アリュートル語

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アリュートル語
алуталг’у
話される国 ロシアの旗 ロシア
地域 コリャーク管区カムチャツカ半島北部)
話者数 100-200[1]
言語系統
表記体系 キリル文字
言語コード
ISO 639-3 alr
消滅危険度評価
Severely endangered (Moseley 2010)
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アリュートル語(アリュートルご、: Alyutor language)は、カムチャツカ半島北部のコリャーク管区に住むアリュートル人[2]が話す古シベリア諸語の一つ。チュクチ語コリャーク語ケレク語と共にチュクチ語派カムチャッカ語派イテリメン語と共にチュクチ・カムチャツカ語族を形成する。ただし最後のイテリメン語については別系統であるとの議論もある[3]

複統合的な言語であり、動詞が多数の形態素から形成され、に相当するような意味を表現しうる。また、抱合的でもあり、他動詞目的語を抱合し、新たな語幹を形成する。他動詞の目的語と自動詞主語が共通の(絶対格)で示され、他動詞の主語が能格で示される能格言語である。

アリュートル語は1958年までコリャーク語の一方言とされてきた。2000年にアリュートル人が独立した民族としてロシア政府により認められる以前は、コリャーク人の一部として分類されてきた[4]正書法は2010年時点でまだない[5]

アリュートル語が独立した言語として認められて以降の研究として、初めて文法の簡潔な記述を提供したZhukova (1968)、レスナヤ方言に基づいた形態的記述と語形成を扱ったZhukova (1980)、動詞形態論を扱ったMel'chuk (1973)及びMal'tseva (1998)がある。比較的最近のものとしてはKibeik et al. (2000/2004)、Nagayama (2003)、簡潔な文法記述を行ったNagayama (2010)が存在する。

アリュートル語は、方言分岐の多いコリャーク語の一方言とされてきた。そのため、文献によってどの方言がアリュートル語に属すかコリャーク語に属すかといった分析が分かれる。本稿では、アリュートル方言(Alutor propeer dialect, sobstvenno alyutorsij dialekt)、カラガ方言、パラナ(レスナヤ)方言をアリュートル語として、この内アリュートル方言を中心に記載する。

アリュトル人はカムチャツカ半島北部の先住民である。言語は無文字であり、消滅寸前である。1970年代には、アリュトル人の主要な村ヴィヴェンカ (Вы́венка, Wywenka, Vyvenka) の25歳未満の住民は言語を知らなかった。近年、ヴィヴェンカの村の学校が言語教育を開始している。1958年まで、この言語はコリャーク語の「村落」(定住)方言と見なされていたが、伝統的に遊牧的なコリャーク語諸変種とは相互理解性がない。自己呼称 [ˈnəməlʔən](Нәмәлъу)は「村の人」または「定住者」を意味する。

方言

チュクチ語派には、いくつかの近い方言によって表されるチュクチ語と、かつて「コリャーク語」という名称でまとめられていた複数の「言語=方言」が属する。コリャークの言語=方言は、(歴史的起源の意味で)遊牧コリャーク(チャウチュヴァン、コリャーク語 cawcəw「トナカイが豊富な」)の方言と、(半)定住コリャーク(ヌイムラン、コリャーク語 nəməlʔən「定住者」)の方言に分けられる。この伝統的区分は比較歴史研究のデータとも一致しており、それによれば原音素*dの対応に基づきチュクチ語派は次の三つの群に分類される(チュクチ語:riŋek、コリャーク語チャウチュヴァン方言:jiŋek、アリュートル語:tiŋek「ハエ」)[6]

  1. r 方言(チュクチ語
  2. j 方言(遊牧コリャークの方言──コリャーク語チャウチュ方言(чавчувенский)、アプカ方言(апукинский)、パレン方言(паренский)、カメン(カメンスコエ)方言(каменский)、イトカン方言(итканский)、ケレク語
  3. t 方言(定住コリャークの方言──アリュートル語、アリュートル語パラナ(レスナヤ)方言(паланский)、アリュートル語カラガ方言(карагинский))

1958年までアリュートル語はコリャーク語の方言と見なされていたが、スコリク(П. Я. Скорик)がこれを独立した言語として区別することを提案した。アリュートル語とコリャーク語の話者間の相互理解は著しく困難であり、ときには不可能である。

分類[7]

コリャーク語とアリュートル語は方言分岐が高い[8][9]。方言の分類には文献によって差異があり、カラガ方言とパラナ(レスナヤ)方言はアリュートル語の一部とされることもコリャーク語の一部と分類されることもある[10]

Stebnickij (1937)

Stebnickijは、コリャーク語を以下の9つに分類した。この分類には当時コリャーク語の一方言とされていたアリュートル語を含む[11]

  • イトカン(Itkana)
    • Itkana
  • パレン(Paren)
    • Paren
  • カメンスコエ (カメン、Kamenskoe)
    • Tylqoy, Mikino[12] (1940年代に閉鎖されたMikino村の方言), Shestokovo, Lytvaty, Ornochek, Mamech, Manily, Kamenskoe, Talovka
  • アプカ(Apuka)
    • Apuka, Pakhachi
    • かつてトナカイ飼育コリャークであったが、その生活様式を海洋コリャークに変更した[13]
  • アリュートル(Alutor)[14]
    • Olyutorka, Kultushinoe, Tilichiki, Wywenka (Vyvenka), Khailino, Wetwey, Kichiga, Anapka, Tymlat, Rekinniki, Podkagernoe.
  • カラガ (Karaga)
    • Karaga, Dranka
  • ウカ (Uka)
    • Uka, Ivashka
  • パラナ(Palan)
    • Lesnaya, Kinkil, Palana, Kakhtana, Woyampolka
  • チャウチュヴァン(チャウチュ、Chawchu, Chawchəvan, Cavcuvenskij: kpy-cav)

このほか、Gin (kpy-gin)、Xatyrskij (kpy-xat)なども存在する。上記のうち、イトカン方言とウカ方言はほとんど資料が存在しない。

Maltseva (2010)

Maltseva (2010)は、音韻的差異に基づきコリャーク語とアリュートル語を以下の7つに分類した[16]

  • コリャーク語
    • チャウチュ (Chawchu)
    • カメンスコエ (Kamenskoe): Itkana, Paren, Kamenskoe
    • アプカ (Apuka)
  • アリュートル語
    • アリュートル (Alutor Proper): Alutor, Kultushino, Wywenka (Vyvenka), Anapka, Kichiga, Tyamlat
    • カラガ (Karaga): Karaga
    • パラナ (Palana): Palana, Lesnaya
    • レキンニキ (Rekinniki): Rekinniki, Podkagerno

コリャーク語との音韻的差異

Stebnitskij (1934)では、上述のうちウカ方言を除いた7方言に当時コリャーク語の下位方言と考えられていたアリュートル語を加えた8方言を、二つの音韻的特徴を基準に分類した:①j方言 vs. r (t~r)方言、②e方言 vs. e~a方言 vs. a方言。大まかに①は地理的な南北に、②は地理的な東西に対応する。

コリャーク語方言の区分[17][18]
e方言(西) e~a方言 a方言(東) [19]
j方言(北) パレン方言

イトカン方言

チャウチュ方言 カメンスコエ方言

アプカ方言

jajaŋa「家」

jajol「キツネ」

r(t~r)方言(南) パラナ(レスナヤ)方言 - カラガ方言

アリュートル方言

raraŋa「家」

tatol/tatul「キツネ」

[19] elek 「夏に」

wejem 「川」

(wejem 「川」) alak 「夏に」

wajam「川」

①の区分の例外としてパレン方言では、チャウチュ方言の/j/に/s~c/ [s~t͡ʃ]が対応することも指摘されている。

a方言のカメンスコエ方言は、母音間の子音が脱落することがある(zaaŋa「家」、waam「川」)[20]。これはチュクチ語でも同様に観察されるという。

アリュートル語は、大きく3つの方言に分けられ、それぞれアリュートル方言(Alutor Proper dialect, sobstvenno alyutorsij dialekt)、カラガ方言(Karaga dialect, Karaginskij)、パラナ(レスナヤ)方言(Lesnaya dialect, Palana)がある[21]。一部研究者はカラガ方言とレスナヤ方言を、アリュートル語ではなくコリャーク語の一部と分類することもある[10]

カムチャッカ半島東のWetwey, Olyutorka, Kultushino, Wywenka, Anapka, Kichiga, 及び Tymlatでは村間の音韻的際は小さい[22]。これに対し、カムチャッカ半島西のRekinniki, Podkagernoeでは村ごとに音素体系の差異がみられる。これら西側の話者は、表層では東部方言で e や o として現れる aj や aw の基底形を保持しており、たとえばkeŋən「熊」、ojik「食べる(こと)」 がkajŋən「熊」、awjik「食べる(こと)」に対応する。

母音調和

チュクチ語派の言語は一般に、強母音 (dominant vowel) /e1, a, o/と弱母音 (recessive vowel) /i, e2, u/の二系列の母音が交替する母音調和の体系を持つ。コリャーク語では、a方言のカメンスコエ方言、アプカ方言、e方言のパレン方言に厳密な母音調和体系がみられる[23]。e~a方言のチャウチュ方言では母音調和が三系列に変化していることが報告されている[24]。a方言のアリュートル語アリュートル方言では母音調和が全く守られないが、カラガ方言やパラナ(レスナヤ)方言では母音調和が存在する[25]

子音弱化

パラナ方言およびカラガ方言では、音節末位置の/v/が弱化し/w/に交替する(ivə-k「言う(こと)」→ɣ-iw-lin「彼(女)が言った」)[26]

開始相(inchoative)および持続相(durative)を標示する接尾辞 -lqiv は、アリュートル方言では語末位置でしばしば語末子音 v を失い、またパラナ方言およびカラガ方言では形態素末位置(しばしば結果相(resultative)の標識の前)で同様に子音を失う[27]

コリャーク語とアリュートル語の音韻的差異は以下のようにまとめられる。

コリャーク語とアリュートル語の音韻的差異[28]
母音調和 v/w交替 v削除
チャウチュ方言 Yes Yes No
カメンスコエ方言 Yes Yes No
パレン方言 Yes - No
アプカ方言 Yes - No
アリュートル方言 No No 部分的にYes
パラナ方言 Yes Yes Yes
カラガ方言 Yes Yes Yes

コリャーク語との形態統語的差異[29]

格標識

アリュートル語(アリュートル方言、パラナ方言、カラガ方言)には、コリャーク語の諸方言に存在する方向格(allative)と奪格(ablative)の標識を欠く。方向格の意味を表すのには与格(-ŋ)が用いられる。奪格の意味を表すには、動作の出発点は場所名詞を場所格 -k または与格 -ŋ に置き、特定の自動詞 (t)kur-/(t)kor-「~から来る」を伴わせて表される。アリュートル方言では、コリャーク語アプカ方言と同様に動作の出発点が沿格(Prolative)で標示されることがある。

双数

コリャーク語を除くチュクチ語派は、のカテゴリとして双数を持つ。アリュートル語パラナ方言は、一般名詞に双数を欠き、複数標識-u/-wwiを代わりに用いる。また、一人称二人称の代名詞には双数が存在するが、三人称代名詞にはこれを欠く(muri 「我々二人」、turi「あなたたち二人」)。これに対しアリュートル方言ではすべての人称代名詞に双数系を持つ(muri 「我々二人」、turi「あなたたち二人」、ətti「彼(女)ら二人」)。

コリャーク語チャウチュ方言、カメンスコエ方言、パレン方言には、完了相において三人称主語の双数を標示する屈折接尾辞が存在する。アリュートル語アリュートル方言にも完了相における三人称双数主語の活用形があるが,双数形の代わりに三人称複数形がしばしば用いられる。

アスペクト標識

コリャーク語およびアリュートル語の諸方言には、異なる不完了相標識が存在する。コリャーク語チャウチュ方言およびアプカ方言では周接辞 ku/ko⟩...⟨ŋ が、不完了相を標示する。コリャーク語カメンスコエ方言では接尾辞 -jkə(n)、コリャーク語パレン方言、アリュートル語アリュートル方言・パラナ方言・カラガ方言では接尾辞 -tkə(n) が用いられる。

接周辞n⟩...⟨qin/qenを持つ動詞形は、性質の述語化を行う属性叙述を表すために用いられ、チュウチュ方言ではよく見られるがアリュートル語アリュートル方言では頻度がやや低い。アリュートル方言では三人称複数においてこの形式の接尾辞部分がn⟩...⟨laŋin に置き換わる。

開始相・持続相標識

開始相・持続相を表す標識として、二種類の接辞が用いられる。チャウチュ方言、カメンスコエ方言、パレン方言、アプカ方言では接尾辞-ŋvoが用いられ、アリュートル方言、カラガ方言、パラナ方言では-lqi(v)が用いられる。

カメンスコエ方言はチャウチュ方言と同じ開始相に-ŋvoを用いるが、不完了相の標示にはアリュートル語にみられる-jkənを用いる。

コリャーク語とアリュートル語の形態統語的差異は以下のようにまとめられる。

コリャーク語とアリュートル語の形態統語的差異[30]
方向格/奪格の有無 双数 不完了相の標識 開始相の標識
ku/ko⟩...⟨ŋ -jkən -tkən
チャウチュ方言 Yes Yes Yes -ŋvo
カメンスコエ方言 Yes Yes
パレン方言 Yes
アプカ方言 Yes
アリュートル方言 No 限られる Yes -lqiv
パラナ方言 Yes -lqi(v)
カラガ方言 Yes

コリャーク語との語彙的差異[31]

否定の小辞

否定の小辞はコリャーク語とアリュートル語の間で異なる語彙ujŋe/ujŋa、allə/elleを持つ。カラガ方言ではチャウチュ方言ともアリュートル方言とも異なる語彙ammə, emを持つ。

間投詞

チュクチ語と同様に、コリャーク語やアリュートル語では「はい」を表す語彙が男女で異なる。パレン方言とカラガ方言は不明である。

「こんにちは」を表す語彙は、チャウチュ方言とパラナ方言で男女間で差異がみられる。

人を指す名詞

「父、子供」を意味する名詞は、チャウチュ方言とカメンスコエ方言で共通語幹を持ち、それぞれenʲpič及びkmiŋənである。

「若い女性」を意味する名詞は、チャウチュ方言とカメンスコエ方言で共通語幹elʲʕaを持ち、アリュートル方言、パラナ方言、カラガ方言で別の語幹lʲaŋi/lʲaŋeを持つ。チュクチ語とパレン方言はさらに異なる語幹ŋevəsqetqejŋe、wəsqatを持ち、アリュートル方言のŋavəsqapilʲ「少女」と同源である。

自然を指す名詞

「星」を表す語について、チャウチュ方言は「見る」を意味する動詞から派生した語幹lʲəlʲapəčʕənのみをもち、他の方言は独自の語幹aŋaj/aŋar/eŋej/eŋerを持つ。

「雨」を表す語についてはアリュートル方言では三つの独立した語幹arɣin/lʲəʔilʲ/ ɣateɣənを持つ。パラナ方言では、チャウチュ方言に類似した語幹とアリュートル方言に類似した語幹muqamuq, erɣinの二つを持つ。

その他の語彙

「また(again)」を表す語は、チャウチュ方言、カメンスコエ方言、パレン方言が同一語幹ɣəmle, ɣəmleŋ/ɣəmlaŋ/ɣəmləŋを持ち、他の方言では別の語幹numal, ləɣəmmen, innəkが使用される。

「話す」を表す語は、カメンスコエ方言、パレン方言が同一語幹məɣəmɣatikən, məɣəmɣetəkを持ち、アリュートル方言、パラナ方言、カラガ方言が別の語幹を共有する。さらにチャウチュ方言などに、ivək「話す」と副動詞接尾辞-ŋに由来するevəŋ/ewəŋ/ewaŋ「話しながら」の特別な形態がある。

コリャーク語とアリュートル語の語彙的差異は以下のようにまとめられる。

コリャーク語とアリュートル語の語彙的差異[32]
否定 「はい」(女性/男性) 「こんにちは」(女性/男性) 「父」 「子供」 「若い女性」 「星」 「雨」 「また(again)」 「話す(不定詞)」 話しながら」
(チュクチ語) ujŋe ii/eej jeti, jetti ətləɣən nenenə, kmiŋən ŋevəsqetqej eŋer, aŋatləŋən[33] iliil, ilil, iləʔil neme wetɣawək
チャウチュ方言 ujŋe[34] ii/ee mej/ʕamto enʲpič kmiŋən elʲʕa lʲəlʲapəčʕən muqemuq ɣəmle, ɣəmleŋ wanʲavatək evəŋ/ ewəŋ
カメンスコエ方言 ujŋa ii/oo mej enʲpič kmiŋən elʲʕa aŋaj, lʲəlʲapəčʕən muqamuq ɣəmlaŋ məɣəmɣatikən[35] evəŋ
パレン方言 ujŋa[36] - ammej - - ŋewəsqat eŋej - ɣəmləŋ məɣəmɣetək ewaŋ[37]
アリュートル方言 allə aŋ, wa/ ɣo mej əlləɣən unʲunʲu, unʲəʔu lʲaŋi aŋar arɣin, ilʲəʔilʲ, ɣateɣən numal aŋinməsʔatək, kʲərvilʲʔatək -
パラナ方言 elle[38] wa/wo mej[39]/ amto[40] enʲpič, əlləɣən kmiŋən, unʲunʲu lʲaŋe, ŋevəčqat eŋer muqamuq, erɣin ləɣəmmen eŋinməlʲʔatək, məŋečuk evəŋ
カラガ方言 ammə, em - mej, meffe[41] əlləɣən nʲenʲeʔu lʲaŋe eŋer erɣin innək kʲərvilʲʔatək -

表記

アリュートル語は公的な表記法を持たないが、アリュートル語を掲載する新聞«Абориген Камчатки» Aborigen Kamchatkiは下記の文字を使用する。

А а Б б В в В' в' Г г Г' г' Ғ ғ Д д
Е е Ә ә Ё ё Ж ж З з И и Й й К к
Ӄ ӄ Л л М м Н н Ӈ ӈ О о П п Р р
С с Т т У у Ф ф Х х Ц ц Ч ч Ш ш
Щ щ Ъ ъ Ы ы Ь ь Э э Ю ю Я я

音韻

音節構造[42]

音節構造は(C1)V(C2)である。Cは子音(consonant)、Vは母音(Vowel)である。()は音節形成の非必須要素である。声調は見られない。母音で始まる音節については異なる見解があり、コリャーク語と同様に語頭位置にのみ現れるとする分析[43]と、声門閉鎖音/ʔ/を語頭の母音の前に挿入する分析がある[44]。また、音節の核が長母音であるならその音節は音節末子音を持たない。したがってアリュートル語には次の音節パターンがみられる。

アリュートル語の可能な音節パターン
子音/音節核 シュワー(ə) シュワーではない短母音 (Vshort) 長母音 (Vlong)
(コーダのみ) - (ʔ)VshortC -
オンセットのみ CVshort CVlong
オンセット+コーダ CəC CVshortC -

語頭および語末の二重子音連結は許されず、語中の三連子音連結も許されない。アリュートル語には接続詞や助詞を除き、表層形(音声形)で単音節語は存在しない。語根が基底形(音韻形)で単音節である場合、語根末子音を重複させ/ə/を付加し第二音節を付加する({naj}[45]→naj-[46] 「山(単数絶対格)」)。これらの付加音節は語根に別の形態素が続くときに削除される({naj}→naj-uwwi 「山(複数絶対格)」)。

アクセント規則

アリュートル語のアクセントを持つ語は以下の規則に従いアクセントを持つ[47]

  • 単音節語:(音声形でアクセントをもつ単音節語は存在しない)
  • 二音節語:強勢は第一音節に置かれる(.məl「水」)。
  • 三音節以上の語:三音節以上の語は強勢が第二音節に置かれる(qə..vul「夫」、pə..kəl.ŋən「ブーツ」)。

ただし、強勢は母音/ə/を含む開音節には置かれない。代わりに以下の規則に従って別の音節に移動する。

  • 第一音節に母音/ə/を含む二音節語:語末に第二音節の語末子音と同じ子音と /ə/ から成る第三音節が付加される。アクセント規則は多音節語のものに従い、強勢は第二音節に置かれる({mtan}→ *mə́.tan → mə.tán.nə「蚊」)。
  • 第二音節に母音 /ə/ を含む多音節語:強勢は第一音節に置かれる(.wə.ja.tək「誰かに食べさせる」)。

(音節の追加規則は「音の挿入」も参照)

アリュートル語のアクセントを持たない語は以下の群からなる[48]

  1. 接続詞・小辞・一部の副詞などの助詞類
  2. 人称代名詞の一部
    1. 第二音節が軽音節である与格系
    2. 双数主格及び短い複数主格
  3. ロシア語の借用語で上記のアクセント規則に従わない強勢位置を持つ語
  4. 主要な品詞に属する語根から派生した語
    1. 本来の強勢位置(第二音節)がCəである語
    2. 本来の強勢位置(第二音節)が重音節になる語

母音

アリュートル語には6つの母音が設定できる。類縁のチュクチ語やコリャーク語と同様に、/ə/は子音連結を回避するための挿入音としても用いられる。

アリュートル語の母音音素
前舌母音 中央母音 後舌母音
狭母音 i, (/ī/) u, (/ū/)
中央母音 e, (/ē/) ə o, (/ō/)
広母音 a, (/ā/)

Kibrik et al. (2004) は/ə/以外の母音に長母音を立てる。アリュートル語では長短のe, oは相補分布をなす。i, u, aには長短の音韻的対立が存在するが、韻律・音節構造によって以下の点で大きく制約される。

  1. 長母音は開音節にのみ現れる
  2. 強勢のある開音節(語の第1・第2音節)では常に長母音となる
  3. 強勢のある音節の次の音節では常に短母音となる

アリュートル語の/ə/は語や接辞の基底形に語彙的に含まれるものと、表層形でのみ現れ子音連結を回避するために挿入されるものの二種類の起源がある。/ə/は以下の点で他の母音と異なる振る舞いを見せる。

  1. アクセントを担うことができない
  2. 半母音(接近音)および声門閉鎖音/w, j, ʔ/に後続されて別の母音を形成する(əw → u, əj → i, əʔ → a)
  3. 子音の連続を避けるために二つの母音の間に挿入される

子音

アリュートル語には、18個の子音が設定できる。

アリュートル語の子音音素
両唇音 唇歯音 歯茎音 硬口蓋音 軟口蓋音 口蓋垂音 咽頭音 声門音
鼻音 m n [ɲ] ŋ
破裂音 p t k q ʔ
側面接近 l [ʎ]
はじき音 r
摩擦音 v s ɣ ʕ
接近音 w j

Kibrik et al. (2004)では/s/の代わりに/t͡sʲ (sʲ)/をたて、破擦音/t͡sʲ (sʲ)/は高齢の話者の発音なのに対して/sʲ/は中年層や若年層に広くみられるとする[49]

[b, d, f, x, z]がロシア語からの借用語に現れるが、年長者はこれらを [p, t (j), v, q, s]と発音する場合がある[50]

/ʔ, ʕ/を除くすべての子音は、語中のあらゆる位置で出現する。/ʔ, ʕ/は語末では出現しない。

音韻規則

アリュートル語にはコリャーク語と同様、複雑な音韻規則が存在する。これらは正しい音節構造の形成のための子音連続の回避、母音連続の回避、単音節語の回避などを動機として起こる。本稿では、語の基底表現を{}で囲って示す。

重複[51] [52]

他のチュクチ・カムチャッカ諸語の言語と同様に、重複はアリュートル語において語根から単数絶対格を形成する手段として用いられる。アリュートル語では語根のコピーは、常に対応する語根に後続し一音節からなる。重複される語根が単一の子音で始まる場合、語根コピーは語根の最初の 3 つのセグメントから成り、重複される語根が 2 子音連続あるいは母音で始まる場合、語根コピーは語根の最初の 2 つのセグメントから成る。

アリュートル語の重複のパターン
語根の種類 単数絶対格 例(語根) 例(単数絶対格)
C1V1C2... C1V1C2...~C1V1C2# {kalti}「甲虫」 kalti~kal
{ʕasu}「ピンクサーモン」 ʕasu~ʕas
C1C2... C1C2...~C1C2# {nki}「夜」 nəki~nək[53]
V1C1... V1C1...~V1C1# {anu}「春」 ʔanu~ʔan[54]
{ujp}「賞」 ʔujpə~ʔuj[54][53]

音の脱落[55]

語頭子音脱落

語頭子音脱落は、語頭位置で最もよく見られ、子音二つから始まる動詞語根でのみ起きる。脱落する子音は/t, s, n, l/であり、両唇音、軟口蓋音、口蓋垂音、喉音の直後で起きる({(t)va}「とどまる」、{(t)ɣivi}「年」、{(t)kəpl}「叩く」、{(t)ʕəlwət(i)}「日」[56])。ただしこの規則が適用されない語根もある({tɣetat-k}「跳ぶ(jump)」→təɣetatək[56]、)。

語末母音脱落

語末母音脱落は、名詞語根及び一部の名詞的接尾辞に典型的に見られる。これは通常、形態素の後に明示的な接辞が続かない単数主格または形容詞の3人称単数に現れる。脱落する母音は常にアクセント語の母音であり、多くはaが脱落するがi, uが脱落する場合がある( {tatula} → tatul「キツネ(絶対格単数)」、cf. tatula-wwi「キツネ(絶対格複数)」、{maqmi}→maqəm「弾丸(絶対格単数)」、cf. maqmi-wwi「弾丸(絶対格複数)」[57])。語末母音が脱落しない語根もある({punta}→punta「肝臓」、{iniri}→iniri「ブランケット」)語末母音脱落は接尾辞にも見られる。例:所有接尾辞 {-in(a)} およびそこから派生した形容詞接尾辞 {-kin(a)}, {-lin(a)}, {-qin(a)} など。

母音連続での母音脱落

基底形では二つの母音が連続して現れるのは形態素境界に限られる。アリュートル語では母音連続は許されないため、声門閉鎖音の挿入もしくは一方の母音の脱落で解消される(例:ɣa⟩...⟨lin + {iv} → ɣ-iv-lin (< *ɣa-iv-lin)「彼(女)は言った」)。連続した母音のうち、どちらが脱落する母音かは階層的に決められており、次のとおりである[58]:ə < a, (ā) < e, o < i, (ī) < u, (ū)。

音の挿入[59]

シュワーの挿入

語頭・語末に子音連続CC、語中に子音連続CCCが生じる場合、子音連続回避のために母音/ə/が挿入される( {ŋvu} → ŋəvu-kki 「始める(不定詞)」、*mət-ŋvu-la-mək → mət-ə-ŋvu-la-mək「私たちは始めた」)。

(語中の)三子音連続のなかに一子音からなる形態素C2がある場合、シュワーは形態素C2の左右いずれか一方の境界のみに挿入され、両方の境界に挿入されることはない(C1C2C→C1əC2C3 またはC1C2əC3、*C1əC2əC3)。アリュートル語の語中に出現しうる一子音形態素は次のとおりである:1). ʔ- 接続法の接頭辞、2).n- 使役標識の語中での異形態、3). -ŋ いくつかの接周辞の接尾辞部分(可能の標識、「Nを作る」「Vをしたい」を派生する語彙的動詞派生接辞"ta⟩...⟨ŋ")。C2がʔ-であるときはC1C2əC3に、n-であるときはC1əC2C3となる。、C2が-ŋであるときは二通りに分かれ、不定詞・処格・副動詞の接尾辞-kiが後続するときはC1əC2C3、それ以外の場合はC1C2əC3となる。

シュワーと子音の音位転換

Kibrik et al. (2004:223)では、C1, C2がともに歯茎音である子音連結C1-C2C3が表層形でC1-C2əC3となる場合について、シュワーの挿入後に音位転換が(随意に)生じるためと分析している({tʕəl-lʔ-n}→tʕələ-lʔə-n→tʕəlləʔə-n「病人」、ただしC1, C2がともに歯茎音でない場合、{nəm-lʔ-n}→nəməlʔən, *nəmləʔən「定住者、ヌイムラン」)。

声門閉鎖音の挿入

Kibrik et al. (2004)では、声門閉鎖音/ʔ/を語頭の母音の前に挿入する分析をとる({akk(a)}→ʔakək「息子」)。このほか、複合語の後部要素が母音で始まる場合にも後部要素の最初に声門閉鎖音を挿入する({ala}→ala~al→ʔalaʔal「夏」、{ɣəmək=unʲunʲu-ŋ}→ɣəmək=ʔunʲunʲu-ŋ「私の息子に」)

子音の交替

子音の同化

接辞付加は子音の同化を引き起こすことがある。以下の表は子音同化の条件である(上段が後続する子音、下段が先行する子音)。

子音の同化
先行子音\後続子音 m ŋ n l r s j
t nm nn nʲnʲ[60] ll lʲlʲ[61] rr ss -
l - - - - - lʲlʲ - ss lʲlʲ
n - - - nʲnʲ ll - rr - nʲnʲ

この他、Kibrik et al. (2004:231)では、/k/の直前の/q/が/k/に逆行同化する場合と、/w/の直後の/k/が順行同化する例が挙げられている。

隣接しない子音の交替

歯茎音/t/, /l/, /n/は、それぞれ/s~tʲ/, /lʲ~s/, /nʲ/に交替することがある。

例:ənʲnʲ-ə-pilʲ < *ənn-ə-pilʲ < {ənn} 「魚」-pilʲ「指小辞

「小さな魚(絶対格単数)」

これは語中に特定の形態素が存在するときに生じ、その形態素が口蓋化子音を含まない場合もある。

例:ʕinʲnʲ-ə-kv-ə-n < *ʕinn-kv-n < {ʕinn} -kv-「覆うもの」-n「名詞化接辞」

「スカーフ(絶対格単数)」

Vocalization

後続する子音との組み合わせに応じて、母音 /ə/ は次のように変化する(əw → u, əj → i, əʔ → a)。母音/a/は次のように変化する(aj → e | _# or _C (C ≠ j))。また、/aj/の組み合わせは、絶対格単数では/e/として現れるが、複数接尾辞-uwwiが続く絶対格複数形では/aj/として現れる。/aw/の組み合わせは、絶対格単数形で/ə/の挿入が起きるためそのままだが、絶対格複数では/ə/の挿入が起きないため/o/になる。加えて、強調表現や呼びかけ表現においては、母音 /a, ə, u/ は母音 /o/ に変化し、母音 /i/ は母音 /e/ に変化する。変化後の母音にストレスが置かれる。

女性発音

Стебницкий (1938) では、女性の発音で、/l/が/s/、/s/が/c/に交替することを報告している[62]。Nagayama (2003:9)では、これらの交替が女性だけでなく男性の発音にもみられること、及びこの交替が任意的であることを報告している。このような性別による発音の差はチュクチ語にも存在し、男性では/r/で女性では/c/[ts]に交替する。

問いかけに対しても男性と女性で異なる語彙が使用され、男性はɣo女性はaŋを使う。

品詞論

アリュートル語における品詞は、語形変化を行うinflecting wordsと語形変化を行わないnon-inflecting wordsに分けられる。品詞のうち、名詞類(名詞、代名詞、指示詞、形容詞、数詞)、動詞はinflecting wordである。副詞、接続詞、間投詞、助詞、接語はnon-inflecting wordsである。Inflecting wordは文法範疇に従って屈折接辞を伴って現れる。多くの語幹は名詞類、形容詞、動詞のいずれかの屈折接辞を組み合わせて使用される。ごく少数の語幹のみがこれらの2つまたは3つの接辞を付加することができる。一方でnon-inflecting wordsは、性・数・格いずれの接辞も付加しない。

名詞類

名詞類は次の下位区分を持つ:名詞(普通名詞、固有名詞)、代名詞、指示詞、形容詞、数詞。

  • アリュートル語の名詞類には、文法範疇として人称定性がある。
    • 数は単数、双数、複数を持つ。同じチュクチ語派コリャーク語ケレク語と同様に絶対格以外で数の区別が中立化することがある。
    • 人称は一人称二人称三人称を区別する。
    • 格は主に次の11格を区別する[63][64]:絶対格、能格(具格)、処格、与格、lative、沿格(prolative)、接触格(contactive)、原因格(orientational/causal)、様格(equative/essive)、共格(comitative)、associative。本稿では、Kibrik et al. (2004)を主に参考にする。

名詞

アリュートル語の名詞は、二つの異なる曲用体系を持ち、それぞれ異なる格接辞のセットを持つ。第一のグループは人間以外を指す普通名詞(無生物・不定)であり、第二のグループは人名及び家畜の名前を指す固有名詞と親族名称(有生物・定)である。また、人を指す名詞及び動物名はこの二つのどちらでも活用しうる。普通名詞は絶対格でのみ単数、双数、複数が区別されるのに対し、固有名詞は絶対格以外では具格、処格、与格で数の区別がある。

一対の事物を表す際に双数の使用が好まれるコリャーク語とは異なり、アリュートル語では複数の使用がより好まれる。

名詞の格組織

以下にアリュートル語の名詞格変化を示す。-∅は語幹に何もつかない形である。

アリュートル語の名詞格変化
普通名詞(無生物・不定) 固有名詞(有生物・定)
単数 双数 複数 単数 双数 複数
絶対格(Absolutive, абсолютный)「~が・を」 (表外を参照) -t/-ti[65] -w/-wwi[66][67] -∅/-n -nti -w/-wwi[66]
能格 (具格)(Instrumental, творительный)「によって」 -a/-ta[68] -ənak -ətək
処格(Locative, местный)「~で」 -k/-ki[69]
与格 (Dative, дательный)「~に・~へ」 -ənaŋ
lative[70] -kəŋ -
沿格(Prolative, продольный)「~に沿って」 -jpəŋ/ɣəpəŋ[71]
接触格(Contactive, касательный )「~でつかんで」 -jit ~ -jita
原因格(Orientational, Causal, каузальный)「~のせいで」 -kjit ~ -kjita
様格(Equative, Essive, назначительный)「~として」 -u/-nu[68] -u/-ənu[72][68]
共格(Comitative, совместности)[73] ɣa⟩...⟨a/⟨ta[68][74] awən⟩...⟨ma[75]
Associative ɣeqə⟩...⟨a/⟨ta[68][76] -

絶対格の標示のされ方には次の4つの方法がある:①無標のもの(ゼロ形態素-∅を伴うもの)、②語幹末子音の弱化を伴うもの、③語幹の重複を伴うもの、④絶対格接尾辞-n/ -ŋa/ -lŋənを伴うもの。

①無標のもの(ゼロ形態素-∅を伴うもの)

{wala} → wala-∅ [77]「ナイフ」(cf. wala-wwi (絶対格複数))

②語幹末母音の脱落を伴うもの

{milʲuta} → milʲut「野兎」(cf. milʲuta-wwi (絶対格複数))

③語幹の重複を伴うもの

{raɣ} → *raɣ~raɣ →*raw~raw→ ro~ro「ライチョウ」(cf. raɣ-uwwi (絶対格複数))

④絶対格接尾辞-n/ -ŋa/ -lŋənを伴うもの

{itʔ} → itʔ-ə-n 「パーカ(フード付き毛皮製ジャケット)」 (cf. itʔ-uwwi (絶対格複数))

{rara} → rara-ŋa 「家」[78] (cf. rara-wwi (絶対格複数))

{mənɣ} → mənɣ-ə-lŋən 「手」 (cf. mənɣ-uwwi(絶対格複数))

この他、Kibrik et al. (2004)では、-qalも一対のもののうち一つを示す単数の標識として挙げられている(lili-qal「ミトンの片方」、cf. lili-lŋən)。

格の用法

絶対格は、自動詞の主語と他動詞の目的語を示す。また、呼びかけにも使われ、その際には語末母音が長母音化する。

能格は、他動詞の主語、行為の道具、逆受動構文における降格された動作主の標識に用いられる。また、「見る」などの動詞の経験者(experiencer)の標識にも使用される。

処格は、対象の所在、行為の場所、行為が行われる時間を示す。また、様格やlativeの周辺機能に用いられる。

与格は、行為の受取手・受益者、目的地の対象、絶対格から降格した行為主に用いられる。

Lativeは、行為が行われる経路、行為がその沿いに行われる場所や人を表す。時に行為が行われる起点を示す。

沿格は、lative的機能である通過運動や奪格的機能である基点からの運動を示す。

接触格は、対象との接触を示す。

原因格は、行為の原因または動機を示す。

様格は、「Xのように」「Xとして」という機能を表すために用いられ、「(何か・誰かに)なる」「(誰かに)変わる」「(誰かとして)働く」などの動詞とともに用いられる。「男性であること」などの生得的な属性には使用されない。

共格は、行為の主要な遂行者と同一の役割をもつ外部参与者を表す。普通名詞と固有名詞では異なる共同行為格標識をもつ。

Associativeは、主要な遂行者とは異なる役割をもつ外部参与者を表す。普通名詞にのみ見られ、通常は非有生である。

名詞の述語形

アリュートル語にはコピュラ動詞が存在しない。 名詞述語文においては、主語と述語が並べられ、両者とも能格ではなく絶対格で表される。さらに、名詞述語文で主語が第一人称または第二人称の場合、述語に主語の人称と数を示す特殊な接尾辞(人称指標、predicate marker)が付加されることがある。

アリュートル語の人称指標
単数 双数 複数
一人称 -iɣəm/-jɣəm[66] -muri -muru
二人称 -iɣət/-jɣət[66] -turi -turu
三人称 (単数主格形) (双数主格形) (複数主格形)

第一人称および第二人称の代名詞を修飾する形容詞や副詞も、名詞述語の場合と同一の述語標識を伴う。

代名詞

人称代名詞

人称代名詞は、名詞と同様に数、人称、格の範疇を持つ。単数・双数・複数の区別は絶対格場合によっては能格でのみ保たれ、他の格では単数と複数のみが区別される。人称代名詞は、lative(-(ə)kə-ŋ)と与格形(-ŋ)と一致する可能性が高いためこれを省く。

人称代名詞は、名詞と同様に同じ統語的位置で用いられ格標示を受けるという共通点を持つが、抱合されず常に自立語として用いられる。

人称代名詞の形態は以下の通り。

アリュートル語の人称代名詞の格変化[79]
第一人称 第二人称 第三人称
単数 双数 複数 単数 双数 複数 単数 双数 複数
絶対格 ɣəmmə-∅ mur-i mur-uwwi[80] ɣəttə-∅ tur-i tur-uwwi[80] ənnu-∅ ətt-i ət-uwwi[80]
能格 (具格)[81] ɣəm-nan mur-i ~ mur-ɣə-nan mur-ɣə-nan ɣə-nannə[82] tur-i ~ tur-ɣə-nan tur-ɣə-nan ə-nannə[83] ətt-i ~ ət-ɣə-nan ət-ɣə-nan
処格 ɣəmə-kki murə-kki ɣənə-kki turə-kki ənə-kki ətə-kki
与格[84] ɣəm-əkə-ŋ mur-əkə-ŋ ɣən-əkə-ŋ tur-əkə-ŋ ən-əkə-ŋ ət-əkə-ŋ
沿格[84] ɣəmə-kk-epəŋ murə-kk-epəŋ ɣənə-kk-epəŋ turə-kk-epəŋ ənə-kk-epəŋ ətə-kk-epəŋ
接触格 ɣəmə-kka-jit(a) murə-kka-jit(a) ɣənə-kka-jit(a) turə-kka-jit(a) ən-əkka-jit(a) ətə-kka-jit(a)
原因格 ɣəmə-kka-kjit(a) murə-kka-kjit(a) ɣənə-kka-kjit(a) turə-kka-kjit(a) ən-əkka-kjit(a) ətə-kka-kjit(a)
様格[85] ɣəmm-ula-nu mur-ɣina-nu ɣətt-ula-nu tur-ɣina-nu ənn-ula-nu ət-ɣina-nu
共格[85] awən-ɣəmm-ula-ma awən-mur-ɣina-ma awen-ɣətt-ula-ma awən-tur-ɣina-ma awen-ʔənn-ula-ma awən-ʔət-ɣina-ma
Associative[85] ɣeqə-ɣəmm-ula-ta ɣeqə-mur-ɣina-ta ɣeqə-ɣətt-ula-ta ɣeqə-tur-ɣina-ta ɣeqə-ʔənn-ula-ta ɣeqə-ʔət-ɣina-ta

所有代名詞

アリュートル語には人称代名詞に所有形があり、形容詞が派生するのとほぼ同じ方法で代名詞語幹から派生される。所有代名詞は、possessive forms properとrelative possessive formの二つに分けられ、前者はɣəmnin「私の(私に属する)」、後者はɣəməkkakin「私の(私と関係のある)」という意味の違いがある。形容詞系と同様に、所有代名詞は自立的にも抱合系としても用いられる。Possessive forms properは抱合される場合に特別な語幹を持つ。

アリュートル語の人称代名詞所有形
単数 双数 複数
1 SG. ɣəm-nin ɣəm-ninat ɣəm-nina(-wwi)
2 SG. ɣə-ninnə ɣə-ninat ɣə-nina(-wwi)
3 SG. ə-ninnə ən-innat ə-ninna(-wwi)
1 PL. mur-ɣin mur-ɣina-t mur-ɣina(-wwi)
2 PL. tur-ɣin tur-ɣina-t tur-ɣina(-wwi)
3 PL. ət-ɣin ət-ɣina-t ət-ɣina(-wwi)

指示詞

指示代名詞

アリュートル語には、コリャーク語と同様に三系列(近称・中称・遠称)の指示代名詞がある。

アリュートル語の指示代名詞
1 SG. 2 SG. 3 SG.
近称 (this: proximal) ɣuttin ɣuttaq-ti ɣuttaq-u(wwi)
中称 (that) ənŋin ənŋina-t ənŋina-w(wi)
遠称 (that: distal) ŋanin ŋanina-t ŋanina-w(wi)

指示詞も格接尾辞をとることができ、先行する名詞句なしで用いられる場合、指示対象が非人間か人間かに応じて格接尾辞をとる。

また、表中にない代名詞として、遠称ŋaninの強調系として分析できるŋoninも存在する[86]

疑問代名詞

アリュートル語には2つの疑問代名詞がある。{mik}「誰」は人間を指す場合に、{taq}「何」は動物を含む人間以外を指す場合に使われる。疑問代名詞は名詞と同様、絶対格でのみ単数・双数・複数の区別がある。このほか格接辞をとらないtita「いつ」、taʔər「どのくらい」、maja「どこ」などがある。

アリュートル語の名詞格変化[87]
{mik}「誰」 {taq}「何」
単数 双数 複数 単数 双数 複数
絶対格 miɣɣa mik-ə-nti mik-uwwi tinɣa taq-ti taq-uwwi
能格 (具格) mik-nak taq-a
処格 taq-ə-k
与格 mik-naŋ taq-ə-ŋ
沿格 mik-nepəŋ taq-ɣəpəŋ[88], taq-jipəŋ[89]
様格 mik-u taq-u
共格[90] -

-

awən-mik-ma

ɣe-taq-a

ɣeqə-taq-a

awən-taq-ma

また、語根{maŋ}も疑問文に使用される(maŋ-ki「どこ(処格)」、maŋ-in「どちらの(所有形)」、maŋ-inʲas「どれだけ、どのくらい」、maŋ-kət/maŋ-kətiŋ「どこで(与格)」、maŋ-kepəŋ「どこに沿って(沿格)」)。

代用語

話者が必要な語を度忘れしたなどですぐに発話できない場合、代用語(Слова-заместители)が使用される。代用語には{nitka}、{nika}の二種類がある。{nitka}は人間を指す名詞の語幹の代用に使用される。{nitka}は名詞として使用される。一方、{nika}は物を指す名詞の語幹の代用として使用される。{nika}は名詞だけでなく、動詞や形容詞の役割も置き換えることができる。絶対格単数形ではこれらの語の語末母音/a/は脱落する。

形容詞

アリュートル語の形容詞は、質的形容詞(qualitative adjective)と非質的形容詞に分かれ、非質的形容詞はさらに関係形容詞(relative adjective)と所有形容詞(possessive adjective)に分かれる。これら二つの形容詞クラスは異なる標識をもち、異なる派生タイプに属する。質的形容詞は独立した語彙的クラスであるのに対して、関係形容詞は名詞を中心とした他の品詞から派生される。

統語論的観点からみると、形容詞は独立後として述語としてかもしくは抱合によって用いられる。形容詞が属性的に用いられるのは名詞が絶対格で標示されているばあいに限られる。この場合主要名詞と人称・数において一致する。

質的形容詞(qualitative adjective)

質的形容詞、名詞、動詞、副詞、稀に接続詞から派生され、接周辞n⟩...⟨qin(a)の形式を持つ。接頭辞部分n-は質的形容詞の人称・数に限らずすべて共通し、接尾辞部分-qin(a)は三人称S項の場合に用いられ、人称・数と一致する。質的形容詞は、対象の恒常的性質、特徴、性格、品質を表す。

質的形容詞mraj-「幸運な」の人称・数の形態[91]
人称/数 単数 双数 複数
第一人称 nə-mraj-iɣəm nə-mre-muri nə-mre-muru
第二人称 nə-mraj-iɣət nə-mre-turi nə-mre-turu
第三人称 nə-mre-qin nə-mre-qina-t nə-mre-qina(-w) ~

nə-mre-laŋ ~ nə-mre-laŋin ~ nə-mre-laŋina(w(wi))

性質を示す語幹は、副詞化接辞(adverbializing affix)n⟩...⟨ʔa および -ŋ をとることがあり、その場合、副詞として機能する。

n-ə-misʔa-qin「美しい」、n-ə-misʔa-ʔa/ misʔa-ŋ「美しく」

接周辞a⟩...⟨kaによって派生される別のpredicative formと呼ばれる形容詞形も存在する。a⟩...⟨kaの形式は三人称単数を標示し、対応する複数形は -w(wi)が付加される。

a-məlru-ka「熟練した(三人称単数)」

副詞化標識n⟩...⟨ʔaによって派生される別の形容詞形も存在する。副詞化標識の接尾辞部分は一致標識を占める。

-katɣu-ʔa ɣa-rwil-lin「(彼は)それを強く引っ張った」(cf. nə-katɣu-qin 「強い(三人称単数)」)

質的形容詞には比較の程度とみなされるいくつかの形式が存在する。接頭辞 mal- を形容詞に付加すると、その性質の程度がより高いことが表される。接尾辞-lʔは動詞の標識と同一であり、高い程度の性質を表すために用いられる。

非質的形容詞

関係形容詞(relative adjective)

関係形容詞は、場所や時間を指す語幹から派生され、接尾辞-kin(a)の形式をもつ。属性的に用いられる場合、S項と人称・数において一致する。

接尾辞-kin(a)で標示される関係形容詞の人称・数の形態[92]
人称/数 単数 双数 複数
第一人称 -kin-eɣəm -kina-muri -kina-muru
第二人称 -kin-eɣət -kina-turi -kina-turu
第三人称 -kin -kina-t -kina(-w(wi))

接周辞ɣa⟩...⟨lin(a)は名詞に付加し、「~を持つ」という意味の所有形容詞を派生するために用いられる。

接周辞ɣa⟩...⟨lin(a)で標示される関係形容詞の人称・数の形態[93]
人称/数 単数 双数 複数
第一人称 ɣa⟩...⟨jɣəm ɣa⟩...⟨muri ɣa⟩...⟨-muru
第二人称 ɣa⟩...⟨jɣət ɣa⟩...⟨turi ɣa⟩...⟨-turu
第三人称 ɣa⟩...⟨lin ɣa⟩...⟨lina-t ɣa⟩...⟨laŋ ~ ɣa⟩...⟨laŋin ~ ɣa⟩...⟨laŋina(-w(wi))

ɣa⟩...⟨lin(a)を否定する、「~を持たない」を意味するa⟩...⟨kəlʔin(a)という形式もある。これは副詞化標識a⟩...⟨ka、属性化標識-lʔ、所有形容詞標識-in(a)から構成されており、最後の-in(a)は三人称単数の場合にのみ用いられる。

接周辞a-⟩...⟨kəlʔin(a)で標示される関係形容詞の人称・数の形態[94]
人称/数 単数 双数 複数
第一人称 a⟩...⟨kəlʔ-iɣəm a⟩...⟨kəlʔə-muri a⟩...⟨kəlʔə-muru
第二人称 a⟩...⟨kəlʔ-iɣət a⟩...⟨kəlʔə-turi a⟩...⟨kəlʔə-turu
第三人称 a⟩...⟨kəlʔlin a⟩...⟨kəlʔina-t a⟩...⟨kəlʔə(-w(wi))
所有形容詞

所有形容詞は、関係形容詞の語幹以外から派生され、接尾辞-in(a)の形式を持つ。この形式は普通名詞(無生物・不定)か固有名詞(有生物・定)かで形式が異なる。さらに、固有名詞の所有形容詞は所有者が単数か非単数かで異なる形式を持つ。

普通名詞(無生物・不定)の所有形容詞の人称・数の形態[95]
人称/数 単数 双数 複数
第一人称 -in-eɣəm -ina-muri -ina-muru
第二人称 -in-eɣət -ina-turi -ina-turu
第三人称 -in -ina-t -ina(-w(wi))
固有名詞(有生物・定)で所有者が単数の所有形容詞の人称・数の形態[95]
人称/数 単数 双数 複数
第一人称 -ənin-eɣəm ~ -ən-eɣəm -ənina-muri ~ -əna-muri -ənina-muru ~ -əna-muru
第二人称 -ənin-eɣət ~ ən-eɣət -ənina-turi ~ -əna-turi -ənina-turu ~ -əna-turu
第三人称 -ənin ~ ən -ənina-t ~ -əna-t -ənina(-w(wi)) ~ -əna(-w(wi))
固有名詞(有生物・定)で所有者が単数の所有形容詞の人称・数の形態[96]
人称/数 単数 双数 複数
第一人称 -ətɣin-eɣəm -ətɣina-muri -ətɣina-muru
第二人称 -ətɣin-eɣət -ətɣina-turi -ətɣina-turu
第三人称 -ətɣin -ətɣina-t -ətɣina(-w(wi))

数詞

アリュートル語の数詞は以下の三つのグループに分けられる。

  1. 単純数詞:1-5, 10, 20
  2. 複合数詞:6-9, 30, 40, 50, 60, 70, 80, 90(複合数詞は二つの単純数詞の語根からなる例:ənnan-məlləŋ(in))
  3. 合成数詞:単純数詞と複合数詞以外の全て(合成数詞は二つの独立した数詞の組み合わせで表される)

チュクチ語と同様に、「手」と「男性」という語に関連する。mənɣətkin「10」は{mənɣ}、mənɣət (絶対格双数)「手」と共通の語根をもち、qəlikkə「20」は動物の雄や男性を意味するqəlikに由来する。Жукова (1968: 300)では11以上の数詞の末尾にɣapatulaをつけることが報告されているが、Nagayama (2003)では非常に高齢な話者の話し言葉でのみ確認され、しばしばɣapatulaが省略されると報告している。また、コリャーク語と同じく、「6」から「9」を除けば十進法である。ただし、「20」は補充法による。

アリュートル語の数詞
数字 数詞 序数詞
1 ənnan vitkukin/ janutkin
2 ŋitaq ŋita-qav-kin
3 ŋəruqqə ŋəru-qav-kin
4 ŋəraqqə ŋəra-qav-kin
5 məlləŋin məlləŋ-qav-kin
6 ənnanməlləŋ(in) (1+5) ənnanməlləŋ-qav-kin
7 ŋitaqməlləŋ(in) (2+5) ŋitaqməlləŋ-qav-kin
8 ŋəruqməlləŋ(in) (3+5) ŋəruqməlləŋ(in)
9 ŋəraqməlləŋ(in) (4+5) ŋəraqməlləŋ(in)
10 mənɣətkin mənɣət-qav-kin
11 mənɣətək ənnan (10+1)、mənɣət-ə-k ənnen ɣa-patul-a[97] (10+1と余り) mənɣətək ənnan-qav-kin
12 mənɣətək ŋitaq (10+2)
13 mənɣətək ŋəruqqə (10+3)
14 mənɣətək ŋəraqqə (10+4)
15 mənɣətək məlləŋin (10+5)
20 qəlikkə qəlik-ə-wav-kin
21 qəlikkə ənnan (20+1)
40 ŋəraqmənɣətkin (4*10)
44 ŋəraqmənɣətkin ŋəraqqə (4*10+4)
50 məlləŋin mənɣətkin (5*10)
70 ŋitaqməlləŋin mənɣətkin (7*10)
100 mənɣətək mənɣətkin (10*10)

序数詞

序数詞は一番目を除き、基数詞の語根から派生される。

集合数詞

集合数詞は接尾辞-(r)ɣaraを付加して形成される(ŋita-rɣara「二回」)。語根が子音で終わる場合は-ɣara、母音で終わる場合は-rɣaraを使用する[98]。4以上の集合数詞はほとんど使用されない。

頻度のカテゴリ

頻度「〜回」を表す形は接尾辞 -ѕаŋ を用いて作られる。

ənnan-ѕаŋ「一回」 , ŋisa -ѕ(аŋ)[99]「二回」, ŋeru-s(aŋ)「三回」, ŋera-s(aŋ)「四回」, məlləŋ-s(aŋ)「五回」, mənɣət-saŋ「十回」, təʕər-ѕаŋ[100]「何回」

分配のカテゴリ

分配形「~ずつ」は接尾辞 -јu を用いて作られる[101]

ənʲnʲanʲ-nʲu「一ずつ」, ŋita -ju「ニずつ」, ŋeru-ju「三ずつ」, ŋera-ju「四ずつ」, məlləŋ-ju「五ずつ」, mənɣəj-ju「十ずつ」

動詞

アリュートル語は動詞の屈折接辞に、人称(ムード)、(アスペクト)、項の数を標示する。動詞は常に屈折接辞(接頭辞、接尾辞、接周辞)を伴って現れ、裸語幹が単独で用いられることがない。

動詞は付加する接辞によって3つに下位区分を持つ:

  1. 自動詞接辞が付加できるもの({arat}「落ちる」など)
  2. 他動詞接辞が付加できるもの({ɣita}「~を見る」など)
  3. 自動詞接辞と他動詞接辞が付加できるもの({iv}「言う」、「~を言う」など)

これらの動詞接辞は項の人称と数を示す。動詞の大部分は自動詞接辞か他動詞接辞のいずれかしか付加しないが、どちらも付加できるものも少数ある。アリュートル語では屈折接辞により、単数と非単数しか区別されない。複数は非単数形に複数化マーカー-laを付加することで標示される。

動詞には以下の4つの法(ムード)がある:直説法(indicative)、可能法(potential)、願望法(optative)、仮定法(subjunctive)。

動詞には3つの相(アスペクト)がある:不完了相(imperfective)、完了相(perfective)、結果相(resultative)。結果相の他動詞は他動詞の対象のみを標示する。

動詞の屈折接辞は二種類に分けられる:単一標示タイプ(single-marking type)と二重標示タイプ(double-marking type)。単一標示タイプの動詞は自動詞主語(S)か他動詞目的語(P)を標示するが、二重標示タイプの動詞は動作の主語(A)と対象(P)を標示する。自動詞は単一標示タイプで、他動詞は二重標示タイプである。

定型動詞のスロット
語幹からの位置 -4 -3 -2 -1 0 +1 +2 +3 +4
S/A一致 反転マーカー 抱合 語幹 複数接辞 相/法 S+A一致 S/A一致

法(ムード)と相(アスペクト)

アリュートル語の動詞の法(ムード)と相(アスペクト)による意味の形式は以下の通り。

アリュートル語の人称指標
不完了相(Imperfective) 完了相(Perfective) 結果相(resultative)
直説法(indicative) 進行中の行動(=現在、過去進行、過去習慣) 完了した行為(=過去)
可能法(potential) 未来において進行中の行動 未来において完了される行為(=未来)
願望法(optative) 進行中の動作を続ける意思または命令 動作を開始・完了する意思または命令
仮定法(subjunctive) 行動を続ける願望 行為を完了したいという願望

アスペクトでは、不完了相・完了相に加えて、相を示す他の接尾辞が存在する。例えば、開始相(inchoative, -lqiv)や反復相(iterative, -tku)である。

自動詞の活用

自動詞の屈折接辞は動作主の人称・数を標示する。直説法完了相では、動作主を一人称では接周辞により、二・三人称では接尾辞により標示している。

直説法

自動詞における直説法の活用は以下の通り:完了相・不完了相・結果相。

自動詞{saju}「お茶を飲む」の形態(直説法完了相)
単数 双数 複数
一人称 t-ə-saju-k mət-saju-mək mət-saju-la(-mək)
二人称 saju-j saju-tək saju-la-tək
三人称 saju-j saju-ɣəʔət saju-la-t
自動詞{saju}「お茶を飲む」の形態(直説法不完了相)
単数 双数 複数
一人称 t-ə-saju-tkə(n) mət-saju-tkə(n) mət-saju-la-tkə(-t)
二人称 saju-tkə(n) saju-tkəni-tək saju-la-tkəni-tək
三人称 saju-tkə(n) saju-tkə-t saju-la-tkə-t
自動詞{saju}「お茶を飲む」の形態(直説法結果相)
単数 双数 複数
一人称 ɣa-saju-jɣəm ɣa-saju-jɣət ɣa-saju-lin
二人称 ɣa-saju-muri ɣa-saju-turi ɣa-saju-lina-t
三人称 ɣa-saju-muru ɣa-saju-turu ɣa-saju-laŋ(ina)

可能法

自動詞の形態(可能法完了相)
単数 双数 複数
一人称 t-{語幹} mət-{語幹} mət-{語幹}-la
二人称 ∅-{語幹} {語幹}-tək {語幹}-la-tək
三人称 {語幹}-∅ {語幹}-t {語幹}-la-t

他動詞の活用

他動詞の屈折接辞は、動詞の動作主(A)と被動作主(P)を標示する。一般に接頭辞は他動詞の動作主を示す傾向がある。接頭辞 na- または ina- は、動作主が被動作主よりも階層的に低いことを示し、それぞれの項の人称と数に応じて使い分けられる。この階層は以下のように模式化される(NSGは、非単数 non-singular)。

3NSG< 3SG < 2NSG < 2SG < 1NSG < 1SG

接頭辞 na- は、第二人称または第三人称の動作主が階層的に高い被動作主を持つ場合に使用される。第一人称被動作主が階層の最も高い場合には接頭辞 ina- が使われる。以下に接頭辞の使い分けについて示す。

他動詞接頭辞na-とina-の分布
接頭辞の形態 動作主(P) 被動作主(A)
na- 1SG

1NSG

2SG, 2NSG

3SG, 3NSG

3NSG

2SG, 2NSG, 3SG, 3NSG

3SG, 3NSG

3NSG

ina- 1SG 2SG, 2NSG, 3SG

アリュートル語では通常、動作主(A)が被動作主(P)よりも階層的に低い場合、動作主の人称や数を区別しない。

他動詞{pŋlu}「~を尋ねる」の形態(完了相)
被動作主(P) 動作主(A) 動詞の形態
1 SG 2 SG/3 SG

2 DU

2 PL

3NSG

ina-pŋəlu-j

ina-pŋəlu-tək

ina-pŋəlu-la-tək

na-pŋəlu-gəm

1 DU all na-pŋəlu-mək
1 PL all na-pŋəlu-la-mək
2 SG 1 SG

1 DU

1 PL

3 SG/3 NSG

t-ə-pŋəlu-ɣət

mət-ə-pŋəlu-ɣət

mət-ə-pŋəlu-la-ɣət[102]

na-pŋəlu-la-ɣət

2 DU 1 SG

1 NSG

3 SG/ 3 NSG

t-ə-pŋəlu-tək

mət-ə-pŋəlu-tək

na-pŋəlu-tək

2 PL 1 SG

1 NSG

3 SG/3 NSG

t-ə-pŋəlu-la-tək

mət-ə-pŋəlu-la-tək

na-pŋəlu-la-tək

3 SG 1 SG

1 DU

1 PL

2 SG

2 DU

2 PL

3 SG

3 NSG

t-ə-pŋəlu-n

mət-ə-pŋəlu-n

mət-ə-pŋəlu-la-n

pəŋlu-n

pəŋlu-tki

pəŋlu-la-tki

pəŋlu-nin

na-pŋəlu-n

3 DU 1 SG

1 NSG

2 SG

2 NSG

3 SG

3 NSG

t-ə-pŋəlu-na-t

mət-ə-pŋəlu-na-t

pəŋlu-na-t

pəŋlu-tki

pəŋlu-nina-t

na-pŋəlu-na-t

3 PL 1 SG

1 NSG

2 SG

2 NSG

3 SG

3 NSG

t-ə-pŋəlu-na(-wwi)

mət-ə-pŋəlu-na(-wwi)

pəŋlu-na(-wwi)

pəŋlu-la-tki

pəŋlu-nina(-wwi)

na-pŋəlu-na(-wwi)

他動詞{pŋlu}「~を尋ねる」の形態の形態(直説法結相)
動作主の人称・数 動詞の形態
1 SG

1 DU

1 PL

ɣa-pəŋlu-jɣəm

ɣa-pəŋlu-muri

ɣa-pəŋlu-muru

2 SG

2 DU

2 PL

ɣa-pəŋlu-jɣət

ɣa-pəŋlu-turi

ɣa-pəŋlu-turu

3 SG

3 DU

3 PL

ɣa-pəŋlu-lin

ɣa-pəŋlu-lina-t

ɣa-pəŋlu-laŋ(ina)

副動詞

副動詞は、動詞語幹に後述する接尾辞を後続させることで作成できる。副動詞は人称と数を標示しないため、主動詞で示された行動の主体と副動詞の主体が異なる場合、その主語または動作主が副動詞節に付加される。

-k/-ki, ɣa⟩...⟨(t)a:主動詞が示す事象に先行する事象

ɣaqə⟩...⟨(t)a, awən⟩...⟨(m)a, -kəŋ, -kaŋa:主動詞が示す事象と同時に起こる事象

副詞

副詞は人称や数を示す屈折接辞を伴わないが、多くの副詞は語幹と接尾辞に分析できる。

性質副詞

性質副詞は、形容詞語幹から接周辞nə⟩...⟨ʔaまたは接尾辞-ŋを用いて派生される。n-ə-mal-qin「良い」、n-ə-mal-ʔa「良い」、mal-ə-ŋ「良い」

場所の副詞

場所の副詞は、動作の方向を示す接尾辞-ŋを持つものか、動作場所を示す接尾辞-kを持つものがある。javal-ə-k「後ろで(場所格)」、javal-ə-ŋ「後ろに」

動作様態副詞

動作様態副詞は、接尾辞-ŋまたは-(t)aで派生される。

時間の副詞

時間の副詞は、ほとんどが無接辞である。形容詞語幹に接尾辞-saŋを付加すると、「~の最中に」の意味を持つ副詞ができる。

類似副詞

類似副詞は、名詞・代名詞語幹に接尾辞-sʔinaŋを付加して派生される。

語形成

アリュートル語には次の語形成法が存在する[103][104]:接辞付加、語幹複合、抱合、重複、転換。このうち重複は名詞形成にのみ用いられる。

接辞付加

接辞による語形成は、アリュートル語で非常に生産的に行われる。

名詞を派生する接辞

名詞語幹・形容詞語幹から名詞を派生する接辞
接辞 グロス 派生前の名詞・形容詞
am- 「ただの~」 am-qam「からの器」 {qama}「器」
-jərʔ 「何かの内容物」 kuka-jərʔ-ə-n「煮物」 {kuka}「鍋」
-lku 「物の内部」 ra-lku-n「住居の内部」 {ra}「家」
-lʲq 「物の表面」 mimlʲ-ə-lʲq-ə-k「水の上で(処格)」 {miml}「水」
-mk 「多くのN」 ra-mk-ə-n 「トナカイキャンプ 」 {ra} 「家」
-mt 「(名詞の擬人化)」 walv-ə-mt-ə-lʔ-ə-n「カラス(昔話の登場人物)」 {walv}「カラス」
-ril 「(連結された複数物からなる対象)」 ʕəm-ril「背骨」 {ʕəm}「骨」
-surəm 「Nの端」 ʕinʲnʲ-ə-surəm「カラー」 {ʕinn} 「首」
-ten 「~のそば」 wajam-ten-ə-n「川のほとり」 {wajam}「川」
-tʔul 「Nの一部、Nの肉」 keŋ-ə-tʕul 「クマの肉」 {keŋ} 「クマ」
-nʲaq(u) 「(指大辞)」 ɣətɣ-ə-nʲaqu 「大きな湖」 {ɣətɣ} 「湖」(名詞)
tinʲɣa-nʲaqu 「なんという大きいもの」 {tinʲɣa} 「何」(代名詞)
-pilʲ 「(指小辞)」 akka-pilʲ 「小さな息子」 {akka} 「息子」(名詞)
qaj- 「(指小辞)」 *qaj-kaillʔ-ə-n > qe-kaillʔ-ə-n「アザラシの子供」 {kaillʔ}「アザラシ」(名詞)
qaj-paŋatura > qe-paŋatura「少し休む」 {paŋatura}「休む」(動詞)
-lwən 「Nの集合」 utt-ə-lwən「森」 {utt} 「木」
「とても(形容詞)である人物」 ŋira-lwən 「汚れ」 {ŋira} 「醜い」
-vərr 「~に似たもの」 ʕitu-vərr-ə-n「ガンに似たもの」 {ʕitu} 「ガン」
動詞語幹から名詞を派生する接辞
接辞 グロス 派生前の動詞
-inaŋ 「Vするための道具」 milɣəp-inaŋ「ライター」 milɣəp-ə-k「火をつける」
-nə 「Vするための場所」 em-ə-「水を汲む場所、井戸」 em-ə-k「水を汲む」
-ju 「Vするための物体」 tu-ju-n 「食べるもの、食べ物」 tu-kki「~を食べる」
名詞を派生する接辞
接辞 グロス 派生前
-ɣiŋ 「~の下」 ʕəlʲ-ɣiŋ-ki「雪の下(処格)」 {ʕəl}「雪」(名詞)
iwtəlʲ-ɣiŋ-ki「下の方で」 {iwtəl}「下で」(副詞)
-ɣərŋ 「(抽象名詞)」 qura-ɣərŋ-ə-n「トナカイの頭数」 {qura}「家畜トナカイ」(名詞)
po-ɣərŋ-ə-n「幅」 {po}「広い」(形容詞)
junat-ɣərŋ-ə-n「生命」 {junat}「生きる」(動詞)
-lŋ[105] 「(名詞)」 u--ə-n「森の前の広場」 {u}「木」(名詞)
a⟩...⟨ki[106] 「(~のない)」 a-vilʲu-ki「耳の不自由なもの」 {vilu}「耳」(名詞)
a-valʲum-ki「言うことを聞かない」 {valum}「聞く」
-jan[107] 「~がある場所、性質を帯びた場所」 əvənʔ-ə-jan「ベリーのある場所」 {əvənʔ}「ベリー」(名詞)
irv-ə-jan「刃」 {irv}「鋭い」(形容詞)
ʕasa-jan「男性器」 {ʕasa}「書く」(動詞)
動詞・名詞語幹から名詞を派生する接辞
接辞 グロス 派生前の動詞・名詞
-julɣ 「Nのための容器」 wala-julɣ-ə-n「(ナイフの)さや」 {wala}「ナイフ」(名詞)
əm-julɣ-ə-n「川の深み」 {əm}「深い」(形容詞)
「Vするための道具」 milɣəp-julɣ-ə-n「炉、かまど」 milɣəp-ə-k「火をつける」(動詞)
-kv 「(覆うもの)」 arŋina-kv-ə-n「レインコート」 {arŋina}「雨」(名詞)
kamam-ə-kv-ə-n「敷物」 {kamam}「柔らかい」(形容詞)
saju-kv-ə-n 「お茶に合うお菓子」 saju-k「お茶を飲む」(動詞)
-lqəl 「材料・用途を表す名詞」 ra-lqəl「横木」 {ra}「家」(名詞)
laʔu-lqəl「顔・写真」 {laʔu}「見る」(動詞)
-lwən~-swən 「集合名詞」 utt-ə-lwən~utt-ə-swən「森」 {utt}「木」(名詞)
ŋira-lwən「泥」 {ŋira}「汚い」(形容詞)
-lʔ 「Nを持つもの」 kali--ə-n「ゴマフアザラシ(lit.模様を持つもの)」 {kali}「模様」
-lʔ 「Vするもの」 vitat-ə--ə-n「労働者」 vitat-ə-k「働く」
-tkən 「先端」 ʕiŋ-ə-tkən「鼻先」 {ʕiŋ}「鼻」(名詞)
pəŋu-tkən「川の上流」 {pŋu}「吸う」(動詞)
-tʔul 「部分」 kali-tʔul {kali}「模様、本」
pəʕa-tʔul {pʕa}「乾く」

動詞を派生する接辞

動詞を派生する接辞
接辞 グロス 派生前の名詞
-at 「(自動詞化)」 kətiɣ-at-ə-k「~が吹く」 {ktiɣ}「風」(名詞)
um-at-ə-k「~を温める」 {um}「暖かい」(形容詞)
ʕaqepəŋ-at-ə-k「不便を感じる」 {ʕaqepəŋ}「不便に」(副詞)
iɣənʲŋ-at-ə-k「そうである」 {iɣənc}「そう」(代名詞)
-av 「(自動詞化)」 əpa-v-ə-k「スープを食べる」 {əpa}「スープ」(名詞)
sem-av-ə-k「~に近づく」 {sem}「近い」(形容詞)
ɣərɣul-av-ə-k「~を上がる」 ɣərɣul「上」(副詞)
-jt 「(自動詞化)」 *ra-jt-ə-k→re-t-ə-k「家に行く」 {ra}「家」(名詞)
-ltat~lʲtat 「(自動詞化)」 qəv-ə-lʲtat-ə-k「窮屈である」 {qəv}「窮屈な」(形容詞)
-lʔat~lʲʔat 「(自動詞化)」 ɣakaŋ-ə-lʔat-ə-k「トナカイ橇で走る」 {ɣakaŋ}「トナカイ橇」
-ŋta 「(自動詞化)」 qura-ŋta-k「トナカイを見に行く」 {qura}「家畜トナカイ」
-ruʕ[108] 「(季節や終わりが)来る」 anu-ruʕ-ə-k「(春が)来る」 {anu}「春」(名詞)
-tku 「Nを使って行動する」 wala-tku-k「笛を吹く」 {wala}「ナイフ」
-tva 「~を脱ぐ」 kimitʕa-tva-k「服を脱ぐ」 {kimitʕa}「脱ぐ」
-tvi 「~になる」 məq-ə-tvi-l {mq}「小さい」
-u 「Nを飲む/食べる」「Nを殺す」 saj-u-k「お茶を飲む」 {saj}「お茶」
-u 「Nを飲む/食べる」「Nを殺す」 keŋ-u-k「クマを殺す」 {keŋ}「クマ」
ta⟩...⟨ŋ (1) 「Nを作る」 ta-pisɣ-ə-ŋ-ki「料理する」 {pisɣ}「食べ物」
ta⟩...⟨ŋ (2) 「Vをしたい」 ta-la-ŋ-ki「行きたい」 {la}「行く」

複合語

ほとんどの複合語は二つの異なる語幹からなるが、三語幹の複合語もみられる。ただし、動詞 + 動詞の複合語で二番目の動詞語幹として現れることができる語幹の数は限定的であり、動作の始動・終了を表す、{ŋvu} 「始める」、{plʲətku} 「終わる」、{ʕankav} 「止める、諦める」及び、{viʕ} 「死ぬ」 のみである。ただし、{viʕ} 「死ぬ」が複合語に使われる場合は本来の意味を失い、直前の動詞が示す動作の強調を示す。

動詞を派生する接尾辞
グロス 意味
名詞語幹 + 名詞語幹 aŋqa+ɣərnik 海+動物 海獣
形容詞語幹 + 名詞語幹 meŋ-ə+ʔiwl-ə-qama-ŋa 大きい+長い皿 大きく長い皿
動詞語幹 + 名詞語幹 java+ʕətʕ-ə-n 使う+犬 橇犬
副詞語幹 + 名詞語幹 jaŋta+sama-n 孤立した+島 孤立した島
動詞語幹 + 動詞語幹 oji+plʲətku-k 食べる+終わる 食べ終わる
動詞語幹 + 動詞語幹 tanʲŋo+viʕ-ə-k 笑う+死ぬ 突然笑い出す
形容詞語幹 + 動詞語幹 meŋ-ə+saju-k 大きい+お茶を飲む たくさんお茶を飲む
副詞語幹 + 動詞語幹 winʲv-ə+tirŋat-ə-k こっそり+泣く こっそり泣く

重複

いくつかの名詞語幹は重複して絶対格単数形を形成する。重複には、名詞語幹全体が重複される完全重複と、語幹の最初の三つの音素が重複される部分重複が存在する。ただし、最初の四つの音素が重複されるものも存在する。

動詞を派生する接尾辞
音節構造 意味
CVC~CVC jaq~jaq カモメ
ʕəl~ʕəl 積もった雪
CVCV~CVC riri~rir シロイルカ
ɣuna-ɣun クロマツの松ぼっくり
CVCC~E~CVC tumɣ~ə~tum 仲間
təll~ə~təl 毛皮のゲルの入り口
CVCCV~CVC jilʲʔa~jilʲ ジリス
qərvu~qər クロマツ
(C)CVC~E~CCVC ɣiŋ~ə~nɣiŋ 漁網

構文と機能的カテゴリー

語順

アリュートル語における語順はかなり自由である。Nagayama (2011)では、語順の詳細は十分に解明されていないとしながらも、動詞節ではOV構造の頻度が高いとしている。修飾語は多くの場合、修飾される名詞の前に置かれるが、逆になる場合も多い。複合語においては修飾語の要素が常に修飾される要素の前に置かれる。

文法機能

主語/目的語標示と動詞の一致

アリュートル語は能格絶対格タイプの言語であり、動詞の主語・対象は以下のように標示される:

  • 他動詞の動作主(A)は具格(=能格)で標示される。
  • 自動詞の主語(S)および他動詞の対象(P)はともに絶対格で標示される。

動詞は(S)、(A)、および(P)に一致する。動詞の一致は接頭辞と接尾辞によって表される。

自動詞文では動詞は絶対格で標示された主語と一致する。他動詞文では動詞は具格(=能格)で標示された動作主と絶対格で標示された被動作主と一致する。

加えて、動詞の屈折接尾辞においても能格性が示され、非単数の二人称の非他動詞の主語と他動詞の対象は同じ接尾辞 -tək によって示される。

しかしながら、第一人称に関しては、屈折接辞は主格・対格型(nominative-accusative type型)で表される。具体的には、単数第一人称の非他動詞の主語と他動詞の行為者は同じ接頭辞 t- によって示される。

動詞が否定接辞とともに使われ、動詞の一致を示せない場合は、助動詞が用いられる。 アリュートル語では二種類の異なる助動詞が用いられる: {it}[109](自動詞)、 {tt/nt}[110](他動詞)。

ムードとアスペクト

動詞には以下の4つの法がある:直説法(indicative)、可能法(potential)、願望法(optative)、仮定法(subjunctive)。

アリュートル語の人称指標
不完了相(Imperfective) 完了相(Perfective)
直説法(indicative) 進行中の行動(=現在、過去進行、過去習慣) 完了した行為(=過去)
可能法(potential) 未来において進行中の行動 未来において完了される行為(=未来)
願望法(optative) 進行中の動作を続ける意思または命令 動作を開始・完了する意思または命令
接続法(subjunctive) 行動を続ける願望 行為を完了したいという願望

アスペクトでは、不完了相・完了相に加えて、相を示す他の接尾辞が存在する。例えば、開始相(inchoative, -lqiv)や反復相(iterative, -tku)である。

結合価の変更

使役化

自動詞は、使役接辞を用いることで他動詞に変えることができる。接頭辞 t-/n- には二つの異形態があり、t- は語頭位置に、-n- は語中位置に現れる。

t/n-: t-ə-passa-k 「駄目にする」 (< {passa} 「駄目になる」)

逆受動

逆受動は接頭辞ina-によって形成され、多くの場合項数を増やす接尾辞-atを伴う。

抱合

抱合はアリュートル語において非常に生産的である。抱合は、他動詞の直接目的語を含むが自動詞の主語、まれに斜格目的語も動詞語幹に抱合されることがある。抱合される名詞語幹は常に動詞語幹の前に置かれる。

他動詞が自身の直接目的語を抱合する場合、行為者は絶対格として標示されて主語位置に移され、動詞は自動詞の活用パターンを示す。

自動詞が主語を抱合する場合、文は非人称文となる。

固有名詞や代名詞は抱合されない。

形容詞や指示代名詞は斜格において名詞類語幹に付加される。こういった操作は広義の抱合とみなすこともできる。

命令と依頼

アリュートル語には命令と依頼を示す二通りの表現、願望法と命令形がある。願望法は人称に対して使用制限がないが、命令形は二人称に対してのみ使用できる。命令形は数に関して単数と非単数の区別がある。願望法の二人称と命令形における違いは不明である。

否定

名詞の否定

名詞の否定は、alvalʔin「違うもの」を語の前に置くことで表現できる。所有形の否定も同様にできる。

ənnu alvalʔin sosəv

彼.ABS.SG 違うもの.ABS.SG コリャークの男性.ABS.SG

「彼はコリャークではない」

形容詞の否定

形容詞の否定は、接周辞a-...-kəlʔinを語幹につけることで表現できる。否定の小辞al(lə)は付け加えても付け加えなくてもよい。テキスト内で形容詞の否定形は数個しか出現していない。

(al) a-meŋ-ə-kəlʔin

no NEG-大きい-E-NEG.3SG

「大きくない」

動詞の否定

動詞の否定は、否定の小辞al(lə)を動詞の前に置き、接周辞(a)-...-kaを動詞語幹に付加することで表現できる。接周辞の接頭辞部分は母音で始まる語幹に付加するとき脱落する。動詞語幹に付加して人称・数・ムード・アスペクトなどを標示していたマーカーは、助動詞に付加する。

allə iv-ka it-ti

否定 言う-NEG 助動詞.三人称単数

「彼は言わなかった」

一人称の否定意思(「~したくない」)は、qətəmməと動詞の願望法を使用して表現される。

禁止

四通りの方法で禁止を表すことができる。これらの違いは不確かだが、進行中の動作の禁止を示すときにinʲas 「十分」が使用される。複数の動作主に対する禁止の場合、複数マーカー-laが否定形に付加される。

  1. 否定の小辞 kətvəl + 動詞 (願望法)
  2. 否定の小辞 kətvəl + 動詞 (否定法)
  3. 副詞 inʲas 「十分」 + 動詞 (願望法)
  4. 副詞 inʲas 「十分」 + 動詞 (否定法) (+ 助動詞 (願望法))

疑問文

疑問文は、イントネーション、疑問小辞、疑問語で表現される。

真偽疑問文(YES/NO疑問文)は特有のイントネーションパターンを伴い、任意で疑問小辞を含むことができる。疑問詞疑問文(Wh疑問文)は{mik}「誰」、{taq}「何」などの一群の疑問語を用いる。これらの語は名詞類と同様に語形変化をする。

疑問節においては、語順は変化しない。

真偽疑問文(YES/NO疑問文)

真偽疑問文(YES/NO疑問文)は特有のイントネーションを伴う[111]。また、省略可能な疑問小辞matkaを伴うことがある。

疑問語

アリュートル語には2つの疑問代名詞がある。{mik}「誰」は人間を指す場合に、{taq}「何」は動物を含む人間以外を指す場合に使われる。疑問代名詞は名詞と同様、絶対格でのみ単数・双数・複数の区別がある。格変化は名詞の欄参照。疑問語は文の最初に置かれる。{taq}「何」は動詞として使用できる。 {maŋ} は他の種類の疑問文に使用される。 {maŋ} 「how, wh-」

maŋ-ki 「どこで」(場所格)

maŋ-in「どっち」

maŋ-inʲas「どれくらい、どれくらい長く」

maŋ-kət/maŋ-kətiŋ「どのように、どこで(与格)」

maŋ-kepəŋ「どこから、どこに沿って(沿格)」

このほか、格接辞をとらない疑問語がある(tita 「いつ」、taʕər 「どのくらい」、maja「どこで」)。

複文

関係節

疑問語maŋ-「how, which」や代名詞 ŋan- 「that」や分詞マーカー-lʔを使用して関係節を形成することがある。

副詞節

疑問語maŋ-inʲas「どのくらい、どのくらい長く」、副詞kitkit「少しだけ」を使用して時間を示す副詞節が掲載される。若い話者の中には疑問語tita 「いつ」を使用することがあるが、年長者はこれらをロシア語の影響という。これらの副詞節は節の先頭におかれるが、しかし節の最後に置かれる場合もある。時間を示す節は主節に先行する傾向がある。

脚注

参考文献

関連書籍

関連項目

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