火星の女王 (小説)
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『火星の女王』(かせいのじょおう)は、小川哲による日本の長編SF小説[1]。人類の火星移住から40年後、火星での未知の物質の発見をきっかけに、火星と地球に生きる人々の運命と社会の行方が交錯していくSFドラマ[1]。
| 火星の女王 Queen of Mars | ||
|---|---|---|
| 著者 | 小川哲 | |
| 発行日 | 2025年10月22日 | |
| 発行元 | 早川書房 | |
| ジャンル | SF小説 | |
| 国 |
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| 言語 | 日本語 | |
| 形態 | 四六判上製 | |
| ページ数 | 320 | |
| 公式サイト | www.hayakawa-online.co.jp | |
| コード | ISBN 978-4-15-210469-4 | |
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物語は主要人物4人(リキ・カワナベ、リリ-E1102、白石アオト、マル)の視点で描かれ、視点が次々と切り替わりながら進行する。
2025年10月22日、早川書房より書下ろしで単行本が刊行され[1]、同年12月、NHK総合にてテレビドラマ化された[2]。
制作背景(小説)
本作制作の発端は2022年4月、NHKから「火星で人々が暮らす未来を描くドラマの原作を作ってほしい」という依頼を受けたことにある[3]。当初、小川自身は宇宙を舞台とした物語に対して不安を抱いたが、過去作を理解している演出チームとの信頼関係や、自身が原作を担当することへの意欲から執筆を決意したという[3]。
物語の舞台は2125年、火星移住から40年を経た未来であるが、小川は、舞台が未来であっても「人間の感情や葛藤は100年程度では大きく変わらない」と考え、科学的設定よりも人物心理の描写に重きを置いた[3]。また、視覚障害を持つ主要人物のひとり、リリの描写については、「視覚のない世界」を読者に伝えることが大きな挑戦だったと語っている[3]。
制作にあたっては、ドラマ制作側から「映像化を意識せず自由に書くこと」を許可され、執筆の自由度を得た一方で、宇宙戦争やミサイル攻撃など現実的に映像化が困難な要素は初期段階から避けられた[3]。小川は、物語の複雑な時間軸や人物関係を整理するために年表や相関図を作ることはせず、頭の中で構造を構築し、執筆後に矛盾を修正する手法を採用した[3]。この方法により、複数の視点を立体的に描く作風が自然に本作にも反映されている[3]。
本作には、人間とは何か、ナショナリズムや異文化交流といった現代的・哲学的テーマも内包されており、小川は小説を自身の思考を探求するツールとして位置づけている[3]。さらに、生成AIの進化という現代的課題についても意識しており、AIは創作の補助的存在として活用可能である一方、物語の根幹はあくまで人間による創作に価値があると考えている[3]。また、出版不況や娯楽の多様化が進む現代においても、読者に向き合い小説の面白さを追求する意義が増していると述べており、新しいメディアや消費形態に対応した創作への挑戦心も示している[3]。
あらすじ(小説)
2125年、人類の火星移住から40年が経過し、ISDA(イズダ/惑星間宇宙開発機構)の地球帰還計画の採択により火星と地球との関係は揺らいでいた。そんな中、生物学者リキ・カワナベは火星で未知の物質スピラミンの異変を発見し、その報告が両惑星に波紋を広げる。地球行きを夢見る火星生まれの盲目の少女リリ-E1102と、彼女との約束を胸に地球で働くISDA職員・白石アオト、そして火星自治警察のマルはカワナベの発見を契機に運命を交錯させ、火星と地球の未来が動き始める。
登場人物
主要人物
- リキ・カワナベ / 川鍋理樹
- ホエール社研究部門の初老の生物学者で、火星の地底湖でレアメタルや生物の痕跡を探すシニアマネージャー。地球生まれ地球育ち。北海道札幌市出身。
- 「地球外生命体」を発見するため人生をかけて火星に渡りコロニー13の住人となり、偶然スピラミン結晶の異常な構造変化を発見する。「だからなんだ」が口癖。
- リリ-E1102 / リリ
- 火星生まれのISDA大学の女学生。21歳。コロニー1の住人。8歳で視力を失っている。二年に一度運行されるFTL便で地球へ観光に行くことを夢見ていたが、出発直前に何者かに誘拐される。
- 誘拐中も冷静に状況を分析し、犯人たちの会話から手掛かりを探ろうとする。
- 白石アオト
- ISDA種子島支部の職員(通信管制グループ)。かつて選抜試験に合格し火星で研修を受けた際にリリと知り合っている。地球帰還計画では帰還者の受け入れを担当する。
- リリの誘拐事件をきっかけに彼女の状況把握と火星支部との連絡係をタキマに任じられ、再び火星に関わることになる。
- マル / マル-G4131
- 火星自治警察の女性捜査員(非常勤)。コロニー1の住人。リリ誘拐事件の捜査にあたる。地球へ行くFTLに乗船するため、2千万パーシーを目標に貯金している。
- 火星と地球の政治的緊張の中で、独自の正義感と職務の狭間で葛藤する。睡眠時間を犠牲にして働いており、常に睡眠不足。人の名前を覚えるのが苦手。
周辺人物
- ルーク・マディソン
- ホエール社の最高経営責任者。コロニー13の代表。アメリカ出身の実業家。カワナベの報告をもとに、スピラミンを地球外生命体と断定して公表する。
- 企業的野心と政治的思惑が入り混じった行動で、火星と地球双方に波紋を広げる。
- タキマ・スズキ/ タキマ-E1102
- リリの母親。ISDAの元火星支部長で、5年前に辞令を受け地球へ戻り、現在は種子島支局長。地球帰還計画を主導する。
- 娘のリリが誘拐されたその背景には、ISDAでのその政治的立場が関わっているとされる。
- 白石恵斗(しらいし けいと)
- アオトの祖父(故人)。生物学者。元ISDA職員(天文学研究所所長)。宇宙人研究会特別名誉会員。30年前、定年退職を前にISDAを辞し沖縄に出向いている。
- ビエラISDA初代事務総長とは学生時代からの友人で、彼と同じく宇宙人の存在を確信していた。
- 20年前、FTLで火星に発掘プロープ用の機材238キロを運ぼうと申請したが、却下され、14年前に病死している。
- ミト-E3117
- 火星自治警察の捜査員。マルの同僚。ISDA大学卒のエリート。生真面目だが鈍くさいところのある男性。
- ガレ
- ISDA火星支部長。元コロニー1のエリアマネージャー。女性。
カワナベの関係者
- AJ
- ホエール社のエンジニア。カワナベの助手。
- 北村
- カワナベと3年間、沖縄の大学で同じ研究室に所属していた男性。カワナベより二つ年上。沖縄在住。
リリの関係者
- グエン
- ワンジー・ドーナツの教官。リリに「地球はろくでなしだらけだぞ」と告げる。
- マジマ
- リリの高校時代の物理学の先生。リリに「地球には怠け者しかいない」と告げる。25歳の時、初恋相手(裕美)にふられ、地球から火星にやってきた。
- ケイ
- リリの友人。10年前、帰星補助制度を利用して家族と地球行きを試みたがCEGAをパスできず、それ以降は訓練がきつく地球行きを断念している。
- 両親と妹は地球へ渡り、そこから火星には戻っていないことから、リリも同じように火星に戻らないのではないかと気を揉んでいる。
- リリの誘拐を目撃していたことから責任を感じ、自治警察で臨時捜査員に志願してリリの誘拐捜査に加わる。
- ミミ
- CEGAの訓練でリリと仲良くなった子。試験に落ちて次回(2年後)の定期便を目指す。
- キャン
- リリの大学の友人。CEGAに合格し地球に向かうリリに送別会を開いてくれた。
- マイク-A3362
- リリの大学のクラスメイト。反ISDAのMLF学生団体に所属していた。地球へ向かうリリに、火星に留まるよう説得するメッセージを送る。
- ケイと共に自治警察で臨時捜査員に志願してリリの誘拐捜査に加わる。
ISDA(イズダ)
惑星間宇宙開発機構。
- ファン
- 事務総長(2代目)。ロンドン本部に在住。
- ヨーレン
- 事務副総長。
- リー教授
- ISDA大学総長。
- ビエラ
- 初代事務総長。宇宙人の存在を確信していた。白石恵斗とは学生時代からの友人。
- 芦部(あしべ)
- 種子島支部の職員。技術部マネージャー。サーファー。
- 石原(いしはら)
- 種子島支部の職員。部長。
- 横山(よこやま)
- 種子島支部の職員。調達部。埼玉県所沢市出身。
- 金崎(かなさき)
- 種子島支部の職員(清掃員)。アオトを宇宙人研究会に勧誘する。アオトの祖父の口利きで清掃員をしている。
- 火星のスナイパーに隕石を飛ばされ命を狙われていると主張。
火星自治警察
- カエニマ
- 本部長。リリの誘拐事件の捜査状況をISDA種子島支部のアオトに報告するようマルへ伝達する。
- ポリ・オド
- 捜査員。リリに名前を名乗ってくれなかったことから、その行動や様子から彼女に「ポリ・オド」と仮りの名前を付けられる。
MLF
マルス独立前線。
- スックシリ-A0877 / ポテト
- エレボス宇宙空港の保安検査員。FTLに搭乗しようとするリリに優先搭乗の案内をすると告げ、手続き待ちの列から連れ出し誘拐する。
- コクーンの出身。容姿を確認できないリリからポテトと仮りの名を付けられる。
- ヴェシッチ-A1039 / チップ
- 採掘工。コクーンの出身。見た目で判断できないリリからチップと仮りの名を付けられる。
その他
- 辛島ジン(からしま ジン)
- 宇宙人研究会の会長。作家、宇宙人研究家、博物家。種子島出身。「種子島宇宙館」で収集した宇宙人関連の資料を公開している。
- 大学卒業後、新聞記者としてニューヨーク支部に勤務していた30歳の時にアメリカ政府の極秘資料を閲覧し、宇宙人の存在を確信している。
- チョウ
- コロニー1の代表。
- シュガー
- 22年前に発生したISDA火星支部襲撃事件の主犯だったMLFの人物。
- 襲撃事件の際に亡くなっているが、リリ誘拐事件の犯行声明文にその名前が用いられる。
- コビイ-A3362
- マイクの父親。13年前、砂嵐が吹き荒れるボレリアス盆地のレアメタル倉庫に在庫を確認に行った際、MRVごと盆地の谷底に落下し事故死している。
書誌情報
- 単行本:2025年10月22日発売[1]、早川書房、ISBN 978-4-15-210469-4
用語
物質
- スピラミン
- 火星の地底湖から採掘される耐放射線物質。3つの結晶構造パターン(Structure 1、Structure 2、Structure S)が存在することが確認され、リキ・カワナベにより、結晶構造が同期して変化する現象が確認される。
組織・団体
- ISDA(International Space Development Agency)
- 国際宇宙開発機構。火星開発および地球帰還計画を主導。
- ホエール社
- ルーク・マディソン設立の企業。小惑星採掘・輸送事業で世界一となり、コロニー13を単独建造。
- E
- ホエール社内の秘密部署。マディソンの私財で運営されている。
- MLF(Mars Liberation Front)
- マルス独立前線。反ISDAグループ。22年前にISDA火星支部襲撃事件を起こしている。
- コクーン
- 火星の互助組織。正式名称:ユニオン・マルティア。養護施設、診療所、学校、職業紹介所などを運営する非営利団体。
- 宇宙人研究会
- 宇宙人の痕跡を探す研究会。著名な科学者やISDA職員も参加。
- ディスク・マイナーズ
- 13年前、火星ツアーを行った地球の4人組バンド。
施設・設備
- コロニー13
- ホエール社が建造したコロニー。約1万2千人が生活し、成人は全員ホエール社の社員。地球帰還計画に調印せず独立運営を続けている。
- コロニー10
- インドの電力会社が母体のコロニー。
- コロニー9
- 6年前に撤退が決定したコロニー。住民は帰還と転居を終えている。
- コロニー8
- ドイツの製薬会社がメインスポンサーのコロニー。
- コロニー4
- ISDA火星支部が所在するコロニー。ISDAにより建造されている。
- コロニー1
- リリが所属するコロニー。解体されたコロニー9からタグレスがインフラ地区に流入している。地表にワンジー・ドーナツを供える。
- ワンジー・ドーナツ
- 地球重力1G(ワンジー)を再現するドーナツ状の遠心型人工重力施設。CEGA受験者は訓練として1週間滞在する。
- ヘリオスタット
- コロニーごとに管理される太陽光反射鏡。集熱塔に太陽光を集め熱が電気エネルギーに変換される。エネルギーを使い、火星の地下に眠る氷を溶かし水をくみ上げ、水から電気分解された水素はロケット燃料に、酸素は地下コロニーの住民の呼吸に消費される。
- エレボス国際宇宙空港
- 火星の宇宙空港。ネメシス5の発着地。
- フォボス
- 火星の衛星。FTL乗り換え地点。重力が小さいことからロケットが重力圏から脱出するのに必要な燃料を節約できる。
- ISS(国際宇宙ステーション)
- 地球と月のラグランジュポイントに位置する中継基地。FTL乗り換え地点。
- 種子島国際宇宙空港
- 地球の宇宙空港。AAGの発着地。
- 五峯荘
- ISDA種子島支部の職員寮。アオトら若手職員17人が下宿する。
宇宙船・輸送機
- FTL(ファスター・ザン・ライト)
- 火星‐地球間を航行する[注 1]大型惑星間宇宙船。核融合エンジンを搭載し、ブルーウィンドウ(二年に一度、地球と火星が最も接近する時期)に4カ月半で航行する。
- FTL2
- エンジンを増設したFTLの後継大型惑星間宇宙船。10年かけ200隻が新造され火星全住民を帰還させるため順次火星に飛び立つ予定。
- ネメシス5
- 火星‐フォボス間を運行する「ネメシスエンジン」を5つ積んだ小型宇宙船。FTLへの燃料や貨物、搭乗員を運搬する。
- メンフィス
- 40年前、最初期の火星開拓民を乗せた液体燃料式惑星間宇宙船。地球 - 火星間を8カ月で航行した。現在は無人貨物船として運行されている。
- AAG(Against All Gravity)
- 種子島国際宇宙空港からISSに向かう液体燃料式定期宇宙船(再使用ロケット)。「すべての重力にさからって」の略。
- ユニコーン
- ホエール社がチャーターした無人宇宙船。コロニー13への物資やAD134Mを運搬する。
計画・事件
- 地球帰還計画
- 火星撤退計画。ISDAはレアメタル採掘で投資回収を目指したが、植物栽培や薬品生産が難航し、地球からの補給が必要となった。また、地球でのリサイクル技術の進歩でレアメタル価格も下落し採算が悪化。支援継続を断念したISDAは、火星の採掘権を企業に譲渡して資金を得、FTL2を200隻建造。10年かけて火星の10万人を地球へ帰還させる計画に転じた。
- ISDA火星支部襲撃事件
- 22年前、コロニー内でパンデミックが発生し、その治療薬が地球出身者に優先的に配られたことで勃発した暴動。火星で始めて銃撃の死者が出た事件で、教科書にも載っている。
- ADKOF計画
- 白石恵斗が主導した「KII型文明の遺物発見計画」。
技術・機器
- AD134M
- 火星探索用ドローン。スピラミンやレアメタルの採掘に使用される。
- MRA
- 火星地上を移動する車両。
- ECA
- 屋外活動服(宇宙服)。
- ストライダー
- 無人巡回車。
- ネイルガン
- 火薬が存在しない火星で用いられる代表的な遠距離武器。
- 磁力ハンドカフス
- 火星自治警察が使用する手錠。
- 空気銃
- ISDA火星駐留軍が用いる遠距離武器。使用にはタグシステムを介したISDA本部の承認が必要。
- 分解機
- 水を水素と酸素に電気分解する装置。
- ペイロード
- 宇宙船の運搬能力を重量で示す単位。
- モビィ
- 小型AI端末。
社会・文化・制度
- タグシステム
- 火星住民の人体に埋め込んだタグから通話履歴や所在地・行動履歴を追跡するシステム。
- タグレス
- コロニーの不法居住者。タグを外して生活するコロニーの住民。
- CEGA(Certificate of Earth Gravity Adaptation)
- 火星生まれの人が地球へ行くために必要な「地球重力適応証」。
- 1日(1ソル)
- 火星の1日。地球時間に換算すると24時間39分。
- パーシー
- 火星で用いられる通貨単位。レアメタル1キロあたり平均8万パーシー。
- 地球年、地球キロ
- 地球基準に換算した火星での年数、キロ重量。
テレビドラマ
| NHK放送100年記念 特集ドラマ 火星の女王 | |
|---|---|
| ジャンル | 連続ドラマ |
| 原作 | 小川哲 |
| 脚本 | 吉田玲子 |
| 演出 |
西村武五郎 川上剛 |
| 出演者 |
スリ・リン 菅田将暉 シム・ウンギョン 岸井ゆきの 菅原小春 宮沢氷魚 松尾スズキ 滝藤賢一 デイェミ・オカンラウォン サンディ・チャン 宮沢りえ 吉岡秀隆 |
| 音楽 |
坂東祐大 yuma yamaguchi |
| エンディング | 「記憶と引力」 |
| 国・地域 |
|
| 言語 | 日本語 |
| 時代設定 |
2102年[注 2] - 2103年[注 3] 2125年 - 2127年[注 4] |
| 話数 | 全3話 |
| 製作 | |
| 制作統括 | 渡辺悟 |
| プロデューサー |
石川慎一郎 原英輔 大久保篤 服部竜馬 |
| 放送 | |
| 放送チャンネル | NHK総合テレビジョン |
| 映像形式 | 文字多重放送 |
| 音声形式 | ステレオ放送 |
| 放送国・地域 | |
| 放送期間 | 2025年12月13日 - 27日 |
| 放送時間 | 土曜 22:00 - 23:29 |
| 放送分 | 各89分 |
| 公式ウェブサイト | |
2025年12月13日から27日までNHK総合にて放送された[2]。全3回[2][4][5]。脚本は吉田玲子が担当する[2]。
制作背景(テレビドラマ)
- 企画
- 本作は、NHKが放送100年を迎える2025年に実施する「放送100年 宇宙・未来プロジェクト」の一環として制作され[5]、先述のとおり、テレビドラマ化を前提として執筆された直木賞作家・小川哲の同名小説を原作とする[3]。演出は『きれいのくに』(2021年)、『17才の帝国』(2022年)を手がけた西村武五郎が務めた。西村は、作品の中心的テーマとして「未知の物体」と「地球から見えない火星」という二重の未知を据え、「見えないものをなきものにしないための戦い」を描くことを意図した[6]。
- キャスティング
- 本作では多国籍キャストを積極的に起用している[6]。ヒロイン・リリ‐E1102役には台湾出身のスリ・リンがオーディションを通じて選出されたほか、台湾のサンディ・チャン、韓国のシム・ウンギョン、ナイジェリアのデイェミ・オカンラウォンらが参加した[6]。演出の西村は、出演者が母語で演技を行う際の表現力の高さに注目しており、多言語環境を作品の重要な要素として位置づけた[6]。
- 撮影
- 火星の環境を表現するため、撮影ロケーションは地球的な特徴を排することを基準に選定された[6]。大谷石の石切場をはじめ、茨城県内の浄水場やごみ処理場などが使用され、洞窟や光の差し込み方の異なる空間が重点的に採用された。火星が舞台であることから、水が画面に映らないよう細かな制約が設けられ、必要に応じてVFXによる画面加工が施された[6]。
- 多言語演出
- 現場では日本語・英語・韓国語・中国語が入り交じる多言語体制で撮影が行われた。西村は、多言語でのやりとりは舞台作品でも困難であり、映像作品だからこそ実現した試みであると述べている[6]。一方で、台詞の進行確認や意味の共有には調整が必要であり、「台詞が終わったか」「何と言っていたか」といった問題が頻発したため、リハーサルを増やすなどの工夫が行われた[6]。西村はまた、重要な台詞が字幕に頼らざるを得ない場面に忸怩たる思いもあったとし、言語の壁と創作上どのように向き合うかが制作上の課題であったと述べている[6]。
あらすじ(テレビドラマ)
人類の火星移住から40年、支配と反抗が交錯する火星社会に安定はなかった。ISDA(イズダ/惑星間宇宙開発機構)による統治の裏で、自由を求める火星の住人たちの声がくすぶる。そんな中、火星に正体不明の物体が出現し、人類の運命を揺るがす。火星生まれの盲目の女性・リリ-E1102は、地球の若きISDA職員・白石アオトとの約束を胸に宇宙船への搭乗を控えていた。しかし出発直前、人生を狂わせる大事件が勃発。火星と地球、そして人類の未来を動かし始める。
キャスト(テレビドラマ)
- リリ-E1102〈22〉(火星出身の目の不自由な女性) - スリ・リン[2]
- 白石アオト〈30〉(ISDA日本支局職員・リリの恋人) - 菅田将暉[2](幼少期:湯田幸希[7])
- ガレ-J0517 / ジュリ(ISDA火星副支局長) - シム・ウンギョン[2]
- チップ〈33〉(コロニーゼロの住人) - 岸井ゆきの[2](幼少期:岩川晴[8])
- マル-B2358〈33〉(ISDA警察捜査官) - 菅原小春[2](幼少期:安藤セナ[9])
- ミト-D5946(ISDA警察捜査官) - 宮沢氷魚[2]
- 白石恵斗(アオトの父・宇宙鉱物学者) - 松尾スズキ[2]
- エマ(互助組織コクーンの創設者のひとり) - UA[4]
- デイル-E0302(PUB TOKIOオーナー・人気DJ ) - 松岡茉優[4]
- ミドリ-E0106(人気俳優・DJ) - 鈴木亮平[4]
- 北村(新世紀出版の記者) - 滝藤賢一[2]
- ルーク・マディソン(ホエール社CEO) - デイェミ・オカンラウォン[4]
- ファン・ユートン(ISDA事務総長) - サンディ・チャン[4]
- タキマ・スズキ(ISDA日本支局長・リリの母親) - 宮沢りえ[2]
- リキ・カワナベ / 川鍋力〈65〉(科学者) - 吉岡秀隆[2]
- マイク-E1209(リリの同級生) - 上川周作[10]
- AJ(アキラ・ジッソウジ)(カワナベの助手) - 寛一郎[10]
- コーン(コロニーゼロの採掘作業員) - 栁俊太郎[10]
- ポテト(コロニーゼロの採掘作業員) - 米本学仁[10](幼少期:内藤煌成[11])
- 芦部(ISDA日本支局職員) - 末松暢茂[10]
- 白石カヤノ(アオトの祖母) - 銀粉蝶[10]
- シュガー(コクーンの創始者) - ソウジ・アライ[10]
- 火星憲兵隊隊長 - ローレライ・マッケルヴェイ[12]
- オリビア・ヨーレン(ISDA副事務総長) - クリスティアン・ブリュー[10]
- ワン(ISDA日本支局管制官) - 許豊凡[10]
- マヤンク・パテル(ISDA火星支局長) - ヴィカシュ・パリワル[10]
- モビィ(小型AI端末) / 語り - 高橋李依[4](英語音声:ケレン・ルイース[13])
スタッフ(テレビドラマ)
エピソードリスト(テレビドラマ)
| 話数 | 初回放送日 | 演出 |
|---|---|---|
| 第1話 | 2025年12月13日 | 西村武五郎、川上剛 |
| 2125年、人類が火星に入植して40年。ISDAによる「地球帰還計画」が採択され、火星社会は不穏な空気に包まれていた。そんな中、帰還訓練を終えたばかりの盲目の少女リリ-E1102が突如拉致される。犯人を名乗るシュガーは、リリの母であり地球帰還計画を推進するISDA日本支局長タキマ・スズキに、計画の即時中止を要求。リリは洞窟に監禁され、誘拐犯からネイルガンを向けられ母の決断次第で命が左右されると告げられる。 ISDA警察の捜査官マル-B2358とミト-D5946はリリの捜索を開始。一方地球では、リリの恋人でISDA日本支局職員の白石アオトが拉致の事実を知り動揺する。火星では地震の調査を進める科学者リキ・カワナベとAJが、コロニーゼロで怪しい動きを見せるチップたちを追い、その過程で未知の物体の存在に行き当たる。リリは隙を突いて逃亡し、優しさを見せた誘拐犯のコーンにISDAへの同行を持ちかけるが、仲間のポテトに阻まれ再び捕らわれの身となる。その異常な逃走劇はPUB TOKIOのオーナー・デイル-E0302によってマルへ通報される。 やがてホエール社が記者会見を開き、CEOのルーク・マディソンはカワナベが発見した「漆黒の球体」を公表する。それは超重元素による新たなエネルギー源であり、扱いを誤れば火星と地球を滅ぼしかねない危険な代物だった。22年前に地球で捏造と否定されたカワナベの研究が、今再び現実となったのだ。ISDA総長・ファン・ユートンはアオトに、彼の父・白石恵斗とカワナベが22年前に地球で共同研究していた物体を探すよう命じる。 再び捕らえられたリリは、チップから母・タキマへ地球帰還計画の即時中止を伝えるよう強要される。リリは火星の住民が地球に帰還しなければ、空気が止められる現実を知る。 | ||
| 第2話 | 12月20日 | 西村武五郎、川上剛 |
| リリを拉致したのは、ISDAによる地球帰還計画に反対する人々だった。22年前に感染症の治療薬を求めるタグレスとISDAとの間に勃発した「宇宙港事件」以来、ISDAはタグレスを切り捨て人口を減らす政策を続けており、今回も同じ運命が待ち構えているとチップは考えていた。その真相を知ったリリはチップに共感し、地球へ帰るべきか葛藤する。その後、マルたちISDA警察に救出されたリリは、自身の歌声と謎の物体の関係を探るカワナベから協力を求められる。 地球では、22年前に失踪した物体を追うアオトが父・恵斗と再会し、新世紀出版の記者・北村を紹介され、隠し持っていた物体を託される。火星では、マルの告白により、リリがコクーンの創設者のひとり・エマの娘であることが判明し、仲間を庇ったチップが駐留軍の暴行で命を落とす。リリはISDAへの不信を深め、アオトに連絡を取る。アオトは父の失踪に関わると疑っていたカワナベと対話し、物体の現象が火星と地球でまったく同時刻に起きていると伝える。 マルはチップの告白でシュガーの正体を知り、彼女のモビィに記録されエマのメッセージから、シュガーの妹・ジュリの存在に辿り着く。ジュリは兄とは別のやり方でタグレスを救おうとISDAに入りガレ-J0517として火星副支局長となるが、地球帰還計画を知り絶望する。マルは自死しようとするガレを探し当て、「まだ約束は果たせる」と説得する。 タキマはファンから、地球帰還計画の裏にある「火星改造計画」と、物体を利用した過酷な選択を知らされる。人類の未来のために誰かが憎まれ役を引き受けねばならないという現実が浮き彫りになる中、ガレは再びタグレスの立場を選び、マジソンを味方につけようと動き始める。そのころ、ファンの差配により物体、カワナベ、リリを確保する憲兵隊が動き出す。 | ||
| 第3話 | 12月27日 | 西村武五郎 |
| 火星ではマルが憲兵隊を足止めし、その隙にカワナベとリリは地表へ上がり車両で逃走するが、砂嵐に巻き込まれてしまう。一方、マディソンは最初から物体を奪う意図を持ち、AJとともにホエール社へ向かっていた。カワナベとリリは宇宙服で移動するも酸素が尽きかけ絶体絶命の危機が訪れるが、追ってきたマルの車両に救われる。そこでリリは、自身が22年前の宇宙港事件の日に生まれ、母エマと父シュガーを失っていた事実を知らされる。 マディソンの背後では、火星独立を志向するガレが立ち回り、住民暴動を扇動した「もう一人のシュガー」の存在が示唆される。地球ではアオトがISDA職員の芦部に追われつつも、物体の実験を続けたいと願い、タキマは物体を守る姿勢を明確にする。ホエール社ではカワナベとリリが物体の実験準備を進め、物体が「音」に反応している可能性が浮かび上がる。 火星と地球で同時に行われた実験は失敗に見えたが、実はリリの声を鍵として物体が起動し、ワームホールによる同時通信が成立していた。マディソンはこれを利用し、ファン総長の「テラフォーミングにより少数の火星住民の犠牲も辞さない」という発言を火星全体に暴露する。さらにガレは、22年前の暴動を扇動した真犯人がファン総長であった証拠を提示し、ISDAの闇が白日の下に晒される。 地球帰還計画は見直され、火星に残る自由も認められる中、リリは地球へ渡りタキマと再会、アオトと初めて訪れる海辺でデートする。2年後、カワナベの研究により物体は音を通じて星全体に呼びかける非視覚生命体の探査機である可能性が示される。人類は未知を恐れるのではなく、理解しようとする姿勢こそが未来を切り開くと示唆され物語は幕を閉じる。 | ||
関連商品(テレビドラマ)
- サウンドトラック
ドラマ「火星の女王」オリジナル・サウンドトラック(2025年12月13日発売、コロムビア・マーケティング)[14][15]
ラジオ番組
『ミドリ・デイルのアルトコロニーラジオ』は、2025年12月7日から28日までNHKラジオ第1で放送されたテレビドラマのスピンオフ・ラジオ番組[16]。全4回[16]。テレビドラマに登場する劇中ラジオ番組を、実際のラジオ放送として展開するリアルタイム連動企画となっている[16][17]。
ラジオ番組では、火星で人気を博す俳優・ミドリ-E0106(鈴木亮平)と、パブ「TOKIO」の名物経営者でラジオDJとしても活動するデイル-E0302(松岡茉優)が司会を担当。2125年の火星社会を舞台に、ユーモアを交えたトークでリスナーを火星世界へ誘う構成となっている[16]。
またオリジナルキャラクターである地球出身のアイドル・レイラ(伊藤万理華)が、地球からの中継コーナー「プレゼントフロムアース」のレポーターを毎回務め、最終話にはマイク-E1209(上川周作)がゲスト出演する[16]。
番組は2023年3月に初放送されたパイロット版の再放送(12月7日)を皮切りに、12月14日・21日・28日の3週連続で新作3本が放送された[16]。