ガンキリン
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ガンキリン(PSMD10、p28またはp28GANKとも呼ばれる)は、様々ながんで高発現しており、悪性腫瘍の発生および進展において中心的役割を果たすと推定される重要ながんタンパク質である[5][6][7][8][9]。
ガンキリンは肝細胞がんにおいて過剰発現するがん遺伝子産物として、京都大学医学研究科の藤田潤等により発見された[10]。これとは独立して、東京都医学総合研究所の田中啓二等は26Sプロテアソームのサブユニットp28として[11]、英国ノッティンガム大学のR John Mayer等は26SプロテアソームのS6bサブユニットに結合するタンパク質として[12]同定した。このため、ガンキリンはPSMD10(26Sプロテアソーム非ATPaseサブユニット10)とも呼ばれる。しかし、後の研究によれば、ガンキリンは26Sプロテアソームのサブユニットではなく、一時的に結合して19S調節複合体の組み立てを助ける分子シャペロンであることが示されている[13]。
構造
タンパク質構造解析によれば、ガンキリンは7つのアンキリンリピート[14]からなり、手のひらを丸めたような構造をしている。アンキリンリピートは一般に分子間(または分子内)相互作用により機能制御に関与するアミノ酸配列として知られている。
機能・がん抑制タンパク質との関連
ガンキリンはがんタンパク質(oncoprotein)であり、その過剰発現によりマウス線維芽細胞およびヒト腫瘍細胞において腫瘍の形成や細胞増殖を促進する[10][15]。これはガンキリンがサイクリン依存性キナーゼCDK4に結合することにより、CDK4がp16やp18により阻害されることを妨害し、同時にがん抑制タンパク質RBとも結合してRBのCDK4によるリン酸化、転写因子E2Fの活性化を引き起こすことが一因である(図)。
ガンキリンの結合は、RBのユビキチン化およびプロテアソームによる分解も促進する[16]。なお、ガンキリンがプロテアソームS6b サブユニットとRBに同時に結合するという事実は、ガンキリンがユビキチン化タンパク質を26Sプロテオソームへ運ぶキャリアーとして働き、その分解を促進する可能性を示唆している。

ガンキリンは細胞のアポトーシスを阻害する[17]。この抗アポトーシス活性は、ガンキリンがE3ユビキチンリガーゼMDM2に結合し、がん抑制タンパク質p53のユビキチン化およびプロテアソームによる分解を促進することによると考えられている(図)。p53は多種多様な生体ストレスから細胞を守り、がんを防ぐ働きから 「ゲノムの守護神」とも呼ばれる最も重要ながん抑制タンパク質で、ヒトのがんの約 50% で遺伝子変異が認められる。
ガンキリンは、上記2つの主要ながん抑制タンパク質RBおよびp53に加えて、C /EBPα[18]、TSC2[19]、HNF4α[20]、CUGBP1[21]などのがん抑制タンパク質にも結合し、そのユビキチン化およびそれに続くプロテアソームによる分解を促す。さらにガンキリンはがん抑制タンパク質p16[10]、PTEN[22]およびFIH-1(低酸素誘導性因子-1を阻害する因子)[23]をも阻害するため、「がん抑制因子の殺し屋(killer of tumor suppressors)」とも呼ばれる。
ガンキリンはその他、NF-κB/ RelA[24][25]、MAGE-A4[26]、IGFBP-5[27]、SHP-1[28]、ATG7[29]、Keap1/Nrf2[30]、WWP2/Oct4[31]、PI3K/Akt[32]、IL-6/STAT3[33]、IL-8[34]、YAP1[35]、並びに低酸素誘導性因子-1[36]等といった多くのタンパク質に結合し、多くのシグナル伝達経路に影響を与え発がんに寄与している[1]。
動物モデル
肝細胞にガンキリンを過剰発現させたマウスでは、肝がんではなく肝血管肉腫が発生した[23]。ただし発がん物質による肝細胞がんの発生は増加した[37]。ミノカサゴでは、脂肪肝、胆汁鬱滞, 線維化の後に肝細胞がん、胆管がんが自然発生した[38]。
ガンキリン遺伝子発現を欠損したマウスでは、大腸や肝の発がん実験でがんの発生が抑制され、腫瘍環境をなす細胞でのガンキリン発現もがん化に重要であることが示された[28][39]。