測集合に対して期待される演算について閉じている。つまり、可測集合の補集合は可測集合であり、可測集合の可算合併は可測集合である。これらの性質を満たす空でない集合族を σ-集合代数と呼ぶ。
X の部分集合族で σ-集合代数を成すものを通例 Σ(ギリシャ大文字のシグマ)で表し、それらの対 (X, Σ) として与えられる集合代数(集合体)は可測空間と呼ばれる。Σ に属する X の部分集合の間の演算を初等代数学における数の演算と対比して見れば、集合演算としての合併 (∪) と交叉 (∩) は、数の加法と乗法に対応する。σ-集合代数 Σ は、可算無限回の演算まで含めて完備である。
定義
を任意の集合、 を 上の冪集合とする。 が次の条件、
- Σ は空でない: 少なくとも一つの A ⊂ X が Σ に属する。
- Σ は補演算に関して閉じている: A が Σ に属するならば、その補集合 X ∖ A も Σ に属する。
- Σ は可算合併に関して閉じている: A1, A2, A3, … が Σ に属する集合の列ならば、それらの合併 A = A1 ∪ A2 ∪ A3 ∪ … も Σ に属する。
このとき、2つ組 を
他にも等価な定義がある。一例として以下がある:
例
例えば X = {a, b, c, d} とすると、X 上の完全加法族となる集合族の一つは
- Σ = { ∅, {a, b}, {c, d}, {a, b, c, d} }
で与えられる。
性質
全体集合と空集合が属する
条件 1. から Σ は空でないので適当な A ⊂ X が取れて、条件 2. でその補集合 X ∖ A も Σ に属し、条件 3. からそれらの和 A ∪ (X ∖ A) = X も Σ に属することが言える。また再度条件 2. を適用して、X ∈ Σ の補集合である空集合が Σ に属することが言える。
代数的性質
完全加法族(σ-集合代数)は代数的に良い性質を持っている。
以下、 を任意の集合、 を 上の σ-集合代数、 を -可測集合とする。また証明のために とし、 と変形できれば が証明される形を取る。
可算合併について閉じている
完全加法族は可算合併 について閉じている。
2つの項に関して、 と (iii) より、 ∎ [2]。可算無限の項に関して、(iii) がそのまま閉じていることを規定している ∎。なお、単位元は である()。
可算交叉について閉じている
2つの項に関して、(ii) と と (ii) より、 ∎ [2]。可算無限の項に関して、(ii) と (iii) と (ii) より、 ∎ [2]。なお、単位元は である()。
利用
分類
三公理を満たす集合族は全て σ-集合代数である。これは一例として以下のように分類できる( を全体集合とする):
- 上の自明な σ-集合代数 : . 「 上の最小の σ-集合代数」とも。
- X 上の離散 σ-集合代数 : . 冪集合のこと。
また以下も X 上の σ-集合代数である:
- X の可算または補可算な部分集合全体の成す族(X が非可算ならば、これは冪集合とは異なる)。これは X の一元集合全体から生成される σ-集合代数である。
- λ で添字付けられた X 上の σ-集合代数の族 {Σλ} に対し、Σλ 全ての交わりはやはり X 上の σ-集合代数になる。
生成された σ-集合代数
X の任意の部分集合族 F に対して、F に属する元をすべて含むような最小の σ-集合代数が唯一つ存在する(F 自身が σ-集合代数になっていてもいなくてもよい)。この σ-集合代数を F が生成する σ-集合代数 σ(F)と呼ぶ。
このような σ-集合代数が常に存在することを見るために、Φ := {E ⊆ 2X : E は F を含む σ-集合代数} と置くと、F が生成する σ-集合代数とは Φ の最小元ということになる。実際にこのような最小限は存在する。まず冪集合 2X は Φ に属するから Φ は空でなく、従って Φ に属する元すべての交わり σ* は空積でない。Φ の各元は F を含むのだから交叉 σ* もやはり F を含むが、さらに Φ の各元は σ-集合代数ゆえ交叉 σ* もやはり σ-集合代数になる(これは、Φ の各元が満たす σ-集合代数の三公理が、Φ の交叉でも保たれることを確認すればよい)。従って σ* は F を含む σ-集合代数となり Φ に属することとなり、またこれが Φ に属する全ての集合の交わりであったことから、σ* は定義により Φ の「最小」の元になる。即ち σ* = σ(F) が F の生成する σ-集合代数となる。
簡単な例として、集合 X = {1, 2, 3} において、単元集合 {1} の生成する σ-集合代数は σ({1}) = {∅, {1}, {2,3}, {1,2,3} } となる。記号の濫用により、ただ一つの元 A のみからなる族 {A} を考えるときには、σ({A}) と書く代わりに σ(A) と書く。今の例だと σ({1}) の代わりに σ(1) と書く。
誘導された σ-集合代数
集合 X から集合 Y への写像 f と、Y の σ-集合代数 B に対して、B から f によって誘導された σ-集合代数 σ(f)とは、B の各元 S に対する逆像 f−1(S) 全体の成す X の部分集合族を言う。
明らかに、写像 f: X → Y が X の σ-部分集合代数 Σ に関して可測となるための必要十分条件は σ(f) ⊂ Σ となることである。
このような扱い方がされるよくある状況として、そのままでは B が明示的に指定されず、Y が距離空間や位相空間で、B は Y 上のボレル集合族として与えられるような場合が挙げられる。
ボレル集合代数
重要な例として、位相空間上のボレル集合代数がある。これは空間の開集合系(閉集合系としても同じ)から生成される σ-集合代数である。この σ-集合代数は、一般には冪集合と異なることに注意。非自明な例としてヴィタリ集合が挙げられる。
ルベーグ可測集合族
ユークリッド空間 Rn 上でもう一つ重要な σ-集合代数としてルベーグ可測集合族が挙げられる。この σ-集合代数には Rn 上のボレル集合族よりも多くの集合が含まれ、完備測度空間を与えるという意味で積分論に適している。
派生概念
可測空間の間の写像が可測函数であるとは、任意の可測集合の原像が可測となることを言う。全ての可測空間の集まりは、可測函数を射として圏を成す。測度は σ-集合代数から補完数直線内の区間 [0, ∞] への特定の種類の写像として定義される。
σ集合環との関係
全体集合と空集合が属するという性質が σ-集合代数と σ-集合環との間の差異であって、つまり σ-集合代数 Σ とは全体集合 X を含むような σ-集合環のことに他ならない。σ-集合環は必ずしも σ-集合代数でない。何となれば、実数直線 R 内のルベーグ零集合(ルベーグ測度 0 の可測部分集合)の族は σ-集合環になるが、零集合の可算合併はやはり零集合であって、測度が無限大である R には成り得ないので、σ-集合代数にはならない。また、零集合の代わりに、R のルベーグ測度が有限な可測部分集合の族を考えると、これは集合環にはなるが、有限な測度を持つ集合の可算和として得られる R が測度有限でないので、σ-集合環にはならない。