破獄

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破獄』(はごく)は、吉村昭の長編小説。雑誌『世界』に1982年から1983年に連載、岩波書店より1983年11月24日に刊行された。4度の脱獄を繰り返した実在の受刑者白鳥由栄をモデルに、脱獄の常習犯である主人公とそれを防ごうとする刑務官たちとの闘いを描いた犯罪小説である。第36回読売文学賞(小説部門)、第35回芸術選奨文部大臣賞(文学部門)受賞作品。

1985年と2017年にテレビドラマ化された。

概要

戦前から戦後の混乱期にいたるまでの刑務所の実態を克明に描いた歴史小説との解釈も可能である。

吉村は“長きに渡り矯正業務に関わった人物(元刑務官)から聞いた、実在の天才的脱獄犯(白鳥由栄)にまつわる話を基にした”という。

赤い人』同様、会話文が少なく、地の文が多い。

あらすじ

物語は昭和八年、青森県警察部の刑事課長・桜井均の粘り強い捜査から始まる。桜井は未解決の強盗殺人事件を追い、ついに佐久間を逮捕する。岩手県警察部の板橋長右衛門刑事課長の同意を得て青森へ移送された佐久間は、準強盗致死罪による無期刑囚として収監される。

佐久間は幼いころに両親と死別し、親戚の家を転々とするという孤独な生い立ちを抱えていた。成人してからは魚の行商を経て豆腐店を営むようになり、ようやく手にした家庭こそが彼の寄る辺であった。昭和八年、青森県警察部の桜井均によって逮捕された際、佐久間には愛する妻と子供たちがいた。準強盗致死罪という重罪で無期刑を言い渡された彼にとって、家族との再会は生存の唯一の目的となる。

昭和十一年、青森刑務所から最初の脱獄を果たす。五尺二寸と小柄ながら、肩幅が広く驚異的な腕力を持つ佐久間は、視察孔の僅かな隙間に身体をねじ込み、関節を脱臼させて抜け出すという、常人には不可能な手法を用いた。桜井は佐久間が妻子のもとへ戻ると予測し部下を張り込ませるが、佐久間の執念は警察の包囲網を嘲笑うかのように展開していく。

桜井均は、佐久間が逃走後に妻子のもとへ立ち寄ると確信し、青森県下の自宅周辺に厳重な張り込みを敷いた。しかし、佐久間は警察の予測を上回る執念を見せ、山中に潜伏しながら驚異的な脚力で追跡をかわし続ける。結局、空腹に耐えかねて民家に押し入ったところを、板橋長右衛門が指揮を執る岩手県警察部の手によって、盛岡市内で再び取り押さえられた。

再逮捕された佐久間は、青森刑務所での醜態をそそごうとする当局によって、秋田刑務所へと送られる。そこで彼を待ち受けていたのは、日光すら遮断された「鎮静房」という名の地獄であった。秋田刑務所側は、青森での脱獄を教訓に、壁面を滑らかな銅板で覆い、手掛かりを一切排除した特殊な独房を用意する。さらに佐久間は、重い手枷をはめられたまま、二十四時間の監視下に置かれた。

しかし、佐久間の身体能力は管理側の想像を絶していた。彼は、布団を頭からかぶって寝る癖を逆手に取り、深夜、寝床の中で密かに手枷を外す訓練を繰り返す。そして、銅板の継ぎ目の僅かな腐食を見逃さず、指先だけで垂直の壁を這い上がった。昭和十七年、吹き荒れる暴風雨の音に紛れ、彼は天窓の釘を口に含んだ釘抜きで引き抜き、再び外部へと脱出したのである。この二度目の破獄は、日本の行刑史上、最も不可能な脱獄として関係者に衝撃を与えた。

事態を重く見た司法省は、日本最北の地、網走刑務所への移送を決定した。網走刑務所長の山本銓吉は、国家の威信にかけて佐久間を封じ込めるべく、厳重な管理体制を敷く。看守部長の内野敬太郎らが監視の目を光らせ、佐久間には二十キロ近い重さの手錠と足枷が嵌められた。戦時下の食糧不足と酷寒の中、佐久間は肉体的な限界に追い込まれるが、ここで彼は、毎食の味噌汁を鉄格子の接合部に吹きかけ、塩分で鉄を腐食させるという、数年越しの気の遠くなるような計画を完遂する。昭和十九年、彼は再び闇へと消えた。

戦後の混乱期、札幌で再び捕らえられた佐久間に対し、札幌刑務所の戒護課長・亀岡梅太郎は、老朽化した施設と進駐軍との交渉に追われながらも、この「怪物」の監視に神経を磨り減らす。一方、GHQ軍政部保安課長のオックスフォード大尉は、当初、日本の行刑制度を前時代的で残酷なものと批判し、佐久間に同情的であった。しかし、佐久間の過去の脱獄手口を精査するにつれ、その異常なまでの逃走能力に恐怖を抱き、より警備の厳重な東京の府中刑務所への移送を急がせることになる。

小菅刑務所時代に唯一自分を人間として扱い、公正に接した今野守衛官との再会が、佐久間の頑なな復讐心を溶かしていく。佐久間は札幌でも床下を掘り進め、四度目の脱獄を目前にしていたが、今野の誠実な説得を受け、自ら脱獄を断念する道を選んだ。

最終的に佐久間は府中刑務所へ移管される。府中刑務所長の鈴江圭三郎は、行刑局長からの要請を受け、幹部職員と共に万全の対策を練って佐久間を迎え入れた。しかし、信頼を知った佐久間は、そこで模範囚として静かな日々を送り、ついに昭和三十年代に仮出所を迎えることになる。

主な登場人物

佐久間 清太郎
主人公。7月31日生まれ。準強盗致死罪による無期刑囚。
5尺2寸の小柄な体型だが、肩幅が広くて腕力がある。斜視
幼いころ両親と死別して親戚に預けられ、成人した後魚の行商から豆腐店を営むようになっていた。
布団を頭からかぶって寝る癖があり、看守が注意しても直さない。
桜井 均
青森県警察部刑事課長。のちに青森警察署長。
昭和8年に発生した未解決の事件を独自に捜査。粘り強い捜査により佐久間を逮捕するに至る。
佐久間の破獄との連絡を受けて、県下に住む妻子のもとに戻ると考え、部下を張り込ませる。
板橋 長右衛門
岩手県警察部刑事課長で、全国最古参の刑事課長。
面識のあった桜井の要請を受けて、別件で逮捕した佐久間を青森県に移送することを同意する。
山本 銓吉
網走刑務所長。
司法省の信頼に応えるため、移送されてきた佐久間に対して、厳重な管理をすることを決める。
内野 敬太郎
網走刑務所看守部長。柔道・剣道の有段者。
沿岸を防備する第31警備隊に依頼された道路工事のため、駆り出した囚人たちを監視する。
のちに人員不足のため、刑務所内の工場で働く200人の囚人を1人で監視することになる。
亀岡 梅太郎
札幌刑務所戒護課長。囚人監視の最高責任者。前職は網走刑務所看守長。
網走に在籍していたが、当時は庶務課長だったため、札幌で初めて佐久間を担当することになった。
慢性的な食糧不足と老朽化した建物、さらに進駐軍との交渉で苦労する。
オックスフォード
大尉。GHQ軍政部保安課長。
日本人は残酷であるとの考えから、当初は佐久間に対して同情的だったが、実情を知るにつれて再び逃走されることを恐れ、府中刑務所に移送するように手続きを取る。
鈴江 圭三郎
府中刑務所長。
明治大学法学部卒業後司法省に入り、佐久間が収容される前の網走刑務所長、札幌刑務所長を歴任。昭和22年8月から府中刑務所長に着任していた。
行刑局長から佐久間清太郎を府中刑務所に移管されることを告げられ、幹部職員と対策を立てることになる。
鈴江のモデルになった人物が、のちに吉村昭にこの話を語り、「破獄」が書かれた。

あとがきには、「素材の性格上人物のほとんどを仮名にし、同様の意味から協力して下さった多くの関係者の名を記すことをひかえる」、との記述がある。

書誌情報

テレビドラマ

1985年版

概要 ドラマスペシャル 破獄, ジャンル ...
ドラマスペシャル
破獄
ジャンル テレビドラマ
原作 吉村昭
脚本 山内久
演出 佐藤幹夫
出演者 緒形拳
津川雅彦
中井貴恵
佐野浅夫
趙方豪
織本順吉
なべおさみ
玉川良一
田武謙三
綿引勝彦
国・地域 日本の旗 日本
言語 日本語
製作
プロデューサー 村上慧
撮影監督 村松一彦
製作 NHK
放送
放送チャンネルNHK総合テレビ
音声形式モノラル放送
放送国・地域日本の旗 日本
放送期間1985年4月6日
放送時間土曜 21:00 - 22:30
放送分90分
回数1
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「ドラマスペシャル」としてNHK総合テレビ1985年4月6日の21時から22時30分にスペシャルドラマとして放送された[1]。脚本は山内久。緒形拳と津川雅彦がダブル主演を務めた。第1回芸術作品賞受賞作品[2]

NHK BSプレミアムにて2020年6月20日の21時から22時30分に再放送された[3]

キャスト(1985年)

スタッフ(1985年)

  • 原作 - 吉村昭
  • 脚本 - 山内久
  • 美術 - 小川和夫
  • 技術 - 佐藤守邦、渡辺敏明
  • 効果 - 大和定次
  • 照明 - 木下正雄
  • カメラ - 村松一彦
  • 音声 - 高木忠雄
  • 記録 - 那須正尚
  • 演出 - 佐藤幹夫
  • 制作 - 村上慧

2017年版

概要 破獄, ジャンル ...
破獄
ジャンル テレビドラマ
原作 吉村昭
脚本 池端俊策
演出 深川栄洋
出演者 ビートたけし
山田孝之
松重豊
寺島進
渡辺いっけい
勝村政信
池内博之
中村蒼
橋爪功
上杉柊平
吉田羊
満島ひかり
ナレーター 吉田羊
製作
プロデューサー 田淵俊彦(テレビ東京)
川村庄子(テレビ東京)
浅野敦也(ドリマックス・テレビジョン)
橘康仁(ドリマックス・テレビジョン)
制作 テレビ東京
放送
音声形式ステレオ放送
放送国・地域日本の旗 日本
放送期間2017年4月12日[4][5]
放送時間21:00 - 23:18[6]
放送分138分
回数1
公式サイト
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2017年4月12日テレビ東京で開局記念日スペシャルドラマとして放送された[7]。視聴率は6.9%(ビデオリサーチ調べ、関東地区・世帯・リアルタイム)[8]

フランスカンヌで開催された世界最大規模の国際テレビ番組見本市「MIPCOM 2017」で、「MIPCOM BUYERS’ AWARD for Japanese Drama」グランプリ[6]国際ドラマフェスティバル in TOKYOのメインイベント「東京ドラマアウォード2017」の作品賞「単発ドラマ部門」のグランプリを受賞した[9]

主演のビートたけしは無期懲役囚・佐久間清太郎役のオファーを1985年以降に受けていたものの、雪の中を走るのが嫌で断っていた[2]。しかし本作は看守役でのオファーでいつもとは違うタイプの役であったため、チャレンジすることを決めたという[2]。佐久間を演じた山田孝之は、他の全ての仕事をやめて撮影と役作りに没頭[10]、身体を鍛え、津軽弁を練習し[11]、マイナス気温の網浜や長野でふんどし一丁で雪の中を走ったり[10]、手錠を手足につけた状態で壁に頭を打ちつけたりするなどの過酷な撮影を行った[2]

キャスト(2017年)

スタッフ(2017年)

脚注

関連文献

関連項目

外部リンク

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