在外ミャンマー人
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在外ミャンマー人(ざいがいミャンマーじん)、すなわちミャンマー国外に移住しているミャンマー人について論じる。ミャンマーにおいては数十年にわたる内戦(ミャンマー内戦)が続いており、このこと、あるいは貧困や政治的迫害などを理由に多くの国民が海外に流出している[1]。1962年ビルマクーデター、8888民主化運動、2021年ミャンマークーデターといった政治的事件が、ミャンマー人の国外移住の引き金となっている[2][3]。
在外ミャンマー人は、おおまかには3類型に分類される。紛争地帯から避難した宗教的・民族的マイノリティ、政治的に安定した環境を求めるエリート、よりよい教育・経済の機会を求めたその他の集団である[1]。2021年にはミャンマーにおいて120万人の難民・庇護希望者(英語版)が生じたが、これはシリア・ベネズエラ・アフガニスタン・南スーダンに次いで5番目に多い数字であった[4][5]。
アジアの近隣諸国におけるミャンマー人移民は、多くの場合農漁業・製造業などのブルーカラー労働についている。また、西洋世界においてはホワイトカラー労働者も増加している[1]。ミャンマーの社会政治的環境の継続的な悪化に起因する起業家・専門職人材・知識人の著しい頭脳流出は、特に人的資本の観点から、同国の経済発展に重大な影響を及ぼしてきた[6]。2021年のクーデター以降、ミャンマーに戻っていた専門職・経営幹部・投資家など、あるいは外国人駐在者も流出し、国内の新規事業創成に著しい影響を与えた[7]。
オーストラリア
ミャンマー人移民がもっとも多い国はタイ王国である。同国には150万人から200万人のミャンマー人が居住している。また、およそ50万人がマレーシアで労働している[8]。このほか、中華人民共和国には35万人のミャンマー人が在住しており、これは在中外国人のなかでももっとも多い[9]。ロヒンギャ難民は、ミャンマー人移民のなかでも多数を占める。ロヒンギャは数十年にわたり、ミャンマー国内で民族的・宗教的迫害を受けてきた。2017年のロヒンギャ虐殺(英語版)以降、数十万人がバングラデシュ・マレーシア・インドネシア・フィリピンといった東南アジア諸国へと逃れている[10]。
2021年のオーストラリア国勢調査によると、ミャンマー系の祖先を有すると自己申告した人々は約62,096人であり、これには第一世代の移民と、オーストラリア生まれの子孫の双方が含まれる。ビルマ系オーストラリア人コミュニティは民族的に多様で、ビルマ・カレン・チン・ロヒンギャなどからなる[11]。地理的にはビクトリア州(36.3%)、西オーストラリア州(23.9%)、ニューサウスウェールズ州(19.8%)に集中している。宗教的帰属も多様で、バプテスト(33.1%)、仏教徒(25.2%)、カトリック(12.3%)、イスラム教徒(9.7%)が主な内訳となっている[11][12]。
多くのビルマ系オーストラリア人は人道的受け入れプログラムを通じて渡豪しており、その多くはタイやマレーシアなどの難民キャンプで長期間を過ごした後に移住している[12]。これらのコミュニティでは、ティンジャン・ダディンジュ(英語版)・チン民族の日(英語版)といった文化的・宗教的祭礼が祝われている[13]。
バングラデシュ

バングラデシュのミャンマー系住民の大半はロヒンギャであり、ビルマ・チン・カチン・シャンといった民族はほとんど含まれない。ロヒンギャは、ミャンマー政府からは国内の先住民族(タインインダー)として認められておらず、国内からの脱出を余儀なくされている。バングラデシュ国内には、コックスバザール県(英語版)のウキヤ(Ukhiya)郡およびテクナフ(Teknaf)郡に、公式の難民キャンプがひとつずつ存在する[14]。2017年、ミャンマー国内における暴力が苛烈なものとなったことによって、ロヒンギャ難民の数は増加した。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によれば、2017年8月25日以降723,000人以上のロヒンギャがバングラデシュに逃れた[15]。
バングラデシュ政府は、コックスバザールにおける2012年ラム暴動(英語版)の責任をロヒンギャ難民に帰している[16]。政府はロヒンギャ難民を好ましく思っておらず[17]、2014年には国内のロヒンギャ難民をベンガル湾の離島であるバサンチャール島(英語版)に移送する計画を立てた[18]。ミャンマーで内戦が激化したのち、当時のバングラデシュ首相であるシェイク・ハシナは、ロヒンギャの若者を「犯罪活動から遠ざける」ためとして、35,000人のロヒンギャをバサン・チャールに移送した旨を発表した。ハシナは、内戦のためロヒンギャをミャンマーへ送還することが困難であること、ならびに外国の武装組織がバングラデシュをゲリラ活動の拠点として利用するのを防ぐ必要性を強調した[19]。
中華人民共和国

中華人民共和国におけるミャンマー人の多くは、国境を接する雲南省に居住している。2020年中華人民共和国国勢調査(英語版)によれば、351,000人のミャンマー人が中国に居住しており、これは同国における外国人として最多である[20]。両国の国境地帯には非ビルマ・漢族の諸民族が多く生活しており、歴史的には両地域の諸国家の緩衝地帯として機能してきた[21]。
合法的な居留に加え、多くのミャンマー人が密入国させられ、華東に多い搾取的労働環境の工場で働いているとされる[22]。多くのミャンマー国民は雲南省、特に瑞麗といった国境の都市で生活している。新型コロナウイルス感染症の流行以前は、毎日50,000人のミャンマー国民が国境を通過しており、その中には中国側の国境都市で働く人々も含まれていた[23]。
2010年代を通じて、ミャンマー軍と少数民族武装組織との衝突が激化した時期には、雲南省は数万人規模の難民を受け入れた[24]。2015年コーカン攻勢(英語版)後、多くのミャンマー国籍者が国境を越えて中国へ逃れた。国連によれば、この紛争により70,000人が中国へ流入し、うち27,000人が2016年まで中国に滞在した[25]。2017年にコーカンで戦闘が再燃すると、少なくとも20,000人が中国側に設置された国境キャンプに入った。これらの難民は中国政府から人道支援を受けた[26]。2021年ミャンマークーデター以降の内戦が激化する局面において、中国政府はミャンマーからの難民・庇護希望者の受け入れを認めていない。多くの国内避難民は国境地帯にて越境貿易を行っている。中国政府は、大規模な難民流入を防ぐため、国境地域において越境的な生計手段を提供するという地域限定型の国境管理モデルを継続している[27]。
インド
2014年ミャンマー国勢調査(英語版)によれば、17,975人のミャンマー人がインドに居住していた[28]。この統計には、1962年ビルマクーデター後にインドに送還されたインド系ビルマ人155,000人は含まれていない。これらのインド系ビルマ人は、インド政府によって用意されたチェンナイ・ティルチラーパッリ・マドゥライの「ビルマ・コロニー(Burma Colonies)」に再移住させられた[29]。
内戦を通してインドに避難したミャンマー人は、おおむね北東インドのミゾラム州・マニプル州ないし首都のニューデリーに居住している。インド政府は公式にはミャンマー人を難民として認めていないため、国内におけるミャンマー人の規模を把握することは困難である。インドにおけるミャンマー人の大半はチン族であるが、カチン・ラカイン・ビルマ族も居住している[30]。
日本

2025年6月末現在、在日ミャンマー人の人口は160,362人である。もっともミャンマー人が多いのは東京都(35,585人)であり、大阪府(12,054人)、埼玉県(9,682人)と続く[31]。
第二次世界大戦以前、一部のビルマ人学生は日本に留学していた。これらの民族主義志向の学生は、日本のビルマ侵攻(英語版)に先立って設立したビルマ独立義勇軍の中核を担うこととなった。日本によるビルマ占領期にも、日本政府はビルマ人学生に対して日本留学の奨学金を継続的に提供した。1990年代以降、再び日本を訪れるミャンマー人移民が増加した。多くは不法滞在の状態にあり、このなかには民主化運動家も数百人含まれていた。当初、日本政府は彼らを難民として認定しなかったが、1998年以降、政策は緩和された。2006年までに、日本政府は116人のミャンマー人を難民として認定し、さらに139人に在留特別許可を与えた。これらは、少数のアフガニスタン人およびクルド人を除けば、日本において公式に認定された難民のほぼ全数を占めていた[32]。
日本における最初のミャンマー人による政治組織は、1988年に設立された在日ビルマ人協会(Burmese Association in Japan)であり、その後もいくつかの団体が設立された(cf. 在日ミャンマー人の民主化運動)[32]。
マレーシア
マレーシアのミャンマー人の多くは、難民ないし単純労働者である。2014年ミャンマー国勢調査(英語版)によれば、マレーシア国内には303,996人のミャンマー人が居住していた[28]。2014年11月時点で、UNHCRは139,200人のミャンマー難民がマレーシアに流入しており、うち50,620人がチン、40,070人がロヒンギャ、12,160人がパンゼー、7,440人がラカイン族であった[33]。しかし、マレーシア政府は、新たに到着したすべての難民を公式には認定していない。これは、そうした認定がさらなる難民のマレーシア流入を促す可能性があると懸念しているためである。マレーシア当局は、彼らが国家安全保障への脅威となり得ると指摘している[34]。
ニュージーランド
2013年ニュージーランド国勢調査によると、ミャンマー系であると自己申告したのは2,187人であった。主にオークランド・ウェリントン・ネルソンに居住している。多くはタイ=ミャンマー国境(英語版)沿いの難民キャンプから来た難民であり、カレン・カヤー・チン・ラカインなどから構成される。2004年から2014年の間、ミャンマー国籍者はニュージーランドの難民受け入れ枠制度の下で永住権を付与された難民のほぼ半数を占めており、この期間中に1,901人が承認された[35]。
シンガポール
2021年時点で、シンガポールには200,000人のミャンマー国籍者がいる。学生・福祉労働者・家事労働者および熟練技能者から構成される[36]。シンガポールのミャンマー人コミュニティは、ノヴェナ(英語版)に1875年に建立されたバーミーズ・ブディスト・テンプル(英語版)を中心としている[37][38]。また、ビルマ料理店・商店などが集まるペニンシュラ・プラザ(Peninsula Plaza)もコミュニティの文化的中心地として機能しており、「リトル・ミャンマー(Little Myanmar)」と呼称される[39]。
大韓民国
2022年時点で、大韓民国には27,000人のミャンマー国籍者がいる[40]。これは、国内における東南アジア系コミュニティとしては最大のもののひとつである。その多くは製造業・農業にたずさわる移民労働者であり、およそ4,000人が雇用許可制度のもとで就労している。また、学生・庇護希望者・難民も存在する[41]。カレン族は在韓ミャンマー人のうち重要な位置を占めており、2015年から2017年の間に、UNHCR支援プログラムを通じて140人以上のカレン難民が移住した[42]。
2025年、英陽郡は人口減少対策のため新たにカレン族世帯を受け入れる計画を発表した。仁川広域市の富平区は、多数のビルマ料理店や食料品店、仏教寺院が集まる文化的拠点となっており、「ミャンマー・タウン」とも呼ばれている[40]。
タイ

タイ王国において、ミャンマー人は最大の移民人口を占める。2014年ミャンマー国勢調査によれば、タイには1,418,472人のミャンマーからの移住者が居住しており、これは在外ミャンマー人の約70%に相当する[28]。在タイミャンマー人は3類型、すなわち専門職従事者・低技能労働者・紛争を逃れた難民に分類することができる。サムットサーコーン県には最大のミャンマー人コミュニティがあり[43]、そのほかにも国境の都市であるメーソット[44]およびラノーンにも大規模なコミュニティがある[45]。また、国境には9の公的な難民キャンプが存在し、およそ150,000人の難民が居住している[46]。最大のキャンプはメラ難民キャンプである[47]。
タイにおけるミャンマー人出稼ぎ労働者は、漁業・水産加工、建設、衣料、家事労働などの低技能職に従事することが多い[48]。マッコーリー大学の推計によれば、タイからミャンマーへの年金送金額は3億ドルを超える[49]。ミャンマー人移民はタイの国内総生産のうち4%から6.2%を産出している[50]。
イギリス
イギリスにおけるミャンマー人コミュニティの大部分を占めるのは、ビルマ族およびカレン族である[51][52]。2011年以前に移住したミャンマー人の多くは、軍政から逃れたカレンであった[53]。2005年から2008年にかけて、200人以上のミャンマー人がイングランドのシェフィールドに移住した[54]。また、ヨークシャー・アンド・ザ・ハンバーには、少数民族や政治活動家に対する国家の迫害を理由に、多くの庇護希望者が移送された[55]。
アメリカ合衆国

現在のミャンマーにあたる地域に祖先を有するすべてのアメリカ人が、ビルマ系アメリカ人(Burmese Americans)に分類される[56]。2010年国勢調査以降、「ミャンマー人(Burmese)」は「その他のアジア人(other Asians)」より分割され、独立した民族カテゴリーとなった[57]。2010年から2021年にかけ、アメリカのミャンマー人人口は2倍になり、2021年ミャンマークーデター以降もこの傾向は加速した。2023年8月時点で、ビルマ系アメリカ人は約322,000人いる[58]。
ビルマ系アメリカ人はアジア系アメリカ人の一集団であり、多くは東南アジア・南アジア系コミュニティに統合されている[59]。アメリカ最大のミャンマー人コミュニティはインディアナ州にあり[60]、国内の州のなかで最大の人口割合を占めている[61]。インディアナポリス・ミネアポリス=セントポール・フォートウェインが、もっともミャンマー人人口が多い[62]。
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- ↑ Budiman, Abby (2021年4月29日). “Burmese in the U.S. Fact Sheet” (英語). Pew Research Center's Social & Demographic Trends Project. 2023年3月26日閲覧。