アメリカワシミミズク
From Wikipedia, the free encyclopedia
| アメリカワシミミズク | |||||||||||||||||||||||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
アメリカワシミミズク Bubo virginianus | |||||||||||||||||||||||||||
| 保全状況評価 | |||||||||||||||||||||||||||
| LEAST CONCERN (IUCN Red List Ver.3.1 (2001)) | |||||||||||||||||||||||||||
| 分類 | |||||||||||||||||||||||||||
| |||||||||||||||||||||||||||
| 学名 | |||||||||||||||||||||||||||
| Bubo virginianus Gmelin, 1788 | |||||||||||||||||||||||||||
| 和名 | |||||||||||||||||||||||||||
| アメリカワシミミズク | |||||||||||||||||||||||||||
| 英名 | |||||||||||||||||||||||||||
| Great Horned Owl |
アメリカワシミミズク(亜米利加鷲木菟、学名:Bubo virginianus)は、フクロウ目フクロウ科に分類される鳥類の一種。英名はグレイトホーンアウル(大きい角のふくろう)。
英名は Great Horned Owl(大きな角のフクロウ)のほか、Tiger Owl(タイガーフクロウ)あるいは Hoot Owl(フートフクロウ)とも呼ばれる[1]。


分類・命名
アメリカワシミミズクは、1788年にドイツの博物学者ヨハン・フリードリヒ・グメリンによって Strix virginiana として初めて記載された。タイプ産地はアメリカのバージニア州に指定されている[5]。学名の属名 Bubo はラテン語でフクロウを意味し、種小名 virginianus はタイプ産地のバージニアを指す[6]。
現在はフクロウ科ワシミミズク属(Bubo)に分類される。ユーラシアに分布するワシミミズク(Bubo bubo)と近縁であり、ユーラシアにおいてワシミミズクが占めるのと同じ生態的地位をアメリカ大陸で占めている。ただしワシミミズクの方が体格は有意に大きい[7]。遺伝学的研究によれば、ワシミミズクはアメリカワシミミズクよりもシロフクロウ(Bubo scandiacus)に近縁であることが示されている。
南アメリカ南部のアンデスに生息する亜種 B. v. magellanicus(マゼランワシミミズク)については、ゲノム規模の系統解析によってアンデス中部マラニョン渓谷付近で北方クレードとの深い分岐が確認されており、独立種(Bubo magellanicus)とする見解もある[8]。
亜種
アメリカワシミミズクには現在16の亜種が認められている。広域分布のため互いに交差する段階的変異(クライン)が多く、亜種の境界は不明瞭なものが多い[9]。主な亜種を以下に示す。
- B. v. virginianus(基亜種)
- 北米東部。ミネソタ州・テキサス州以東から大西洋岸、北はケベック州南部・オンタリオ州南部・ノバスコシア州・プリンスエドワード島にかけて留鳥。中程度の濃さの羽色で、赤みを帯びることが多い[10]。
- B. v. subarcticus(北方亜種・亜北極型)
- マッケンジー川流域からブリティッシュコロンビア州を経てハドソン湾南部にかけて繁殖。冬季にはワイオミング州・サウスダコタ州以南にも出現。本種の中で最大級の亜種のひとつで、体色は最も淡く白に近い個体が現れる[11]。
- B. v. saturatus(太平洋岸北西型)
- アラスカ南東部からブリティッシュコロンビア州・ワシントン州・オレゴン州に分布。湿潤な森林環境に生息し、本種の亜種中で最も暗色(こげ茶〜スス色)の羽色を示す[12]。
- B. v. pallescens(淡色型)
- 大平原および南西部の乾燥地帯に分布。淡いグレー〜クリーム色の羽色で、乾燥環境への擬態と解釈される[13]。
- B. v. nacurutu(南アメリカ低地型)
- コロンビア東部からギアナ、ブラジルアマゾン流域以南、ボリビア・アルゼンチン北部・パラグアイにかけて、断続的に分布する低地型。
形態
体格
アメリカワシミミズクは大型の猛禽であり、北米ではシロフクロウに次いで2番目に重い種とされる[14]。体長は43〜64 cm(平均約55 cm)、翼開長は91〜153 cm(平均約122 cm)に達する[15]。体重は雌が平均1,608 g(最大2,503 g)、雄が平均1,224 g で、雌の方が大きい逆性的二形(逆性的性的二形)を示す[16]。
体格は生息地の緯度と相関し、北方の個体ほど大型になる傾向があり(ベルクマンの法則)、内陸アラスカやカナダの個体が最大級で、カリフォルニアやテキサス、ユカタン半島・バハカリフォルニアの個体は最小級とされる[17]。
握力は鳥類の中でも最強水準に属し、閉じた爪を開くには約28ポンド(約12.7 kg)の力が必要とされる[18]。この強力な把持力によって大型獲物の脊椎を切断することも可能である。
外見・羽色
頭部には左右に1対の「羽角(うかく)」と呼ばれる羽毛の束があり、まるで角あるいはネコの耳のように見える。これが英名 "Horned Owl"(角のあるフクロウ)の由来であり、実際の耳とは無関係である[19]。両眼は大きく前方に向かって固定されており、眼球自体は回転しない。その代わり、環椎後頭関節の柔軟性により頭部を約180度以上旋回させてあらゆる方向を見渡すことができる[20]。
虹彩は黄色で、暗所では瞳孔が大きく開いて夜間視力を発揮する。眼底には桿体細胞が多く、薄明環境での視覚に優れる。
顔盤(フェイシャルディスク)の羽毛は音波を耳孔に集める役割を果たし、聴覚を強化している。体の羽毛は極めて柔軟で、飛翔中の空気抵抗による雑音を抑制し、無音に近い飛行を実現する[21]。
羽色は全体として斑状の灰色・茶色・白色の混合で、木の樹皮に擬態した保護色を成す[22]。喉には白い斑(白班)があり、発声時に膨らませて可視化する。腹面は白〜淡褐色の地に細かい黒褐色の横縞が入る(ワシミミズクが縦縞であるのとは対照的)。羽色の全体的な濃さは亜種および生息域によって大きく異なり、太平洋岸北西部の個体は最も暗色、亜北極の個体は最も淡色を示す傾向がある[23]。
生息域と生態
分布
アメリカワシミミズクは、アラスカ西部・中央部からユーコン準州東部にかけて繁殖し、東はラブラドル半島・ニューファンドランド島に達し、南は北米・中米・南米全土を経てティエラデルフエゴに至るまで分布する[24]。大半の個体は定住性で長距離渡りは行わない。北方の個体群は餌条件が悪化した厳冬期に南下することがあるが、おおむね越冬域と繁殖域は重複する[25]。
生息環境
森林(落葉樹林・針葉樹林・混交林)、草原、農耕地、湿地、砂漠、ツンドラ周縁部、および都市公園・郊外地など、非常に幅広い環境に適応している。ただし繁殖期には、遮蔽となる樹木や大型構造物を必要とするため、開けたツンドラや単調な草原は避ける傾向がある[26]。北米では樹木限界線直下まで分布し、アメリカのフクロウ類の中で最も広域にわたる分布を示す[27]。
行動
夜行性で、日没後から夜明けにかけてが主な活動時間帯である。食物が乏しい時期や冬季には日中に狩りを行うことも記録されている[28]。日中は大木の太枝や樹洞・岩の割れ目などにとどまってねぐらとする。針葉樹など年間を通じて密な葉陰を提供する樹木を好む傾向がある。
縄張り意識が強く、つがいは一年中同じ縄張りを保持する。縄張りの境界は、特に冬季(産卵前)と秋季(幼鳥が分散する前)に激しいフーフー声によって宣言される[29]。
侵入者に対してはくちばしをカチカチ鳴らし、シュー・キーといった声を発し、最終的には翼を広げて足で攻撃する。
雄は体が小さいにもかかわらず声帯が大きく低い声で鳴き、一方で雌は高い音域で応え、つがいは交互に掛け合う独特の二重唱を行う[30]。標準的な鳴き声は「フー・フフー・フー・フー」というリズムで、遠くまで響く低音の連続フート音である。
生態
食性と狩り
アメリカワシミミズクは北米の猛禽類の中で最も多様な食性を持つとされる[34]。主食は[ウサギ類・ノウサギ・ネズミ・ハタネズミ等の小型哺乳類で、食料の大半を占める。そのほかプレーリードッグ・リス・ウッドチャック・スカンク・アライグマ・ネコといった中型哺乳類、カモ・カラス・ミサゴ・ハヤブサをはじめとする各種鳥類、トカゲ・ヘビなどの爬虫類、カエル・サンショウウオ等の両生類、昆虫・サソリ・魚など、ほぼあらゆる動物を捕食することが記録されている[35]。
スカンクを定期的に捕食するほぼ唯一の捕食者として知られており、アメリカワシミミズクの巣やその周囲はスカンクの臭気を帯びることがある[36]。またアメリカワシミミズクは他の猛禽類をも積極的に捕食する北米屈指の「ラプター食者」であり、ミサゴ・ハヤブサ・タカ類のほか、他のフクロウ類も被食対象となる[37]。特にアメリカガラスはアメリカワシミミズクの最大の天敵であり、昼間にねぐらを発見したガラスの群れが長時間にわたって騒ぎ立て(モビング)てフクロウを追い立てる行動はよく知られている[38]。
狩りは主に高いとまり場から視覚と聴覚を使って獲物を探し、急降下して鋭い爪で捕捉するという方法で行われる。体の軟らかい羽毛が飛翔音を消音し、獲物が接近を感知しにくい構造になっている。
繁殖
アメリカワシミミズクは北米の猛禽類の中で最も早く繁殖を開始する種である[39]。北部個体群では11月頃から求愛ホーティングが始まり、1月〜2月には産卵が行われ、まだ雪の残る厳冬期に抱卵する。他のタカ類よりも数週間から最大2ヶ月も早く産卵することで、自身の雛が成長する頃には他の猛禽類の雛を捕食できるという優位性が生まれると考えられている[40]。
一夫一婦制を採り、つがい関係は長期にわたることが多い。自ら巣を作ることはほぼなく、アカオノスリ・カラス・ワタリガラス・サギ・タカ類などが作った古巣を利用することが多い[41]。樹洞・岩棚・崖の窪み・サボテンの上、場合によっては地面に直接産卵することもある。巣に樹皮の断片・葉・羽毛などを敷くこともあるが、一切内装しない場合もある。巣は繁殖シーズン中に劣化するため、通常は翌シーズンに再使用されない[42]。
産卵数は通常1〜3個(まれに最大6個)で、食物の豊富さに応じて変化する[43]。抱卵は主に雌が担い、期間は約28〜35日。孵化した雛は白いダウン羽毛に覆われ、両親から給餌される。孵化後5〜6週間で巣周辺の枝を渡り歩き始め、9〜10週で飛翔できるようになる[44]。幼鳥は秋まで親のなわばり内に留まった後、冬前後に分散する。雌は周囲の気温が抱卵温度より70℃以上低い場合にも卵を約37℃に維持する生理的能力を持つ[45]。性成熟は1〜3年で達成される。野生下での寿命は平均13年、記録された最長寿命は28年(オハイオ州、2005年確認)[46]。飼育下では30年を超える個体も知られる。
保全状況
国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストでは「軽度懸念(Least Concern)」に分類されており、現在のところ絶滅の危険は低い[47]。またワシントン条約(CITES)附属書IIに掲載されており、国際商取引が規制されている[48]。
Partners in Flight(2020年)の推計では世界の繁殖個体数は約570万羽と見積もられ、1966年から2019年にかけての北米繁殖鳥調査(North American Breeding Bird Survey)でも個体数はおおむね安定していることが示されている[49]。
アメリカ合衆国では渡り鳥条約法(Migratory Bird Treaty Act)によって保護されており、許可なく捕獲・所持・販売することは違法とされている。20世紀中頃まで大規模な狩猟圧にさらされていた歴史があり、現在も違法狩猟が一部地域で行われている。また殺鼠剤を摂取した獲物を食べることによる二次中毒(鉛中毒を含む)、道路・電線・建物への衝突死が主要な人為的脅威となっている[50]。ハヤブサやシロフクロウなど保全上重要な種を積極的に捕食するため、それら希少種の保護施策との競合という側面もある。
他の鳥類との関係
文化・象徴
アメリカワシミミズクは、多くの北米先住民族の精神世界・民俗・儀礼において重要な役割を担ってきた。多くの文化で霊的な力を持つ鳥・予兆・守護者として尊ばれてきた[53]。
「空のトラ」「翼を持つトラ」などの異名が示すように、その凶猛な狩猟能力と支配性は広く認識されており、大衆文化においてもフクロウの象徴的存在として語られることが多い。博物学者ベルンド・ハインリッチは自身が育てたアメリカワシミミズクとの交流を著書『ブボがいた夏』(原題:One Man's Owl、1987年)に記している[54]。
参考文献
- ベルンド・ハインリッチ 『ブボがいた夏 アメリカワシミミズクと私』 渡辺政隆訳、平河出版社、1993年。
- 『小学館の図鑑NEO 鳥』 小学館、2002年、158頁。
