トイレのピエタ

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トイレのピエタ』は、漫画家手塚治虫が亡くなる前の日記の最後のページに書いていた作品の構想。またそれを原案とする映画のこと。

手塚治虫は晩年に胃癌で入院するが、医者及び手塚の家族や周囲は(当時の日本の医療の慣例で、患者を落胆させないようにと)胃癌とは告げずに胃潰瘍だと告げていた。

妻や息子など家族は手塚は胃癌だと気付いていなかったと語る[1]

しかし、手塚が病室で描き続けていた作品[2]や日記にはところどころ自分が癌と知っていたと考えられる部分が登場する(また、漫画家の松本零士はあるパーティの場で手塚自身の口から自身が癌であると告げられたと述べている)。

手塚治虫は手が震えるのをモルヒネで抑えながら、意識が無くなるまで仕事と日記を続けていた。手塚が病室で書いた日記の最後のページは以下のような内容である。

一九八九年一月一五日

今日はすばらしいアイディアを思いついた!トイレのピエタというのはどうだろう。

癌の宣告を受けた患者が、何一つやれないままに死んで行くのはばかげていると、入院室のトイレに天井画を描き出すのだ。

周辺はびっくりしてカンバスを搬入しようと するのだが、件の男は、どうしても神が自分をあそこに描けという啓示を、 便器の上に使命されたといってきかない。

彼はミケランジェロさながらに寝ころびながらフレスコ画を描き始める。 彼の作業はミケランジェロさながらにすごい迫力を産む。 傑作といえるほどの作品になる。 日本や他国のTVからも取材がくる。

彼はなぜこうまでしてピエタにこだわったのか?これがこの作品のテーマになる。

浄化と昇天。これがこの死にかけた人間の世界への挑戦だったのだ!

手塚はこの日記を最後にペンも持てない状態になり昏睡状態に陥る。なお、上記の日記の文章は通常の手塚の日記の文字より激しく乱れている。 手塚治虫が「生前にアイデアを出した」という枠組みまで含めると全手塚作品のうち最後の作品になる。また同様に手塚治虫が人生で最後に書いた文章でもある。

手塚治虫と「トイレのピエタ」

システィーナ礼拝堂天井画

手塚は晩年には胆石急性肝炎で長期入院することも増えて8kgも体重が減って、みる人が驚くほど痩せていた(自分の漫画の中でその痩せた姿を紹介もしている)。

亡くなる2年と少し前の1986年8月に、手塚は妻と共に仕事と観光を兼ねてイタリアに行った[3]

イタリアでは6日ほど過ごした。そこで妻と一緒にシスティーナ礼拝堂でミケランジェロが描いた天井画を見た[3]。ちょうどその時にミケランジェロの天井画は修復中で、手塚たちが足場に立つと「アダムとイブ」の部分を手を伸ばせば触ることができるほどの近くで見ることができた。妻の手記によれば手塚はそのとき「もうこんな幸運に巡り合うのは何人もいない。有り難いことだ」と天にも昇る思いで大いに感激していたという[3]

また手塚は「この絵の端にアトムの顔を描いておこうかな。これから先、何年か経って誰かがそのラクガキを見つけたら、さぞかし面白いだろうな」と冗談を言って妻や同行者を笑わせている[4]

トイレのピエタに登場する「ミケランジェロが寝転びながら描いた天井画」とはこのシスティーナ礼拝堂の天井画のことである(システィーナ礼拝堂の天井画はミケランジェロが板で足場を作りそこに仰向けになって筆を持って描いたという逸話があり、手塚もその説明を受けていた)。

手塚が花のドゥオーモで見たミケランジェロ作のピエタ

また3日目にはフィレンツェにある「花のドゥオーモ」(サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂)でミケランジェロが作ったフィレンツェのピエタを見ている[5]。フィレンツェのピエタは、通常の母子像であるピエタとは違い、キリストの死体を他の数人が支えるという作品。ミケランジェロが75 - 80歳頃に手がけた作品。

これはミケランジェロが年老いて、友人を次々と失い、自分の死を意識した作品であり、ミケランジェロが約半世紀ぶりにピエタの制作へ挑んだのは、それを自分の墓所に飾るためだったことがジョルジョ・ヴァザーリの残した記録に残っている。 ミケランジェロはこの石像の足元へ自分の死体を埋葬するようにとまで語っていたが、ミケランジェロはハンマーで本作の一部を壊して、作ることを放棄したため未完の状態のままで花のドゥオーモに展示されている。

医師が手塚の(スキルス性の)胃がんを発見したのは、1988年3月15日である。その病院は手塚が胆石と急性肝炎を治療したのと同じ半蔵門病院であった。手塚はトイレに行く以外は病室で仕事をしていた。

手塚治虫の公式サイトでは、「トイレのピエタ」の主人公のモデルは手塚治虫自身であろうと語られている[6]

映画

脚注

外部リンク

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