溶媒効果
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酸塩基平衡
溶媒は反応物や生成物の安定性に影響を与え、平衡定数を変化させる。平衡はより安定化される物質の側に偏る。反応物および生成物の安定化は溶媒との、水素結合や双極子-双極子相互作用、ファンデルワールス相互作用を始めとする、分子間相互作用により起こる。
酸と塩基の電離平衡は溶媒変化の影響を受ける。溶媒の影響はその酸性もしくは塩基性によるものだけではなく、比誘電率や溶解度の選好からくる酸塩基平衡に関わる特定の化学種の安定化などによる影響がありうる。したがって、溶解度や比誘電率の変化は酸性および塩基性に影響を与える。
| 溶媒 | 比誘電率[1] |
|---|---|
| アセトニトリル | 37 |
| ジメチルスルホキシド | 47 |
| 水 | 78 |
上表から、極性の最も強い溶媒は水であり、次がジメチルスルホキシド (DMSO)、そしてアセトニトリルの順であることがわかる。次の酸解離平衡について考える。
- HA
A− + H+,
水は上に挙げたうちで最も極性の強い溶媒であるため、DMSOやアセトニトリルよりも強くイオン性化学種を安定化する。イオン化、そして酸性は水中で最も大きく、DMSO、アセトニトリルでより弱い。25 °C のアセトニトリル (ACN) [2][3][4]、DMSO[5]、水中における pKa の値を下表に挙げる。
| HA |
ACN | DMSO | 水 |
|---|---|---|---|
| p-トルエンスルホン酸 | 8.5 | 0.9 | 強 |
| 2,4-ジニトロフェノール | 16.66 | 5.1 | 3.9 |
| 安息香酸 | 21.51 | 11.1 | 4.2 |
| 酢酸 | 23.51 | 12.6 | 4.756 |
| フェノール | 29.14 | 18.0 | 9.99 |
ケト・エノール平衡
様々な 1,3-ジカルボニル化合物は下式で表されるケト-エノール互変異性を示す。
この互変異性は環状エノール型(シス型)とジケト型との間の平衡となることが最も多い。互変異性の平衡定数は次のように表式化される。
アセチルアセトンの互変異性平衡定数は次のように溶媒効果を受ける[要出典]。
| 溶媒 | KT |
|---|---|
| 気相 | 11.7 |
| シクロヘキサン | 42 |
| テトラヒドロフラン | 7.2 |
| ベンゼン | 14.7 |
| エタノール | 5.8 |
| ジクロロメタン | 4.2 |
| 水 | 0.23 |
上記の表から、極性の低い溶媒中ではシス-エノール型が支配的であり、極性の高い溶媒中でジケト型が支配的であることが見てとれる。シス-エノール型に生じる分子内水素結合は、分子間水素結合の相手が存在しない場合により顕著である。結果として、分子間水素結合の相手となりにくい極性の低い溶媒では分子内水素結合による安定化が起きる[要出典]。
反応速度に対する影響
しばしば、反応性と反応機構は孤立分子のふるまいとして描かれ、溶媒は不活性な支持体として扱われる。しかし、溶媒は実際に反応速度および反応次数に影響を与えることがある[6][7][8][9]。
平衡溶媒効果
溶媒は反応速度に遷移状態理論に基づいて説明できる平衡溶媒効果を与える。要点を言えば、反応速度は始状態と遷移状態とで異なる溶媒和に起因する溶媒の影響を被る。反応物分子が遷移状態に移行する際、溶媒分子は再配向して遷移状態を安定化する。遷移状態が始状態よりもより大きく安定化されるとき、反応速度は上昇する。始状態が遷移状態よりも大きく安定化されるとき、反応速度は低下する。しかし、溶媒和が異なるためには、溶媒再配向緩和(遷移状態配向から基底状態配向へ逆行)が十分に速い必要がある。したがって、平衡溶媒効果は鋭い障壁と弱い双極子を持ち、緩和の速い溶媒において観測される傾向にある。
摩擦溶媒効果
遷移状態理論があてはまらないほど非常に速い反応に対しては平衡仮説はあてはまらない。そのような場合で強い双極子を持ち、緩和の遅い溶媒が関わる場合、反応速度について遷移状態の溶媒和はあまり大きな役割を演じない。その代わり、溶媒の動力学的寄与(摩擦、密度、内圧、粘性)が反応速度への影響において大きな役割を果たす。
