アムールニヴフ語
From Wikipedia, the free encyclopedia
| アムールニヴフ語 | ||||
|---|---|---|---|---|
| нивх диф | ||||
| 発音 | IPA: [ɲivx dif] | |||
| 話される国 |
| |||
| 地域 | アムール川下流域 | |||
| 話者数 | 約30人 | |||
| 言語系統 | ||||
| 表記体系 | キリル文字(当項目ではIPAを用いる) | |||
| 公的地位 | ||||
| 公用語 | なし | |||
| 少数言語として 承認 |
| |||
| 統制機関 | 統制なし | |||
| 言語コード | ||||
| ISO 639-3 |
niv | |||
| Glottolog |
gily1242[1] | |||
|
| ||||
| 消滅危険度評価 | ||||
| Critically endangered (Moseley 2010) | ||||
| ||||
| テンプレートを表示 | ||||
アムールニヴフ語(アムールニヴフご)はアムール川下流域で話されているニヴフ語である。他のニヴフ語とは方言関係だとされていたが相互理解が難しいため別言語とみなすことが多い。
アムールニヴフ語には、方言連続体を構成する複数の地域変種があり、分布地域は、アムール川下流域、アムール河口、オホーツク海沿岸およびタタール海峡沿岸、そしてサハリン島北西部である。
アムール川下流方言は、アムール河口方言や西サハリン方言とは若干異なる。サハリンのシュミット半島で話されている北サハリン方言は、多少の留保はあるものの、アムール・ニヴフ語の変種とも考えられる。この方言はアムールニヴフ語とサハリンニヴフ語の両方の特徴を併せ持ち、この方言特有の特徴も持っている。
母音
| 前舌母音 | 中舌母音 | 後舌母音 | |
|---|---|---|---|
| 狭母音 | i | ə | u |
| 中央母音 | e | o | |
| 広母音 | a |
「ǝ」は中舌・高め/中舌あるいはやや上くらいの位置で、音響・音声的には [ɘ]~[ɨ] 程度の変動を持つ。また、母音調和も起こり「高母音i, ǝ, u」と「中低母音e, a, o」の対立がある。母音間で系統的な対応も挙げられており、サハリン系のニヴフ語とアムール系で、サハリン側の /a/ に対してアムール側では /ǝ/ が対応する
例
サケ(魚): laɣu(サハリン) lǝɣu(アムール)
家: taf(サハリン) tǝf(アムール)
など
子音
| 唇音 | 歯茎音 | 硬口蓋音 | 軟口蓋音 | 口蓋垂音 | 声門音 | ||
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 鼻音 | m | n | ɲ | ŋ | |||
| 破裂音 | 無気 | p | t | c | k | q | |
| 有気 | pʰ | tʰ | cʰ | kʰ | qʰ | ||
| 有声 | b | d | ɟ | g | ɢ | ||
| 摩擦音 | 無声 | f | s | x | χ | ħ | |
| 有声 | v | z | ɣ | ʁ | |||
| 接近音 | l | j | w | ||||
| ふるえ音 | 無声 | r̥ | |||||
| 有声 | r | ||||||
アムールニヴフ語の子音体系はきわめて複雑であり、特に破裂音や摩擦音といった騒音子音の区別が詳細である。これらは5種類の調音方法と5か所の調音点によって最大限に分化している。歯擦音の位置には、有声および無声の歯茎ふるえ音が対応する。無声歯茎ふるえ音 [r̥] は下アムール方言とリマン方言に見られ、西サハリン方言では摩擦要素を帯びて [rʃ] として発音され、北サハリン方言ではさらに摩擦音化して [ʃ] に変化する。また、有声破裂音は無声破裂音が鼻音後に現れることで派生したもので、音素体系上では周辺的な地位にとどまる。北サハリン方言ではこれらの有声破裂音は存在しない。半母音 [j] は独立した音素ではなく、母音 /i/ の異音として機能する。語頭で母音の前に、あるいは母音間や母音後に出現する
歴史的変化
歴史的な音韻変化として、不安定な鼻音の脱落が挙げられる。これらの鼻音はサハリン方言では保持されているが、アムール方言では失われた。
例
犬 qanŋ (サハリン) qan(アムール)
縄 xevaŋ(サハリン) xeva(アムール)
音節構造
アムール・ニヴフ語では、音節の初めに最大2個の子音、音節の終わりに最大3個の子音を並べることができる。
例
お金 chχa
海 kerq
板 kəlmr
頭子音交替
語や形態素の語頭子音は、前の語または形態素の末尾音によって交替する。この交替は、修飾語と被修飾語、または目的語と動詞述語のあいだなどで生じる。語や形態素の語頭に現れる音は、語彙的には破裂音として表されるが、文脈によっては摩擦音に変化することがある。また、不安定な鼻音の後では、無声破裂音に対応する有声破裂音が現れる場合もある。歯音の破裂音 t および th には、それぞれ後部歯茎ふるえ音 r および r̥ が対応する。
| 有気↔無声 | 無気↔有声(摩)↔︎有声(破) | |||||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 閉鎖音 | pʰ | tʰ | cʰ | kʰ | qʰ | p | t | c | k | q |
| 継続音 | f | r̥ | s | x | χ | v | r | z | ɣ | ʁ |
| 有声 | - | - | - | - | - | b | d | ɟ | g | ɢ |
例:複数形接尾辞の交替ku
tɨf-ku 「家々」
mu-ɣu 「舟々」
mur(ŋ)-gun 「馬々」
名詞 coŋr 「頭」の場合
kɨxkɨx coŋr 「白鳥の頭」
ɨt zoŋr 「カモの頭」
cham ɟoŋr 「ワシの頭」
動詞 ʁav- 「搾る・乳をしぼる」の場合:
chox+qav- 「ジュースを搾る」
cholŋi+ʁav- 「トナカイを乳しぼりする」
ɨʁa(ŋ)+ɢav- 「牛を乳しぼりする」
形態論
文法
ニヴフ語は抱合的かつ膠着的な言語である。文法要素は形態素と接語に分けられる。形態的な傾向では接尾辞の使用が優勢であり、接頭辞は一人称・二人称単数の所有者(所有代名詞)や代名詞目的語を表す場合に限られる。
品詞
文法的な語の分類として、次の語類が区別される:
名詞、数詞、動詞、副詞、擬音語、機能語(助詞・前置詞に相当)、感動詞。
独立した形容詞は存在しない。
物や人、性質などの特徴は、形容詞ではなく状態動詞によって表される。
例:
neni- 「甘い(甘くある)」
kʰɨr- 「空腹である」
pil- 「大きい(大きくある)」
例文:
tɨ
DEM
dɨf
house
jaoʁ-dʲ
how-PRED.3SG
tɨ dɨf jaoʁ-dʲ
DEM house how-PRED.3SG
'この家は如何ですか?'
tɨ
DEM
dɨf
house
pil-dʲ
big-PRED.3SG
tɨ dɨf pil-dʲ
DEM house big-PRED.3SG
'この家は大きいです。'
名詞
名詞には数(単数・複数)と格の区別がある。単数形には特別な語尾がつかないが、複数形には以下の接尾辞が付く。
アムール方言: -ku 北サハリン方言: -kun
例:qʰotr 「熊」 → qʰotr-ku 「熊たち」
tʰu 「ナーチ(そり)」 → tʰu-ɣu 「そり(複数)」
qan 「犬」 → qan-gun 「犬たち」
また、共同を表す共格の接尾辞も存在し、
単数ではアムール方言で -ke、北サハリン方言で -kin、
複数ではそれぞれ -ko、-kunu が用いられる。
例文: 複数形・共格・格の各接尾辞には語幹の末尾子音の種類に応じた異形態が存在する。
nʲi
1SG
ŋaqr-uχ
snow-LOC
qʰeq.xe
fox-COM
hɨjk.χe
hare-COM
zif.ku
track-PL
ɲrɨ.dʲ
see-PST.1SG
nʲi ŋaqr-uχ qʰeq.xe hɨjk.χe zif.ku ɲrɨ.dʲ
1SG snow-LOC fox-COM hare-COM track-PL see-PST.1SG
'私は雪からキツネやウサギの足跡を見つけた。,
| 格名 | 接尾辞(語尾) |
|---|---|
| 主格 | – |
| 与格 | -toχ |
| 具格 | -kir, -kit |
| 処格 | -uin / -uine / -in / -un / -n |
| 場所格(処格、奪格、向格) | -ux,-x |
| 経過格 | -uɣe,-ɣe |
| 目的格 | -toʁo, -tʰχa, -tʰɨkɨ |
| 比較格 | -ɨk |
| 呼格 | -a |
代名詞
| 人称 | 数 | IPA転写 |
|---|---|---|
| 1人称(排他) | 単数 | nʲi |
| 双数 | meɡi, meki, memak | |
| 複数 | nʲɨŋ | |
| 1人称(包括) | - | mer, mir |
| 2人称 | 単数 | t͡ʃi |
| 複数 | t͡ʃɨŋ, t͡ʃin | |
| 3人称 | 単数 | if,i |
| 複数 | imx, imɨŋ, ivɨŋ, in |
人称接頭辞
単数を除いて人称代名詞と同じ形をとる。ニヴフ語の人称接辞は目的格、所有格として用いられる。
| 人称 | 数 | |
|---|---|---|
| 1人称(排他) | 単数 | nʲ-ɨmɨk |
| 双数 | meɡi-ɨmɨk | |
| 複数 | nʲəŋ-ɨmɨk | |
| 1人称(包括) | − | mer-ɨmɨk |
| 2人称 | 単数 | t͡ʃ-ɨmɨk |
| 複数 | t͡ʃɨŋ-ɨmɨk | |
| 3人称 | 単数 | v-ɨmɨk |
| 複数 | imx-ɨmɨk |
| 格名 | 疑問代名詞(кто) | 疑問代名詞(что) | 1人称 | 2人称 | 3人称 | 再帰代名詞 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 主格 | aŋ | sidʲ | ni | t͡ʃi | if | pʰi |
| 与格 | aŋ-doχ | sidʲ-roχ | ne-rχ | t͡ʃe-rχ | e-rχ | pʰe-rχ |
| 具格 | aŋ-ɣir,aŋ-ɣit | sidʲ-ɣir,sidʲ-ɣit | ni-ɣir,ni-ɣit | t͡ʃi-ɣir,t͡ʃi-ɣit | i-ɣir,i-ɣit | pʰi-ɣir,pʰi-ɣit |
| 位置格 | aŋ-uin | sidʲ-uin | ɲ-uin | t͡ʃ-uin | iv-uin | pʰ-uin |
| 奪格 | aŋ-ux | sidʲ-ux | ɲ-ux | t͡ʃ-ux | iv-ux / j-ux | pʰ-ux |
| 目的格 | aŋ-doʁo,aŋ-tʲaχa,
aŋ-tʲɨkɨ |
sidʲ-roʁo,sidʲ-r̥aχa, sidʲ-r̥ɨkɨ | ɲ-roʁo,ne-rɣa,
ɲ-r̥ɨkɨ |
t͡ʃ-roʁo,t͡ʃe-rɣa,
t͡ʃ-r̥ɨkɨ |
i-doʁo,e-rɣa,
i-tʲɨk |
pʰ-roʁo,pʰe-rɣa,
pʰe-r̥ɨkɨ |
| 比較格 | aŋ-ɨk | sidʲ-ɨk | ɲ-ɨk | t͡ʃ-ɨk | iv-ɨk | pʲ-ɨk |
動詞
ニヴフ語の動詞は音韻的にも形態的にも複雑な構造を持ち、自動詞と他動詞の区別が語頭の音によって反映される。ニヴフ祖語ではすべての動詞が閉鎖音または鼻音で始まっていたと推定されるが、のちに他動詞に代名詞的接辞 *i, *e, *j が付加し、語頭閉鎖音の摩擦音化を引き起こした。結果として、現代のニヴフ語では自動詞は閉鎖音で、他動詞は摩擦音で始まる傾向がある。
j-(語頭母音の前): j-ar-「食べさせる」
i-(語頭子音+i, y, uを含む語幹): i-ɣlu-「怖がる」
e-(語頭子音+e, a, oを含む語幹): e-rʁa-「値する」
他動詞化の別の手段として接尾辞 -u-がある
pol-「落ちる」→ vol-u-「倒す」
tjoz-「消える」→ zoz-u-「消す」
時制
無標は「現在‐過去」を表す。
未来形:接尾辞 -nɨ-。
maɣ-dʲ「捌く/捌いた」→ maɣ-nɨ-dʲ「捌く」
相
| 相 | アムールニヴフ語 |
|---|---|
| 進行、起始相 | -ivu- |
| 完了、強意、全体相 | -gɨt- |
| 結果相 | -gɨta- |
| 継続相 | -r,-t +hum |
| 反復相 | -r̥a-,-tʰa- |
法
| 法 | アムールニヴフ語 |
|---|---|
| 意志、願望 | -inɨ- |
| 推量、不確実 | -bɨnevo- |
否定は助動詞 -qʰau「ない、存在しない」で表す:if pʰrɨ-dʲ「来た」→ if pʰrɨ-doχ qʰau-dʲ「来なかった」。否定存在文:「〜がない」も同じ動詞で表す。禁止文では前置詞的なtʰaを用いる(「〜するな」)。
| 接辞 | アムールニヴフ語 |
|---|---|
| 再帰 | pʰi- |
| 相互 | v-,o-,u, |
| 接辞 | アムールニヴフ語 |
|---|---|
| 使役接辞(動詞) | -ku- |
| 使役対象接辞(名詞) | -aχ |
副詞・形容詞・分詞(属性形)は動詞語幹+相・時制接辞などで質的形容詞は -ла を伴うことが多い。副詞の多くは動詞の副詞化形。
派生と語形成
主に接尾辞化と複合語形成である。
viɣvu-「締める」→ viɣv-s「帯」
pal「森」+ ŋa「獣」→ palŋa「森の獣」
| 順位 | 要素 |
|---|---|
| 1 | 目的語、再帰、相互接辞 |
| 2 | 動詞語根 |
| 3 | 他動化接辞 |
| 4 | 相接辞 |
| 5 | 使役接辞 |
| 6 | 時制・モダリティ接辞 |
| 7 | 法接辞 |
| 8 | 数・焦点接辞 |
出典
- ↑ Hammarström, Harald; Forkel, Robert; Haspelmath, Martin et al., eds (2016). Glottolog 2.7. Jena: Max Planck Institute for the Science of Human History. https://glottolog.org/resource/languoid/id/gily1242
- ↑ “О КМНС”. www.atlaskmns.ru. 2025年11月8日閲覧。
