気候変動フィードバック

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上位6つの気候変動フィードバック(上から順に二酸化炭素吸収・熱の(宇宙空間への)放射・水蒸気・雲覆・雪氷減少・植生喪失と海水温上昇)の相対的な大きさとそれが影響を及ぼす対象。正のフィードバック(赤)は温室効果ガス排出による地球温暖化を増幅し負のフィードバック(青)は抑制する。棒グラフ(横方向)の長さ (または面積)はそれぞれのフィードバックの相対的強さを示す。データは2022年IPCC第6次評価報告書に拠る[1]

気候変動フィードバック(きこうへんどうフィードバック、:Climate change feedbacks) とは、温室効果ガス(温暖化ガス)排出量に対して地球の気温がどの程度上昇するかに影響する自然のプロセスである。正のフィードバック地球温暖化を増幅し、負のフィードバックは抑制する[2]:2233

この記事では接頭語なしで単なるフィードバックという語を使用した場合、断りのない限り気候変動フィードバックを意味する。

初期の変化を増幅するフィードバックは正のフィードバック、抑制するフィードバックは負のフィードバックと定義される[3]。気候変動フィードバックを地球温暖化の文脈で言えば、正のフィードバックは温暖化を促進し負のフィードバックは抑制するが、定義としての正や負は、そのフィードバックが好ましいか否かという意味ではない[4]

フィードバックは大気中の温室効果ガスの量と、それに応じて生じる気温変化の両方に影響する。温室効果ガス排出は気候変動を引き起こす外的強制力であるが、フィードバックはそれに対する気候感度を制御する役割を担っている[5]:11

フィードバックを引き起こす初期の変化は、外的強制によっても気候システムの内部変動によっても生じる[2]:2222。外的強制には人為起源(温室効果ガス排出や土地利用変化など)と自然起源(火山噴火など)があり[2]:2229、気候システムを温暖化または寒冷化の方向に押し進めうる[6][7]

フィードバックの総和は負である。その主な理由は地球(惑星)が温暖化するにつれて増加する宇宙空間への熱放射(プランクフィードバック、後述)であり、この効果は他のどの単独フィードバックよりも数倍大きく[8]:96、それゆえ人為的気候変動のみでは暴走的温室効果を引き起こすことはないとされている[9][10]。しかし温室効果ガス排出が続くにつれて正のフィードバックの大きさは増大しており、それにつれ温暖化は急速に進行している[8]:95–96

フィードバックには物理的なものと生物学的なものがある。物理的フィードバックは雪氷減少による表面反射率アルベド)の低下や大気中の水蒸気量増加などである。水蒸気はそれ自身強力な温室効果ガスであるだけでなく、大気中の雲や気温分布に関わるフィードバックにも影響する。生物学的フィードバックは主に炭素循環において植物が二酸化炭素を取り込む速度の変化に関連している[11]:967。炭素循環は毎年の二酸化炭素排出量の半分以上を植物と海洋に吸収しているが[12]:676、長期的にはそれら炭素吸収源は飽和、高気温が干ばつ森林火災を引き起こし、その割合は減少すると予測される[12]:698[8]:96[5]:20

フィードバックの強さや相互関係は全球気候モデルによって推定され可能な限り観測データで較正される[8]:967気候変動シナリオではこれらモデルを使用して、地球が温室効果ガス排出にどのように応答するか、さらに温暖化に伴ってフィードバックがどのように変化するかを推定している[13]。一部のフィードバックは迅速に気候感度に影響する一方、氷床によるフィードバック応答は数世紀にわたる[11]:967。フィードバックは地域的な差異も生み出し、その一例が雪氷減少による極域増幅である。基本的な関係は理解されているが不確実性は依然として存在し、とくに雲のフィードバックに関して顕著である[14][15]。また炭素循環の不確実性は、二酸化炭素が植物に吸収される速度とバイオマス燃焼や分解によって放出される速度の大きさに起因している。例えば永久凍土の融解は二酸化炭素とメタンを放出するがその過程はモデル化が困難である[12]:677

物理的フィードバック

プランクフィードバック (負)

地球温暖化は、地球環境のさまざまな部分に吸収される熱量が、宇宙に放射される熱量を上回っていることから生じる。図には海洋(表層:0~700 m、中層:700~2000 m、深層:2000 m超)・陸域・氷圏(着氷および浮氷)・大気について、2006~2020年および1971~2020年(後者期間は括弧内値)の期間についての地球熱の相対的な割合(%)(1971~2020年の総熱取得量は赤)が表示されている[16]。温暖化が進むとプランクフィードバックにより宇宙への熱放射が増加するが、最終的には地球をより高い温度で安定させる[17]

プランクフィードバック(またはプランクレスポンス、プランク応答)は地球のような惑星の気候システムにおける最も基本的なフィードバックである[18]:19黒体の温度が上昇すると、ステファン=ボルツマンの法則に従い絶対温度の4乗に比例して赤外線放射が増加するので、地球温暖化につれて宇宙空間への地球からの熱放射が増える[17]。すなわちプランクフィードバックは物体が温度上昇とともに追加的に放出する熱放射で、強力な安定化応答であり基本的な熱力学現象であるため「ノー・フィードバック」レスポンスと呼ばれることもある[19]

地球の放射に影響する「灰色体」的性質の多くは、他の全球気候モデルフィードバック部分に含まれるとされ、気候システムの特定の強制・フィードバック関係に従って分配される[20]。理想的には、全球気候モデル、非直接的な測定、黒体推定のそれぞれから得られるプランクフィードバックの強さは、解析手法が成熟するにつれていずれ収束すると期待されている[19]

プランクフィードバックを気候変動フィードバックに含むかは文脈による。気候科学ではプランクフィードバックは、放射フィードバックや炭素循環フィードバックとは区別され、温暖化に内在する一性質として扱われる。しかし気候感度の計算においてはプランクフィードバックも含む必要がある[8]:95–96

水蒸気フィードバック (正)

クラウジウス=クラペイロンの法則により温度が上がると飽和水蒸気圧も上昇し、大気中の水蒸気量が増加する。水蒸気も温室効果ガスであるためその増加はさらに大気を温暖化させ、大気がより多くの水蒸気を保持できるようになる結果、正のフィードバックループが形成され、他の要因による負のフィードバックによって均衡に達するまで続く[11]:969。大気中の水蒸気圧増加の衛星観測値に基づく計算ではこのフィードバック強度は1.85 ± 0.32 W m²/℃とされ、これはモデル推定値1.77 ± 0.20 W m²/℃とほぼ一致する[11]:969。これは二酸化炭素の増加だけによって生じる温暖化を実質的に倍加させる効果を持つことを意味し[21]、他の物理的フィードバックとともに気候変動シナリオにおける温暖化予測に組み込まれている[13]

気温減率フィードバック (正または負)

気温減率(緑)は、地球上で極地を除き負のフィードバックである。もしこれを除外すると(橙色)、気候フィードバックの総和(黒)は負の度合いが弱まる[22]

対流圏における大気温度が高度とともに低下する割合を気温減率という[23][24]。熱の放出は温度に依存するため、比較的冷たい上層大気から宇宙へ逃げる熱(長波)放射は、下層大気から地表に向けて放出されるものよりも少なく、したがって温室効果の強さは高度とともに減少する温度の割合に依存している。理論モデルも気候モデルも共に、地球温暖化が高度による温度減少率を弱め、負の気温減率フィードバックを生じさせることを示している[25]。しかし極域では実際には正のフィードバックとなり、極域増幅温暖化に強く寄与してきた[26]。その理由は、極域のように強い逆転層をもつ地域では、地表が高い高度でよりも速く温暖化するため放射冷却が非効率になるからである[25][27][28]

表面アルベドフィードバック(正)

Average decadal extent and area of the Arctic Ocean sea ice since 1979.
北極の海氷の広がりと面積は、1979年の衛星観測開始以来減少している。
Annual trend in the Arctic sea ice extent and area for the 2011-2022 time period.
2011年から2022年までの北極海の海氷面積と規模の年間傾向。

アルベドとは、惑星表面が太陽放射をどれほど強く反射できるかを示す尺度であり、吸収を防ぎ冷却効果をもたらす。氷と雪で覆われたより白く反射率の高い表面は高アルベドで、海水や土が露出した暗色の表面は低アルベドであり太陽熱をよく吸収する。表面アルベドの変化はアイスアルベドフィードバックと呼ばれる現象に関連しており、その効果の一部は物理海洋学、土壌水分、植生被覆の変化にも関連している[11]:970

極域の氷床や海氷の存在はアルベドによりそれがなかった場合よりも極域を寒冷にしている[29]。氷河期では氷の増加が反射率を高め、太陽放射の吸収を低下し、惑星をいっそう冷却する[30]。しかし温暖化が進み氷が融解すると、アルベドの低下によりさらなる温暖化を引き起こし、それがさらなる融解をもたらし正のフィードバックが均衡に達するまで続く[31][32]北極海氷の減少は、北極の温暖化が1979年(衛星による連続観測の開始時)以来地球平均のほぼ4倍の速さで進行している主要因であり、極域増幅と呼ばれている[33][34]。一方南極では、海面上約4キロメートルの高さにまで及ぶ東南極氷床などの高い安定性のため、過去70年間では純粋な温暖化はほとんど経験していなかった[35][36][37][38]

2000年6月27日バフィン湾。薄い青の領域は融解池、最も暗い領域は開水域で、これらは白い海氷よりも反射率(アルベド)が低く温度を上昇させ、さらなる自己融解を促進する。

2021年時点の見積もりで全表面フィードバック強度は0.35 [0.10–0.60] W m²/℃である[8]:95。北極海氷の減少だけでも、1979年から2011年の間に0.21 (W/m²) の放射強制力をもたらし、これは同期間の二酸化炭素排出による影響の4分の1に相当する[32]。1992年から2018年にかけてのすべての海氷被覆の変化を合計すると、人為的温室効果ガス排出全体の10%にも相当する[39]。しかもアイスアルベドフィードバックの強さは氷損失の速度に依存し、高温暖化下ではその強さは2100年前後にピークに達するとモデルは予測している[40]

CMIP5モデルは夏季の北極海氷の完全消失を予測しており、これは高温暖化シナリオの下では十分あり得る[41][42]。これにより全球気温が0.16–0.21℃上昇し地域的には1.5℃を超える上昇が見込まれる。これらの計算は氷損失が地域の気温減率・水蒸気・雲フィードバックに与える二次的効果を含んでおり[43]、既存のモデル予測に追加的な温暖化を加えるだけのものではない[44]

また植生変化によるアルベドへの影響もある。例えば亜寒帯の一部の森林ではカラマツトウヒに置き換わりつつある[45]。カラマツは冬に葉を落とし雪により広く覆われるが、トウヒは年間を通して暗い針葉を保持しアルベドを低下する。

雲フィードバック(正)

高層雲と低層雲がどのように熱(長波)放射(上)および太陽光(短波)反射(下)に影響するかを示す図。数式は大気圏上端エネルギーバランスに対する高層雲・低層雲・および地表の平均寄与を示す[46]

雲は下から見ると赤外線放射を地表に戻し(=温暖化効果)、上から見ると太陽光を反射し赤外線を宇宙に放出する(=冷却効果)。低層雲は明るく高反射率であるため強い冷却を引き起こし、いっぽう高層雲は薄く太陽光を効果的に反射できないため温暖化を引き起こす[47]。これら全体としては雲は大きな冷却効果をもつが[11]:1022、気候変動は雲の種類の分布を変化、冷却を減少させ全体的には温暖化を加速させると予測されている[11]:975。そのような雲の変化は一部の緯度では負のフィードバックとして働くが[22]、地球規模では明確な正のフィードバックとなる[8]:95

2021年時点で雲フィードバック強度は0.42 W m²/℃と推定されているが[8]:95その信頼幅は–0.10から0.94であり、これはすべての気候フィードバックの中で最も大きい(=確かさが最も低い)。これは主として、海上に存在する雲の多くを観測することが困難なため気候モデルがその挙動をシミュレートするのに十分なデータが得られないことによる[11]:975。加えて雲は、石炭や残渣重油など硫黄を多く含む化石燃料からの未処理排煙などによって生じるエアロゾル粒子の強い影響を受けるため、雲フィードバックの推定には、これらのいわゆる「地球暗化」の影響は分離されなければならない[48][49]

これらの事情により雲フィードバックの推定は気候モデル間で大きく異なる。最も強い雲フィードバックをもつモデルは気候感度が最も高く、温室効果ガス濃度上昇により他よりも強い温暖化をシミュレートする[14][15]。一部の気候モデルは古気候証拠と矛盾するほどの過剰な温暖化をシミュレートしていることが判明し[50][51]、それらの結果はIPCC第6次評価報告書の気候感度推定からは除外された[8]:93[52]

生物地球物理学的および生物地球化学的フィードバック

炭素循環フィードバック(二酸化炭素、負から正になりつつある)

この炭素循環の模式図は、炭素が陸地・大気・海洋の間を年間数十億トン(ギガトン)単位で移動する様子を示している。黄色の字は自然の流れを、赤字は人為的な寄与を、白字は貯蔵された炭素を表している。この図では火山活動プレートテクトニクスなど、遅い(または深部)炭素循環は含まれていない[53]

地球の炭素循環フィードバックには正と負の両方が存在する。負の炭素循環フィードバックは大きく気候慣性や動的(時間依存的)気候変化の研究で重要であるが、温度変化に対してはあまり鋭敏でないため、気候感度を目的とした研究では別に扱われるか考慮されないことがある[20][54]。2007年のIPCC第4次評価報告書(AR4)以来、地球温暖化の予測には炭素循環フィードバックが含まれている[55]。当時はこれらの理解は限られていたが、それ以来向上してきた[56]

正の炭素循環フィードバックは、山火事の頻度や深刻さの増加、火災や乾燥による熱帯雨林の大規模喪失、その他地域での樹木損失などを含む[12]:698。アマゾン熱帯雨林は特に巨大規模で重要であり、気候変動による損害が進行中の森林伐採によってさらに悪化している。これら二重の脅威により、熱帯雨林の多くあるいはすべてがサバナのような状態に変わる可能性さえある(アマゾン熱帯雨林喪失転換点[57][58][59][60][61]

全体としては陸上と海洋の炭素吸収源は現在の排出量のおよそ半分を吸収しているものの、将来の吸収量は今後の二酸化炭素排出量で変化しうる。排出量が減少すれば吸収割合は増加し、残余排出量の最大4分の3を吸収できるが、その絶対量は現在よりも減少する。排出量が増加すれば吸収する絶対量も増加するが、その割合は2100年までに3分の1に低下しうる[5]:20。2100年以降も高排出が続けば炭素吸収源は飽和し、海洋の炭素吸収はさらに弱まり陸上は炭素吸収ゼロで100%排出源となり、仮に非常に強力な二酸化炭素除去ができたとしても、陸上も海洋もその後数十年間は純排出源となるおそれさえある[12]:677

海洋吸収

地球大気中に100ギガトン炭素分の二酸化炭素が放出された後のインパルス応答(推定389ppmの二酸化炭素を平衡背景濃度に加えた状況)。図示された各実線・点線は大気・海洋・陸地・生物圏の炭素吸収源との相互作用をシミュレートする様々なモデルの結果を示す。どのモデルも、過剰な炭素の大部分は数世紀以内に海洋や陸地の吸収源によって除去されてもかなりの割合が持続し、100年後時点で30~50%、1000年後時点でさえも20~40%が残存することを示している[62]

ルシャトリエの原理により、地球炭素循環における化学平衡は人為的な二酸化炭素排出量に応じて変化する。これを主に駆動するのは海洋であり、いわゆる溶解ポンプにより二酸化炭素を吸収する。現時点ではこれは現在の人為的排出量の約3分の1を担っているが、2005年の研究は数世紀の間にはいずれ人為的排出量の約75%が海洋に押し付けられるとし、「化石燃料二酸化炭素の寿命を一般向けに議論する適切な近似値は300年であり、そのうち25%は永遠に残ると考えるべきである」としている[63]。しかし海洋がそれを将来本当に吸収できるかは不確実であり、温暖化によって誘発される海洋成層化や海洋熱塩循環の変化に影響されうる。最大の要因は南大洋の状態、特に南大洋鉛直循環であると考えられている[9]。さらに重大なことに、海洋による二酸化炭素の吸収は海洋酸性化を引き起こし、サンゴ礁など海洋生態系に壊滅的な被害を及ぼしうる(気候変動による海洋への影響#海洋酸性化を参照)。

風化

地質学的な長期スケールでは、化学的風化が大気中の二酸化炭素を除去する役割を果たす。現在の地球温暖化のもとで風化は増加しており、気候と地表との間に重要なフィードバックが存在することを示している[64]生物的隔離もまた二酸化炭素を捕獲・貯蔵する。海洋における生物による殻(炭酸カルシウム)の形成は二酸化炭素を海洋から除去し石灰岩とするが[65]、数千年から数十万年を要する[66]

植物光合成

1982年から2015年にかけて主に二酸化炭素施肥効果により引き起こされた全地球陸上葉面積の増加[67]

植物(陸上)や植物プランクトン(海洋)の一次生産量は、二酸化炭素濃度の上昇が光合成を促進するため増加する(二酸化炭素施肥効果)。さらに、大気中二酸化炭素濃度が高くなると植物は気孔を開けたままでも蒸散による水分損失が減少するため、水の必要量も少なく済む。とはいえ干ばつの増加や生育に最適な温度条件を超える温暖化は一貫して植物の成長を制限し負の影響を及ぼす。推定では、植生は高緯度の極地付近では著しく増加する一方で熱帯では大きく減少するとされており、陸域全体では植生が炭素を吸収し続けるとの確信は高いものの、熱帯植生が現在より多くの炭素を吸収できるとの確信は中程度にとどまる[12]:677

二酸化炭素以外の温室効果ガス(生物起源、メタンでは正)

自然生態系におけるメタンガス放散とその気候フィードバック

メタン亜酸化窒素ジメチルスルフィドといった気候に関連する生物起源ガスの放出も地球温暖化の影響を受ける[68][69]メタン排出は既知の正のフィードバックである[70]。長期的な温暖化は淡水生態系のメタン産生微生物群集を変化させ、より多くのメタンが生産される。11年間の人工池の温暖化実験では、メタン生成菌群集が変化しメタン生成が不均衡に増加し、その増加量は温度に基づく予測をはるかに上回った[71]

一方で、海洋塩分・ジメチルスルフィド・粉塵・オゾン・生物起源揮発性有機化合物などの排出変化は、全体として負の効果を持つと予測されている。海洋から放出されるジメチルスルフィドなどは間接的な影響も及ぼす[72]。2021年の見積もりでは、これらの非二酸化炭素フィードバックは実質的に相殺されると予想されたが確信度は低く、全体のフィードバックは0.25 W m²/℃の範囲で正にも負にもなり得る[11]:967

永久凍土(正)

これまで述べてきた推定には永久凍土は含まれていない。これはモデル化が難しくその役割の推定が時間依存的であり、炭素プールが異なる温暖化レベルの下で異なる速度で消費されることによる[11]:967。その代わり、永久凍土は近い将来の温暖化に寄与する独立した過程として別途扱われ、以下に述べられる推定値が得られている。

(左)21世紀における永久凍土融解による温室効果ガス排出の9つのシナリオ。低・中・高排出の代表的濃度経路(RCP)に対応する二酸化炭素(二酸化炭素)とメタン(CH4)の排出量の限定的・中間的・激甚的反応量が示されている。(右)示された各大国の換算二酸化炭素排出量。棒の右側はその国の産業革命以来の累積排出量、左側はその国が2019年時点の排出量を今後も変えない場合のその国の21世紀の累積排出量である[73]

永久凍土融解による累積温室効果ガス排出は、人為的排出の累積量よりは小さいと予測されているが、それでも世界規模では重大であり、一部の専門家はそれを森林伐採による排出と比肩するものとしている[74]。IPCC第6次評価報告書は、永久凍土から放出される二酸化炭素とメタンは、温暖化1℃ごとに二酸化炭素換算で140億〜1750億トンに達すると推定している。比較のため述べると、2019年の人為的な二酸化炭素排出量は年間約400億トンであった[75]:1237

2022年の大規模レビューでは、温暖化を2℃未満に抑える目標が達成された場合、21世紀を通じての年間平均永久凍土由来排出量は2019年におけるロシアの年間排出量に相当すると結論づけられた。RCP4.5シナリオ(3℃をわずかに下回る温暖化、2022年時点で最も現実的とされているシナリオ)では、年間永久凍土排出量は2019年の西ヨーロッパまたはアメリカ合衆国の排出量に匹敵し、さらに高温暖化かつ最悪の永久凍土フィードバック応答のシナリオでは、中国の2019年排出量に近づく[74]

温暖化への直接的な影響を気温上昇で記述しようとした研究は少ない。2018年の研究では、温暖化が2℃に抑えられた場合、永久凍土の漸進的な融解は2100年までに全球気温を約0.09℃押し上げると推定された[76]。2022年のレビューによれば、温暖化1℃ごとに急速な融解によって2100年までに0.04℃、2300年までに0.11℃の追加上昇、温暖化約4℃ではおよそ50年間にわたり広範囲にわたる永久凍土の崩壊が発生し、さらに0.2〜0.4℃の追加的な温暖化をもたらしうる[77][78]

また2024年の研究は、永久凍土融解による北極沿岸の浸食は海洋の二酸化炭素吸収能力を低下させ、その地域で追加的な炭素−気候フィードバックを引き起こすことを明らかにした[79]

長期的フィードバック

二大氷床

地球上の主要な氷が失われることにより追加的に生じる温暖化:値は温暖化1.5℃で計算された[43]。特に影響が大きいのはグリーンランド氷床と北極海の海氷の喪失で、それぞれそれだけで0.13および0.19℃の追加の温暖化を引き起こす。氷床全体の消失には数千年を要しても、これらの他の氷は100-200年で消失しうる[60][61]

それぞれ世界最大の島と一つの大陸を覆うグリーンランド氷床南極氷床は、平均約2キロメートルの厚さがある[80][81]。グリーンランド氷床と西南極氷床は、長期的な温暖化が約1.5℃であれば完全に融解する可能性が高いが、東南極氷床の完全消失は温暖化5~10℃の場合である[60][61]

これら氷床は巨大さゆえに融解に伴う温暖化へのフィードバックは数千年単位であり、少なくとも2つの機構で進行すると考えられている[11]:977。まず氷が融解すると熱塩循環に影響が及ぶ。融解水は淡水であるため海面に到達すると下層に沈みにくい表層水となり、海中の層の間での酸素・栄養塩・熱の交換を妨げる。これは負のフィードバックとして作用し、研究は限られているが1000年間の平均で0.2℃の冷却効果と見積もられている[11]:977。さらに長期的な機構は先述のアイスアルベドフィードバックであり、長期的な気温変化に応じて発生する。温暖化が完全に逆転されない限りこのフィードバックは正となる[11]:977

グリーンランド氷床の完全消失は0.13℃、西南極氷床の消失は0.05℃、東南極氷床の消失は0.6℃の追加温暖化を引き起こすと見積もられている[43]。グリーンランド氷床の完全消失は北極域気温を0.5~3℃上昇させ、西南極氷床消失後の南極地域気温は1℃、東南極氷床消失後には2℃上昇させると推定されている[60][61]。ただしこれらの推定は地球温暖化が1.5℃にとどまるという楽観的前提に基づいたものである。

メタンハイドレート(メタンクラスレート)

メタンハイドレートあるいはメタンクラスレートとは、大量のメタンが水の結晶構造内に閉じ込められて凍結した氷に似た状態の固体であり[82]、一般的に海底堆積物の下(海面下約1,100m)に存在している[83]。2008年の研究によれば、特に東部シベリア大陸棚周辺にある比較的浅い堆積層から大量のハイドレートが急速に分解し、大量のメタンを放出して80年以内に6℃の気温上昇を引き起こしうる深刻な懸念があるとした[84][85]。一方2017~8年の研究ではハイドレートは温暖化に非常にゆっくりとしか反応せず、海底で分解してもメタンが大気に到達することは極めて困難であるとし[86][87]、これが正しいなら2100年までにメタンハイドレートが温暖化に寄与するとは予想されない[12]:677。しかし同時期の別の研究は、数千年スケールではハイドレートの分解が0.4~0.5℃の追加温暖化を引き起こしうるとした[88]

フィードバックの数式による記述

地球も熱力学的システムであり、長期的な気温変化は地球のエネルギー不均衡(EEI: Earth’s Energy Imbalance)に従い以下の式で表される。

ここでASRは吸収された太陽放射、OLRは大気上端から放出される長波(熱)放射を表す。EEIが正であれば温暖化、負であれば寒冷化である。ASRとOLRには、多くの気温依存的性質や、系の挙動を支配する複雑な相互作用を含んでいる[89]

比較的安定した平衡状態の周辺でこの挙動を診断するため、ここでΔという記号で示されるEEIの摂動を考える。この摂動は通常、自然的あるいは人為的な放射強制力(ΔF)によって引き起こされる。系の内部で安定状態へ戻ろうとする応答、あるいは逆に安定状態からさらに離れる応答をフィードバックλΔTとすると、

フィードバックは熱力学的過程であり、強制力は古典熱力学に従う熱力学的操作である。フィードバック全体は、線形化されたパラメータλと摂動気温ΔTによって近似される。これは、λの全ての構成要素(一次の近似として独立かつ加法的に作用すると仮定される)が温度の関数であるためである。

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この式で扱われているEEIに大きく影響するフィードバックの構成要素(i)はそれぞれ、= 水蒸気、= 雲、= 表面アルベド、= 炭素循環、= プランクフィードバック、= 気温減率である。すべての量は地球平均として解釈され、通常Tは地表の気温に対応させて表される[20]

特に温度依存性が強い負のプランクフィードバックはしばしば因数分解され、他の構成要素の相対的フィードバック増大量giによって表現されることがある。

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例えば水蒸気フィードバックはである。

現代の数値気候モデルと解析の文脈では、この線形化の枠組みは限定的に用いられる。その一つの用途は、異なるフィードバック機構の相対的な強さを診断することである。気候感度の推定は総フィードバックが負のままであり、一定時間の後に系が新たな平衡状態(ΔEEI=0)に達する場合に得られる[18]:19–20

気候政策への影響

関連項目

引用

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