白銀ジャック
東野圭吾による文学作品
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概要
制作背景
著者の東野は中学生のころから10年ほどスキーを趣味としていたが、20代半ばにスキーで大怪我をし、以来スキーから離れることになる[8]。その後、映画『私をスキーに連れてって』によるスキーブームが訪れるも、再びゲレンデに戻ることはなかった[8]。
しかし2002年、スノーボード専門誌『SnowBoarder』(実業之日本社)の編集長との縁でスノーボードを始める機会を得て、44歳にして初体験。転倒を繰り返しつつも半日で滑れるようになり、その楽しさに目覚めた[8]。以降は50歳を超えても熱心にゲレンデへ通い、1シーズン30 - 40日も滑る生活となり、すっかりスノーボードに魅了される[8]。
やがて「スノーボードの楽しさを題材に小説を書かない手はない」と考えるようになるが、そのころにはスキー・スノーボード人気が下降気味となっていた[8]。そんな中、あるスキーを題材とする映画が公開され、かつての『私をスキーに…』のようにゲレンデ人気を盛り返すことを東野は期待したが、その映画はスキー場でのルールやマナーを無視する主人公がさも魅力的であるかのように描かれていることを知り失望する[8]。そこで東野は「人任せにはできない」と、自らゲレンデを舞台にした映画を想定した物語を創作しようと決意する[8]。
ただ自分には『私をスキーに…』のようなラブストーリーは書けないため、スキー場を舞台にしたスリルとサスペンスの物語を構想し、ゲレンデを爆破すると脅す犯人と、それに立ち向かうスキー場の裏方たちを描き、アクションと謎解きの娯楽小説『白銀ジャック』が生まれた[8]。文学性よりも面白さを優先し、読者が映画を観るように脳内で広大なゲレンデを思い浮かべられる作品を目指した[8]。
あらすじ
年の瀬の新月高原スキー場に「3千万円を3日以内に用意しなければ、ゲレンデの下に埋めた爆弾を爆破する」と「埋葬者」を名乗る送り主から脅迫メールが届く。索道技術管理者の倉田玲司は、警察に知らせずに解決するよう経営陣から命じられ、パトロール隊員の根津昇平、藤崎絵留、新人の桐林祐介とともに秘密裏に調査を開始する。最初は悪戯かと疑われたものの、犯人から指示された地点を掘り起こすと起爆装置のようなものが発見され、脅迫が事実と判明する。スキー場と周辺地域に密かに不安が広がる中、1年前に北月エリアでスノーボーダーとの接触事故で妻を失った入江義之と彼の息子・達樹や、閉鎖された北月エリアの再開を望む町長の増淵康英らが現れ、脅迫事件は町の存続問題とも絡み合っていく。
犯人の指示に従いゲレンデで現金の引渡が行われ、現金を持ち去ったスノーボーダーは30メートルの飛翔で根津の追跡をかわし姿を消すが、爆弾の所在は明かされなかった。さらに3千万円の追加要求が突きつけられ、根津は憤りから犯人を追跡する決意を固め、再び取引に臨む。その一方で、倉田たちはゲレンデの安全を確保しつつ、近日中に開催予定のスノーボード大会のコースを設営する必要に迫られる。2度目の現金引渡で、大会へ出場するスノーボーダーの瀬利千晶は脅迫事件を偶然知ることとなり、事件に巻き込まれていく。そのころ倉田は、貸し切りにできる閉鎖中の北月エリアで入江の息子を滑走させれば、母が亡くなったトラウマを克服できるかもしれないと入江に提案する。
5千万円を用意するよう3度目の脅迫メールが届き、倉田や根津は妻を失った入江がスキー場への怨恨から脅迫しているのではと疑念を抱くが、引渡中に北月エリアで入江親子を滑走させ、その証人となる日吉夫妻を同行させることで潔白を示そうとする。ところが当日、入江親子は姿を消してしまう。やがて3度目の現金引渡が行われ、根津と千晶は現金を持ち去ったスノーボーダーたちをゲレンデで追跡し、ついにその正体を突き止める。犯人は新人隊員の桐林と北月町長の息子・増淵英也であった。しかし二人は「本物の犯人は別にいる」と告白。社長の筧純一郎をはじめとするスキー場の経営陣が、スキー場売却の妨げとなる北月エリアを切り捨てるため自作自演の爆破計画を進めており、現金の引渡不成立を口実に北月エリアを爆発しようとしていたのだ。桐林と英也はその計画を阻止するため、自分たちは金を奪って取引を成立させようとしたのだと明かすが、倉田のもとには現金の引渡が不成立のために報復行動に出るとのメールが届く。
真相を知った一同が北月エリアへ急行すると、爆発が起き雪崩が発生。しかし根津らは間一髪で単独で北月エリアを訪れていた入江親子や居合わせた日吉夫妻を救出する。ホテルに戻ると、日吉夫妻の正体がスキー場の買い手となる会社の会長夫妻であることが判明する。日吉は全てを理解した上で北月エリアを含めてスキー場の買収を約束する。これにより北月エリアの未来は開かれ、桐林らの行動も罪には問われないこととなる。そして英也は1年前の事故で入江の妻を死に追いやったスノーボーダーは自分であったと涙ながらに告白し、入江親子に謝罪する。事件の解決後、スノーボード大会は無事開催され、倉田たちが守り抜いたゲレンデで選手たちが躍動する姿に観客の声援が響き渡る。
登場人物
主要人物
- 倉田 玲司(くらた れいじ)
- 新月高原スキー場索道部マネージャー。技術管理者。未婚の40代男性。
- 20年前、広世観光に入社。その5年後には新月高原スキー場へ出向となり、現在に至る。
- 根津 昇平 (ねづ しょうへい)
- 新月高原スキー場のパトロール隊員。パトロール歴5年。7歳のころからゲレンデで滑っている。
- スノーボードクロス選手だが、1年前の北月エリアでの死亡事故を境に大会への出場を自粛している。
- 瀬利 千晶(せり ちあき)
- スノーボードクロスに取り組む女性スノーボーダー。20歳前後。
- 新月高原スキー場近くの居酒屋で住み込みでアルバイトをしている。
- 藤崎 絵留 (ふじさき える)
- 女性パトロール隊員。28歳。責任感が強く、根津と同じくらいパトロールの経験が豊富。美人。
- かつて大学で法律を学びながら、アルペンスキーでオリンピックを目指していた五輪候補。
- 桐林 祐介(きりばやし ゆうすけ)
- 今年入隊した新人パトロール隊員。スキーの腕前は抜群だが、何かと雑用を押し付けられる。
新月高原スキー場
- 辰巳 豊 (たつみ ゆたか)
- ゲレンデ整備主任。スキー場のホームページの管理責任者。
- 津野 雅夫 (つの まさお)
- 索道部主任。
- 上山 禄郎(かみやま ろくろう)
- パトロール隊員。
新月高原ホテルアンドリゾート
- 松宮 忠明(まつみや ただあき)
- 索道事業本部長。スキー場の安全統括管理者。倉田の上司。
- 老眼鏡をかけ、頬が垂れているので老いたブルドックのような顔。
- 中垣(なかがき)
- ホテル事業部長兼支配人。喫煙者。
- 宮内(みやうち)
- 総務部長。中垣の子飼い。
- 佐竹(さたけ)
- 営業部長。白髪頭。中垣の子飼い。
- 筧 純一郎(かけい じゅんいちろう)
- 社長。広世観光株式会社取締役を兼務。普段は東京に駐在。
- 小杉 友彦(こすぎ ともひこ)
- 社長秘書。190センチ近くある長身。
スキー・スノーボード客
- 入江 義之(いりえ よしゆき)
- スキー1級の腕前を持つスキーヤー。息子の達樹に母親が亡くなった現実を受け止めさせるため、新月高原スキー場に連れてくる。
- 新月高原ホテルアンドリゾートから最上階の16階にあるスイートを提供される。
- 入江 達樹(いりえ たつき)
- 義之の息子。小学5年生。スキーヤー。1年前に北月エリアでスノーボーダーとの接触時で母を亡くし、そのショックから立ち直れずほとんど学校に行っていない。
- 入江 香澄(いりえ かすみ)
- 義之の妻で、達樹の母。故人。スキーヤー。1年前、北月エリアでスノーボーダーに衝突され、頸動脈の切断で命を落とす。
- 日吉 浩三(ひよし こうぞう)
- スキー歴50年のテレマーク・スキーヤー。とある会社の相談役。
- 新月高原ホテルアンドリゾートの16階スイートに夫婦で長期滞在中。
- 日吉 友恵(ひよし ともえ)
- 浩三の妻。スキーヤー。
- 横内 快人(よこうち かいと)
- 千晶の従兄で、幸太の兄。スノーボーダー。来春大学を卒業予定の23歳。ランドクルーザーで弟と新月高原スキー場にやってくる。
- 表参道の交差点でスカウトされるほど容姿がかっこいい。 藤崎に一目惚れする。
- 横内 幸太(よこうち こうた)
- 千晶の従弟で、快人の弟。スノーボーダー。大学2年生だが1回落第している。
北月町
- 増淵 康英(ますぶち やすひで)
- 町長。
- 増淵 英也(ますぶち ひでなり)
- 増淵の息子。町役場に勤務。
- 長井(ながい)
- 副町長。
- 岡村(おかむら)
- 観光課長。丸顔の太った男。北月エリアのオープンの陳情に現れる。
用語
- 新月高原スキー場
- 新月高原ホテルアンドリゾートが経営する新潟[注 1]のスキー場。10年前にスノーボードを解禁したが、来場者数はここ数年は右肩下がり。
- 広世観光株式会社
- 倉田の出向元である観光事業を手掛ける企業。
- 新月高原ホテルアンドリゾート
- 広世観光の100パーセント子会社。新月高原スキー場を経営する。
- 索道部
- スキー場のリフトやゴンドラの運行を行う部署。
- ゴンドラ山麓駅
- 爆弾犯へ金を払う意思表示に、屋根に黄色の帯が付けられる。
- 北月町
- 新月エリアとのアクセスに難がある新月町の隣町。北月エリアのゲレンデは1年前の衝突死亡事故で閉鎖中。
書誌情報
漫画
テレビドラマ
テレビ朝日系で2014年8月2日に放送された。主演は渡辺謙。
渡辺は新潟生まれで、スキー学校の先生をしている父をもち[33]、実家がゲレンデ経営をしていたためスキーの腕前も一流で、2014年3月中旬から約3か月にわたって岩手県の安比高原スキー場に滞在し、スキー場全面協力の下、氷点下17度、風速25メートルという状況の中でスタント無しで撮影された[34][35]。
監督の藤田明二も学生時代はスキー部に所属していた経験を生かし[7]、高校時代からスノーボードに親しんできた岡田将生や[36]、スキーもスノーボードも未経験である広末涼子を含め[37]、演者がスキーに慣れているように見えるような演出が心がけられた[7]。また、現役のプロスノーボーダーやプロスキーヤーが多数出演し迫力ある滑走を披露している。
原作小説のファンでもある元フリースタイルスキー女子モーグル選手の上村愛子は一足早く作品を鑑賞し、「ゴーグルの付け外しやスキーウエアの着こなしなど、謙さんがすごくスキーに慣れている方なんだなって感じられて安心して観ていられた。」と太鼓判を押した[7][37]。
スキーやスノーボードのプロ級の追跡滑走シーンや、スキー場の爆発シーンなどで、映像化は無理だと言われてきた作品だったが[33]、東野圭吾も実際に撮影現場で渡辺の演技を見て、「元々自分がゲレンデを舞台にした映画を作るとしたらという空想からアイデアを得た作品なので、夢が叶った[34]。ダイナミックでスピード感溢れる映像と渡辺謙さんのスキーの腕前には驚いたし、人間ドラマの部分もしっかり描かれていた。」というコメントを寄せている[38]。
放送に先駆け、合計5万部の『白銀ジャック』特製ブックカバーを大型書店で無料配布する“ブックカバージャック”、東急電鉄の6路線の1編成を『白銀ジャック』のポスター4バージョンが完全に占拠する“中吊りジャック”、TOHOシネマズ日劇他で渡辺謙出演の映画『GODZILLA ゴジラ』の前に『白銀ジャック』のPR映像を流す“シネマスクリーンジャック”など、作品タイトルの“ジャック”にかけたPRが行われた[39]。
キャスト
- 倉田 玲司(安比高原スキー場ゲレンデ統括マネージャー) - 渡辺謙[40][41]
- 根津昇平(スキー場パトロール隊員) - 岡田将生[7]
- 藤崎絵留(スキー場パトロール隊員) - 広末涼子[7]
- 辰巳豊(スキー場ゲレンデ整備主任) - 鈴木浩介
- 桐林祐介(スキー場パトロール隊新人) - 庄野崎謙
- 入江義之(安比高原スキー場のスキー客) - 安田顕
- 増淵英也(北月町町長の息子・北月町観光課勤務) - 中尾明慶
- 瀬利千晶(スノーボードクロス・アマチュア選手) - 山下リオ
- 松宮忠明(索道部本部長) - 渡辺哲
- 中垣芳樹(ホテル事業本部長兼支配人) - 金田明夫
- 日吉浩三(安比高原スキー場のスキー客) - 平泉成
- 日吉友恵(浩三の妻) - 野際陽子(特別出演)
- 筧純一郎(安比高原ホテル&リゾート社長・広世観光株式会社取締役)- 國村隼
- 宮内(総務部長) - 近江谷太朗
- 増淵康英(北月町町長) - ベンガル
- 入江香澄 - 中込佐知子
- 入江達樹 - 須田瑛斗
- 上山禄郎 - 増田修一朗
- 老人 - 湯沢勉
- 平田署長 - 中西良太
- 小杉 - 田村幸士
- 横内 快人 - 田中彪
- 横内 幸太 - 町山博彦
スタッフ
- 原作 - 東野圭吾『白銀ジャック』(実業之日本社文庫)
- 脚本 - 竹山洋
- 音楽 - 朝倉紀行
- 監督 - 藤田明二(テレビ朝日)
- 企画協力 - 大石哲也
- スタント統括 - 五味克彦(実業之日本社)
- スキースタント - 河野克幸、河野健児、金澤朋未
- スノボスタント - 鶴田真到、荒木直子、池下"Jesse"孝志、神尾義明、西澤孝征、百瀬康昭、麻生真桜、吉田安亨
- 雪上ライディング撮影 - 佐藤トチ、福島毅、澁谷祐仁
- カメラ協力 - GoPro
- ロケ協力 - 安比高原スキー場、ホテル安比グランド、盛岡広域フィルムコミッション、八幡平市
- サウンドデザイン - 石井和之
- 技術協力 - バスク、ビデオスタッフ
- VFX・CG・美術協力 - テレビ朝日クリエイト
- 音響効果 - スポット
- 機材 - 麻生リース
- 空撮 - トーフナ映像
- チーフプロデューサー - 五十嵐文郎(テレビ朝日)
- プロデューサー - 中込卓也(テレビ朝日)、松井洋子(5年D組)、中山秀一(5年D組)
- 制作協力 - 5年D組
- 制作著作 - テレビ朝日