箱庭療法
部屋のおもちゃを箱の中に入れていく、心理療法のひとつ
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歴史



1911年、SF作家のH. G. ウェルズ(Herbert George Wells)が自分の子供と床の上でミニチュア玩具を並べて遊んだ印象深い体験に基づいて、「フロア・ゲーム(Floor Games)」という本を書いた。その本を読んで感動したイギリスの小児科医でクライン派のマーガレット・ローエンフェルト(en:Margaret Lowenfeld)が世界技法(The World Technique)を作り、1929年に発表した。その後、スイス人のドラ・カルフ(Dora Kalff)がユング心理学を基盤としてさらに発展させ、「砂遊び療法」(Sandplay Therapy, Sandspiel Therapie)として確立した。
箱庭療法は当初は主に子ども用のセラピーとして使用された。その理由として、子供や思春期の人間は複雑な概念や言語の構成が苦手であり、どちらかというと、遊びや象徴的な表現の中で、自己表現をすることが多く非言語的な手法による治療は有意義との意見がある。しかし、その後、子供だけでなく、広く精神障害を持つ患者に使用されている。また、世界的に日本ほど、箱庭療法が急速かつ、広範に普及した例はなく、現在は日本から中国・韓国などの地域にも徐々に広まっている。また、ヨーロッパ・米国においても使用されている。
1985年に国際箱庭療法学会(International Society for Sandplay Therapy) が設立された。
日本への導入
ユング研究所に留学中だった河合隼雄の友人が、カルフに日本人がスイスで研究していることを告げ、河合とカルフが会うことになる。カルフと会った河合は、箱庭療法を体験することになるが、箱庭を見た際に、直観的に河合がかつて小学生の頃に見た「箱庭遊びと似ている」と思ったという。河合隼雄は箱庭療法に接した際、欧米と比較して非言語的表現の多い日本の文化に適していると思い、日本へ導入したと語っている。(「箱庭療法」はSandplay Therapyの河合隼雄による訳である。)
そして1965年、河合隼雄により箱庭療法が日本に紹介された。最初は天理市と京都市に導入され、実践と同時に多くの箱庭療法に関する研究も京都大学の河合隼雄や、山中康裕、岡田康伸(3人ともに臨床心理士)などを中心に行われる。その後は、一つの大学にとどまらず他の大学においても活発な実践・研究が行われるようになる。
現在では、病院・学校等の心理相談室、少年鑑別所などの機関で使用されている。
日本の中の箱庭のルーツ
道具
箱、砂、おもちゃ(ミニチュア)類である。
箱
箱は所定の大きさがあり、それを使用することになる。米国では箱庭療法を導入している病院があるが、基本的に箱のサイズは規格化されておらずバラバラである。
- 箱庭の枠
ちなみに、箱庭の枠(高さ7cmの部分)であるが、これは非常に重要である。統合失調症の治療で有名な精神科医で日本独自の風景構成法を考案した中井久夫は、東京で河合の箱庭に関する発表を聞き、箱庭に枠が使用されている点に注目した。そして、箱庭に「枠」があるおかげで患者は箱庭による自己表現が可能であり治療効果がある、ということに気づいたという。[注 1]
中井は紙の縁を枠として考え、治療者が枠をハンドライティングで描くという、自身の風景構成法の「枠付け法」に応用した。[注 2]
砂
砂の種類は特に決まっておらず、基本的には自由であり、いろいろな砂を使用する(砂浜の砂、土など)。
おもちゃ
おもちゃ(ミニチュア、フィギュアなど)については、英語圏では、心理士などの専門家団体がリスト化している場合があり、一種の公式ガイドラインのようになっている。
(日本では)使用するおもちゃは特に決まっておらず、セラピストが自由に集めてくる。
いずれにせよ、クライアントが自己の内面を自由に表現できるように、多種類用意する。通常は、ひとつの本棚のほとんど全ての棚がぎっしりと一杯になるくらいに多種類用意する。
関連学会
- 国際箱庭療法学会(ISST)
- 日本箱庭療法学会
- カナダ箱庭療法協会 (Canadian Association for Sandplay Therapy)
- Sandplay Therapists of America
参考書
- カルフ箱庭療法 ドラ・M・カルフ(誠信書房)
- 箱庭療法入門 河合隼雄 (誠信書房)
- 箱庭療法の世界 東山紘久 (誠信書房)
至文堂 2002
- 箱庭療法の本質と周辺 岡田康伸編集 現代のエスプリ.別冊 箱庭療法シリーズ 至文堂 2002
- 自閉症児の治療教育 : 音楽療法と箱庭療法 山松質文著 岩崎学術出版社 1975
- トポスの知 : 箱庭療法の世界 河合隼雄, 中村雄二郎著 明石箱庭療法研究会編 ティビ ーエス・ブリタニカ , 1984
- 箱庭療法研究 河合隼雄, 山中康裕編 誠信書房 , 1982
- 箱庭療法の国際比較における基礎研究 研究代表者 河合隼雄 京都大学教育学部, 1989
- 表現療法 山中康裕編著 ミネルヴァ書房 , 2003
- 箱庭療法-イギリスユング派の事例と解釈- ライス・メニーヒェン(金剛出版)
- 箱庭療法 基礎的研究と実践 木村晴子著 創元社 , 1985
- 臨床心理面接技法 伊藤良子編 誠信書房 , 2003 (3冊)
- 箱庭療法のプロセス 学校教育臨床と基礎的研究 / 平松清志著 金剛出版 , 2001
- 世界の箱庭療法 : 現在と未来 山中康裕, S.レーヴェン=ザイフェルト, K.ブラッドウ ェイ編 新曜社 , 2000
脚注
- 「枠」がはっきりと存在することで、枠の中(箱)と、枠の外(自分が生きている世界)がはっきりと区別されている、と感じることができ、そのおかげで、この枠(箱)の中でだけは、自己の内面を安心して表現してよいのかも知れない...と(言われなくても、無意識に)感じることになる。しかも箱庭療法では、自分自身や家族や知人を、固有名で直接的に名指しせずに、フィギュアや動物や植物に託して "比喩的"に(一見したところでは やや"曖昧"に) 表現することができ、"曖昧"でありながら、人間関係の構造などについては、かなり具体的に表現することもできる。箱庭という表現方法ならば、誰かを名指しで非難している形ではないので、(普段は周囲の人に配慮して、あるいは忖度して、あるいは恐怖から、あるいは自分の安全のため、あるいは言語化すること自体が自分にとって苦痛だから、などの理由で、誰にも言わず、感情を言語化することすらせずにいるが) この箱(枠)の中で、言語を使わず、ミニチュアを使って表現する方法ならば、自分が心の底では本当は感じていることを安心して表現して良いのかも知れない... と(無意識に)感じるおかげで、"表現"が始まり、治癒が始まることになる。