自己複製宇宙機
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数学者ジョン・フォン・ノイマンは、月や小惑星帯での大規模な採掘作業を実行する最も効果的な方法は、指数関数的に自己複製する宇宙機を使用することであると唱えた[1]。自己複製宇宙機を近隣の惑星系に送り、そこで原材料(小惑星、衛星、巨大ガス惑星などから)を採取して自身の複製を作成させる。そうして出来上がったこの複製達は他の惑星系に向けて飛び立つ。元の「親」宇宙機は、星系内で目的を追求できる。
この複製パターンと細菌の繁殖パターンとの類似性を考えると、自己複製機械は生命の一形態と見なされる可能性があることが指摘されている。アメリカのSF作家デイヴィッド・ブリンの短編小説『Lungfish』でこのアイデアに触れており、異なる種によって起動された自己複製機械が、原材料を求めて生物のように競合する可能性があることを指摘している。 「種」の十分な多様性を考えると、豊富な機械達によって生態系や、人工知能による社会が生まれる可能性がある。数千の「世代」を重ね突然変異すらするかもしれない。
自己複製宇宙機の最初の定量的な工学分析は1980年にRobert Freitas[2]によって公開され 、ダイダロス計画の設計に自己複製に必要なすべてのサブシステムを含むように修正された。設計の戦略は、探査機を使用して約443トンの質量を持つ「種工場」を任意の遠方の場所に送りこむ。「種工場」がそこで多くのレプリカを複製、建造し、総製造能力を500年にわたって増加させる。そして自動化された工業集合地帯を使い、それぞれに単一の「種工場」を備えたより多くの探査機を構築する。
光速の十分の一速度で航行する自己複製宇宙機は、わずか50万年で天の川銀河の大きさにまで広がる可能性があると計算された[3] 。
フェルミのパラドックスへの影響
1981年に数理物理学者フランク・ティプラー[4] は人類以外の文明による自己複製宇宙機が発見されないことに基づき、地球外文明が存在しないと主張し、議論が巻き起こった。中程度の複製速度と銀河の長い歴史さえあれば、そのような自己複製宇宙機が宇宙全体に広まっているはずであり、したがって人類はすでに地球外文明の自己複製宇宙機に遭遇しているはずである。しかし、人類は未だに自己複製宇宙機と遭遇していないため、これは地球外に知性が存在しないことを示していると主張した。これは、なぜ人類は地球外文明に出会っていないのかというフェルミのパラドックスへの回答でもある。
この主張に対し、天文学者のカール・セーガンとウィリアム・ニューマンが後にセーガンレスポンス(Sagan's Response)として知られる意見で反論した[5]。まず、ティプラーは複製速度を過小評価していると指摘した。指数関数的に複製し続ける自己複製機械は銀河の全質量を200万年以内に消費しきる可能性がある。このような機械を作れるのに十分な知性を持つ種族はそのような危険性を鑑み、そもそも自己複製機械を作ることはないだろうと主張した。偶然または悪意によってそのような自己複製機械が宇宙に放たれてしまった場合には、「感染」が広がる前に止めることが他の責任ある文明の義務だと述べた。ロバート・フレイタスは逆に、討論の互いの説に登場する複製速度と数量はあまり現実的な数値ではないと指摘した[6]。
自己複製宇宙機の普及に対するもう1つの反論は、そのような機械を作成する可能性がある文明は、資源の枯渇、生態学的大災害、パンデミック、生物兵器の拡散、核戦争、グレイグーなどが起こり、高度な文明の階梯に到達する前に崩壊する可能性がある。
制御できない指数関数的な複製による宇宙資源の浪費シナリオを回避するための簡単な回避策はいくつかある。無線通信などを用いて過剰な複製を制限する他に、一定の濃度を超えて複製しないようにプログラムするといった手段が考えられる。例えば「1立方パーセクあたり5つの探査機まで」や「1世紀以内に1千万まで」など。これらは細胞の再生におけるヘイフリック限界に似ている。この対策の問題の1つは、誤動作を起こした探査機を検出し、捜索および破棄プロトコルを実装しない限り、誤動作を起こした探査機の無制限の複製を止められないことである。誤動作を起こした探査機が一定数以上に増加した場合、探査機同士の戦争につながる可能性がある。
他の回避策は、長期の星間移動中の宇宙船の燃料の必要性に基づいている。燃料にプルトニウムなどを使用すると、自己複製する能力が制限される。宇宙船に必要な原材料が見つかったとしても、より多くのプルトニウムを作るためのプログラミングは存在しない。 他には、制御不能な複製の危険性を明確に理解して自己複製宇宙機をプログラムすることなどがある。
自己複製宇宙機の種類
自己複製宇宙機のミッションは、目的や計画ごとに大きく異なる。唯一の共通の特徴は自己複製の性質である。
フォン・ノイマン探査機
フォン・ノイマン探査機は自身を複製する宇宙探査機である[7] 。これは「フォン・ノイマン・マシン」(自己複製機械)と「宇宙探査機」(何かを探索または調査するための機器)という2つの概念を組み合わせたものである。このコンセプトは数学者・物理学者のジョン・フォン・ノイマンにちなんで命名された。この概念は「ユニバーサル・アセンブラ」とも呼ばれている[8] 。このような機械の構造は5つの基本的な構成要素を含むように理論化できる。このテンプレートのバリエーションを用いればBracewell probes(生命探査機)など他のマシンを作成できる。
- 探査機 :建設をガイドするための観測機器と目標指向AIが含まれる。
- 生命維持システム :構造物を修復および維持するメカニズム。
- ファクトリー :リソースを収集してそれ自体を複製するメカニズム。
- メモリバンク :探査機によって得られたすべての部品と情報のプログラムを保存する装置。
- エンジン :探査機を動かす動力部。
自己複製探査機が原始生命(または原始的な文化を持つ生命)の証拠を見つけた場合、休止状態になるか、静かに観察し、接触を試みるか(このバリエーションは生命探査機/Bracewell probeとして知られている)何らかの方法で生命の進化を導く。
アリゾナ州立大学の物理学者ポール・デイヴィスは、地球外文明の生命探査機は既に地球に到達し、休止している可能性を挙げた。古代の先史時代のいつかの時点で月に到着し、そして地球を監視するために残っているというアーサー・C・クラークの短編小説『前哨』(原題:Sentinel) 及び映画『2001年宇宙の旅』を彷彿させる説を唱えた[9][10]。
フォン・ノイマン探査機の変形アイデアの一つに、フリーマン・ダイソンによって提案された「アストロチキン」がある。アストロチキンは遺伝子工学と電子工学を組み合わせており文字通り生きている宇宙機である。自己複製、探査、および「ホームベース」との通信という共通の特徴を備えているが、太陽系内で探査および運用し、星間空間を探査しないことを考えていた。
オックスフォードを拠点とする哲学者ニック・ボストロムは、未来の強力な超知能が効率的で費用対効果の高い宇宙航行する際に星間フォン・ノイマン探査機を作成するという考えについて議論している[11]。
Anders SandbergとStuart Armstrongは、自己複製宇宙機による到達可能な宇宙全体の植民地化は、星間文明の能力の範囲内で可能だと主張した。水星を資源として採掘することにより、太陽の周りにダイソン球を32年で構築するための理論的なアプローチを提案した[12]。
バーサーカー
バーサーカーには大きく分けて3つのパターンが存在する。
- 最初から殺戮を目的とした兵器として作られたもの。
- 採掘と複製を行う過程で他の生命や惑星を破壊してしまうもの。
- 同化や融合を目的とするもの。
殺戮兵器として作られたもの
自己複製宇宙機のバリエーションとして『バーサーカー』がある。通常の宇宙探査機とは異なり、バーサーカーの多くは生命を探し出し、抹殺や殲滅するようにプログラミングされている。生命の抹殺を意図していなくとも、結果として他の種族を滅ぼすこともある。
この名称は宇宙に進出した人類と自律型自己複製殺戮機械との戦争を描いたフレッド・セイバーヘーゲンによる小説『バーサーカーシリーズ』に由来している。セイバーヘーゲンは自身の小説の中で登場人物の口から、バーサーカーの宇宙船自身がフォン・ノイマン・マシンなのではなく、自動化された工場を含む巨大な本体がフォン・ノイマン・マシンを構成することを指摘している。これにより、フォン・ノイマン・マシンの生態系、またはフォン・ノイマン・マシンの本体という概念が浮かび上がる。
このような存在はフィクションでは、戦争中の星間文明などによって作成される。セイバーヘーゲンの『バーサーカー』では、古代のある種族が敵対種族を滅ぼすためにバーサーカーを作り兵器として使ったが、敵対種族諸共バーサーカーに滅ぼされてしまった。
採掘と複製の過程で破壊してしまうもの
他のパターンとしては、良性の探査機が「変異」することが推測される。たとえば、テラフォーミング用に設計された自己複製宇宙機が惑星の表面を採掘し、大気をより人間に最適な状態に調整するということは、惑星の環境を大きく破壊し、惑星環境を変える過程で以前に生息していた種族を殺したとも解釈できる。その後、宇宙機は自己複製し、より多くの宇宙機で他の惑星を「攻撃」するかもしれない。
同化や融合を目的とするもの
更に他のパターンとして、他の種族との同化、融合、感染を目的としたものもある。このようなタイプの自己複製宇宙機は他の種族の文明、技術、文化を吸収することで更なる進化が起こる可能性がある。
複製播種船
自己複製宇宙機の他のバリエーションとして複製播種船がある。播種船はその播種船自体を作った種を含め、故郷の惑星の多くの生命の受精卵や遺伝情報を貯蔵して宇宙を航行する。居住可能な、またはテラフォーミング可能な系外惑星を見つけると、保存された胚から、または分子ナノテクノロジーを用いて保存された遺伝情報から生命体を複製し、現地の原材料からさまざまな遺伝情報を持つ接合子の構築を行う[13]。このようにして異星の環境で生態系を作り出す。ちなみに播種とは種を蒔くという意味である。
そのような播種船は、他の宇宙船による植民地化を準備するテラフォーミング船になるかもしれない。播種船は人の一生の間の時間では足りないほど遠い世界を植民地化する方法として、コールドスリープや、世代宇宙船に代わる適切な代替手段になる可能性がある。他のパターンとして、播種船自らが生命の種を蒔くことはせず、探査の過程で発見した生命の進化に介入し知覚種族に育て上げるといったものも存在する。