対物ライフル

主に狙撃に使われる、かつての対戦車ライフルに相当する大型の銃 From Wikipedia, the free encyclopedia

対物ライフル(たいぶつライフル、: anti-materiel rifle[注 1])は、大口径の弾薬を使用するである。過去に使用されていた対戦車ライフルと近い構造や規模を持つが、対物ライフルの開発目的は遠距離への狙撃であり、戦車装甲車の主要な装甲を打ち抜くことは一部を除きできなくなっている。

イギリス製のAW50

概要

対物ライフルは、重機関銃機関砲などに使用される大口径弾を使用するである。重い大口径弾の優れた弾道直進性を活かし、一般の小銃弾を使用する狙撃銃をはるかに上回る距離で狙撃を行える。軍事組織では遠距離から危険物や不発弾などを銃撃して処理することや、砂漠のように交戦距離の遠い地域で狙撃に使用される。警察組織では航空機ハイジャック犯などをより遠くから、風防ガラス越しに狙撃する目的で配備されることもある。使用する弾種にもよるが、土嚢や壁などの障害物に隠れる敵のほか、車両や駐機中の航空機に対して損傷を与えることも可能である。

通常のライフルよりもはるかに大型で反動も強いことから、土嚢や二脚などに設置して構えるほか、射手が腹這いになって安定させる伏射で使用される。

歴史

対戦車ライフル

M1918対戦車銃

1916年9月15日のフレール=クレスレットの戦い英語版において、連合国軍は歴史上初めて戦車の実戦投入を行った。これと相対したドイツ帝国軍は、小銃用徹甲弾K弾)を皮切りに、様々な対戦車装備の開発を進めた。1917年後半、戦車および飛行機(Tank und Flieger, TuF)を射撃することを想定した13.2x92mm TuF弾が開発され、これを発射するための火器として1918年からタンクゲヴェール M1918の配備が進められた。M1918は単純に小銃を拡大して大口径化しただけの設計であり、その反動の大きさ等から実用面での問題も大きかったが、“戦車の装甲を貫通して内部に被害を及ぼす銃”としての威力はあり、対戦車ライフルという兵器の元祖となった[1]

以後、対戦車ライフルは各国で各種口径の製品が多種多様に開発されたが、後に戦車の装甲技術の向上などで対戦車兵器としては陳腐化し、戦車に対する効果は視察装置や無限軌道(履帯)・ハッチといった弱点に限られるようになった。対戦車兵器として使いづらくなった後も、大口径・長射程の利点を活かし、遠距離での対人狙撃や、炸薬を組み込める大型の弾頭を榴弾のようにして陣地攻撃に使うといった転用が行われた。

大口径機関銃を用いた長距離射撃

M2重機関銃

対戦車ライフルと同様の大口径・強装薬な弾薬を用いる重機関銃機関砲は、その弾薬の強大な反動を本体の多大な重量が相殺してしまうため、優れた威力と射程と命中精度を持ち、単射での超長距離狙撃にも有効であった。このことは経験的に知られており、独ソ戦朝鮮戦争[2][3]ベトナム戦争[2][3]において、現場兵士の即興で対人・対物狙撃用として使用した例が見られた。

ベトナム戦争中の1967年、アメリカ海兵隊員カルロス・ハスコックは、重機関銃を用いて当時の狙撃距離の世界記録を塗り替えた。ハスコックが使用したのは、M3三脚に据え付け、土嚢で安定させ、Unertl 8Xスコープを取り付けたブローニングM2重機関銃(.50 BMG)だった。標的は2,500 yd (2,286 m)先にいた自転車に乗ったベトコンで、最初の射撃で自転車を破壊し、2発目の射撃でベトコンの胸を撃ち抜いた[4]

フォークランド紛争においてロングドン山を防衛していたアルゼンチン軍B中隊は、狙撃兵による狙撃のほかブローニングM2重機関銃による長距離掃射を行い[5]イギリス軍は同じように機関銃で応射したり、ミラン対戦車ミサイルを撃ち込んで陣地ごと排除したり[6][7][8][9]、手りゅう弾による肉薄攻撃という対抗策を採り、多大な犠牲を払いながら作戦を遂行した[5]

なおこのフォークランド紛争での重機関銃による射撃を、通常の射撃ではなく「単発撃」であったとする記述が、一部の和文文献には見受けられる(例えば[10][11][12])。しかしフォークランド紛争、狙撃銃、狙撃手、対物ライフルなどに関する英文の文献やその和訳書(例えば[2][3][5][6][7][8][9][13])には、「フォークランド紛争での重機関銃による単発撃」についての言及が見当たらない。また「フォークランド紛争での戦訓がきっかけとなって対物ライフルが開発された」とする説も、一部の和文文献(例えば[10][12])には見受けられるが、これも英文文献やその和訳書(例えば[2][3][5][6][7][8][9][13])では言及されていない。

このほか、ミュンヘンオリンピック事件における警察側の作戦上の失敗などから、軍事作戦や警察任務で狙撃の重要性が再認識されるようになる。この種の狙撃用としては、まず7.62mmのライフル弾を使うPSG1のような高品質のセミオートマチック狙撃銃が開発されたが、さらに1キロメートル超の狙撃能力、航空機キャノピー風防)や側面の厚いガラス窓などを安定して貫通できる能力などの必要性が挙げられるようになる。軍事においてはアフリカなど開けた戦場での遠距離射撃に対応するというコンセプトでデネル NTW-20のような火器が開発され、警察系では対テロ特殊部隊における大口径ライフルの需要も発生した[要出典]

大口径狙撃銃の開発

対戦車ライフルが兵器として陳腐化してかなり経ったあと、1980年代に大型ライフル射撃競技の愛好家向けとしての小規模な起業からスタートして開発・販売されていたバレットM82が、アフガニスタン紛争に関与していた中央情報局に注目され、少数だが購入されていたという。その後、小銃では破壊しきれない遠距離の爆発物を撃って処理する破壊力と射程を併せ持ち、重機関銃よりも軽便な火器として軍関係者の目に留まる。地雷IED、不発弾の除去に使える火器としてスウェーデン軍アメリカ空軍がこの目的でM82を採用し「対物銃」としての実績ができると、それ以後は同クラスの弾薬を用いるライフルも「対物ライフル」と呼ばれるようになっていった。

90年代に入って湾岸戦争に持ち込まれると、中東の広大な砂漠で遠距離を攻撃できることや、車両を破壊できる威力のある武器として大口径ライフルが再評価された。アフガニスタン紛争イラク戦争など開けた場所が多い戦場でも、アメリカ陸軍アメリカ海兵隊がバレットM82などによる遠距離狙撃で戦果を挙げた。

2017年6月23日、カナダ軍特殊部隊は、狙撃兵が3540メートル離れた距離から、マクミランのライフル銃「TAC-50」を使用し、過激派組織「イラク・シリア・イスラム国(ISIL)」の戦闘員を狙撃することに成功したと発表した。狙撃成功は世界最長記録となった[14]。その後ロシアのウクライナ侵攻において、ウクライナ保安局(SBU)所属の狙撃手による「ホライゾン・ロード」(Horizon’s Lord)銃による2023年11月の3800メートル、ウクライナ軍狙撃手による「Snipex Alligator英語版」銃による2025年8月14日の4000メートルで、対人狙撃距離記録は更新されていると報じられている[15]

こうした長距離狙撃用に、狙撃コンピューターとでも呼ぶべき、予め入力した或いは自動的に収集した各種データーに基づき、着弾予想点を表示する照準器[16]、物によっては自動トリガー機構を実装した物が登場している[17][18][19]

戦時の対物ライフルによる対人狙撃は、ハーグ陸戦条約で禁止されている「不必要な苦痛を与える兵器」に該当していると主張されることもあるが、諸条約で具体的に該当している部分はない[20][21]。炸裂機能を持つ一部の12.7mm弾などが、炸裂する銃弾による対人攻撃を禁止したサンクトペテルブルク宣言英語版に抵触するとされるものの、対物攻撃の場合と区別できず、規制には至っていない[22][23]

独自開発した、15.2 mm APFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)を使用する、ライフリングの無い滑腔銃身対物小銃 Steyr IWS 2000英語版 は問題が解決できず試作に留まったが、用途としては対物ライフルに近いものである。

主な対物ライフル

脚注

関連項目

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