カルレティキュリン
From Wikipedia, the free encyclopedia
カルレティキュリン(英: calreticulin)は、ヒトではCALR遺伝子にコードされるタンパク質であり、カルレギュリン(calregulin)、CRP55、CaBP3、ERp60(endoplasmic reticulum resident protein 60)などの名称でも知られる[5][6]。
カルレティキュリンはカルシウムイオン(Ca2+)を結合する多機能型可溶性タンパク質である。Ca2+の結合親和性は低いものの、多くのCa2+を結合し、シグナルに伴って放出される。カルレティキュリンは小胞体と関連した貯蔵区画に位置し、小胞体常在タンパク質であると考えられている。
一部の文献で用いられている"Mobilferrin"[7]もカルレティキュリンと同一のものであると考えられている[8]。
機能
カルレティキュリンは誤ったフォールディングを行ったタンパク質に結合し、小胞体からゴルジ体への輸送を防ぐ。
類似した品質管理シャペロンであるカルネキシンは可溶性タンパク質に対してカルレティキュリンと同様の機能を果たすが、カルネキシンは膜タンパク質である。カルネキシンとカルレティキュリンはどちらも、末端にグルコース残基を含むオリゴ糖に結合する機能を持ち、こうした糖鎖を持つタンパク質を分解の標的としている。カルレティキュリンとカルネキシンは炭水化物に結合する能力を持つため、レクチンファミリーと関係している。正常な細胞過程においては、N-結合型グリコシル化時に付加されたオリゴ糖コア構造中のグルコースは、タンパク質のプロセシングの過程でトリミングされる。タンパク質のフォールディングを監視している酵素がミスフォールディングを検知した場合には、タンパク質にグルコース残基が再付加され、カルレティキュリン/カルネキシンが結合することでタンパク質のゴルジ体への移行が防がれるとともに、再フォールディングが試みられる。再フォールディングが成功しなかった場合には、異常なフォールディングのタンパク質は分解標的となる経路へ向かう[9]。
カルレティキュリンとカルネキシンは、MHCクラスI分子の産生にも重要なタンパク質である。新たに合成されたMHCクラスI分子α鎖が小胞体へ移行すると、カルネキシンが結合して部分的にフォールディングした状態に維持する[10]。β2-ミクログロブリンがペプチドローディング複合体(PLC)に結合した後、カルレティキュリン(とERp57)はMHCクラスI分子に対するシャペロン作用を引き継ぎ、タパシンがPLCと抗原処理関連トランスポーター(TAP)とを関連付ける。この結合によって、MHCクラスI分子が細胞表面に提示する抗原を結合する準備が整ったこととなる。
トランスジェニックマウスを用いた研究では、カルレティキュリンは心臓発生に必要不可欠な遺伝子であることが明らかにされている[11]。
転写調節
カルレティキュリンは核内にも存在し、転写調節に関与している可能性が示唆されている。カルレティキュリンは核内受容体スーパーファミリーのDNA結合ドメインのアミノ酸配列とほぼ同一なKLGFFKR合成ペプチドに結合する。カルレティキュリンのN末端は糖質コルチコイド受容体のDNA結合ドメインと相互作用し、糖質コルチコイド応答エレメントへの受容体の結合を防いでいる[12]。カルレティキュリンはアンドロゲン受容体のホルモン応答エレメントへの結合も阻害する。In vivoではアンドロゲン受容体とレチノイン酸受容体の転写活性の阻害や、レチノイン酸による神経分化の阻害を行うこともできる[13]。このように、カルレティキュリンは核内ホルモン受容体による遺伝子転写の調節の重要な調節因子としても機能する。
臨床的意義
カルレティキュリンは、抗SS-A/Ro抗体を持つ全身性エリテマトーデスやシェーグレン症候群の患者の特定の部位で自己抗体に結合する。全身性エリテマトーデスはカルレティキュリンに対する自己抗体価の上昇と関係しているが、カルレティキュリンがSS-A/Ro抗原であるわけではない。初期の論文ではカルレティキュリンをSS-A/Ro抗原としているが、後に反証されている。ヒトカルレティキュリンに対する自己抗体価の上昇は、先天性完全心ブロック(CCHB)の新生児にみられ、IgG抗体とIgM抗体の双方がみられる[6][14]。
2013年に2つのグループによって本態性血小板血症と原発性骨髄線維症のJAK2変異陰性/MPL変異陰性型患者の大部分でカルレティキュリン遺伝子に変異がみられることが明らかにされ、CALR変異は骨髄増殖性腫瘍の中で2番目に多い変異となった。全ての変異(挿入や欠失)は遺伝子の最終エクソンに影響を与えるものであり、リーディングフレームの変化によって末端のペプチド配列が変化し、小胞体への保持を担うKDELシグナルの喪失が引き起こされていた[15][16]。