タイム・マシン (小説)

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編集者 ウィリアム・アーネスト・ヘンリー
発行日 1895年
タイム・マシン
The Time Machine
編集者 ウィリアム・アーネスト・ヘンリー
著者 H・G・ウェルズ
発行日 1895年
ジャンル SF小説
イギリス
言語 英語
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タイム・マシン』(原題:The Time Machine)は1895年に発表されたH・G・ウェルズの中編SF小説タイムトラベル(時間旅行)を可能とする機械(タイムマシン)を発明したヴィクトリア朝時代の科学者を主人公とし、彼が訪れた遥か未来の紀元80万年あまりの世界の内容と、そこで巻き込まれた騒動が展開されるディストピアポストアポカリプス的作品。本作は、意図的かつ選択的に時間軸を移動できる乗り物や装置を用いる、タイムトラベルの概念を普及させた作品だと一般に認識されている。また、そのような機械を指す言葉として、現代では普遍的に用いられる「タイムマシン」という用語も、ウェルズによって創作された[1]

本作は発表当時のヴィクトリア朝イギリスの価値観を下敷きに、匿名の主人公であるタイム・トラベラーの遠い未来を旅した回想がメインの内容となっている。ここで扱われているテーマは未来史及び思弁進化であり、現代ではウェルズによる不平等の拡大と階級分裂への風刺作品だと解されている。すなわち、上流階級の遠い子孫で色白で子供のような「エロイ英語版」と、下流階級の遠い子孫である野蛮で猿ような「モーロック」を、当時の階級社会の到達地点として投影したものとして描いた[2][3]。豊穣と奔放さの中に生きるエロイの描写は、ユートピア的ロマンス小説であるウィリアム・モリスの『ユートピアだより英語版』(1890年)にインスピレーションを受けたものと認識されているが、本作におけるウェルズの世界観は、遥かに野蛮で残酷である[4]

本作は同名の長編映画2作のほか、多くのテレビドラマや漫画作品へと翻案されてきた。また、多くのフィクション作品に、タイムマシンやタイムトラベル、思弁進化など、間接的なインスピレーションを与えた。

H・G・ウェルズは1888年に、大学新聞掲載用にタイムトラベルの概念を登場させた『時の探検家たち英語版』(The Chronic Argonauts)という題の短編小説を執筆した。のち、『ナショナル・オブザーバー』誌の編集者であるW・E・ヘンリー英語版の依頼に応じ、この『時の探検家たち』を元に7編のフィクションとしたエッセイを匿名で連載することになった。この連載は1894年3月17日から始まったが、ヘンリーが退社したことで、6月23日までで途中で終わったものの、ヘンリーはウェルズに続きを書くことを求めた[5][6]。その後、同年末にヘンリーがハイネマン社の定期刊行物『ニュー・レビュー』の編集者に任命されると、彼は同誌の1895年1月から5月号に掛けてその物語を連載することを持ちかけ、100ポンド(現在の約15,000ポンドに相当)の報酬と引き換えに執筆されたのが本作である[7][8][9]

書籍としてはハイネマン社より5月29日に出版されたが[7]、その前の5月7日にヘンリー・ホルト社からも刊行されていた[10]。この2つの版は本文が異なり、おそらく原稿が異なるとされ、それぞれ「ハイネマン版」と「ホルト版」と呼び分けられている。現代におけるテキストは、ハイネマン版を底本としている[11]

本作はウェルズ自身の社会主義的な政治観や人生観、また当時の社会経済に対する不安が反映されている。また、レイ・ランケスターによる社会退化論の影響を受けており[12]エドワード・ブルワー=リットンの小説『来るべき種族英語版』(1871年)と多くの要素が重なっている[13]。また、本作に登場する種族エロイは、ウィリアム・モリスの『ユートピアだより英語版』(1890年)に影響を受けたものと見られている。この作品では金銭という概念は無くなったとされ、労働は余暇の1つとして行われるものとして描かれる[4]エドワード・ベラミーの『顧みれば英語版』(1888年)や後年の映画『メトロポリス』(1927年)でも同様のテーマが扱われており、SF黎明期における古典的な題材であった。1931年に再刊にあたって、ウェルズはその序文にて「初版とほぼ同時期に出たダイヤモンドフレームの安全型自転車と同じくらい長く持ちこたえている」と述べ、「(この作品は)自分より長生きするだろう」と語っており、本書の普遍性を確信していた[14]

労働者階級が地下で生活するというのはウェルズ個人の実体験に基づく。当時において労働者階級はその時間の大部分を地下で過ごしており、当時の医学誌には換気の悪い地下室を使用人居住区とするものをテーマとしたものもあった[15]。例えばウェルズの父親は店にいないときは家の地下室の台所で過ごし[16]、母親は地下道がある家で家政婦として働き[17]、その家の使用人たちは地下の居住区に住んでいた[18]。10代前半に生地屋の徒弟となったウェルズ自身も地下室で何時間も働く必要があった。

プロット

本作は主人公である科学者の話を聞いた語り手の視点で展開される。主人公は語り手からはタイムトラベラー(時間旅行者)と呼ばれ、本名は不明である。

ヴィクトリア朝時代のイギリス。週一の恒例の夕食会にて、参加者の科学者が語り手を含む他の客たちに自分は時間を自由に旅行できるタイムマシンの発明に成功したと明かす。翌週の夕食会にて、遅れてきた科学者は疲れ果てており、遥か未来を旅行したこと、そこで何があったかを語り始める。

紀元802,701年の世界にやってきた主人公は、小柄で子供のようなヒューマノイドである「エロイ英語版」と出会う。彼らは、未来的だがもはや朽ちた建造物の中で小さなコミュニティを形成して暮らしており、食事はもっぱら果物である。彼らとのコミュニケーションを試みるも、彼らは自由奔放で、落ち着きがなく、上手くいかない。最初は、彼らは幸福で悩みがないように観察していた主人公であったが、やがて彼らが、暗闇、特に月明かりもない新月の夜を恐れていることに気づく。夜間には失踪する個体がいるものの、他の者たちは何ら消えた仲間に興味を示さない。また、主人公は溺れかけていたエロイの雌の個体・ウィーナを救う。ウィーナとの意思疎通はやはり困難なものの主人公に懐き、現代に連れ帰ることを決意する。

エロイの生息地周辺を探索した主人公は、もはや自然に還りつつある、かつての大都市の廃墟を発見し、その痕跡から共産主義が達成されたのだと考察する。そして知性とは必要性から生じるものであり、生活するための課題が消失したこの未来世界においては、人類は知能が退化して脆弱な生き物であるエロイに退化したのだと結論づける。

主人公が拠点に戻ってくるとタイムマシンが無くなっていることに気づく。動かすために必要なレバーは持参しているため、誤作動は考えられない。やがて、ここには暗闇の地下世界で生きる、猿のようなヒューマノイドである「モーロック」という種族がいることを発見し、彼らがタイムマシンを持ち去ったと考える。モーロックを観察する主人公は、ここでこの世界の本当の仕組みについて気づく。エロイが何不自由無く生活できているのは、モーロックが地下施設の機械を動かしているためである。そしてモーロックはエロイを食料として夜の闇に紛れて必要な分を捕らえていた。ここからさらに主人公はエロイは上流階級の遠い子孫であり、モーロックとは下流階級の遠い子孫であると考察する。

主人公はタイムマシンを取り戻すため、モーロックの地下世界を探索するのに必要な物資を求めて、「緑の磁器の宮殿」と呼ばれるかつての博物館をウィーナと共に探索する。そこでマッチ箱を見つけて明かりを確保すると共に、粗末な武器も用意する。しかし、帰り道の夜の森の中で、モーロックの群れに襲われる。森林火災を起こし、襲いかかるモーロックを武器で返り討ちにして主人公は生還するものの、ウィーナを失い焦燥する。

その後、タイムマシンを無事見つけ出し、そこからさらに遠い未来(現代から約3000万年後)へと逃げることに成功する。そこは最後の生命がかろうじて存在する終末の地球であり、さらに未来へと進むと地球が停止し、太陽が拡大しつつある、もはや生き物は死滅した世界であった。その後、主人公はタイムトラベルに出発してから3時間後の現代へと戻る。

一連の冒険を語り終えるが、客たちは信じず、そこで主人公はポケットに入っていたウィーナから貰った珍しい花を証拠として見せる。

翌日、本作の語り手が科学者の家を訪れると、彼は再び別のタイムトラベルの準備をしている。彼はすぐ戻ると約束して旅立つが、3年経った今も彼は戻らないと語り手は告げて、物語は終わる。

削除された箇所

今日において1895年5月号の『ニュー・レビュー』誌に掲載された第13章の一部は削除されていることが知られている[19]。これは当時に出版されたハイネマン版とホルト版のどちらにも載っていない箇所である[20][21][22]

内容としては主人公がモーロックからさらに未来へと逃亡した直後の出来事が語られている箇所である。ある荒野にて主人公はカンガルーに似た草食動物を石で殴って気絶させ(もしくは殺し)、観察した結果、その生物がさらにエロイまたはモーロックの子孫の生物であると気づく。そこでムカデに似た大型の節足動物が近づいたことに気づいてタイムマシンで翌日に逃げ、自身が捕まえた草食動物はその節足動物に食われたらしいことを知る。

この箇所は、編集のW・E・ヘンリーの提案によって執筆された箇所であり、人類退化の例証などを加えて文量を増やすことを望まれたものであった。後のウェルズの回想によれば、この箇所の執筆には葛藤があり、書籍としての刊行にあたっては削除させて自身の思い通りの形にしたと語っている[23]

一部の版元では削除せずに掲載されているものもある[24][25]。また、後には削除箇所部分のみで『The Final Men』[26]や『The Grey Man』[27]という題で独立して公開された。

評価

1931年の序文にて、ウェルズは「(改めて読み返すと)今や熟練した筆者から見れば、極めて未熟な拙作」と自評しているが、批評家からはテーマを称賛されている。マリナ・ワーナー英語版はこの著作がフロイトの『夢判断』以前における、欲望の断片を理解することへの重要な貢献であったと記している。彼女は「かつて輝かしい幻影のために開いたが、二度と見つからなかった扉を求めて、憂鬱な探求を続ける人物たちがいかにウェルズに親近感を抱いてきたか」と述べている[14]

翻案

映画

タイム・マシン 80万年後の世界へ(The Time Machine)
1960年公開。監督はジョージ・パル
タイムマシン(The Time Machine)
2002年公開。監督はサイモン・ウェルズ

日本語訳

出版年 タイトル 書籍名 出版社 文庫名 訳者 ISBNコード 備考
1913年 八十万年後の社会 扶桑堂 黒岩涙香
1956年 タイム・マシン 世界大ロマン全集 第7巻 東京創元社 世界大ロマン全集 宇野利泰
1962年 タイム・マシン H.G.ウェルズ短篇集 早川書房 ハヤカワ・SF・シリーズ 宇野利泰
1965年 タイム・マシン 東京創元社 阿部知二
1966年 タイム・マシン タイム・マシン : 他六篇 角川書店 角川文庫 石川年
1970年 タイム・マシン ウェルズ 早川書房 世界SF全集 宇野利泰
1972年 八十万年後の社会 暗黒星 桃源社 黒岩涙香
1975年 タイム・マシン タイム・マシン : 他六篇 角川書店 角川文庫 石川年
1976年 タイム・マシーン 世界文学全集 84巻 講談社 世界文学全集 瀬尾裕
1978年 タイム・マシン 早川書房 H.G.ウエルズ傑作集 宇野利泰
1987年 タイム・マシン ウェルズSF 傑作集 1 東京創元社 創元推理文庫 阿部知二 ISBN 4-488-60703-9
1991年 タイム・マシン タイム・マシン : 他九篇 岩波書店 岩波文庫 橋本槙矩 ISBN 4-003-22761-1
2001年 タイム・マシン グーテンベルク21 新庄哲夫
2002年 タイムマシン 角川書店 角川文庫 石川年 ISBN 4-04-270306-2
2005年 タイムマシン フロンティアニセン フロンティア文庫 山形浩生 ISBN 4-86197-041-5
2012年 タイムマシン 光文社 光文社古典新訳文庫 池央耿 ISBN 978-4-334-75246-0
2020年 八十万年後の社会 八十万年後の社会 : タイム・マシン : 大正翻案版 扶桑社 黒岩涙香 ISBN 978-4-594-74343-7 1913年版の復刻、高木直二
児童書
出版年 タイトル 書籍名 出版社 文庫名 訳者 ISBNコード 備考
1961年 タイム・マシン 岩崎書店 少年少女宇宙科学冒険全集 西原康
1967年 タイム・マシンの冒険 偕成社 SF名作シリーズ 塩谷太郎
1970年 タイム・マシンの大旅行 学習研究社 5年生文庫シリーズ 久保喬
1971年 タイムマシン SF少年文庫21巻 岩崎書店 SF少年文庫 塩谷太郎
1978年 タイム・マシン 世界文学全集 47 学研 世界傑作SF選 新庄哲夫
1979年 タイムマシン 岩崎書店 フォア文庫 塩谷太郎
1978年 タイム・マシン 旺文社 旺文社文庫 橋本槙矩
1988年 タイム・マシン タイム・マシン : (他)四編 旺文社 中学生・高校生必読名作シリーズ 橋本槙矩 ISBN 4-01-067007-X
1988年 タイムマシン 岩崎書店 フォア文庫 塩谷太郎
1997年 タイムマシン 講談社 痛快世界の冒険文学 眉村卓
1988年 タイム・マシン 集英社 子どものための世界文学の森 小林みき ISBN 4-08-274038-4
1998年 タイムマシン 偕成社 偕成社文庫 雨沢泰 ISBN 4-03-652340-6
2000年 タイムマシン 岩波書店 岩波少年文庫 金原瑞人 ISBN 4-00-114530-8
2001年 タイムマシン 講談社 青い鳥文庫 加藤まさし ISBN 4-06-148568-7
2002年 眉村卓のタイムマシン 講談社 シリーズ・冒険 眉村卓 ISBN 4-06-270114-6 翻訳ではなく翻案
2005年 タイムマシン 岩波書店 SF名作コレクション 塩谷太郎 ISBN 4-265-04652-5

関連作品

脚注

外部リンク

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