PIN1
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PIN1(peptidylprolyl cis/trans isomerase, NIMA-interacting 1)は、ヒトではPIN1遺伝子によってコードされている酵素である[5][6]。
PIN1はペプチジルプロリルイソメラーゼ(PPIase)である。リン酸化セリン/スレオニン-プロリンモチーフに対してのみシス/トランス異性化を行い、タンパク質のコンフォメーション変化によって機能を調節するリン酸化後制御機構として機能している。PIN1の調節の異常はさまざまなな疾患に重要な役割を果たしている可能性がある。特に、PIN1のアップレギュレーションは特定の種類のがん、そしてPIN1のダウンレギュレーションはアルツハイマー病と関連していることが示唆されている。PIN1の阻害剤は、がん[7][8]や免疫疾患[9]の治療への応用の可能性がある。
発見
PIN1をコードする遺伝子は、1996年に有糸分裂の調節に関与しているタンパク質の遺伝学・生化学的スクリーニングから発見された[5]。一方で、Pin1のノックアウトマウスでは軽度の表現型しか観察されず[10]。、この酵素が細胞分裂自体に必要であるのかどうかは明確ではなかった。その後の詳細な研究により、マウスではPin1の喪失によって網膜変性をはじめとするいくつかの異常が生じることが明らかにされ、その表現型はサイクリンD1のヌルマウスと類似していることが示された[11]。このことから、PIN1によって媒介されるタンパク質のコンフォメーション変化が細胞の正常な機能に重要な役割を果たしている可能性が示唆された。
活性化
PIN1の発現は細胞増殖条件下で増大し、E2F転写因子によって誘導される[12]。PIN1は核と細胞質の双方に分布している。PIN1には古典的核局在化配列と正確には一致しないものの類似した配列が存在し、インポーチンα5(KPNA1)との相互作用によって核内に移行する[13]。基質となるタンパク質がPIN1によって認識されるためには、基質中のセリン/スレオニン-プロリンモチーフのリン酸化が必要である。PIN1はN末端のWWドメインとC末端のPPIaseドメインからなり、WWドメインがこのモチーフの認識を担っている。WWドメイン中のSer16のリン酸化は基質との相互作用に多様な変化を及ぼし[14]、乳がんにおいてはこのリン酸化レベルの増大が腫瘍原性と関連している可能性がある[15]。
機能
いくつかのプロリン指向性プロテインキナーゼ(MAPK、CDK、GSK3など)はPIN1によって認識されるモチーフを作り出し、またPIN1自身もこれらのプロテインキナーゼによってリン酸化されて機能が変化するなど、両者は複雑な相互作用を行うことで細胞過程の遂行や環境シグナルへの応答を行っている[16]。PIN1との相互作用がどのような影響を及ぼすかは系によって異なっており、Cdc25やタウタンパク質はPIN1による異性化によって脱リン酸化が促進され[17]、サイクリンD1はPIN1との結合によって核外搬出が妨げられ核内に蓄積する[11]。また、PIN1はmRNAに結合するタンパク質複合体への作用を介してサイトカインのmRNAの安定性を高め、免疫応答にも重要な役割を果たしていることが示唆されている[18]。PIN1が分子タイマーとして機能しているという仮説も立てられている[19]。
阻害
PIN1はいくつかのがんで過剰発現していることが知られており、乳がん、子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がんなどにおいて治療標的としての研究が広く行われている[7][20][21]。天然のビタミンA誘導体であるall-trans-レチノイン酸(ATRA)がPIN1の阻害に関与していることが研究から示されており[22]、ATRAはソラフェニブと相乗的に作用し、PIN1を減少させてがんの成長を阻害することが報告されている[23]。一部のエレモン酸(elemonic acid)誘導体もPIN1に対して阻害作用を示すことが報告されている[24]。インドセンダン由来の一部のテルペノイドもエレモン酸誘導体と同様にPIN1を阻害する可能性が計算機解析から示されている[7]。