外眼筋
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直筋

人間の眼球ではごく小さな中心窩部位のみが高解像度の視覚を提供するため、標的を追うには眼球を素早く正確に動かす必要がある。読書時などでは注視点を頻繁に移動させる。外眼筋の運動は随意的制御下にあるが、その多くは意識的努力なしに遂行される。随意制御と不随意制御の統合機構は研究が続けられている[5]が、不随意眼球運動には前庭動眼反射が重要な役割を果たすことが知られている。
上眼瞼挙筋は上眼瞼の挙上を担い、随意・不随意いずれの作用もとり得る。他の6つの外眼筋は眼球運動に関与し、4つの直筋と2つの斜筋から構成される。
4つの直筋は、上直筋、外直筋、内直筋、下直筋であり、その名称は付着位置に由来する。各直筋の筋腹の長さはほぼ等しく、約40mmであるが、随伴する腱の長さには差がある[6]。
斜筋
プーリー(滑車)系
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外眼筋の運動は、眼窩内の軟部組織から成る外眼筋プーリー(滑車)の影響下にある。プーリー系は外眼筋運動の基盤であり、リスティングの法則への適合にも重要である。プーリーの異所形成、不安定、障害といった病変は、特有の非共同性斜視を引き起こす。プーリー機能の異常は外科的介入によって改善し得る[7][8]。
起始と停止
4つの直筋は、眼窩後部の線維性環である総腱輪に起始し、眼球赤道より前方に直接停止する。直線的な走行にちなみ「直筋」と呼ばれる[5]。
内側と外側は相対的な用語で、内側は正中に近く、外側は正中から離れた位置を示す。したがって内直筋は鼻に最も近い筋である。上直筋と下直筋は、眼球を単に後方へ牽引するのではなく、わずかに内側へも牽引する。この後方内側方向の力により、いずれかの筋が収縮すると眼球に回旋が生じる。直筋による回旋は斜筋によるものよりも小さく、かつ方向は反対である[5]。
上斜筋は眼窩後部(内直筋にやや近接し、その内側)に起始し、前方へ走るにつれて筋腹は丸みを帯び[5]、眼窩上内側壁の軟骨性滑車へ向かう。滑車を通過する約10mm手前で腱性となり、滑車をくぐった後に眼窩を鋭角に横切って眼球外側後部に停止する。経路の後半は眼球の上方を回り込みつつ後方へ向かうため、収縮時には眼球を下方および外方へ牽引する[9]。
下斜筋は眼窩内壁の下前方に起始し、走行の途中で下直筋の下方を通って外側・後方へ向かい、外直筋の下方で眼球外側後部に停止する。収縮時には眼球を上方および外方へ牽引する[9][10][11]。
血液供給
神経支配
発生
機能
眼球運動
動眼神経、滑車神経、外転神経は眼球運動を協調的に制御する。動眼神経は上斜筋(滑車神経支配)と外直筋(外転神経支配)を除くすべての外眼筋を支配する。このため、内下方視は滑車神経により、外方視は外転神経により、それ以外の運動は動眼神経により制御される[12]。
運動の協調
中間方向の眼球運動は、複数筋の同時作用により達成される。水平に注視点を移す際には、一方の眼が外側(側方)へ、他方の眼が内側(正中側)へ動く。これらは中枢神経系により協調され、両眼はほぼ不随意的に共同して動く。これは、斜視(両眼を同一点に向けられない状態)の病態理解における重要な要素である。
眼球運動には主に2種類がある。共同運動(両眼が同方向へ動く)と、不共同運動(両眼が反対方向へ動く)である。前者は左右への視線移動に典型的であり、後者の例として輻輳(近くの対象に両眼を向ける)が挙げられる。不共同運動は随意的にも可能だが、通常は目標物の近接によって誘発される。
「シーソー」運動(一方の眼が上方、他方が下方を向く)は可能だが随意的ではない。片眼の前にプリズムを置くと、像が見かけ上偏位し、非対応点からの二重像を避けるため、プリズム側の眼が像を追って上下に動く。同様に、前後軸(前方から後方)まわりの共同回旋も自然に起こり得る。たとえば頭部を肩に傾けると、眼は反対方向に回旋して網膜像を垂直に保つ。
外眼筋の慣性は小さく、一方の筋の活動停止は拮抗筋の制動によるものではないため、運動は弾道的ではない[5]。
補償眼球運動
前庭動眼反射は、頭部運動時に注視を安定化させる反射であり、抑制性・興奮性信号により駆動される補償眼球運動を含む。
表
以下に、各外眼筋の神経支配、起始、停止、および一次・二次・三次作用(該当する場合)を示す[13]。
| 筋肉 | 神経支配 | 起始 | 停止 | 一次作用 | 二次作用 | 三次作用 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 内直筋 | 動眼神経 | 総腱輪 | 眼球 | 内転 | ||
| 外直筋 | 外転神経 | 総腱輪 | 眼球 | 外転 | ||
| 上直筋 | 動眼神経 | 総腱輪 | 眼球 | 上転 | 内方回旋 | 内転 |
| 下直筋 | 動眼神経 | 総腱輪 | 眼球 | 下転 | 外方回旋 | 内転 |
| 上斜筋 | 滑車神経 | 蝶形骨(滑車 (眼球)を介す) | 眼球 | 内方回旋 | 下転 | 外転 |
| 下斜筋 | 動眼神経 | 上顎骨 | 眼球 | 外方回旋 | 上転 | 外転 |
| 上眼瞼挙筋 | 動眼神経+交感神経 | 蝶形骨 | 上眼瞼瞼板 | 上眼瞼の挙上・後退 |
臨床的意義
動眼神経、滑車神経、外転神経は眼筋を支配するため、これら脳神経の損傷は多様な眼球運動障害を来す。両眼運動の不同期により複視が生じ得るほか、診察では眼振などの異常が観察されることがある[14]。
- 動眼神経障害:複視、斜視(両眼運動の協調不全)、眼瞼下垂、散瞳を呈し得る[15]。上眼瞼挙筋の麻痺により開瞼不能となる場合がある。支配筋の麻痺に伴う症状軽減のため、頭位を傾けて代償することがある[14]。
弱視は一眼の視機能が低下した状態である。また、眼筋麻痺は一つ以上の外眼筋の筋力低下または麻痺を指す。
外転神経麻痺による外側直筋麻痺は頭蓋内圧亢進の症状として現れることが多い。動眼神経麻痺は内頸動脈と前交通動脈が分岐する部分の動脈瘤を強く示唆する。
眼球運動障害はいずれも脳の障害、神経変性疾患、重症筋無力症などを示唆するので診断価値が大きい。また外眼筋の麻痺により眼球突出(目が飛び出る)を呈することもあり、これは頭蓋形成の先天異常、バセドウ病のほかでは内頸動脈海綿静脈洞瘻を示唆する。

