TEAD1
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TEAD1(TEA domain transcription factor 1)は、ヒトではTEAD1遺伝子によってコードされているタンパク質である。TEF-1(transcriptional enhancer factor 1)、TCF-13(transcription factor 13)の名称でも知られる[5][6][7][8]。TEAD1はTEADファミリーの転写因子の中で最初に同定された因子である[5]。このファミリーに属する他のタンパク質には、TEAD2、TEAD3、TEAD4がある。
構造

TEADファミリーに属するタンパク質は全て、TEAドメインと呼ばれる高度に保存されたDNA結合ドメインを有する[9][10]。このドメインが結合するDNAのコンセンサス配列は5'-CATTCCA/T-3'であり、MCATエレメントと呼ばれている[11][12]。TEAドメインの立体構造は明らかにされている[11]。その構造はホメオドメインと類似しており、3本のαヘリックス(H1、H2、H3)を有する。その中のH3ヘリックスがDNAへの結合を可能にしている[13]。
その他に、C末端領域に保存されたドメインが存在する。このドメインはトランス活性化ドメイン(もしくはYAP結合ドメイン)と呼ばれる。YAP(とそのパラログであるTAZ)はTEADタンパク質のコファクターとして、Hippoシグナル伝達経路の標的遺伝子の転写活性化に寄与する[14]。TEADタンパク質は単独では遺伝子発現を誘導することはできず、作用するためにはコファクターとの結合が必要である[15]。
組織分布
オルソログ
TEADタンパク質は多くの生物種でさまざまな名称がつけられており、さまざまな機能を有することが反映されていると考えられる。出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeにおけるホモログであるTEC-1タンパク質はトランスポゾンTY1を調節しており[23]、また偽菌糸(pseudohyphae、栄養不良条件下で生育された酵母が形成する伸長した形状)の形成に関与している[24]。アスペルギルス・ニデュランスAspergillus nidulansでは、TEAドメインタンパク質AbaAは分生子柄の分化を調節している[25][26]。ショウジョウバエでは、Scallopedが翅原基の発生、生存、細胞成長に関与している[27]。アフリカツメガエルXenopus laevisではTEAD1のオルソログが筋分化を調節していることが示されている[28]。
機能
TEADタンパク質は、発生において重要な役割を果たしている。TEAD1の機能を喪失したマウスは、心臓の重度の欠陥のために胎生致死となる[29]。こうしたマウス胚の心臓は心室壁が薄く、肉柱の数も少ない。TEAD1は心臓特異的遺伝子の発現を促進しており、心筋の分化もしくは成長に重要であることが示唆されている。TEAD1は心臓以外においても平滑筋や骨格筋の形成と機能に関与する遺伝子を調節している。TEAD1は平滑筋や骨格筋のα-アクチン、心筋のα、βミオシン重鎖、トロポニンT、Iといったタンパク質をコードする遺伝子のプロモーターに結合することが示されている。一方で、TEAD1を過剰発現したマウスは心拍出力が小さく、心筋症や心不全後の組織修復に欠陥がみられる[30]。
翻訳後修飾
プロテインキナーゼAは、TEAドメイン直後のセリン102番をリン酸化する。このリン酸化はαミオシン重鎖遺伝子の転写活性化に必要である[31]。一方、プロテインキナーゼCはTEAドメインの3番目のヘリックスと隣接するヒンジ領域のセリンやスレオニン残基をリン酸化し、このリン酸化はTEAD1のGTIICエンハンサーへの結合の低下をもたらす[32]。TEAD1はC末端の保存されたシステイン残基がパルミトイル化される。この翻訳後修飾は、TEADが正しくフォールディングし安定化するために重要である[33]。
コファクター
TEADタンパク質が標的遺伝子の転写を誘導するためには、コファクターを必要とする[16]。YAPとそのパラログであるTAZは全てのTEADタンパク質と相互作用し、TEADの転写活性を高めるコアクチベーターとして機能することが示されている[34][35]。YAP/TAZはHippoシグナル伝達経路におけるエフェクターとして機能し、この経路の活性化によってYAP/TAZはリン酸化されて核外搬出される。この経路は細胞増殖の抑制とアポトーシスの促進によって器官の成長を制限する腫瘍抑制性経路である[36][37]。
また、4種類のVGLL(Vestigial-like)タンパク質も全てのTEADタンパク質と相互作用する[38]。TEADとVGLLの相互作用の正確な機能は十分には理解されていないが、TEAD/VGLL1複合体は前立腺がん細胞株の足場非依存性細胞増殖を促進することから、がんのプログレッションに関与していることが示唆されている[39]。さらに、C2C12細胞の分化の際にはTEAD1とVGLL2との相互作用は筋プロモーターを活性化し、また10T1/2細胞においてはMyoDを介した筋原性を高める[40]。一方、VGLL4との複合体は転写リプレッサーとして機能すると考えられている[34]。
TEADタンパク質はステロイド受容体コアクチベーター(SRC)ファミリーのメンバーとも相互作用し、SRCファミリーの全てのメンバーがTEADタンパク質のコアクチベータとして機能することがHeLa細胞で示されている[41]。またTEAD1はポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ(PARP)と相互作用し、筋特異的遺伝子の転写を誘導する。PARPはTEADタンパク質をADP-リボシル化することがin vitroで示されている[42]。
他にも、血清応答因子(SRF)[43]、MEF2[44]、MAX[45]といった転写因子もTEAD1と相互作用し、共に転写を調節していることが示されている。
がんにおける役割
がんのトランスクリプトームデータベースの解析から、いくつかの種類のがんでTEAD1の調節異常が生じていることが示されている。カポジ肉腫ではTEAD1濃度が300倍に上昇している。さらに、basal-like乳がん[46][47]、卵管がん[48]、胚細胞腫瘍[49]においてもTEAD発現の上昇が検出される。一方、他の種類の乳がん、腎臓がん、膀胱がんなどではTEADの発現は低下している。こうした両義的な役割は、TEADの標的となる遺伝子や調節が細胞種によって異なっていることで説明される[50][51]。卵巣がんではTEAD1とYAPが幹細胞性と化学療法抵抗性を誘導することが示されており[52]、また一部のがんではTEADやYAPの遺伝的多型との関連がみられる[53]。