軍民融合
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軍民融合(ぐんみんゆうごう、簡体字:军民融合、英語:Military-Civil Fusion, MCF)とは、中国共産党が推進する国家戦略であり、軍事部門と民生部門の壁を取り払い、技術・資源・インフラを双方向に共有することを目指し、これらによって国力の増大を図る戦略。人民解放軍と民間企業の間で、量子コンピューティング、AI、半導体、5G、航空宇宙などの先端技術を相互に活用する。軍事技術を民生へ転用するだけでなく、民間の革新的な技術や物流・建設インフラを軍事力強化に繋げる「双方向の流通」が最大の特徴である[1][2][3][4][5][6][7]。また、中国は国家情報法や国防動員法で有事の際は国が民間のリソースを強制的に徴用し、指揮できる権限が付されている[8]。
中華人民共和国ではかつて軍民の境界が明確で、軍需企業と民間企業の交流が困難であったため、建設の重複などによる資源浪費が生じていた[1]。さらに、中国の国防産業は主にソ連体制を踏襲した経緯から少数の国有軍需企業が国防産業を独占していた。これらの企業は非効率的で腐敗が蔓延し革新性に欠けていた[9][4]。2010年、中国の研究者による推計では、中国のハイテク企業のうち中国軍需分野に関与しているのは1%未満であった[10]。
ジョン・マケイン上院議員のシニア・アドバイザーを務めた経験を持ち、アンドゥリル・インダストリーズの最高戦略責任者(CSO)を務めるクリスチャン・ブロースによれば、軍事開発と生産のための防衛・民間部門の融合が比較的成功したことにより、2010年代に中国の軍事能力が大幅に改善したと主張している[11]。
ジョージタウン大学の安全保障・新興技術センターの研究アナリストであるエミリー・ワインスタインは、中国政府が米国の軍民融合枠組みを研究していると指摘している。具体的には国防総省の防衛イノベーションユニット(DIU)や国防高等研究計画局(DARPA)といった、米国における導入事例の成功点や課題を検討した研究論文が存在すると述べている[4][11][12]。中国は、スペースX、アマゾン、マイクロソフト、グーグルなどに見られる米国政府機関と主要ハイテク企業との連携による技術的優位性を認識している。中国は自国のニーズに合わせてこの枠組みを模倣し修正を試みているが[11][12]、米国とは異なり、政府が企業に対して情報提供や協力義務をより強硬な姿勢で要求できるという違いを指摘している[11]。
歴史
毛沢東はかつて国防産業に対し「軍民両用」を提唱し、工業部門に民生製品の研究を求め、かつ民間工場に於いて軍需製品の製造技術を磨くよう指示した。改革開放初期の1982年1月5日、中国共産党中央軍事委員会主席の鄧小平は国防科学技術工業が「軍民結合、平戦結合、軍需優先、民以養軍」という道を歩むべきと提唱した。これは、国防工業の発展を民生工業の発展と結びつけ、国防科学技術と民生技術を相互に移転させ、強みを補完し合うことを指した[13]。
- 平戦結合、平時においては国防工業が軍需品と民生品の両方を生産でき、有事の際には国防工業が軍需品生産能力を回復・拡大できることを指す。
- 軍需優先、国防工業が国家の軍需品需要を優先的に満たした上で、一部の生産能力を民生品生産に投入できることを指す。
- 民以養軍、国防産業が民生品の生産を発展させることを指す。
1990年代、江沢民は「軍民結合、寓軍於民(軍民を結合し、軍事を民間に寓す)」「両端兼顧、協調発展(両面を兼顧し、協調的に発展させる)」「軍民兼容度の向上」などのスローガンを提唱した。
21世紀初頭、胡錦涛は「軍民融合型の発展の道を歩み、国防建設と経済建設の良性的な相互作用を推進すべきである」と表明した[14] 。
2012年、習近平が中国共産党中央委員会総書記に就任した際「軍民融合発展」のスローガンを打ち出す。2014年3月11日、習近平は第12期全国人民代表大会第2回会議における解放軍代表団全体会議で、軍民融合発展は国家戦略であると表明した。2015年3月12日、第12期全国人民代表大会第3回会議における解放軍代表団全体会議では、習近平は再び「軍民融合発展を国家戦略に格上げする」と強調。その後、中国指揮統制学会は毎年北京で「軍民融合技術・装備博覧会」を開催している[6]。
2017年1月22日、中国共産党中央政治局会議は中央軍民融合発展委員会の設置を決定し、習近平が主任に就任した。2017年10月、中国共産党第19回全国代表大会は軍民融合発展戦略を国家戦略の一つに列挙した。2018年3月2日、第19期中央軍民融合発展委員会第1回全体会議は『軍民融合発展戦略要綱』を審議・採択した[15]。
2016年5月、国家国防科学技術工業局は、軍民融合発展戦略を推進するため、第13次五カ年計画期間中に関係部門や省・市と連携して大学を共同建設することを発表。2018年までに国家国防科学技術工業局と教育部は、それぞれ50校の軍民融合戦略大学を共同建設すると発表している。
2020年6月1日、米国が公布した「一部の中国学生・研究者の非移民ビザによる入国停止に関する公告」(第10043号大統領布告)が発効した。同公告は、現在または過去に中国の軍民融合戦略を実行・支援する機関と関連のある、FまたはJ非移民ビザで米国に入国する中国公民(学部生を除く)の入国を禁止することを要求している[16]。