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XY性決定様式

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XY性決定様式(英: XY sex-determination system)は、ヒトを含む多くの哺乳類、昆虫の一部、爬虫類の一部、魚類の一部、植物の一部に見られる性決定様式(英語版)である。

ショウジョウバエの性染色体
雌雄異株のイチョウ(Ginkgo biloba)の雄株の花粉錐
イチョウ(Ginkgo biloba)の雌株の胚珠

この様式では個体の核型上の性は通常、一対の性染色体によって決定される。一般に核型上の雌は同一種類の性染色体を2本(XX)持ち、これを「同型性(同型配偶子を持つ性、英: homogametic sex)」と呼ぶ。一方核型上の雄は通常異なる種類の性染色体を2本(XY)持ち、これを「異型性(異型配偶子を持つ性、英: heterogametic sex)」と呼ぶ[1]。ヒトにおいてはY染色体の存在が雄の表現型の発達を誘導する要因であり、Y染色体が存在しない場合、その個体は通常、表現型として雌型を発現する。XY性決定を持つ殆どの種において、生物が生存するためには少なくとも1本のX染色体を持たなければならない[2][3]。

XY性決定様式は、鳥類、一部の昆虫、多くの爬虫類等に見られるZW性決定様式とは幾つかの点で対照的である。ZW性決定様式では雌が異型性を持つ。また一部の爬虫類や魚類には、温度依存性決定様式が見られる。

該当する生物種

メカニズム

全ての動植物はDNAからなるゲノムを持ち、細胞分裂の際に染色体を形成する。ヒトを始めとする殆どの哺乳類やその他の種の一部では、X染色体とY染色体と呼ばれる2つの染色体に性を決定する遺伝子が含まれる。これらの種ではY染色体上に1つ以上の遺伝子が存在し、それがオスの表現型を発現させる。この様式では、X染色体とY染色体が子孫の核型による性を決定し、Y染色体上に位置する遺伝子が男性表現型の発現を引き起こす。子孫は通常、2本の性染色体を持つ。2本のX染色体(XX)を持つ子孫は通常、メス表現型を発現し、X染色体とY染色体(XY)を持つ子孫は通常、オス表現型を発現する。ヒトの性分化疾患では、XYの核型でありながら女性形質を示すスワイヤー症候群(英語版)や、XXの染色体を持ちながら男性形質を示すデ・ラ・シャペル症候群などの変異例が例外的に存在する。更に、XYの核型を持つスワイヤー症候群の女性が妊娠に成功した事例も幾つか報告されている[4][5][6][7]。

哺乳類

殆どの哺乳類においては、核型による性別はY染色体の有無によって決定される。故にXXYおよびXYYの核型を持つ個体はオスとされ、XおよびXXXの核型を持つ個体はメスとされる[1][8][9][10][11][12]。

1930年代、アルフレッド・ヨスト(英語版)が雄ウサギのウォルフ管の発達にテストステロンの存在が不可欠であることを明らかにした[13]。

SRY は、獣亜綱(有胎盤類および有袋類)のY染色体上に存在する性決定遺伝子である[14]。ヒト以外の哺乳類は、Y染色体上の複数の遺伝子を利用している[要出典]。

オス特有の遺伝子がすべてY染色体上に存在するわけではない。単孔類であるカモノハシは、5組の異なるXY染色体を持ち、6つのグループに分かれたオス関連遺伝子を有しており、そのマスタースイッチの役割を果たすのが抗ミュラー管ホルモンである[15]。

ヒト

G分染法後のヒト男性XY染色体

ヒトではY染色体上に存在する単一の遺伝子(SRY )が男性の表現型の発達を引き起こすシグナルとして機能し、男性化のプロセスを開始させる。この遺伝子やその他の要因が、ヒトにおける性差をもたらしている[16]。2本のX染色体を持つ個体では、細胞内で片方のX染色体の不活性化が起こる。不活性化されたX染色体は、バー小体として細胞内に残る。

その他の動物

カメの幾つかの種、特にヘビクビガメ科やオオニオイガメ亜科(英語版)に属する種は、収斂進化によってXY型の性決定システムを獲得している[17]。

その他の種(殆どのショウジョウバエ属を含む)では、2本のX染色体の存在によって雌性が決定される。1本のX染色体があれば雄性が推定されるが、正常なオスの発達にはY染色体上の遺伝子の存在が不可欠である。ショウジョウバエでは、XYの個体は雄、XXの個体は雌となる。しかし、XXYやXXXの個体も雌となる場合があり、Xの個体が雄となる場合もある[18]。

植物

被子植物

雌雄異株の被子植物のうち、XY性決定を持つ種はごく僅かであり全種の5%未満に過ぎないが、被子植物の多様性が極めて高い為XY性決定を持つ種の総数は結果的に非常に多く、約13,000種と推定されている。また分子生物学および進化生物学の研究によれば、XY性決定は175以上の異なる科において独立して何度も進化してきたことが示されており、最近の研究では、その進化が数百回から数千回に渡り独立して生じたことが示唆されている[19]。

キウイフルーツ[20]、アスパラガス[21]、ブドウ[22]、ナツメヤシ[23]など、経済的に重要な多くの作物において、XY性決定システムが確認されている。

裸子植物

被子植物とは対照的に、裸子植物の約65%は雌雄異株である。XY性決定システムを持つことが知られている種を含む科には、ソテツ科(Cycadaceae)、ザミア科(Zamiaceae)、イチョウ科(Ginkgoaceae)、グネツム科(Gnetaceae)、マキ科(Podocarpaceae)などがある[24]。

発現遺伝子

DNA(緑・黄)に結合する蛋白質SRY(紫)の構造

ウェブサイト『Rediscovering Biology』でのインタビューにおいて[25]、SRY 遺伝子の発見以来、パラダイムがどのように変化したかが次のように説明された。

長らく、SRYは一連の雄性化遺伝子の連鎖を活性化させるものだと考えられてきました。しかし実際には性決定の仕組みはより複雑であり、SRY は抗雄性化遺伝子の一部を抑制している可能性があることが判明しました。

即ち雄性化遺伝子が次々と働いてオスになるという単純なメカニズムではなく、雄性化遺伝子と抗雄性化遺伝子の間に絶妙なバランスが存在しており、抗雄性化遺伝子の働きが僅かに強ければメスとして生まれ、雄性化遺伝子の働きが僅かに強ければオスとして生まれるという仕組みです。

私達は今、性決定に関する分子生物学の新たな時代に足を踏み入れています。そこでは、遺伝子が単純に一列に並んで次々と作用するのではなく遺伝子の作用がより微妙な作用量によって決まり、雄性化促進、雌性化促進、雄性化抑制、雌性化抑制いった役割を担う多様な遺伝子が互いに複雑に作用し合っています。こうした相互作用は非常に興味深いものですが、同時に、その研究を極めて複雑なものにもしています。

2007年の『Scientific American』誌のインタビューでは、「メスへの分化はデフォルトの分子経路であるという従来の見解から、能動的な『雄性化』および『抗雄性化』の経路へ転換しているように聞こえます。では、『雌性化』および『抗雌性化』の経路も存在するのでしょうか?」[26]との問いに次の様に回答された:

現代における性決定の研究は、1947年にフランスの生理学者アルフレッド・ジョスト(Alfred Jost)が「性を決定するのは精巣である」と提唱したことから始まりました。つまり、精巣があれば「オス(男性)」となり、精巣がなければ「メス(女性)」となるということです。卵巣は性を決定するものではなく、外性器の発達にも影響を与えません。その後、1959年にクラインフェルター症候群(XXYのオス)やターナー症候群(X染色体を1本しか持たないメス)の核型が明らかになると、ヒトにおける性決定はY染色体の有無によって決まることが明らかになりました。Y染色体を持つクラインフェルター症候群の人はすべてオスである一方、Y染色体を持たないターナー症候群の人はメスだからです。つまり、X染色体の量や数ではなく、Y染色体の有無こそが重要だったのです。これら二つの概念を組み合わせると、精巣を決定する因子(遺伝子)こそが性決定遺伝子であり、その分子基盤が存在するはずだという結論に至ります。そのため、この分野の研究は、精巣決定因子の発見に重点が置かれていました。しかし私達が発見したのは、精巣形成を促進する因子だけではありませんでした。WNT4 やDAX1 のように、オスへの分化に拮抗する働きを持つ因子も数多く存在していたのです。

ヒトを含む哺乳類において、SRY 遺伝子は未分化の生殖腺が卵巣ではなく精巣へと発達するよう働き掛けるが、SRY 遺伝子が存在しなくても精巣が発達する場合がある(性逆転を参照)。この場合、精巣の発達に関与するSOX9(英語版) 遺伝子が、SRY の助けを借りずに精巣の発達を誘導できる。SRY とSOX9 が共に欠如している場合、精巣は発達せず、卵巣が形成される経路へと進む。とは言え、SRY 遺伝子の欠如やSOX9 遺伝子の不活性化だけでは、胎児の性分化をメス方向へと誘導するには不充分である。近年の研究結果によると、卵巣の発達と維持は能動的なプロセスであり[27]、メス化促進(pro-female)遺伝子であるFOXL2(英語版) の発現によって調節されていることが示唆されている。『TimesOnline』でのインタビュー[28]においては、この発見の意義について次のように説明されている:

私達は、精巣または卵巣の有無を含め、生まれつきの性別を維持することを当たり前のように考えています。しかしこの研究によれば、成体の卵巣細胞が精巣に見られるような細胞へと変化するのを防いでいるのは、FOXL2 という単一の遺伝子の働きのみであることが示されています。

意義

ヒトの性を決定する遺伝的要因の解明は、広範な影響をもたらす可能性がある。科学者達は、ショウジョウバエや動物モデルにおける多様な性決定様式を研究し、性の分化に関わる遺伝的要因が、生殖、老化[29]、疾患といった生物学的プロセスにどのような影響を及ぼし得るのかを解明しようとしている。

親個体の影響

ヒトや他の多くの動物種において、子の性別は父親によって決定される。XY性決定様式では、母親(メス)由来の卵子がX染色体を、父親(オス)由来の精子がX染色体またはY染色体の何れかを供給することで、其々メス(XX)またはオス(XY)の子が生まれる。

ヒトにおいて、父親のホルモン濃度は精子の性比に影響を与える[30]。また、母親側の体内環境も、どの精子が受精に至る可能性が高いかに影響を及ぼす。

ヒトの卵子は、他の哺乳類と同様に「透明帯(zona pellucida)」と呼ばれる厚く半透明な層に覆われており、受精のためには精子がこの層を貫通しなければならない。かつては透明帯は単なる受精の障壁と見做されていたが、近年の研究により、透明帯はむしろ精子の卵子への侵入を化学的に制御し、受精卵を他の精子の侵入から保護する、高度な生物学的セキュリティシステムとして機能している可能性が示唆されている[31]。

最近の研究によると、ヒトの卵子は、精子を引き寄せてその遊泳運動に影響を与えると思われる化学物質を産生している可能性がある。しかしすべての精子が好影響を受けるわけではなく、影響を受けないものもあれば、逆にに卵子から遠ざかるものもある[32]。

母体由来の影響には、性決定に影響を及ぼし男女の二卵性双生児が等しい確率で生じるようなものが存在する可能性もある[33]。

発情周期のどの時期に人工授精を行うかによって、ヒト、ウシ、ハムスター、その他の哺乳類の子孫の性比に影響を与えることが明らかにされている[30]。メスの生殖器内のホルモン状態やpHは時間とともに変化し、これが卵子に到達する精子の性比に影響を与えている[30]。

また胚においても、性別による死亡率の違いが見られる[30]。

発想と発見

古代の性決定様式の想定

アリストテレスは、胎児の性別は受精時に男性の精子がどれほどの“熱”を持っていたかによって決まると信じていた。彼は次のように記している:

……オスの精液は、胚の中に運動を齎し、かつ最終的な栄養を充分に成熟させる作用をその内に含んでいるという点で、メスの対応する分泌物とは異なっている。メスの分泌物は単なる素材を含んでいるにすぎない。従って、オスの要素が優勢であればそれはメスの要素を自らに取り込むが、逆に劣勢であれば、反対の性質へと変化するかあるいは破壊されてしまう。

これは性決定の原動力は男性原理にあるという誤った主張である[34]。即ち、生殖の際に男性原理が充分に発現されなかった場合、胎児は女性として発育するというものであった。

20世紀の遺伝学

ネッティ・スティーブンス(英語版)(甲虫類を研究)とエドモンド・ウィルソン(英語版)(半翅目を研究)は、1905年に昆虫におけるXY性決定システム、即ち、雄はXY性染色体を持ち、雌はXX性染色体を持つという事実を、其々独立して発見したとされている[35][36][37]。1920年代初頭、テオフィルス・ペインター(英語版)は、ヒト(および他の哺乳類)の性別もX染色体とY染色体によって決定されること、そしてこの決定に関わる染色体が精子によって運ばれることを実証した[38]。

1904年のネッティ・スティーブンス(英語版)
1891年以前のエドモンド・ウィルソン(英語版)

哺乳類の精巣の発達を決定づける因子の存在を示す最初の手掛かりは、アルフレッド・ヨスト(英語版)[39]が行った実験から得られた。彼は子宮内のウサギの胚を去勢すると全てがメスの表現型を示すようになったことに気付いた[40]。

1959年、C. E. フォードらがヨストの実験を受けてターナー症候群の患者(表現型としては女性として成長した者)を調査した結果、X0(X染色体のヘミ接合体でY染色体を持たない)であることが判明し、胎児が男性として発育するにはY染色体が必要であることが明らかにされた[41]。同時期にジェイコブとストロングからクラインフェルター症候群(XXY)の患者の症例が報告され[42]、男性としての発育にY染色体の存在が関与していることが更に強く示唆された[43]。

これらの一連の観察結果から、ヒトのY染色体上に精巣の発達を決定する支配的な遺伝子(TDF: Testis determining factor)が存在するに違いないという見解が定着した[43]。この精巣決定因子(TDF)の探索の結果、1990年にピーター・グッドフェローらは[44]男性の性決定に不可欠なY染色体の領域を発見し、これをSRY(Y染色体の性決定領域)と命名した[43]。

関連項目

出典

外部リンク

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