プロテアソーム
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プロテアソーム(英: proteasome)は、タンパク質の分解、すなわちペプチド結合を切断する化学反応を担う、生存に必要不可欠なタンパク質複合体である。プロテアソームは全ての真核生物と古細菌、そして一部の細菌の細胞内に存在する。真核生物では、プロテアソームは核と細胞質の双方に位置している[1]。プロテアソームによる分解経路は、細胞周期、遺伝子発現の調節、酸化ストレスへの応答など、多くの細胞過程において必要不可欠な役割を果たしている。ユビキチン化を介したプロテアソームによるタンパク質分解の発見に寄与したアーロン・チカノーバー、アブラム・ハーシュコ、アーウィン・ローズへ2004年のノーベル化学賞が授与されたことからもわかるように、この分解経路の重要性は広く認識されている[2]。


プロテアソームによるタンパク質分解の触媒を担う部分は、20Sコア粒子と呼ばれる。20Sコア粒子は中空の円柱型のタンパク質複合体であり、中心部にポア(孔)を有する4層のリング構造によって形成されている。各リングは7個のタンパク質サブユニットから構成されている。4層のうち内側に位置する2段のリングはそれぞれ7個のβサブユニットから構成されており、複合体の中空部に向かって3個から7個のプロテアーゼ(タンパク質分解)活性部位が形成されている[3]。こうした複合体内部に位置するプロテアーゼ活性部位へアクセスするためには20Sコア粒子両端部のゲートを通過する必要があり、ゲートの通過は19S調節粒子などいくつかの巨大なタンパク質複合体によって調節されている。20Sコア粒子の末端に19S調節粒子が結合した構造は26Sプロテアソームと呼ばれる。真核生物では、ユビキチンによって標識されたタンパク質が26Sプロテアソームへ送られる。プロテアソームによるタンパク質分解は、細胞が特定のタンパク質の濃度を調節したり、誤ったフォールディングを行ったタンパク質を分解するための主要な機構の一部となっている。
26Sプロテアソームによる分解へ向けられるタンパク質には、ユビキチンと呼ばれる低分子量タンパク質が付加されていること、明確な構造をとらない25アミノ酸程度の領域が存在すること、という主に2つの要件が必要である[4][5]。こうした構造をとらない領域が存在しないタンパク質の場合には、酵母ではcdc48、ヒトではp97と呼ばれるモータータンパク質とNpl4/Ufd1と呼ばれるコファクターによってユビキチンの構造がほどかれることで、構造をとらない領域が作り出される[6][7]。ユビキチンによる標的タンパク質の標識は、ユビキチン活性化酵素(E1)、ユビキチン結合酵素(E2)、ユビキチンリガーゼ(E3)からなる酵素カスケードによって触媒される。タンパク質に1個のユビキチン分子が付加されると、それが他のリガーゼへのシグナルとなり、そこへさらにユビキチン分子が付加されてゆく。その結果、プロテアソームへの結合が可能なポリユビキチン鎖が形成され、プロテアソームによるATP依存的分解が可能な状態となる[8]。プロテアソームによる分解過程では7個から8個のアミノ酸からなるペプチドが生み出され、その後これらのペプチドはより短いアミノ酸へ分解されて新たなタンパク質の合成に再利用される[8]。
発見
ユビキチン-プロテアソームシステムが発見されるまで、細胞内のタンパク質の分解は主にリソソームに依存していると考えられていた。リソソームは膜で囲まれた細胞小器官の1つであり、内部は酸性でプロテアーゼによって満たされている。リソソームは外来タンパク質や老化・損傷した細胞小器官を個々の構成要素へ分解し、リサイクルを行う[8]。しかし1977年、Joseph Etlingerとアルフレッド・L・ゴールドバーグによる、リソソームを持たない網赤血球におけるATP依存的タンパク質分解に関する研究によって、リソソーム経路とは異なる細胞内タンパク質分解機構の存在が示唆された[9]。そして1978年、当時知られていなかった、いくつかの異なるタンパク質によってこのシステムが構成されていることが示された[10]。同時期にヒストンの修飾に関する研究から、ヒストンのリジン側鎖に対して、当時機能未知のタンパク質であったユビキチンがC末端のグリシン残基を介して共有結合的に修飾されていることが同定された[11]。その後、タンパク質分解と関連したタンパク質として同定され、 ATP-dependent proteolysis factor 1(APF-1)と呼ばれていたタンパク質がユビキチンと同一のものであることが発見された[12]。このシステムにおいてタンパク質分解活性を担っている因子はSherwin WilkとMarion Orlowskiによって多タンパク質複合体として単離され、 multi-catalytic proteinase complexと呼ばれていたが[13]、その後、ユビキチン依存的タンパク質分解を担うATP依存性タンパク質分解複合体として発見され、26Sプロテアソームと呼ばれるようになった[14][15]。
ユビキチン-プロテアソームシステムの発見に至る初期の業績の多くは1970年代後半から1980年代前半にかけてテクニオンのアブラム・ハーシュコの研究室でなされたもので、アーロン・チカノーバーはそこで大学院生として研究を行っていた。ハーシュコは、Fox Chase Cancer Centerのアーウィン・ローズの研究室で1年間のサバティカル休暇を行っており、そこで中心となる概念的洞察が得られた[16]。このシステムの発見に関する業績によって、三者は2004年にノーベル化学賞を共同受賞した[2]。
1980年代半ばにはプロテアソームが積み重なったリング状の構造であることが電子顕微鏡データから明らかとなり[17]、1994年にX線結晶構造解析によってコア粒子の結晶構造が解かれた[18]。2010年代には、ヴォルフガング・バウマイスターのグループによるクライオ電子顕微鏡(cryo-EM)解析によって26Sプロテアソームの全体構造が明らかとなり[19][20][21][22]、生化学実験によってユビキチン依存的分解の一般的機構が明らかとなった[23]。2018年、ポリユビキチン化されたタンパク質基質と複合体を形成した酵母26Sプロテアソームの最初の構造[24]、続いてヒト26Sプロテアソームでも最初の原子分解能構造がcryo-EMによって得られ[25]、26Sプロテアソームによって基質が認識され、脱ユビキチン化され、構造がほどかれ(アンフォールディング)、分解される機構が確証された。現在では、基質がプロテアソームに結合し、基質の構造をとらない領域がAAAモーターに取り込まれるとともにプロテアソームに大きなコンフォメーション変化が生じ、プロテアソーム内部への移行(トランスロケーション)に依存した形でRpn11によって脱ユビキチン化が行われ、そして20Sコア粒子によってアンフォールドされて分解される、という一般的機構が詳細な生化学的解析により明らかにされている[23]。
またクライオ電子トモグラフィー(cryo-ET)解析では、細胞内のプロテアソームに関するユニークな洞察が得られている。神経細胞の観察では、プロテアソームはcryo-EMによって決定されたものと同じ基底状態やプロセシング状態で存在していることが明らかにされている。興味深いことに大部分のプロテアソームは基底状態で存在しており、細胞がタンパク質毒性ストレスを受けた際に作動するよう備えていることが示唆されている[26]。他の研究では、グリシン-アラニンの繰り返しからなるタンパク質凝集体が過剰発現した際に、プロテアソームがこうした凝集体上で停止した状態となっている構造が観察されている[27]。クラミドモナスChlamydomonas reinhardtiiのcryo-ETでは、核内の26Sプロテアソームは核膜孔複合体周辺に密集して存在しており、核膜と特異的結合を行っていることが明らかにされている[28]。
構造と構成

プロテアソームの各部分は、沈降係数の単位スヴェドベリ(S)を用いて表されることが多い。哺乳類の細胞質基質の26Sプロテアソームは約2 MDaであり、1つの20Sコア粒子と1つの19S調節粒子(キャップ)から構成される。20Sコア粒子の両側に19S調節粒子が結合した30Sプロテアソームも存在するが、慣例的にどちらも26Sプロテアソームと呼ばれる[29]。20Sコア粒子は中空で、内部の空洞でタンパク質の分解が行われる。コア粒子の両端の開口部は標的タンパク質の進入を可能にするゲートとなっている。コア粒子の両端に結合する19S調節粒子には複数のATPアーゼ活性部位とユビキチン結合部位が存在し、ポリユビキチン化タンパク質を認識して触媒コアへ移行させる構造となっている[30][31][32]。
20Sコア粒子に結合するキャップは19S調節粒子以外にも存在し、11S粒子(PA26)やBlm10(PA200)がコア粒子の片側もしくは両側に結合することが知られている。11S粒子は本質的には19S粒子と同じように結合し、ウイルス感染後に産生されるものなど外因性ペプチドの分解に関与している可能性がある[33]。古細菌や細菌にもプロテアソームは存在し、コア粒子に結合するキャップが存在している。こうした複合体の構造や機能について次に議論する。
20Sコア粒子
20Sコア粒子に含まれるサブユニットの数やその多様性は生物種によって異なる。サブユニットの種類は単細胞生物よりも多細胞生物で、原核生物よりも真核生物で多く、それぞれ異なる専門的役割を果たしている。20Sコア粒子はどの生物種でも全て4層に積み重なった七量体リング構造であり、構造的役割を果たしているαサブユニット、主に触媒的役割を果たしているβサブユニットの2種類のサブユニットから構成されている。αサブユニットとβサブユニットは配列の面でも構造的にも類似しているが、異なるN末端領域に両者の機能的差異が存在する[34]。積み重なった4層のリングのうち、外側の2つのリングはそれぞれ7個ずつのαサブユニットから構成されており、調節粒子とのドッキング部位として機能している。αサブユニットのN末端領域は、調節を受けない形で基質が内部の空洞へアクセスするのを防ぐゲートを形成している[35]。内側の2層のリングはそれぞれ7個ずつのβサブユニットから構成され、そのN末端領域にはタンパク質分解反応を行うプロテアーゼ活性部位が存在する[36]。精製された複合体には、キモトリプシン様、トリプシン様、ペプチジルグルタミルペプチドヒドロラーゼ(PHGH)活性の3種類の異なる触媒活性が同定されている[37]。プロテアソームのサイズは比較的保存されており、およそ150 Å×115 Åである。内部の空洞の幅は最大で53 Åであるが、その入り口部分では13 Åまで狭くなっており、基質タンパク質が入るためには少なくとも部分的には構造がアンフォールドされている必要がある[38]。
Thermoplasma acidophilumなどの古細菌ではα、βサブユニットはそれぞれすべて同一であるのに対し、酵母など真核生物のプロテアソームにはそれぞれ7種類の異なるサブユニットが含まれている。哺乳類の場合、β1、β2、β5サブユニットが触媒活性を持ち、これらは共通した機構を有するものの、基質特異性はキモトリプシン様、トリプシン様、PHGHとそれぞれ異なる[39]。造血系細胞ではサイトカインなどの炎症性シグナル、特にIFN-γへの曝露に応答して、β1i、β2i、β5iと呼ばれる代替的βサブユニットが発現する場合がある。こうした代替的サブユニットから組み立てられたプロテアソームは免疫プロテアソーム (イムノプロテアソーム)と呼ばれ、通常のプロテアソームと比較して基質特異性が変化している[38]。また、ヒト細胞ではα3サブユニットを欠くプロテアソームも同定されている[40]。こうしたプロテアソーム(α4-α4プロテアソームと呼ばれる)では、α3サブユニットに置き換わってα4サブユニットが1つ多く含まれている。α4-α4プロテアソームは酵母にも存在することが知られている[41]。こうしたアイソフォームの正確な機能は大部分が未解明であるが、こうしたプロテアソームを発現している細胞はカドミウムなどの金属イオンによる毒性に対する抵抗性が高まっていることが示されている[40][42]。
20Sコア粒子によって形成されるペプチドは、プログラム細胞死や免疫における重要な代謝産物として機能していることが示されている[43][44]。分子糊を用いてBRD4を分解標的とし、その結果26Sプロテアソームから生み出されるペプチドはIAPsの遊離をもたらし、アポトーシスにつながる[43]。このことは、26Sプロテアソームによって生み出されるペプチドが細胞過程を駆動する二次代謝産物として機能する場合があることを示唆している。
19S調節粒子
真核生物の19S調節粒子は19個のタンパク質から構成され、さらに基底部(base)と蓋部(lid)と呼ばれる領域に分けられる。基底部は9つのサブユニットからなり、20Sコア粒子のαリングに直接結合する。一方、蓋部は10個のサブユニットから構成される。基底部の9つのタンパク質のうち6つはAAAファミリーに属するATPアーゼサブユニットであり、これらのATPアーゼの進化的ホモログは古細菌にも存在しPAN(proteasome-activating nucleotidase)と呼ばれている[45]。19S調節粒子と20Sコア粒子が結合するためには19SのATPアーゼサブユニットがATPを結合していることが必要であり、またフォールディングした状態のユビキチン化タンパク質を分解するためにはATPの加水分解が必要である。ATP加水分解のエネルギーが必要となるのは基質のアンフォールディング段階であり、タンパク質の分解に必要な他の全ての段階(複合体の組み立て、ゲートの開口、トランスロケーション、分解反応)にはATPが結合していることだけで十分である[46][47]。実際に、フォールディングしていないタンパク質の急速な分解はATPアーゼサブユニットへのATPの結合のみで行われる。一方で、アンフォールディングの際に必要となるATP加水分解のエネルギーが、どの段階と共役して利用されているのかは未だ明確ではない[47][48]。

2012年、2つの独立した研究によって26Sプロテアソームの分子構造がcryo-EMを用いた単粒子解析によって明らかにされた[20][21]。そして2016年には3つの独立した研究によって、基質を結合していない状態のヒト26Sプロテアソームの近原子分解能構造がcryo-EMによって決定された[19][50][51]。19S調節粒子の心臓部は20Sコア粒子と隣接して位置しているAAA-ATPアーゼサブユニットであり、これらのサブユニットはRpt1/Rpt2/Rpt6/Rpt3/Rpt4/Rpt5の順に並んでヘテロ六量体リングを形成している。このリングはRpt1/Rpt2、Rpt6/Rpt3、Rpt4/Rpt5の3つの二量体が三量体化した構造であり、各二量体ではN末端領域がコイルドコイルを形成している。これらのコイルドコイルは六量体リング構造から突出しており、調節粒子を構成する大きな非ATPアーゼサブユニットであるRpn1とRpn2はそれぞれRpt1/2、Rpt6/3の先端に結合する。そしてユビキチン受容体Rpn13がRpn2に結合して基底部が完成する。蓋部はAAA-ATPアーゼ六量体のおよそ半分の領域(Rpt6/Rpt3/Rpt4上)を覆っており、またRpn6、そして程度は小さいもののRpn5を介して20Sコア粒子とも直接的に接触している。Rpn9、Rpn5、Rpn6、Rpn7、Rpn3、Rpn12の各サブユニットは互いに構造的に関連しており、またCOP9シグナロソームやeIF3のサブユニットとも関連性がみられる(そのためこれらのサブユニットはPCI(proteasome, COP9, eIF3)サブユニットと呼ばれる)。これらのサブユニットは馬蹄形の構造へと組み立てられ、Rpn8/Rpn11ヘテロ二量体を囲む。脱ユビキチン化酵素であるRpn11はAAA-ATPアーゼ六量体の口部に位置しており、基質が20Sコア粒子へトランスロケーションする直前にユビキチンを除去するための最適な配置となっている。またこれまでにRpn10が2つ目のユビキチン受容体として同定されており、このサブユニットは蓋部の周縁部、Rpn8やRpn9の近傍に位置している。
19Sのコンフォメーション変化
これら初期の構造では、19S調節粒子がいくつかの状態(酵母ではs1、s2、s3、s4と呼ばれている)をとることが示されており、基質がどのようにリクルートされ、そしてプロテアソームによって分解されているかについてのモデルが提唱されている[52][53]。優勢な低エネルギー状態のAAA-ATPアーゼの構造の特徴となるのは、階段(staircase)状もしくはロックワッシャー(lockwasher)状と呼ばれるAAAドメインの配置である[20][49]。各状態間の移行は、ATPγS[22]や基質、もしくは脱ユビキチン化酵素Ubp6の添加によって操作できる可能性がある。s1状態はプロテアソームの静止状態であることが提唱されており、タンパク質基質がAAAモーターに取り込まれる。基質の結合に伴ってプロテアソームはプロセシング状態に移行し、AAAモーターの上部から20Sコア粒子内部のタンパク質分解チャンバーへ続くチャネルが中心部に形成され、基質が19S調節粒子からタンパク質分解部位へ直接通過することができる状態となる。その後のヒトプロテアソームでの研究によってより多くのサブ状態が存在することが示され、ATP依存的な基質のトランスロケーションのモデルが提唱されている[25][50][54]。
2018年、基質を結合したプロセシング状態のプロテアソームの構造がcryo-EMによって初めて解かれ、またRpn11による脱ユビキチン化がトランスロケーション依存的に行われることを示した生化学実験[55]の確証が行われ、トランスロケーションに重要な各段階が明らかにされた[24]。その後、基質を結合した26Sプロテアソームの7状態の原子分解能構造が決定され、脱ユビキチン化、トランスロケーションの開始、連続的に進行する基質のアンフォールディングに関する詳細な構造情報が得られている[25]。

19Sによる20Sの調節
19S調節粒子は、20Sコア粒子によるタンパク質分解の刺激を担う。19S調節粒子のATPアーゼの主な機能は、20Sコア粒子内部の分解チャンバーへの基質の進入を防ぐ役割を果たしているゲートを開くことである[56]。20Sコア粒子のゲートを開き、基質の分解を行うためには、ATPアーゼのC末端領域のHbYXモチーフが必要である。ATPアーゼのC末端領域は20S上部のポケットに結合することでATPアーゼ複合体を20Sコア粒子へ係留し、19Sのアンフォールディング装置と20Sのタンパク質分解装置を連結する。これらC末端領域が20Sのポケットへの結合することで、錠前によってドアを開けるのとよく似た形でゲートの開口が刺激される[35]。この機構はヒト26Sプロテアソームの近原子分解能構造によって構造的に明らかにされており、20Sのゲートを十分に開くためにはATPアーゼサブユニットRpt1/2/3/5/6の5つのC末端領域が20Sの表面のポケットへ挿入されることが必要であると示唆されている[25][50][54]。
その他の調節粒子
11S調節粒子
20Sコア粒子は、11S調節粒子と呼ばれる他の種類の調節粒子とも結合する。11S調節粒子は七量体構造で、ATPアーゼサブユニットは存在しない。11S調節粒子は大きな基質のアンフォールディングを行うことができないため、完全なタンパク質ではなく短いペプチドの分解を促進すると考えられている。この構造は、PA28、REG、PA26といった名称でも知られている[34]。11S調節粒子はサブユニットのC末端テールを介して20Sコア粒子に結合し、αリングのコンフォメーションを誘導することでゲートを開くという、19S調節粒子と類似した機構を有することが示唆されている[57]。11S調節粒子の発現はIFN-γによって誘導され、免疫プロテアソームのβサブユニットと合わせて、MHCに結合するペプチドの産生を担っている[33]。
BLM10/PA200
非ATPアーゼ型調節粒子としては他に、酵母ではBlm10、ヒトではPA200/PSME4と呼ばれるものがある。これは20Sゲートを構成している1つのαサブユニットのみを開き、その上にドーム状にフォールディングすることで非常に小さなポアを形成する[34]。
古細菌のプロテアソーム
プロテアソーム分解経路は古細菌にも存在し、20Sコア粒子、そして19S調節粒子に類似したPAN(proteasome-activating nucleotidase)と呼ばれる調節粒子が存在する。真核生物の19S粒子と同様にPANはAAA-ATPアーゼであり、N末端のコイルドコイル、リングを形成するOBフォールド、そして古細菌20S粒子と相互作用するHbYXモチーフを有するATPアーゼドメインから構成される[58]。
細菌のプロテアソーム
放線菌門の細菌は、20Sコア粒子、そしてMpa(mycobacterial proteasome activator)と呼ばれるAAAモーターからなるプロテアソーム分解経路を獲得している。19Sの基底部とは異なりMpaはホモ六量体型モーターであり、ATPアーゼ部位、タンデムに並んだ2つのOBドメイン、OBリングのN末端から突出するコイルドコイルから構成される。C末端には、他の調節粒子と同じように20Sコア粒子と接触するHbYXモチーフが存在する。基質のMpaへの標的化にはさらにPupと呼ばれるタンパク質が必要であり、このタンパク質はユビキチンのように基質へ付加される標識分子として機能するが、Pupは構造的にはユビキチンとは無関係である。Pup化されたタンパク質はコイルドコイルを介してMpaへ標的化され、AAAモーターを介して20Sコア粒子内部での分解へ差し向けられる[59][60]。
組み立て
活性を有するプロテアソームを形成するためには多くのサブユニットの結合が必要であるため、その組み立て過程は複雑である。βサブユニットはタンパク質分解活性部位を覆うN末端のプロペプチドとともに合成され、組み立て時の翻訳後修飾によって活性部位が露出する。20Sコア粒子は、プロペプチドが除去されていないβサブユニット7個からなるリングにαサブユニット7個からなるリングが結合したハーフプロテアソームが形成され、さらに2つのハーフプロテアソームが結合することで組み立てられる。2つにハーフプロテアソームのβリングどうしが結合することでスレオニン依存的な自己分解反応が開始され、プロペプチドは除去されて活性部位が露出する。こうしたβサブユニットどうしの相互作用は保存されたαヘリックス間での塩橋形成と疎水的相互作用によって主に媒介されており、変異導入によってこうした相互作用を破壊することでプロテアソームの組み立てに悪影響が生じる[61]。ハーフプロテアソームの組み立てはαサブユニットが七量体リングへと組み立てられることで開始され、これがβリングの組み立ての鋳型となる。αリングの組み立てに関する特性解析はなされていない[62]。
19S調節粒子は、基底部と蓋部の2つの構成要素として組み立てられる。基底部の組み立ては4つの組み立てシャペロン、Hsm3/S5b、Nas2/p27、Rpn14/PAAF1、Nas6/ガンキリン(それぞれ酵母/哺乳類での名称)によって促進される[63]。これらの組み立てシャペロンはAAA-ATPアーゼサブユニットに結合することから、その主要な機能はヘテロ六量体型AAA-ATPアーゼリングの正しい組み立ての保証であるようである。現時点では、基底部複合体が単独で組み立てられるのか、20Sコア粒子が鋳型となって組み立てられているのか、それとも他の組み立て経路が存在するのかに関しては議論がある。これら4つの組み立てシャペロン以外にも脱ユビキチン化酵素Ubp6/Usp14も基底部の組み立てを促進するが、これは必要不可欠なものではない[64]。蓋部複合体は特定の順序で単独で組み立てられ、組み立てシャペロンを必要としない[65]。
タンパク質分解の過程

ユビキチン化と標的化

プロテアソームによる分解の標的となるタンパク質は、3つの酵素による協調的反応によってリジン残基に共有結合修飾がなされる。第一段階では、ユビキチン活性化酵素(E1)によってATPが加水分解され、ユビキチン分子がアデニリル化される。その後、ユビキチンはE1の活性部位のシステイン残基へ転移され、それと協調的に2つ目のユビキチン分子のアデニリル化がなされる[66]。このアデニリル化されたユビキチン分子は、2番目の酵素ユビキチン結合酵素(E2)のシステイン残基へ転移される。最終段階では、ユビキチンリガーゼ(E3)と呼ばれる非常に多様なグループのメンバーがユビキチン化されるタンパク質を特異的に認識し、E2から標的タンパク質へのユビキチンの転移が触媒される。標的タンパク質がプロテアソームの蓋部によって認識されるためには、少なくとも4個のユビキチン分子によって(ポリユビキチン鎖の形で)標識されていることが必要である[67]。このシステムにおいて基質特異性をもたらしているのはE3である[68]。細胞内に発現しているE1、E2、E3の数は生物種や細胞種によって異なっているが、ヒトには多くの種類のE3酵素が存在していることから、膨大な数のタンパク質がユビキチン-プロテアソームシステムの標的となっていることが示唆される。
ユビキチンタンパク質自体は76アミノ酸から構成され、その名称は普遍的(ubiquitous)に存在していることに由来する。ユビキチンの配列は高度に保存されており、既知の真核生物の全てで存在が確認されている[69]。真核生物においてユビキチンはタンデムリピートの形で遺伝子にコードされており、十分量のユビキチンの供給には非常に多くの転写が必要となるためにこのような形となっていると考えられている。また、ユビキチンは今日同定されている中で最も進化速度が遅いタンパク質であると考えられている[70]。ユビキチンには他のユビキチンの付加が可能なリジン残基が7か所存在しており、細胞内ではさまざまな種類のポリユビキチン鎖が形成されている[71]。プロテアソームによる分解の標的となるのは各ユビキチン分子が1つ前の分子のリジン48番残基を介して連結されているユビキチン鎖であり、他の形で連結されたユビキチン鎖は他の細胞過程に関与している可能性がある[72][73]。
ユビキチン受容体
ポリユビキチン化タンパク質は、Rpn1、Rpn10、Rpn13の3つのユビキチン受容体を介してプロテアソームへ標的化される。これらのタンパク質は19S調節粒子に位置し、標的基質の中で構造をとっていない領域をAAAモーターのN末端ドメインへ差し向ける[74]。
Rpn10
Rpn10はプロテアソームに最初に同定されたユビキチン受容体である。Rpn10は、酵母では1つ、高等真核生物では2つのユビキチン相互作用モチーフ(UIM)がVWA(von Willebrand factor type A)ドメインに付加された構造をしている。VWAドメインは19S調節粒子の基部と蓋部の間に結合し、UIMはAAAモーター上の空間へ向かって伸びていると考えられているが、UIMの構造自体はcryo-EMでは観察されていない。NMRによる研究ではRpn10のUIMは1個のユビキチン(モノユビキチン)にも結合し、K48を介して連結された2個のユビキチン(ジユビキチン)に対してはより高い親和性で結合する[75]。高等生物では、Rpn10のC末端はユビキチンリガーゼUBE3A/E6APに結合することが示されている[76]。
Rpn13
Rpn13は酵母ツーハイブリッドスクリーニングによってユビキチン受容体として同定された[77]。Rpn13はPRU(pleckstrin-like receptor for the Ub)ドメインを介してユビキチンを結合し[77]、PRUドメインの変異によってユビキチンへの結合は遮断される。Rpn13はRpn2を介してプロテアソームに結合し、19Sの上部、AAAモーターのOBリング上に位置している[74]。Rpn13は脱ユビキチン化酵素UCH37にも結合し、活性化を行う[78]。
Rpn1
Rpn1はT1、T2と呼ばれる2か所でユビキチンを結合することがNMRによって明らかにされている。Rpn1は脱ユビキチン化酵素Ubp6のドッキング部位にもなっている[79]。
ユビキチン受容体と推定されるその他のタンパク質
酵母ではRpn1、Rpn10、Rpn13の変異は致死的ではなく、他のユビキチン結合部位が存在している可能性が示唆される[79]。Rpt4/5のコイルドコイル領域がユビキチン結合部位となっていることがクロスリンキング質量分析(XL-MS)から提唱されている[80]。
脱ユビキチン化酵素
プロテアソーム分解の標的となったタンパク質に結合しているユビキチン鎖は、通常はプロテアソームに結合した3つの脱ユビキチン化酵素(Rpn11、Ubp6/USP14、UCH37)のいずれかによって除去される。Rpn11は基質からユビキチン鎖全体を除去する、必要不可欠な脱ユビキチン化酵素であるのに対し、Ubp6/USP14とUCH37はユビキチン鎖を編集する役割を果たしていることが提唱されている。出芽酵母ではUbp6をノックアウトしても生存可能であり、またUCH37に関しては分裂酵母やより高等な真核生物にはホモログが存在するものの、出芽酵母にはホモログは存在しない。脱ユビキチン化酵素によるユビキチンの除去はユビキチンをリサイクルする過程であり、細胞内のユビキチン貯蔵量を維持するために必要不可欠である[73]。
Rpn11

Rpn11は19S調節粒子に固有の、常に等量結合しているサブユニットであり、26Sプロテアソームの機能に必要不可欠である。Rpn11はJAMM(JAB1/MPN/Mov34 metalloenzyme)ファミリーに属する亜鉛依存的メタロプロテアーゼであり、タンパク質基質からユビキチン鎖全体の除去を担う必要不可欠な脱ユビキチン化酵素として同定された[81][82]。Rpn11はRpn8との二量体形成が必須であり、全てのユビキチン結合を切断する能力を有する脱ユビキチン化酵素が形成される[83]。Rpn11の活性部位は触媒を担う亜鉛が配位することで形成されるが、この部位は通常はInsert-1ループによって覆われている[83][84]。Rpn11の構造は関連するJAMMファミリーの脱ユビキチン化酵素AMSHと非常に類似している。AMSHはK63結合型ユビキチンの除去を担うが、Rpn11はAMSHにおいて結合特異性を担っている残基を欠いている。ユビキチンに結合したRpn11の構造では、ユビキチンのC末端がInsert-1ループをβシートへ押しやることで、触媒亜鉛へのアクセスが可能となっているが明らかにされている。この構造や詳細な生化学的解析により、Rpn11の脱ユビキチン化活性はタンパク質基質のトランスロケーションによって少なくとも10倍加速されることが示されており、トランスロケーションによってユビキチン基質がRpn11の活性部位へもたらされていることが示唆されている[85]。こうしたトランスロケーション依存的な脱ユビキチン化モデルは基質を結合した酵母とヒトのプロテアソームのcryo-EM構造によって確証されており、これらの構造ではユビキチンを結合したRpn11の結晶構造から得られた知見が再現されている[24][86]。酵母プロテアソームを用いた一分子研究においてもトランスロケーションによって脱ユビキチン化が加速されることが測定されている[87]。また、Rpn11は基質がプロテアソームへ正しくかみ合うようにするためのアロステリックセンサーとして機能するユビキチン受容体でもあることが示されている[88]。
Rpn11はユビキチン以外にも、プロテアソームと関連した多くの因子の結合部位となっていることが示されている。Cryo-EM研究では、PITHD1(Proteasome Interacting Thioredoxin Domain 1)やTXNL1はRpn2/Rpn10を介してプロテアソームに結合し、Rpn11のInsert-1ループとの相互作用を形成している[89][90][91]。PITHD1は静止状態のプロテアソームに結合しており、休眠因子であることが提唱されているのに対し[89]、TXNL1はプロセシング状態に結合していることから、タンパク質分解の補助に活発な役割を果たしていることが示唆されている[90][91]。またcryo-EMでは、Rpn11がミドノリン(midnolin)のユビキチン様ドメインに結合することが示されている。このタンパク質は転写因子のユビキチン化非依存的分解を可能にしている[92]。
USP14/UBP6
Rpn11とは対照的に、USP14とUCH37はプロテアソームに常に結合しているわけではなく、またユビキチン依存的分解に必要不可欠でもない。これらの脱ユビキチン化酵素は、既にプロテアソームに取り込まれた基質のユビキチン鎖を編集する役割を果たしていることが提唱されている。細胞内では、10–40%のプロテアソームにUSP14が結合していることが明らかにされている。
Ubp6/USP14はUSP(ubiquitin specific protease)ファミリーに属し、触媒システイン残基を用いてユビキチンを除去する。USPドメインとともに、Ubp6/USP14にはプロテアソームに結合するUBL(ubiquitin-like)ドメインが存在する。Ubp6/USP14はプロテアソームによって大きく活性化され、単独での活性は非常に低い[93][94]。いったん活性化されると、USP14は脱ユビキチン化活性によって、そしてプロテアソームの平行的(代替的)なコンフォメーション変化経路を誘導することでプロテアソームの機能を抑制することが明らかにされている。こうしたコンフォメーション変化の1つでは、基質のAAA-ATPアーゼへの挿入が直接的に妨げられている。この作用はまず生化学的手法によって観察され[93]、その後時間分解cryo-EM解析によって確証された[95]。USP14は、Rpn11との触媒的競合や、AAA-ATPアーゼの状態のアロステリックなリプログラミングの双方を通じて、複数のチェックポイントでプロテアソームの機能を調節しているようである[95]。こうした観察結果は、プロテアソームの調節がコンフォメーション状態間の動的な移行に依存している可能性を示唆している。
UCH37
UCH37は、ユビキチン受容体Rpn13を介して26Sプロテアソームに結合することで活性化される、ユビキチンC末端加水分解酵素(ubiquitin C-terminal hydrolase、UCH)である[78]。UCH37は、Rpn2に結合しているRpn13のC末端のDEUBAD(deubiquitinase adaptor)ドメインを介してプロテアソームへ結合することで活性化される[96][97]。
ユビキチンリガーゼ
Ubp6とUCH37は基質からユビキチンを除去することでユビキチン鎖を編集するが、ユビキチンリガーゼもプロテアソームに結合してユビキチンの付加を行っている。26Sプロテアソームに結合するユビキチンリガーゼには酵母のHul5(ヒトのUBE3C)、ヒトではUBE3A/E6APがある。
Hul5は酵母で26Sプロテアソームに結合している酵素としてUbp6とともに同定され[98]、これらはプロテアソームにおいてユビキチン鎖の編集を行っていると考えられた。生化学的研究により、Hul5は実際にユビキチンリガーゼとしてユビキチン化基質に対して効率的にユビキチンを付加することが示された[99]。Hul5はRpn2に結合することが提唱されているが[99]、この相互作用は構造的には示されていない。
哺乳類では、UBE3A/E6APはRpn10のC末端に結合する。Rpn10の構造をとっていない領域はUBE3A/E6APと低nM範囲の強固な相互作用を行い、特定の構造を形成するようになることがNMRによって示されている[100]。
プロテアソームシャペロン
脱ユビキチン化酵素やユビキチンリガーゼ以外にも、多くのタンパク質がプロテアソームに結合し、分解に重要な役割を果たしている。こうしたタンパク質には一般的にUBL(ubiquitin-like)ドメインとUBAドメインから構成され、Dsk2、Rad23、Ddi1があり、プロテアソームシャペロンに分類されている。Dsk2とRad23のUBLはプロテアソームのユビキチン受容体に結合する[101]。Ddi1は長いK48型ユビキチン鎖に結合してプロテアーゼとして作用することが示されており[102]、プロテアソームとは直接相互作用していない可能性がある。
アンフォールディングとトランスロケーション
タンパク質のユビキチン化後の19S調節粒子による認識はATP依存的段階である[47]。その後、基質タンパク質は20Sコア粒子内部へ移行し、タンパク質分解活性部位と接触する。アンフォールディングした基質がコア粒子へと移動する過程はトランスロケーションと呼ばれる[47]。20Sコア粒子の中心部のチャネルは狭く、またαリングサブユニットのN末端テールがゲートを形成しているため、基質タンパク質が内部へ移行する前に少なくとも部分的にはアンフォールディングを行うことが必要である。αサブユニットによって形成されるゲートは、約4残基よりも長いペプチドが20Sコア粒子の内部へ進入しないよう防いでいる。理想的な基質の場合にはトランスロケーションによって脱ユビキチン化が加速されるが[85]、実際のさまざまな基質においては脱ユビキチン化とアンフォールディングの順序は必ずしも明確ではない[103]。タンパク質分解においてどの段階が律速段階となっているかは基質によって異なり、一部のタンパク質ではアンフォールディング過程が律速となっており、他のタンパク質では脱ユビキチン化が最も遅い段階となっている[46]。基質を取り込んだ26Sプロテアソームの原子分解能構造ではトランスロケーション前に約20アミノ酸残基程度のアンフォールディングが必要となることが示唆されており[25]、三次構造やジスルフィド結合などの非局所的な相互作用の存在によって分解は阻害される[104]。十分な大きさの天然変性領域の存在は、それがタンパク質の末端であっても内部であっても、分解の効率的開始を促進すると考えられている[105][106]。
基質のアンフォールディングにはエネルギーが必要であるが、トランスロケーション自体には必要ではない[46][47]。アンフォールド状態のタンパク質は非加水分解性のATPアナログの存在下でも26Sプロテアソームによって分解されるが、フォールディングした状態のタンパク質は分解されない。このことは、ATPの加水分解のエネルギーは基質のアンフォールディングに利用されていることを示している[46]。19S調節粒子がATP結合状態である場合、アンフォールド状態の基質は開いたゲートを促進拡散によって通過することができる[107]。
タンパク質のアンフォールディングには、若干のアミノ酸配列依存性が存在する。グリシンとアラニンが交互に並んだ長い配列は基質のアンフォールディングを阻害することが示されており、こうした配列の存在によってプロテアソームによる分解効率は低下する。このような基質の分解時には、おそらくATP加水分解とアンフォールディング過程の脱共役のため、部分的な分解のみが行われた副産物が放出される[108]。こうした反復配列は自然界にも存在し、例としては絹を構成するフィブロインが挙げられる。また、こうした配列を有するEBウイルスの遺伝子産物はプロテアソームを停止させ、MHCへの抗原提示を防ぐことでウイルスの増殖を助けている[109]。

タンパク質分解
プロテアソームはエンドペプチダーゼとして機能する[110][111][112][113]。20Sコア粒子のβサブユニットによるタンパク質分解機構は、スレオニン依存的な求核攻撃である。この機構は、反応性スレオニンのヒドロキシル基を脱プロトン化する水分子の結合に依存している可能性がある。タンパク質分解は2個のβリングが結合することで形成されるコア粒子中心部のチャンバー内で行われ、通常は部分的分解産物の放出は起こらず、基質は一般的に7–9残基の短いペプチドにまで分解される。このペプチドの長さは生物種や基質に依存し、4残基から25残基の範囲となる場合がある。最終産物の長さを決定する生化学的機構に関しては、十分な特性解析はなされていない[114]。3つの触媒βサブユニットは共通した機構を有するものの、基質特異性はキモトリプシン様、トリプシン様、PHGH様とわずかに異なっている。こうした特異性のバリエーションが存在するのは、各サブユニットの活性部位の近傍の残基との相互作用が異なるためである。また、各サブユニットにはタンパク質分解に必要な保存されたリジン残基も存在している[39]。
プロテアソームは通常は非常に短いペプチド断片を作り出すが、一部のケースではプロテアソームによる分解産物が生物学的活性を有する機能的分子となっている場合がある。一例として哺乳類の転写因子NF-κBの1つの構成要素は不活性な前駆体として合成され、ユビキチン化とプロテアソーム分解によって活性型へと変換される。この活性化過程においては、プロテアソームがエンドペプチダーゼのようにタンパク質の末端から分解を進行するのではなく、タンパク質内部を切断する性質を有することが重要となっている。これらのタンパク質の表面に存在する長いループがプロテアソームの基質となっており、タンパク質の大部分はプロテアソーム外に位置したまま、長いループ部分がチャンバー内へ進入することが示唆されている[115]。同様の作用は酵母タンパク質でも観察されており、こうした選択的分解機構はregulated ubiquitin/proteasome dependent processing(RUP)と呼ばれている[116]。
ユビキチン非依存的分解
大部分の基質は26Sプロテアソームによる分解の前にユビキチン化が必要であるが、一部例外も存在し、特にタンパク質の翻訳後に行われる正常なプロセシング過程としてプロテアソームが関与している場合がある。上述したNF-κBの活性化過程がその一例であり、p105サブユニットの内部をプロテアソームが切断し、p50サブユニットへプロセシングすることでNF-κBは活性化される[115]。天然変性領域の存在のために不安定になっていると考えられている一部のタンパク質は、ユビキチン非依存的に分解される[117]。p53など重要な細胞周期調節因子を標的化するユビキチン非依存的機構も報告されている。ただし、p53はユビキチン依存的な分解も行われる[118]。またストレス条件下では、構造的に異常な、誤ったフォールディングを行ったタンパク質や高度に酸化されたタンパク質も、ユビキチン非依存的、かつ19S調節粒子非依存的な形での分解が行われる[119]。
ユビキチン非依存的にプロテアソームの基質となるものとしては、オルニチン脱炭酸酵素(ODC)がよく知られている[120][121][122] 。ODCはコファクターであるアンチザイムの結合によって二量体が解体されることで、分解の標的となる。ODCには構造をとらない領域がC末端(ヒトの場合)もしくはN末端(酵母の場合)に存在し、分解にはこうした領域の存在が必要である。この領域が19S調節粒子のAAAモーターへ取り込まれると考えられているが[123]、その機構の詳細は未だ明らかではない。ユビキチン非依存的分解が行われる他のタンパク質にはチミジル酸シンターゼがあり、このタンパク質ではN末端の構造をとらない領域が分解に必要不可欠である。
FAT10(ユビキチンD)はUBLドメインがタンデムに並んだタンパク質であり、このタンパク質もユビキチン非依存的にプロテアソームによって分解される。FAT10はNUB1の結合に伴って分解標的となり、NUB1はFAT10の1つ目のUBLをアンフォールド状態に固定することで26Sプロテアソームへの取り込みを可能にしていること生化学的・構造生物学的研究から示されている。また、NUB1-FAT10複合体ではNUB1のUBLが露出し、このUBLがRpn1に結合することでFAT10はプロテアソーム中央のチャネル上部に配置される[124]。
ミドノリン(midnolin)は、転写因子をプロテアソームによるユビキチン非依存的分解へ標的化するタンパク質として同定されている[125]。構造生物学的研究では、ミドノリンのUBLはRpn11に、1つのヘリックスはRpn1に、そしてCATCHドメインが転写因子に結合することが示されており、ユビキチン非依存的分解機構のモデルが提唱されている[126]。
また、寄生性の病原体も宿主のユビキチン非依存的分解を利用する機構を進化させている。植物に寄生するファイトプラズマはSAP05と呼ばれるタンパク質を発現し、このタンパク質は転写因子、そして26SプロテアソームのRpn10のVWAドメインに結合することで転写因子を分解標的とする[127]。一方で、SAP05は感染の媒介者となる昆虫のRpn10には結合しない。SAP05は転写因子とRpn10の双方に結合し、転写因子をAAAモーターの入口付近に配置することでユビキチン非依存的分解を可能にしていることが示唆されている[128][129]。
進化

20Sプロテアソームは真核生物と古細菌において普遍的に存在し、かつ必要不可欠である。放線菌目の細菌にも20Sプロテアソームのホモログが存在しているが、一方で大部分の細菌には熱ショックタンパク質HslVとHslUからなるHslVU複合体が存在し、この複合体は2層のリングとATPアーゼからなるプロテアーゼである[130]。HslVタンパク質は20Sプロテアソームの祖先に類似していると考えられている。 一般的に、細菌においてHslVは必須ではなく、また全ての細菌に存在するわけでもない。一部の原生生物には20SとHslUVの双方の系が存在している[130]。多くの細菌には他にもプロテアソームのホモログとそれに結合するATPアーゼが存在しており、良く知られたものとしてClpXPが挙げられる。こうした冗長性のため、HslUV系は必須ではないと考えられている。
さまざまな生物種のプロテアソームサブユニットの配列解析では、主に構造的役割を果たしているαサブユニットの多様化に先んじて、触媒を担うβサブユニットの多様化が生じたことが示唆されている。真核生物でのこうしたサブタイプの多様化は遺伝子重複によるものであるとされている。細菌の20Sプロテアソームは遺伝子の水平伝播によって獲得されたものであると考えられ、βサブユニットは古細菌や真核生物のものとの配列同一性が高いのに対し、αサブユニットの配列の同一性はかなり低い[130]。
細胞周期の制御
細胞周期の進行は、サイクリン依存性キナーゼ(CDK)が順々に作用することで制御されている。CDKはそれぞれ、細胞周期の段階を区切る特定のサイクリンによって活性化される。分裂期サイクリンの細胞内での持続時間はわずか数分であり、細胞内のタンパク質の中では最も寿命が短い部類に属する[8]。CDK-サイクリン複合体がその機能を発揮した後、サイクリンがポリユビキチン化されてプロテアソームによって分解されることで、細胞周期進行の方向性が生み出されている。特に有糸分裂の終結には、成熟促進因子(MPF)複合体から調節的構成要素であるサイクリンBのプロテアソーム依存的除去が必要である[131]。脊椎動物では、紡錘体チェックポイントの活性化によって有糸分裂の終結が妨げられている場合であっても、サイクリンBの分解によってチェックポイントを逸脱して進行してしまう場合がある[132]。
G1期とS期の間の制限点後のチェックポイントにおいても、同様にプロテアソームによるサイクリンAの分解が関与している。サイクリンAのユビキチン化は、後期促進複合体(APC)と呼ばれるE3ユビキチンリガーゼによって促進される[133]。APCとSCF複合体は、サイクリン分解と細胞周期チェックポイント制御における重要な調節因子となるE3ユビキチンリガーゼ複合体である。SCF複合体自身も構成因子であるアダプタータンパク質Skp2がAPCによるユビキチン化調節を受けており、それによってG1/S期の移行時までSCFの活性化が防がれている[134]。
19S調節粒子の個々の構成要素の中にも調節的役割を担っているものがある。ガンキリンは19S調節粒子の構成因子の1つであり、CDK4とRbタンパク質に結合してRbのリン酸化とプロテアソーム分解を加速させる。さらに、ガンキリンはp53をユビキチン化するMDM2にも結合し、p53の分解を促進する。ガンキリンは抗アポトーシスタンパク質であり、肝細胞癌など一部の腫瘍細胞種で過剰発現していることが示されている[135]。
真核生物だけでなく、一部の古細菌においても細胞周期制御、より具体的にはESCRT-IIIを介した細胞分裂の制御にプロテアソームが利用されている[136]。
植物の成長の調節
植物では、植物の成長方向や屈性を司る植物ホルモンであるオーキシンによるシグナルによって、Aux/IAAタンパク質と呼ばれる転写リプレッサー群がプロテアソーム分解の標的となる。これらのタンパク質はオーキシン受容体TIR1と複合体を形成したSCFによってユビキチン化される。Aux/IAAタンパク質の分解によってオーキシン応答因子(auxin-response factor、ARF)ファミリーの転写因子の抑制が解除され、ARFによる遺伝子発現が駆動される[137]。ARFの活性化が細胞にもたらす影響は植物種や発生段階によって異なるが、根や葉脈においては成長と関係している。ARFの抑制解除に対する応答の特異性は、その細胞に共発現しているARFとAux/IAA タンパク質のペアによって決定されていると考えられている[138]。
アポトーシス
アポトーシス(プログラム細胞死)は、内的なシグナルと外的なシグナルの双方によって誘導される。その結果引き起こされる細胞構成要素の破壊は主にカスパーゼと呼ばれる専門的なプロテアーゼによって行われるが、プロテアソームも重要かつ多様な役割を果たしている。アポトーシス過程にプロテアソームが関与していることは、アポトーシスに先立って観察されるタンパク質のユビキチン化の増大、E1、E2、E3酵素の増加から示される[139][140][141]。アポトーシス時には、核内に位置していたプロテアソームがアポトーシスに特徴的な膜ブレブ構造へ移行することも観察されている[142]。
プロテアソームの阻害は、さまざまな細胞種においてアポトーシスの誘導にさまざまな影響を及ぼす。一般的にはプロテアソームはアポトーシスに必須ではないが、大部分の細胞種ではプロテアソームの阻害によってアポトーシスが促進される。プロテアソーム阻害によるアポトーシスは、細胞成長を促進する細胞周期タンパク質の調節された形での分解が妨げられることによって媒介されている[143]。一方で、一部の細胞株、特に胸腺細胞や神経細胞など静止期や分化した細胞の初代培養細胞はプロテアソーム阻害剤への曝露によってアポトーシスを起こすことができなくなる。こうした影響が生じる機構は明らかではないが、静止状態の細胞に特異的な現象であるか、もしくはアポトーシス促進性のキナーゼであるJNKの活性の差異によるものであると考えられている[144]。急速に分裂している細胞に対してプロテアソーム阻害剤がアポトーシスを誘導する能力は、ボルテゾミブやサリノスポラミドAなど、近年開発されたいくつかの化学療法薬に利用されている。
細胞ストレスに対する応答
感染、熱ショック、酸化損傷などの細胞ストレスに応答して熱ショックタンパク質が発現し、誤ったフォールディングをしたタンパク質やフォールディングをしていないタンパク質がプロテアソームによる分解の標的となる。Hsp27とHsp90はどちらもユビキチン-プロテアソームシステムの活性を高めることが示唆されているシャペロンタンパク質であるが、これらはその過程に直接的に関与しているわけではない[145]。一方、Hsp70は誤ったフォールディングをしたタンパク質の表面に露出している疎水性のパッチに結合し、CHIPなどのE3ユビキチンリガーゼをリクルートしてプロテアソーム分解のための標識をタンパク質に付加する[146]。CHIP自身も、E2結合パートナーとの相互作用の阻害によって調節されている[147]。
プロテアソームシステムを介した酸化損傷タンパク質の分解を促進する、類似した機能も存在する。特に、核に位置しているプロテアソームはPARPによって調節されており、不適切な酸化を受けたヒストンを活発に分解している[148]。酸化したタンパク質は細胞内で巨大な不定形凝集体を形成することが多いが、19S調節粒子やATP加水分解、ユビキチン標識を必要とせず、20Sコア粒子によって直接的に分解される[119]。しかしながら、高レベルの酸化損傷ではタンパク質間架橋の程度が高まり、凝集体はタンパク質分解に対する抵抗性を示すようになる。こうした高度に酸化された凝集体の数やサイズの増大は、老化と関連した現象である[149]。
ユビキチン-プロテアソームシステムの調節異常はいくつかの神経疾患に寄与している可能性があり、星細胞腫などの脳腫瘍につながる可能性がある[150]。パーキンソン病やアルツハイマー病など、誤ったフォールディングをしたタンパク質の凝集という共通した病理的特徴を有する高齢発症型神経変性疾患の一部では、巨大な不溶性の凝集体が形成されて神経毒性が引き起こされているが、その機構が十分には理解されているわけではない。パーキンソン病における凝集やレビー小体の形成の一因として、プロテアソーム活性の低下が示唆されている[151]。パーキンソン病の酵母モデルにおいて、低プロテアソーム活性条件下ではレビー小体の主要な構成タンパク質であるα-シヌクレインによる毒性の感受性が高まるという観察から、この仮説は支持されている[152]。自閉スペクトラム症などの認知機能障害や、封入体筋炎など神経筋疾患の根底においてもプロテアソーム活性の欠陥がある可能性がある[150]。
免疫系における役割
プロテアソームは獲得免疫系において、複雑ではないものの重要な役割を果たしている。細胞内に侵入した病原体に由来するペプチド抗原は抗原提示細胞表面のMHCクラスI分子によって提示される。こうしたペプチドは、病原体のタンパク質がプロテアソームによって分解されることで形成された産物である。構成的に発現しているプロテアソームもこの抗原提示過程に関与している場合があるものの、MHCへの結合に適したサイズと組成のペプチドを主に産み出しているのは、IFN-γによって発現誘導されるタンパク質からなる特殊なプロテアソーム複合体である。免疫応答時に発現が高まるタンパク質には、MHCリガンド産生の調節が主要な生物学的機能である11S調節粒子や、構成的に発現しているβサブユニットと比較して基質特異性に変化がみられるβ1i、β2i、β5iといった特殊なβサブユニットなどがある。こうした特殊なβサブユニットから形成されるプロテアソーム複合体は免疫プロテアソームと呼ばれる[33]。他にも、胸腺ではβ5tと呼ばれるβ5iのバリアントが発現し、胸腺特異的な胸腺プロテアソームが形成されるが、その機能は未解明である[153]。
MHCクラスI分子のリガンドの結合強度はリガンドのC末端の組成に依存している。ペプチドは水素結合によって結合し、MHC表面のBポケットと呼ばれる領域と密接な相互作用を行う。MHCクラス分子の多くのアレルは疎水的なC末端残基を有するペプチドを優先的に結合し、免疫プロテアソームはこうした疎水的なC末端を有するペプチドを産生する傾向がある[154]。
プロテアソームは、抗アポトーシス、炎症促進性のサイトカイン発現調節因子である活性型NF-κBの形成に関与しているため、その活性は炎症性疾患や自己免疫疾患と関連づけられている。プロテアソーム活性の増大は疾患活動性と相関しており、全身性エリテマトーデスや関節リウマチなどの自己免疫疾患への関与が示唆されている[33]。
またプロテアソームは、Intracellular antibody-mediated degradationと呼ばれる、細胞内での抗体結合ビリオンの分解経路にも関与している。この中和経路では、TRIM21がIgGに結合してビリオンをプロテアソームへ差し向け、分解が行われる[155]。
プロテアソーム阻害薬


プロテアソーム阻害薬は培養細胞に対し、増殖促進性の細胞周期タンパク質の分解調節の破綻によるアポトーシスの誘導など、効果的な抗腫瘍活性を示す[143]。このように腫瘍細胞に対して選択的にアポトーシスを誘導するアプローチは、動物モデルやヒトでの治験でも有効性が示されている。
ストレプトマイセス属の細菌によって合成される天然物であるラクタシスチンは最初に発見された非ペプチド性のプロテアソーム阻害剤であり[156]、生化学や細胞生物学における研究ツールとして広く利用されている。ラクタシスチンはMyogenics/Proscript社にライセンス供与され、その後同社はMillennium Pharmaceuticalsに買収され、現在は武田薬品工業の一部となっている。ラクタシスチンはプロテアソームの触媒βサブユニット、特にキモトリプシン様活性を担うβ5サブユニットのN末端のスレオニン残基を共有結合修飾する。この発見は、プロテアソームがN末端スレオニンプロテアーゼという新たなクラスのプロテアーゼであることの確立につながった。
ボルテゾミブはMillennium Pharmaceuticalsによって開発され、ベルケイド(Velcade)として上市された分子であり、化学療法薬として臨床使用段階に到達した最初のプロテアソーム阻害薬である[157]。ボルテゾミブは多発性骨髄腫の治療に用いられる[158]。多発性骨髄腫ではプロテアソーム由来ペプチドの血清中濃度の上昇が引き起こされることが観察されており、化学療法の奏功によって正常レベルにまで減少する[159]。動物研究では、ボルテゾミブは膵がんにおいても臨床的に有意な効果を示す可能性が示唆されている[160][161]。また、その他のB細胞関連がん[162]、特に一部の非ホジキンリンパ腫[163]の治療におけるボルテゾミブの有効性を調査する前臨床試験や初期臨床試験が開始されている。また、前駆B細胞急性リンパ性白血病に対する化学療法薬とプロテアソーム阻害薬の併用が正当化されることが臨床的に示唆されている[164]。プロテアソーム阻害薬はグルココルチコイド抵抗性を示す一部の培養白血病細胞に対しても細胞死を誘導する[165]。
リトナビル(商標名: ノービア [Norvir])はプロテアーゼ阻害薬として開発され、HIV感染症を主な標的として使用されている。リトナビルは遊離のプロテアーゼを阻害するだけでなく、プロテアソーム、具体的にはそのキモトリプシン様活性を阻害することが示されている。一方で、トリプシン様活性はある程度亢進する[166]。動物モデルでの研究では、リトナビルが神経膠腫細胞の成長に阻害的影響を及ぼす可能性が示唆されている[167]。
プロテアソーム阻害薬は、自己免疫疾患治療における有望性も動物モデルでの研究から示されている。一例として、ヒトの皮膚を移植したマウスを用いた研究では、プロテアソーム阻害薬による治療後に乾癬の病変部位のサイズが減少することが明らかにされている[168]。プロテアソーム阻害薬は気管支喘息の齧歯類モデルでも有望な結果が示されている[169]。
In vitroおよびin vivoでの細胞内プロテアソーム活性に関する実験室的研究では、プロテアソームの標識と阻害に関心が寄せられている。実験室的に広く用いられている阻害剤はラクタシスチン、そしてAlfred L. Goldbergの研究室によって開発されたペプチドアルデヒドMG132である。組み立てられたプロテアソームの活性部位を特異的に標識する蛍光阻害剤も開発されている[170]。
臨床的意義
プロテアソーム複合体の組み立ての欠陥や機能不全が特定の疾患の病態生理と関係していること、そして治療介入の薬剤標的として利用可能であること、という少なくとも2つの理由により、プロテアソームやそのサブユニットは臨床的に重要な意義を有する。近年では、新たな診断マーカーや治療戦略の開発においてプロテアソームに着目する取り組みもなされている。プロテアソームの病態生理に関する理解を深め、包括的なものにしてゆくことで、将来的な臨床応用につながることが期待されている。
プロテアソームはユビキチン-プロテアソームシステム(UPS)や細胞内でのタンパク質品質管理の中枢となる構成要素である[171]。タンパク質のユビキチン化とその後のプロテアソームによる分解は、細胞周期、細胞成長、細胞分化、遺伝子転写、シグナル伝達、そしてアポトーシスの調節において重要な機構となっている[172]。プロテアソームの欠陥はタンパク質分解活性の低下、そして損傷したタンパク質や誤ったフォールディングを行ったタンパク質の蓄積につながり、神経変性疾患[173][174]、心血管疾患[175][176][177]、炎症応答や自己免疫疾患[178]に寄与するほか、悪性腫瘍につながるDNA損傷をもたらす可能性がある[179]。
UPSの欠陥は、アルツハイマー病[180]、パーキンソン病[181]、ピック病[182]、筋萎縮性側索硬化症(ALS)[182]、ハンチントン病[181]、クロイツフェルト・ヤコブ病[183]、ポリグルタミン病、筋ジストロフィー[184]といった神経・筋変性疾患、そして認知症と関連したいくつかの稀少な神経変性疾患の発症との関連も示唆されている[185]。プロテアソームはUPSの一部として心臓におけるタンパク質恒常性の維持にも関与しているため、心筋虚血[186]、心室肥大[187]、心不全にも大きな役割を果たしている。さらに、UPSが悪性形質転換において必要不可欠な役割を果たしていることを示すエビデンスも蓄積しつつある。UPSによるタンパク質分解は、がんの発生に重要な刺激シグナルに対するがん細胞の応答に大きな役割を果たしている。UPSはp53、c-Jun、c-Fos、NF-κB、c-Myc、HIF-1α、MATα2、STAT3、SREBP、アンドロゲン受容体などの転写因子の分解を制御しており、そのためさまざまな悪性腫瘍の発生に関与していることとなる[188]。UPSは、APC、Rb、VHLなどのがん抑制遺伝子産物や、多くのがん遺伝子産物(Raf、Myc、Myb、Rel、Src、Mos、ABL)の分解を調節している。UPSは炎症応答の調節にも関与している。この活性は多くの場合プロテアソームによるNF-κBの活性化によるものであり、NF-κBによってTNF-α、IL-1β、IL-8などの炎症性サイトカイン、細胞接着分子(ICAM-1、VCAM-1、P-セレクチン)、プロスタグランジン、一酸化窒素の産生が調節されている[178]。また、UPSは白血球増殖の調節因子としても炎症応答に関与しており、これは主にサイクリンやCDK阻害因子の分解によって行われている[189]。最後に、全身性エリテマトーデス、シェーグレン症候群、関節リウマチといった自己免疫疾患の患者では血中にプロテアソームがみられ、臨床的なバイオマーカーとしての利用の可能性がある[190]。