スワッシュ
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スワッシュ (swash) とは、タイポグラフィにおいて、誇張されたセリフ、端部、終筆、起筆など、字形に付加される装飾的な筆致を指す[1][2][3]。スワッシュ文字の使用は少なくとも16世紀にさかのぼり、1522年に刊行されたルドヴィコ・ヴィチェンティーノ・デッリ・アリギ(英語版)の書物『La Operina』にもその使用が確認できる。スワッシュ文字は、イタリック体と同様に当時の筆記体の習慣から着想を得ており[4]、アリギのデザインはイタリア国内だけでなく、特にフランスのデザイナーに強い影響を与えた[5]。
スワッシュを備えた書体の多くはセリフ体であり、そうした書体では主にイタリック体にのみスワッシュが含まれていることが多い。高度なデジタルフォントでは、スワッシュ付きイタリックと、より抑制された標準的なイタリックの2種類が提供される場合もある。
オールドスタイル体では、一部のCaslon(Adobe Caslonなど)やGaramond(Adobe Garamond Pro、EB Garamondなど)にスワッシュ付きのバージョンが存在する[6][7]。特定の歴史的モデルに基づかないがスワッシュを含む書体には、ロバート・スリムバックのMinionや、マルティン・マヨール(英語版)のNexusなどがある[8][9]。
トランジショナル体では、Baskervilleのオリジナルデザインにおいて、J、N、Q、Tの文字にスワッシュが含まれている。復刻版の中にはそれらを省略するものもあれば、逆にスワッシュを追加したものもある。Mrs Eavesは特に多くのスワッシュを備えている[10]。
ディドニ系の書体では、Surveyor(英語版)やITC Bodoniにスワッシュが含まれている[11][12]。
サンセリフ体でスワッシュを備えるものは稀だが、1930年代のアール・デコやストリームライン・モダンのスタイルにおいて、一部の例が見られる。たとえば、Tempo(英語版)[13]やSemplicità(英語版)[14]などが挙げられる。山岡康弘によるClassiq(Garamondに基づいた書体)はスワッシュ付きのイタリックを備えており[15]、フレデリック・ガウディのGoudy Sans Serif Light Italic(英語版)や、ズザナ・リッコによるMrs Eavesから派生したMr Eavesにもスワッシュが含まれている。フィル・マーティンによってデザインされたHelvetica Flairは、Helveticaにスワッシュを加えたリデザインであり、1970年代デザインの象徴とされる。ただし、デジタル版は未発表である。このデザインは賛否が分かれ、Helveticaの持つ簡潔で合理的な性格に対し、装飾性が強いスワッシュは「相反する」と評されることもある。フォントデザイナーのマーク・サイモンソン(英語版)は「ほとんど冒涜的」と述べている。また、マーティンは後に「タイポグラフィの近親相姦」とドイツ人のある作家に非難されたことを回想している[16][17]。
スワッシュは歴史的な筆記体に由来するため、スクリプト体にはスワッシュを備えるものが多い。たとえば、ヘルマン・ツァップによるZapf Chancery(英語版)やZapfinoなどが挙げられる。
一部の歴史的復刻書体では、元々存在しなかったスワッシュを追加して、より多様なデザインとすることもある。たとえば、Adobe Garamond Proにおけるスワッシュのデザインは、クロード・ギャラモンの印刷物ではなく、彼の後輩であるロベール・グランジョンの書体に基づいている[18]。また、オリジナルのCaslonイタリックでは、J、Q、T、Yの文字のみにスワッシュが存在していたが、復刻版では他の文字にも追加されている[19][注釈 1]。
脚注
出典
- ↑ Henry, Frank S (1917). Printing: A Textbook For Printers' Apprentices, Continuation Classes, And For General Use In Schools. New York: John Wiley & Sons, Inc.. p. 82. https://archive.org/details/bub_gb_UAAvAAAAMAAJ
- ↑ Schwartz, Christian. “Back with a flourish”. Eye Magazine. 2018年3月31日閲覧。
- ↑ Tracy, Walter (1991). “The Alternatives”. Bulletin of the Printing Historical Society (30).
- ↑ Adobe Type Library Reference Book (3 ed.). Adobe Systems. (2007). ISBN 9780132701365. https://books.google.com/books?id=JflrEldAbs8C&q=adobe+type+library+reference+book
- ↑ Lawson, Alexander (1990). Anatomy of a Typeface. David R. Godine. p. 91. ISBN 978-0-87923-333-4. https://books.google.com/books?id=FiJ87ixLs0sC&pg=PA91
- ↑ “Adobe Caslon glyph list”. Adobe. 2025年8月26日閲覧。
- ↑ Duffner, Georg. “EB Garamond: Features”. 2014年8月30日閲覧。
- ↑ “Minion”. Adobe Systems. 2014年8月30日閲覧。
- ↑ Majoor, Martin. “My Design Philosophy”. 2014年8月30日閲覧。
- ↑ Wolson, Andrew. “Baskerville”. Font Slate. 2014年9月1日閲覧。
- ↑ “Surveyor: Overview”. Hoefler & Frere-Jones. 2014年9月1日閲覧。
- ↑ “ITC Bodoni 72 Swash Book Italic”. MyFonts. Linotype. 2014年9月1日閲覧。
- ↑ Schwartz, Christian. “Back with a flourish #5. Christian Schwartz on swaggering swashes”. Eye. 2018年3月31日閲覧。
- ↑ Di Lena, Leonardo. “Semplicità”. Studio Di Lena. 2017年4月18日閲覧。
- ↑ Yamaoka, Yasuhiro. “Classiq”. YOFonts. 2025年8月26日閲覧。
- ↑ Simonson, Mark. “Interview with Phil Martin”. Typographica. 2014年8月30日閲覧。
- ↑ Puckett, James (2012年3月5日). “Helvetica Flair (photo of specimen book)”. Flickr. 2025年8月26日閲覧。
- ↑ “Adobe Garamond Pro”. Adobe. 2014年8月30日閲覧。
- ↑ Berkson, William (2010年11月). “Reviving Caslon”. I Love Typography. 2014年9月21日閲覧。
- ↑ Howes, Justin (2000). “Caslon's punches and matrices”. Matrix 20: 1–7.
注釈
- ↑ ジャスティン・ハウズ(英語版)によれば、19世紀末から20世紀にかけてH.W. Caslon Company(英語版)社によってCaslon書体とともに販売されていたスワッシュ付き大文字は、「1557年頃に人気を博したフランソワ・ギュヨのイタリック体(約22pt)にかなり忠実に基づいており、18世紀初頭までイギリスの印刷物に用いられていた」という。[20]