ネプリライシン
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ネプリライシン(英: neprilysin)は、ヒトではMME遺伝子にコードされる酵素である。Membrane metallo-endopeptidase(MME)、neutral endopeptidase(NEP)、cluster of differentiation 10(CD10)、common acute lymphoblastic leukemia antigen(CALLA)の名称でも知られる。ネプリライシンは亜鉛依存的なメタロプロテアーゼで、グルカゴン、エンケファリン、P物質、ニューロテンシン、オキシトシン、ブラジキニンなどのペプチドを疎水性残基のN末端側で切断する[5]。また、ネプリライシンはアミロイドβを分解する。アミロイドβの異常なフォールディングと神経組織での凝集は、アルツハイマー病の原因として示唆されている。ネプリライシンは膜タンパク質として合成され、ゴルジ体から細胞表面へ輸送された後、細胞外ドメインが切り離されることがある。
ネプリライシンはさまざまな組織で広く発現しているが、腎臓に最も豊富に存在する。急性リンパ性白血病(ALL)抗原としても一般的であり、ALLの診断の際に重要な細胞表面マーカーである。このタンパク質はプレB細胞型の白血病細胞に存在し、ALLの症例の85%を占める[5]。
ネプリライシン(CD10)を発現している造血前駆細胞は、リンパ球系の共通前駆細胞であると見なされている。このことは、これらの細胞がT細胞、B細胞、ナチュラルキラー細胞へ分化できることを意味している[6]。CD10は初期B細胞、プロB細胞、プレB細胞、そしてリンパ節の胚中心で発現しているため、血液学的診断に利用される[7]。CD10陽性となる血液疾患には、ALL、血管免疫芽球性T細胞リンパ腫、バーキットリンパ腫、急性期の慢性骨髄性白血病(90%)、びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫、濾胞中心細胞リンパ腫(70%)、有毛細胞白血病(10%)、骨髄腫(一部)が含まれる。急性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病、マントル細胞リンパ腫、辺縁帯リンパ腫ではCD10陰性となる傾向にある。CD10はプレB細胞に由来する非T細胞性ALL細胞や、バーキットリンパ腫や濾胞性リンパ腫などの胚中心関連非ホジキンリンパ腫でみられるが、より成熟したB細胞に由来する白血病細胞やリンパ腫ではみられない[8]。
アミロイドβの調節
ネプリライシンを欠損したノックアウトマウスは、アルツハイマー病に似た行動障害と脳へのアミロイドβの蓄積を示し[9]、このタンパク質がアルツハイマー病の過程と関係していることの強い証拠となっている。ネプリライシンはアミロイドβの分解の律速段階であると考えられており[10]、治療標的となる可能性があると考えられている。ペプチドホルモンであるソマトスタチンなどの化合物が酵素の活性レベルを上昇させることが示されている[11]。加齢と関係したネプリライシンの減少は、酸化損傷によって説明されるかもしれない。酸化損傷はアルツハイマー病の原因因子であることが知られており、認知機能が正常な高齢者と比較して、アルツハイマー病患者では酸化したネプリライシンが高率で存在する[12]。
シグナル伝達ペプチド

ネプリライシンは他の生化学的過程にも関係しており、腎臓と肺の組織で特に高度に発現している。ネプリライシンの阻害薬は鎮痛剤と高血圧治療薬を目的としてデザインされており、エンケファリン、P物質、エンドセリン、心房性ナトリウム利尿ペプチドなどのシグナル伝達ペプチドに対する活性を阻害することで作用する[13][14]。
ネプリライシンの発現とさまざまなタイプのがんとの関係が観察されているものの、ネプリライシンの発現と発がんの関係性についてはいまだ明確ではない。がんのバイオマーカーの研究においては、ネプリライシンはCD10またはCALLAと呼ばれることが多い。転移性の癌腫や一部の進行性メラノーマなど一部のタイプのがんでは、ネプリライシンが過剰発現している[15]。一方他のタイプのがん、特に肺がんでは、ネプリライシンはダウンレギュレーションされている。そのため、ボンベシン関連哺乳類ホモログなどの分泌ペプチドによる、がん細胞の自己分泌性成長促進シグナルを調節することができない[16]。一部の植物のエキス(Ceropegia rupicola、Ceropegia rupicola、コレウス・フォルスコリのメタノール抽出物、Pavetta longifloraの水抽出物)は、中性エンドペプチダーゼ(ネプリライシンもこれに含まれる)の酵素活性を阻害することが判明している[17]。
阻害薬
ネプリライシンの阻害薬は鎮痛剤と高血圧治療薬を目的としてデザインされており[13][14]、一部は心不全の治療を意図している[18]。
- サクビトリル・バルサルタン(Entresto/LCZ696): 心不全の患者でエナラプリルとの比較試験が行われている[18]。
- サクビトリル(AHU-377): サクビトリル/バルサルタンの構成成分であるプロドラッグ
- サクビトリラト(LBQ657): 活性型サクビトリル
- RB-101: エンケファリナーゼの阻害剤、研究で利用される。
- UK-414,495
- オマパトリラト: ネプリライシンとアンジオテンシン変換酵素の二重阻害剤、血管性浮腫の懸念のためFDAの承認を得られなかった。
- エカドトリル
- カンドキサトリル
他のネプリライシンとアンジオテンシン変換酵素/アンジオテンシン受容体の二重阻害剤も製薬企業による開発が行われている[19]。
免疫組織化学
CD10は臨床病理学で診断目的で利用されている。