WWTR1

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WWTR1(WW domain-containing transcription regulator protein 1)またはTAZ(transcriptional coactivator with PDZ-binding motif)[5]は、ヒトではWWTR1遺伝子によってコードされているタンパク質である。WWTR1は転写コレギュレーター英語版として機能し、単独で転写に影響を及ぼすことはない[5]。WWTR1は結合パートナーとなる転写因子と複合体を形成した際に、発生、細胞の成長や生存と関連した経路の遺伝子発現を補助し、アポトーシスを阻害する[6]。WWTR1の機能の異常はがんの駆動に関与していることが示唆されている[7][8][9]。TAZという略称はタファジン英語版を指して用いられることもあるため、混同しないよう注意が必要である。

記号WWTR1, TAZ, WW domain containing transcription regulator 1
染色体3番染色体 (ヒト)[1]
終点149,736,714 bp[1]
概要 識別子, 記号 ...
WWTR1
識別子
記号WWTR1, TAZ, WW domain containing transcription regulator 1
外部IDOMIM: 607392 MGI: 1917649 HomoloGene: 9159 GeneCards: WWTR1
遺伝子の位置 (ヒト)
3番染色体 (ヒト)
染色体3番染色体 (ヒト)[1]
3番染色体 (ヒト)
WWTR1遺伝子の位置
WWTR1遺伝子の位置
バンドデータ無し開始点149,517,235 bp[1]
終点149,736,714 bp[1]
遺伝子の位置 (マウス)
3番染色体 (マウス)
染色体3番染色体 (マウス)[2]
3番染色体 (マウス)
WWTR1遺伝子の位置
WWTR1遺伝子の位置
バンドデータ無し開始点57,363,070 bp[2]
終点57,483,331 bp[2]
RNA発現パターン


さらなる参照発現データ
遺伝子オントロジー
分子機能 protein homodimerization activity
transcription corepressor activity
transcription coactivator activity
血漿タンパク結合
細胞の構成要素 細胞質
transcription regulator complex
核質
細胞核
細胞質基質
核内構造体
生物学的プロセス negative regulation of protein phosphorylation
cilium assembly
regulation of metanephric nephron tubule epithelial cell differentiation
negative regulation of fat cell differentiation
regulation of transcription, DNA-templated
negative regulation of protein kinase activity
multicellular organism growth
regulation of canonical Wnt signaling pathway
糸球体発生
negative regulation of transcription by RNA polymerase II
Hippo経路
positive regulation of epithelial to mesenchymal transition
regulation of SMAD protein signal transduction
SCF-dependent proteasomal ubiquitin-dependent protein catabolic process
mesenchymal cell differentiation
stem cell division
protein ubiquitination
osteoblast differentiation
kidney morphogenesis
positive regulation of cell population proliferation
transcription initiation from RNA polymerase II promoter
negative regulation of canonical Wnt signaling pathway
positive regulation of transcription by RNA polymerase II
transcription, DNA-templated
tissue homeostasis
心臓のプロセス
出典:Amigo / QuickGO
オルソログ
ヒトマウス
Entrez
Ensembl
UniProt
RefSeq
(mRNA)

NM_001168278
NM_001168280
NM_015472
NM_001348362

NM_001168281
NM_133784

RefSeq
(タンパク質)

NP_001161750
NP_001161752
NP_056287
NP_001335291

NP_001161753
NP_598545

場所
(UCSC)
Chr 3: 149.52 – 149.74 MbChr 3: 57.36 – 57.48 Mb
PubMed検索[3][4]
ウィキデータ
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構造

YAPとTAZのドメイン構造の差異[10]

WWTR1(TAZ)には、プロリンリッチ領域、TEAD結合モチーフ、WWドメインコイルドコイル領域、PDZドメイン結合モチーフを有するトランス活性化ドメイン(TAD)が含まれている。TAZにはDNA結合ドメインは存在せず、転写を直接的に駆動することはできない。TAZは、同じく転写コレギュレーターであるYAPと構造的相同性がみられる[5]。YAPとTAZはコイルドコイルドメインでの相互作用を介してホモ二量体や両者からなるヘテロ二量体を形成することができる[11]。YAPとTAZは転写因子と協働して組織形成を促進する。TAZはさまざまな転写因子パートナーと相互作用し、TEAD結合モチーフを介してTEADファミリーのメンバー(TEAD1/2/3英語版/4英語版)と相互作用し、WWドメインを介してRunx/PEBP2、AP-2英語版C/EBP英語版c-JunKrox-20英語版Krox-24英語版MEF2B英語版NF-E2英語版Oct-4p73英語版などPPxYモチーフを有するいくつかの因子と相互作用する[6]。C末端(165–395番)のトランス活性化ドメインは、転写への作用を発揮するために重要であることが示されている[6]

機能

WWTR1(TAZ)、そして構造的に類似したタンパク質であるYAPは、どちらも転写コアクチベーターとして機能し、Hippo経路の活性化によって調節されている。

TAZは胚発生のほか、器官サイズの調節[12][13][14]幹細胞の自己複製[15]、組織の再生[15][16]骨形成[17]血管新生[18]など、その後の発生過程にも重要な役割を果たしている[19][20]。こうした機能は、TEADファミリー転写因子、PAX3英語版RUNX1/2英語版など細胞成長、遊走、分化を促進する転写因子に対してコアクチベーターとして作用するすることで発揮されている[10]。TAZとそのパラログであるYAPの増殖機能は、Hippoシグナル伝達経路によって制限されている[21][22][23]。この抑制経路はキナーゼによるシグナル伝達カスケードから構成される。活性化されたセリン/スレオニンキナーゼSTK3/MST2STK4/MST1英語版は調節タンパク質SAV1英語版と複合体を形成してキナーゼLATS1英語版/2英語版をリン酸化して活性化し、活性化されたLATS1/2は調節タンパク質MOB1英語版と複合体を形成してYAP/TAZをリン酸化して不活性化する[12][20][24]。Hippo経路の活性化はこうして増殖遺伝子の発現を低下させることで細胞成長を停止させ、またフェロトーシスによる細胞死の減少[25][26]、アポトーシスによる細胞死の増大をもたらす[12][20]

YAPとの機能的冗長性

類似性

YAPとTAZは類似した配列や結合モチーフを有する[10]。既存の文献においては、YAPとTAZは機能的に冗長なものとみなされていることも多い[10]。両者は器官サイズの成長、細胞遊走創傷治癒血管新生代謝(特にリポジェネシス)に関与している[10][27]。YAPやTAZの不活性化はHippo経路のキナーゼ、すなわちLATS1とLATS2によるリン酸化を介して行われる[10]。リン酸化によって調節タンパク質14-3-3がリクルートされ、YAP/TAZは核移行が妨げられてユビキチン標識がなされ、その後プロテアソームによって分解される[10]

差異

TAZはTEADとヘテロ二量体(TAZ-TEAD)やヘテロ四量体(TAZ-TEAD-TAZ-TEAD)を形成して転写を開始するのに対し、YAPが形成することができるのはYAP-TEADヘテロ二量体のみである[10]。こうした差異によって、PPARγとの相互作用による脂肪細胞分化の調節や、RUNX2(Cbfa1)など骨特異的転写因子に対するコアクチベーター機能による骨形成といった、TAZに固有の機能がもたらされている[10]。さらに、TAZはNFATC5と相互作用して浸透圧ストレス時の腎細胞の転写を抑制する[10]。YAPとTAZはどちらもSMAD複合体と結合してTGF-βシグナル伝達を促進し、分化や発生を駆動するが、TAZだけがこのシグナル伝達カスケードによってアップレギュレーションされる[10]。またTAZはSMAD2英語版SMAD3SMAD4のみと複合体を形成して核移行と転写を促進するのに対し、YAPはこれらに加えてSMAD1英語版SMAD7とも相互作用する[10]。マウスでのin vivo研究では、機能的なTAZを喪失した動物はYAPの発現を喪失した動物と比較して生存性が高いことが示されている[10]。YAPのサイレンシングは細胞増殖、グルコースの取り込み、細胞周期の停止に関して、TAZよりも強力な影響を及ぼす[10]非小細胞肺癌英語版細胞株でのアッセイでは、YAPは細胞分裂や細胞周期の進行の調節と関連した遺伝子を主に調節しているのに対し、TAZは細胞外マトリックスの組織化や接着と関連した遺伝子を主に調節していることが示されている[10]

相互作用

TAZはTEADなどの転写因子に結合し、細胞増殖と関連した転写を活性化する[7][24]
TAZの機能は14-3-3タンパク質と複合体を形成することで阻害される[7][24]
さらに見る 相互作用パートナー, 複合体形成の影響 ...
相互作用パートナー 複合体形成の影響
アンギオモチン YAP/TAZを細胞質へ隔離し、機能を阻害する[11]
AP-1 転写の促進[10]
ASPP2英語版 TAZの脱リン酸化と安定化を促進する[11]
β-カテニン YAP/TAZを不活性化する分解複合体へリクルートする[11]
LATS1英語版/LATS2英語版 TAZをリン酸化し、ユビキチン化標的とする[10]
NFATC5 浸透圧ストレス時に腎細胞での転写を抑制する[10]
パラフィブロミン英語版 TAZの機能を刺激する[11]
PAX3英語版 転写の促進[10]
PAX8とNKX2-4[24] 甲状腺機能調節に関与する転写因子の活性化[24]
PRRG4[24] 転写の抑制[10]
RUNX1/RUNX2英語版 転写の促進[10]
SMAD2英語版/SMAD3/SMAD4 核移行と転写の促進[10]
STAT1 STAT1/2二量体化の阻害[10]
TEAD1/TEAD2/TEAD3英語版/TEAD4英語版[24] 転写の活性化[10]
YAP1 二量体化依存的な転写調節[10]
14-3-3ε英語版[24] TAZの核移行の制限[5]
ZO-2英語版 YAP/TAZを核へ局在させ、活性を高める[11]
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臨床的意義

疾患における役割

TAZは、がんを含む多くの炎症性疾患への関与が示唆されている。

さらに見る 疾患, TAZの臨床的意義 ...
疾患 TAZの臨床的意義
がん 多くの種類のがんにおいて、TAZの発現レベルは転移や生命予後不良と関連している[9]
脂肪肝炎英語版 TAZの過剰発現は線維化を促進することで、単純性脂肪肝を脂肪肝炎へ進行させる[28]
アテローム性動脈硬化 TAZは血管内皮細胞の過剰な増殖と炎症を駆動する[29]
シェーグレン症候群 TAZの核内局在の低下によって、機能的な唾液腺涙腺の発生が損なわれる[20]
高血圧 YAP/TAZの活性化はグルタミン代謝を促進し、肺血圧を高める[30]
乾癬 YAP/TAZの活性化は、慢性皮膚疾患と関連した病的な血管新生や炎症を駆動する[31]
アトピー性皮膚炎
酒さ
慢性蕁麻疹
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がん

メラノーマ試料におけるTAZの中強度の発現、Human Protein Atlasより[32]
WWTR1 protein is expressed in moderate to high levels across a diverse array of cancer types and is associated with poor clinical outcomes.
多様ながんにおいてTAZは中レベルから高レベルで発現しており、予後不良と関連している[32]

TAZの高発現は、メラノーマ頭頸部扁平上皮がん乳がん非小細胞肺がん英語版を含む幅広いがんと関連していることが示唆されており、転移の増加、生命予後不良との相関が動物研究や患者データから示されている[9]。構造的に類似するタンパク質であるYAPとともに、TAZは発がんの促進、腫瘍代謝変化、治療介入に対する抵抗性の獲得との関連が多くの研究で記載されている[8][9][33][34]。特に、TAZの過剰発現はシスプラチンによる化学療法や、PD-1抗体を用いた免疫療法に対する抵抗性を付与する[33]

薬剤標的として

YAPとTAZは、いくつかのがん治療法において治療標的となっている。

Hippoシグナル伝達経路のアゴニストであるC19は、MST1/2とLATS1/2のリン酸化を高めることで下流のYAP/TAZの不活性化を強化する。チアゾビビン英語版ククルビタシンIダサチニブフルバスタチン英語版パゾパニブは、乳がん細胞株においてYAP/TAZの核移行を妨げる良好な結果が得られている[35]アドレナリングルカゴンなど正常な生理的機能のために合成される内因性ホルモンも、Hippo経路の活性化を促進することでYAP/TAZの機能に対し阻害的影響を及ぼすことが示されている[35]コレステロール合成阻害薬であるスタチン系薬剤は、Hippo経路の上流で阻害的シグナルを伝達するRhoファミリーGTPアーゼを阻害することが示されており、乳がんや肺腺がん英語版細胞の成長を減弱する類似した作用を示す[35]。スタチンが直接的に阻害するのはHMG-CoAレダクターゼであり、この酵素はRho-GTPアーゼの細胞膜への係留を担う脂肪鎖やコレステロールのビルディングブロックとなる脂質を合成するメバロン酸経路において機能している[9]。Rho-GTPアーゼの1つであるRhoA英語版プレニル化によって活性化され、Hippo経路の活性を低下させる細胞骨格系構成要素の調節に部分的に関与している[9]。チアゾビビンによるRhoキナーゼの標的化や、スタチンによるメバロン酸経路を介した脂質合成の標的化によって、RhoAは阻害されてHippo経路の活性が高まり、YAP/TAZによって駆動される増殖が制限される可能性がある[9][35]Srcファミリーキナーゼ英語版などのチロシンキナーゼは増殖経路へシグナルを伝達し、その一部はYAP/TAZの機能を促進する。中でもYes英語版はYAPの機能と関連している。ダサチニブやパゾパニブなどの阻害薬によるチロシンキナーゼの標的化も、がんに対しある程度の効果を示している[9]

TEADファミリー転写因子との相互作用を標的としたYAP/TAZの阻害の研究も行われている[35][36]。TEADファミリー転写因子の結合を阻害するベルテポルフィン皮膚がん、特にメラノーマの治療の研究が行われているが、前臨床研究段階である[35]

出典

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