液体複写機
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概要
1923年、謄写器メーカー・ディットーコーポレーション(Ditto Corporation、米国・イリノイ州)のウィルヘルム・リッターフェルドが開発した印刷技法である。北米、欧州、オーストラリアにおいて、PPC複写機が普及する1970年代にかけて、謄写版とともに学校や教会、クラブ、同人サークルなどにおける低コスト少部数の印刷用途に広く用いられた。
資器材はディットーのほか、英国ではアソシエーテッドオートメーション(英国・ロンドン市)が製造、ブロック&アンダーソン(同)が販売した「バンダ」(Banda)ブランドがもっともよく知られ、両商標はそれぞれの商圏で本技法による印刷の代名詞となった。このほか輪転謄写機メーカーであったA・B・ディック(米・イリノイ州)、ロネオ(英・ロンドン市)、デュプリカルボ(Duplicarbo、イタリア)[4]などの欧米メーカーの製品が知られた。
また印刷用紙のアルコール溶剤を塗布した部分だけに転写が行われる液体複写機ならではの特徴を利用し、複写機に組み込んだ歯車やカム軸の機構をレバーやボタンで操作することで伝票の特定の行や列を指定して溶剤を塗布し転写する、帳票発行専用の「行選択液体複写機」も登場した。チェコスロバキア発祥のオルミグ(Ormig、西ドイツ)製『オルミグ·システム·マシン』シリーズが世界的に知られ、日本でも企業の管理部門で多く使われた[5]。
日本における液体複写機
日本では商工省が1938年、Fluid duplicatorを訳した「液体複写機」の和名で米国の製品を紹介したが[6]、当時の少部数複写用途にはヘクトカーボン紙とコンニャク版(ヘクトグラフ)を用いる手法がまだ一般的で、普及には至らなかった。
戦後の1950年に、ヘクトカーボン紙で作成した原紙を用いる最初の国産機『アスミ・ヘクト輪転謄写機』が登場したのを皮切りに[4]、1970年代にかけて、デュプロ(『デュプロ』)や東芝事務機(『セーム』)、内田洋行(『陽光ヘクト』)、丸善(『シンプロコピー』)、三和(『サンビーム』)などが製造販売した。
日本では特に1960年代の企業や工場において、一度の記入で関連する複数種の伝票を発行し事務作業を効率化する「ワンライティングシステム」における帳票複写用として、欧米製の輸入品とともに広く用いられた[5]。
- 『バンダ・モデル10』(Banda Model 10)液体複写機。(イギリス・アソシエーテッドオートメーション製)
- 三和製『サンビーム』液体複写機の広告。(1961年)
- 帳票発行専用の『オルミグ·システム·マシン』シリーズ最上位機種で、行や列を選択して溶剤を塗布する機構をボタンによる電子制御とした『オルミグ・エレクトロニック』(ORMIG-ELECTRONIC)行選択液体複写機。30行以上の伝票も扱うことができた。(西ドイツ・オルミグ製)
- 『オルミグ·システム·マシン』シリーズの廉価機種で日本へ最初に輸入された『オルミグ・アコード』(ORMIG-AKKORD)行選択液体複写機の機能を紹介した日本での広告。親伝票の任意の項目に対応した共通のヘッダーを持つ複数種の子伝票を複写発行できる。(1956年)
原理

マスター(原紙)は筆記および版となる第一層と、染料で着色されたワックスを塗布した第二層で構成されている。第一層に筆記を行うと、その筆圧で第二層のワックスが第一層の裏面に鏡像となって付着する。筆記終了後第一層を引きはがし、ワックスが付着した裏面が表になるよう液体複写機の版胴に取り付ける。
マスター製作には専用の原紙に限らず、原理的に同一なコンニャク版(ヘクトグラフ)用のカーボン用紙(ヘクトカーボン紙)を用いることも多く、和名の一つの「ヘクト式複写機」はこれに由来する[7]。
液体複写機は版胴の手前に印刷用紙を溶剤で湿らせる芯が設けられており、内蔵または外付けのタンクから芯に溶剤が供給される。溶剤を含ませた印刷用紙を版胴に圧着させることで、マスターに付着したワックス内の染料が溶解し紙に転写される。原理上転写を繰り返すごとに徐々に色が薄くなり、印刷用紙の圧着に伴うワックスの剥落もあることから、1枚の原紙による印刷可能枚数はおおむね40枚程度で[8]、100枚を超える印刷は困難であった。
溶剤は揮発性が高く印刷用紙への影響を最小限にとどめるアルコール類が用いられた。初期はイソプロパノールとメチルアルコールの混合物で、のち1938年に電動輪転印刷機用として、トリクロロフルオロメタン、メチルアルコール、エチルアルコール、水、エチレングリコール、モノエチルエーテルを用いた非引火性で毒性の低い溶剤が開発された[9]。
ワックスの着色剤は安価で適度に耐久性があり、発色のよい紫色のアニリン染料が一般的に用いられたが、ほかに赤、緑、青、黒、オレンジ、黄色、茶色、ピンク、ミントグリーン、スカイブルーなどの各色のマスターが供給され、これらを組み合わせて切り貼りしたマスターを用いることで多色印刷もできた。ワックスの削り取りや切り貼りによる修正も容易で、一般的な文書印刷だけでなく、挿絵画家などの芸術家にも好んで用いられた。一方で日光や蛍光灯の紫外線による退色が激しく、長期間の保存に適していない難点がある。