オガサワラコツブムシ

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オガサワラコツブムシ学名Gnorimosphaeroma boninense)は、小笠原諸島母島の淡水域に生息するイソコツブムシ属の一種。小粒なダンゴムシのような見た目で、ほかの多くのイソコツブムシの仲間と同じく、球状に体を丸まらせて防御態勢をとることができる。小笠原諸島固有種で、絶滅危惧種でもある。

小笠原諸島の母島に流れる川の上流部に生息している[2][5]。藻類や落葉を食べていると考えられているが、詳細は不明である。繁殖期になると、交尾前ガードと呼ばれる、オスはメスの背面に覆いかぶさるような形でメスを保持する行動をとる。メスは脱皮直前のまだ外骨格がやわらかいうちに産卵し、オスはこのタイミングで交尾するのだが、オスはメスの脱皮のタイミングを察知することができないため、いつでも交尾できるように交尾前ガードを行うと考えられている[6]

形態

体の形状は卵型で体長は体幅の1.9倍という細長い体形であるが、横から見ると中央部分で急に膨らまずに幅が保たれている。色は黒っぽく、表面は滑らかである。複眼は中ほどの大きさで、36-37個の個眼から構成される。底板は明瞭にある[2]。前方縫合線は後方縫合線よりも長く[2][7][8]、後方縫合線は前方縫合線より84%短い[7]腹尾節の後縁はわずかに丸みを帯びる[2]

第1触角頭胸部の後半に達し、柄節は2節で、鞭節は8-9節から成るが[2]、8節が最大であるという記述もある[7]

第2触角は基部では左右に離れている[8]。第2胸節の真ん中にまで達し、柄節は5節[2]。鞭節は14節から成るが[2]、13節が最大であるという記述もある[7]

大顎において、可動葉片は3つでキチン質化しておらず後方には5-6本の剛毛があり、臼歯状突起は幅広く、門歯状突起は3つで、大顎髭は第2節に11本と第3節に14本の剛毛がある。左大顎において、可動葉片は3つでキチン質化しており後方には5本の剛毛があり、門歯状突起と大顎髭は右大顎と同様[2]

第1小顎内肢には4本の歯状の剛毛があり、外肢には10本の剛毛があり、うち8本が葉状[2]

第2小顎底節内葉に17本の1羽状剛毛があるが[2]、10本であるという記述もある[7]基節内葉の外側に12本の剛毛があり[7][2]、内側に11-13本の剛毛があるが[2]、10本であるという記述もある[7]

顎脚には鉤刺が1本あり[7][2]外縁角に8-10本の羽状剛毛がある。顎脚鬚の第1節は正方形。顎脚鬚の第2節は内縁に4本の剛毛がある。外縁には剛毛がないが[2]、14本であるという記述もある[7]。顎脚鬚の第3節は内縁の15本の剛毛もち、外縁の2本の比較的長い剛毛があるが[2]、3本という記述もある[7]。顎脚鬚の第4節は内縁に17-18本の剛毛をもち、外縁角に4本の剛毛があるが[2]、6本という記述もある[7]。顎脚鬚の第5節は細長く、縁の周りに10-11本の剛毛がある[2]。顎脚鬚の第2-4節内側は膨らむ[7]

胸脚の爪は二叉である[2]

第1胸脚において、基節は長方形で長さは幅の2.3倍で[2]内縁角に1本の剛毛[7][2]、外縁角に2本の短い剛毛がある。座節は基節と同じ長さで、内縁角にはたくさんの剛毛があり、外縁角には5本の短い剛毛がある。長節は三角形で座節の半分の長さであり、内縁には多くの毛とがっしりした剛毛が1本あり[2]、外縁角には4本の剛毛があるが[2][8]、3本という記述もある[7]腕節は三角形で内縁角に2本の二叉剛毛がある。前節は内縁角の近くに4本の二叉剛毛と5本の単純な剛毛がある[2]

第2胸脚において、基節は長方形で長さは幅の2.5倍で、内縁角に1本の剛毛がある。座節は基節と同じ長さで長節はその半分の長さ。長節は内縁に4本、外縁角に2本の剛毛がある。腕節は長節よりわずかに長く、内縁角に1本のがっしりした剛毛があり、外縁角に4本の剛毛がある。前節は基部半分がわずかに長く、内縁と外縁角に4本のがっしりした剛毛がある[2]。前節には内縁に明瞭なふくらみがある[7]

第3胸脚において、基節は長方形で長さは幅の3.5倍で、内縁角に1本の剛毛がある。座節は底節よりわずかに短く、長節は座節の半分以下の長さで、外縁角に2本、内縁に1本の硬いものを含む5-6本の剛毛がある。腕節は長節と同じ長さで、内縁角に多くの短い剛毛があり、外縁角に4本の剛毛がある。前節は腕節の1.5倍の長さで内縁角に短い剛毛がたくさん生えている[2]

第4胸脚において、基節は長方形で長さは幅の3.8倍。座節は底節の65%の長さで外縁に1本の剛毛がある。長節は座節の半分よりわずかに短く、外縁角に5本、内縁に2本の剛毛がある。腕節は長節よりわずかに長く、外縁角に7-8本の剛毛がある。前節は腕節の2倍の長さ[2]

第5胸脚において、基節は長方形で長さは幅の4.8倍。座節は底節の65%の長さ。長節は座節の半分の長さで外縁角に5本の剛毛がある。腕節は長節と同じ長さで、内縁角と外縁角にそれぞれ2本の剛毛をもつ。前節は前節の2倍の長さで、基部がわずかに膨らみ、外縁角に2本の剛毛がある[2]

第6胸脚において、基節は細長く、長さは幅の3.7倍。座節は基節の80%の長さで、内縁と外縁にそれぞれ2-3本の剛毛をもつ。長節は座節の半分の長さで、縁角に5本、内縁に2本剛毛をもつ。腕節は長節よりわずかに短く、縁角に6-7本の剛毛、内縁に2-3本の剛毛をもつ。前節は腕節より1.2倍長く、内縁に5-6本の剛毛がある[2]

第7胸脚において、基節は細長く、長さは幅の3.3倍で、内縁角に1本の剛毛をもつ。座節は基節の85%の長さで外縁に1-3本の剛毛の3つのまとまりがある。長節は座節の60%の長さで、縁角にがっしりとした二叉剛毛が3本ある。腕節は長節よりわずかに短く、縁角に12本の剛毛をもち、うち6本は二叉剛毛。前節は腕節よりも1.4倍長く、内縁に5本の剛毛がある[2]

ペニスは1対で長さは幅の5-6倍[2]

第1腹肢は全体が波打っており、原節に4本の剛毛、内肢に20-25本の剛毛、外肢の縁に16-17本の剛毛がある。第2腹肢は原節に鉤刺が2つ、内肢の縁に25本の剛毛、外肢に9-10本の剛毛をもつ。オスは第2腹肢に交尾針をもっている。交尾針は内肢から完全に分離しており、縁の周囲に約16-17本の剛毛がある。第3腹肢の外肢は内肢より小さく、内肢に4本の剛毛、外肢に34-37本の剛毛をもつ。第4腹肢は原節に鉤刺が2つあり、内肢は剛毛をもち、外肢も1-2本の剛毛をもつ。第5腹肢は内肢も外肢も波打っており、縁も波状[2]

尾肢の原節は長方形。内肢の長さは幅の2.4倍で、長方形をしている。外肢は小さく、内肢の83-85%の長さしかない[2]

判別

第1胸脚の腕節前節二叉剛毛を持つことや第2胸脚前節基部の内側が膨らんでいる点でフタゲイソコツブムシに似るが、オガサワラコツブムシは、第1胸脚腕節後縁の剛毛数が少ないこと、第1触角第1触角鞭節の数が少ないこと、腹肢の剛毛が少ないこと、第7胸脚腕節に多くの剛毛を持つこと[2]、第1胸節長節の外縁角の剛毛がより少ないことから判別できる[8]

また、韓国和歌山県の一部の河口でみられるイソコツブムシ属であるミギワコツブムシは、第1胸脚の長節の外接角の剛毛の数などから類似するが、第1胸脚の肢腕節と前節に2叉した剛毛を持つこと、第2胸脚前節基部の内側が膨らんでいること、第2小顎上の剛毛数が多いこと、大顎髪の剛毛数がより多いこと、第2触角の鞭数が多いこと、顎脚の交尾針が1本しかないこと、尾肢外肢が比較的長いこと、第7胸肢腕節に多くの剛毛を持つことなどの点で判別できる[2]

母島の海岸にはオジロコツブムシが生息するが、腹尾節が白っぽくないこと、腹部の縫合線のうち前方のものが後方のものより長いこと、第1胸脚長節外側の剛毛数が少ないこと、第1胸脚および第2胸脚の一部に2叉する剛毛を持つこと、目が小さく、それを構成する個眼が少ないこと、両触角の鞭節数が多いこと、生殖突起が長いこと、第2胸脚前節内縁基部は膨らむことなどで判別できる[2]

小笠原諸島には他にチチジマコツブムシが生息しているが、尾節の後縁が直線的で、第2胸脚の前節が三角形様であるうえ、第3胸脚の腕節と前節に密な微細な剛毛があり、第3腹肢の外肢は内肢より小さいことなどで区別される[9]

保全状況

絶滅危惧I類 (CR+EN)環境省レッドリスト[1]

オガサワラコツブムシは環境省によって絶滅危惧I類に指定されている。帰化植物アカギが繁茂し、根が小川の流れをせき止めてしまい、水中の酸素不足が発生し、オガサワラコツブムシをはじめとする水生生物の数が減少していると考えられている[10]

研究の進展

2006年布村昇氏と佐々木哲朗氏は乳房山のダムのある谷川からオガサワラコツブムシを記載した。タイプ産地のある小笠原諸島の英名であるboninから種小名が名付けられた[2]。オガサワラコツブムシは母島の限られた川にのみ生息しており、川ごとに別種レベルの遺伝的な隔離が生じていることが明らかになっているが、川ごとに独立した種で別系統なのか、それとも大きな遺伝的変異をもつ1つの種で単系統であるのか、ということについての研究はまだ途中である[11]。小笠原諸島のような大陸と一度も接続したことのない海洋島では、内水面に生息する生物は稀であり、等脚類においても限定的であることから、島嶼生物学的に大変重要な種である。また、どのように父島に侵入したのかは謎に包まれており、生物地理学的にも大変重要な種である。なお、父島の川にはチチジマコツブムシが生息しており、同様の理由で学術的に重要な種である。近年行われた種間遺伝子解析の結果、本種はチチジマコツブムシとは系統的に遠いことが判明したことから、両種の祖先は別々に小笠原諸島に侵入したことがわかった[9][12]

脚注

参考文献

関連項目

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