ハネン・プログラム

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ハネン・プログラム: Hanen Program)は、ことばの遅れや自閉スペクトラム症(ASD)をもつ子どものコミュニケーションスキルを、日常生活の中で保護者が育む方法を学ぶためのプログラムである。カナダトロントの非営利団体「ハネン・センター(The Hanen Centre)」によって開発された。専門家の指導のもと、遊びや会話などの自然なやり取りを通して子どもの言語発達や社会性の発達を促進する、家族中心型の早期介入プログラムである[1]

ハネン・センターは、1977年に言語聴覚士アヤラ・ハネン・マノルソン(Ayala Hanen Manolson)によってカナダのモントリオールにあるマギル大学で設立され、1983年にトロントへ移転した。同センターは「親は子どもにとって最高の教師である」という基本理念のもと、ハネン・プログラムを提供している[2][3][4]

本プログラムの大きな特徴は、専門家が子どもに直接指導するのではなく、保護者自身が支援の担い手となる点にある。専門家の役割は、保護者が必要な知識と実践的なスキルを身につけられるよう後押しすることにある[5]

プログラムは、食事・入浴・遊び・読み聞かせといった日常のルーチンの中で実践される。特別な訓練の場を設けるのではなく、家庭での自然な生活の流れの中に組み込まれているため、学んだコミュニケーション行動がさまざまな場面へ広がりやすい(般化しやすい)。また、親子の日常的な時間の中で行えるため、保護者の心理的な負担が少なく、継続しやすいとされる[6]

本アプローチの理論的な基盤は、「子どもの言語は大人との自然なやり取りの中で発達する」という社会相互作用論にある。子どもが発する視線・声・動作といったサインに周囲が気づいて適切に応じることが、発達の土台となる。「まず相互作用、言語はその次」という考え方のもと、保護者が子どものリードに従いながら応答的に関わることで、双方向のやり取りが生まれ、それが言語学習の前提条件となる。具体的には、やり取りの楽しさや交互に行動する「ターンテイキング」といった基礎的なコミュニケーション経験を積み重ねることを重視し、その土台が整った上で、語彙や文法といった言語表現の発達へと進んでいく。

介入にあたっては、まず子どもの現在のコミュニケーションスキルを丁寧に把握し、その発達段階に合った関わりを行う。子どもの強みや好き・興味を保護者がよく理解できるようサポートし、それらを活かすことで、子どもが楽しみながらやり取りに参加し、コミュニケーション能力を自然に伸ばしていけるような機会が生まれる[7]

プログラムは、複数の保護者が参加するグループセッションと、専門家との個別コーチングの二本立てで進められる。グループセッションでは、子どものコミュニケーション発達に関する知識や具体的な支援の方法を学ぶ。個別コーチングでは、親子のやり取りを録画した映像を使ったビデオフィードバックが行われる。保護者は映像を通して自分の関わり方を客観的に振り返りながら、支援の方法を少しずつ調整していく[8]

子どものコミュニケーション段階

  • 発見期(Discoverer):この段階の子どもは、自分の感情や周囲で起きていることに反応するが、特定の意図をもってメッセージを伝えることはまだない。主に泣くことによって、食べ物や睡眠、抱っこなどの必要を周囲に伝える。次第に泣き声は分化し、空腹時と疲労時では異なって聞こえるようになる。
泣き方の変化や発声、身体の動きによってニーズを表現することが特徴であり、望まないときには顔を背け、刺激が多いときは目を閉じるなどの反応を示す。大きな音や急激な動きに驚いたりする。発達が進むと、自分に微笑みかけてくれる相手に微笑み返す、話しかけられると大人の顔を見つめるといった社会的反応が見られるようになる。さらに、名前を呼ばれた際に動きを止めたり、簡単なジェスチャーを理解したりするようになる。たとえば、大人が腕を伸ばすと、抱っこを求めて自ら腕を上げる。また、物や人に手を伸ばして近づくなど、環境への探索行動も見られるようになる。
子どもは、言葉を話す前段階として発声を学ぶ。初期には「アー」「ウー」といった発声が見られ、その後「クー」「グー」などの音へと変化する(クーイング)。さらに発達が進むと、「ばばば」のような音の連なり(喃語)が出現する。大人が声の大きさやトーンを変化させて話しかけたり歌ったりすると、楽しそうな声を出す。歌唱は発声の促進に有効であり、言葉の獲得以前にメロディーに合わせて喃語を発することもある。
こうした発声のやり取りは双方向的であり、子どもは「会話」における主導的な役割を担う。子どもの発する音を模倣し、その後に間を置いて反応を待つことで、相互的なやり取りが形成される。このような「真似っこ遊び」は鏡を用いるとより興味を引きやすい。また、「おっと!」「あぁ!」「わーい!」など、リズムや抑揚を伴う言葉を大げさに用いることで、音への注意を促せる。大人の働きかけに対し子どもが視線や表情、動作、発声で応答し、大人がそれに応じるという相互作用が繰り返される。これらの経験が、後の会話能力の基盤となる。
発見期の子どもは、言葉の意味そのものは理解していないが、親しみのある声に気づいたり、日常的なルーチンから次に起こる出来事を予測したりすることができる。たとえば、水の流れる音が聞こえると、お風呂での水しぶきを楽しみにして甲高い声を上げたり、足をバタバタさせたりする。このような予測が可能になることで、「いないいないばあ」やくすぐりといった遊びも楽しめるようになる。
大人が関わる際には、言葉と身体的・音声的手がかりを組み合わせることが有効である。物の名前を伝える際には大げさな身振りを伴わせ、「大きい」と言う際には大きく両腕を広げる、「こっちに来て」と言う際には手招きをするなど、視覚的手がかりを併用する。「シーッ、赤ちゃんが寝てるよ」と言うときは声を小さくするなど、音声的特徴によっても意味を補強できる。子どもがコップに手を伸ばして発声した際には、コップを指さしながら「あ、コップがほしいんだね」と言語化することで、言葉と対象・行為の対応関係を学習しやすくなる。日常生活で馴染みのある言葉を耳にする機会が増えるほど、その言葉の意味を理解し始める可能性が高くなる[9][10]
  • 伝達期(Communicator):出生直後から、周囲の大人が子どもの発するサインや行動に応答することで、子どもは次第に「自分の行動が他者に影響を与える」ということに気づくようになる。この段階では、言葉を用いずに、身振りや手振り、発声などによって特定のメッセージを伝えるようになる。
理解面では、「バイバイ」や「抱っこ」など、日常生活でよく使われる馴染みの言葉を理解し始める。「テディベアはどこ?」といった簡単な質問に対して、対象の方向へ動いたり指を指したりして応答する。ジェスチャーを伴う簡単な指示や「NO」という言葉の意味も理解するようになる。
表現面では、初期に不快なものに首を振るなどの拒否の意思表示が見られる。やがて、特定の物を要求したり、椅子から降ろしてほしいといった意図を、身振りや発声によって伝えるようになる。その後、注意を引いたり、手を振って「バイバイ」を伝えたり、物を見せたりする目的でコミュニケーションを行うようになる。何かを伝える際に指さしを用いる場面も増え、疑問を投げかけるような声で発声する様子も見られる。さらに、言葉を連ねて会話のように聞こえる発声や、特定の意味をもつ音を繰り返す行動も出現する。発達に伴い、子ども独自のジェスチャーが形成されることもある。たとえば、手の甲で顔をこする仕草によって、お気に入りの毛布を示そうとする場合がある。
コミュニケーション能力が高まるにつれて、相手が期待通りの反応を示すまで伝達を繰り返し試みるようになる。望んでいる物が手に入った際には笑顔を見せ、求めている物とは異なるものが提示された場合にはそれを拒否し、強い声で不満を表すこともある。また、自分の要求をより明確に伝えるために、相手の手を引くといった行動が見られることもある。
コミュニケーションの発達における重要な段階の一つに、人と物の双方へ同時に注意を向ける能力の獲得がある。それ以前は、人か物のいずれか一方にしか注意を向けることができなかったが、この段階では、物を見て指さし、その後に相手の顔を見て再び物を指さすといった行動が見られるようになる。この能力は「共同注意」と呼ばれ、多くは生後9か月頃から成立しはじめる。共同注意は、意図を共有したり、感情や関心を伝えたりする上で極めて重要な発達段階である。
何かをしてほしいとき、大人の顔を見ながら声を出しつつ手を伸ばすなど、視線・音声・ジェスチャーを組み合わせて意図的にメッセージを送るようになる。こうした複数の手段を用いたコミュニケーションと共同注意の成立により、言語獲得の基盤が形成される[6]
  • 単語期(First Words User):単一の言葉を用いてコミュニケーションを行う段階。一つの手話や一枚の絵カードで意思を伝える子どもも、この段階に含まれる。
表出面では、「ママ」「パパ」「ワンワン」などの語を使い始め、言葉にジェスチャーを添えて意思を伝えるようになる(例:「抱っこ」と言いながら手を挙げる)。初期には、「バナナ」を「バ」、「ママ」を「マ」のように、語を簡略化した発話もみられる。また、一語の意味が広く用いられることがあり、「ボール」で丸い物全体を、「ジュース」で飲み物全般を、「ワンワン」で四足でしっぽのある動物全体を指すといった例が見られる。さらに、一語でメッセージ全体を表現するため、同じ語でも文脈によって多様な意味をもちうる(例:椅子を指して「ママ」と言う場合、「これはママの椅子」という意味にも、「ママ、ここに座って」という要求にもなりうる)。
理解面では、多くの身近な物や人の名称を理解し、名前を呼ぶと対象を指さしたり示したりできるようになる。「ちゅーして」「コップを取って」「お風呂だよ」といった簡単なフレーズの意味を理解し、それに応じた行動が見られるようになる。「バナナ食べる?」のような「はい/いいえ」で答えられる質問も理解し始める。大人が言葉にジェスチャーを添えることで、子どもの言語理解はさらに促される[6]
  • 結合期(Combiner):音声言語や手話、絵カードなどを使い、2つ以上の単語を組み合わせてコミュニケーションを行う段階。語彙が50語を超える頃にこの段階へ移行することが多い。
表出面では、「ママ、ねんね」「パン、ちょうだい」「おおきい、ワンワン」など、2語以上のフレーズを用いて表現するようになる。発達に伴い、ジェスチャーの使用は徐々に減少する。声のトーンを変えることで意図を表現したり、「これ何?」「ボールどこ?」などの疑問表現も見られるようになる。さらに、「ママ、ミルク、もっと」などの3語文も出現し始める。
理解面では、ジェスチャーを伴わなくても多くの簡単な指示を理解できるようになる(例:「靴を取りに行って」)。物の名称に加えて、その機能や行為との関連も捉えられるようになり、「何を食べるか見せて」と言われると食べ物を指さすようになる。「何」「どこ」「誰」で始まる質問にも応答できるようになり、「パジャマを拾って、かごに入れて」といった二段階の指示も理解し始める。「~の中」「~の上」といった位置概念や、「大きい/小さい」「きれい/汚い」といった対概念も理解可能となる。短く簡単な物語を聞き、絵本に出てくる身近な物を指さすこともできるようになる[6][11]

なお、子どもによっては理解と表現の段階が異なる場合がある(例:理解は「単語期」だが、表現は「伝達期」)。ハネン・プログラムでは、語彙を増やすといった表現の目標よりも、子どもが自らやり取りを始める、やり取りの回数を増やす、親とのやり取りを楽しむといった「相互作用の目標」が優先される。介入においては、現在の段階で「できることを増やす」か「次の段階へ進む」かを選択し、個別の目標を立てていく[6]

OWL戦略(見て、待って、聞いて)

大人が先に話しかけすぎるのを防ぎ、子どもの自発性を引き出すための合言葉が「OWL」である。コミュニケーションをとる際は、必ず子どもと目線を合わせて対面(Face-to-Face)になることが基本となる[12]

  • O(Observe - 観察する):子どもが何に興味を持っているか、何をしようとしているかを丁寧に観察する。子どもの視線の先や、対象物に対する具体的な行動(叩く、回すなど)を細かく捉えることで、その瞬間の関心の対象を特定する。子どもと同じ目線の高さになることで、表情や注目している対象をより正確に把握できる。
たとえば、子どもに何か頼みごとがあるときでも、子どもが脱げかかった自分の靴下に強い関心を示していれば、まずその靴下に注目し、それについて話しかける必要がある。また、子どもがミニカーを走らせているときには、単に「車で遊んでいる」と捉えるのではなく、「坂道から滑り落ちるスピード」に興奮しているのか、あるいは「タイヤの回転」を注視しているのかといった点まで詳細に観察する[13]
  • W(Wait - 待つ):子どもが何かアクション(音、視線、動き)を起こすまで待つ。目安は5〜10秒程度である。「待つ」とは単に黙っていることではなく、「話すのをやめ、体を前に傾け、期待を込めて子どもを見る」という3つの動作を指す。
たとえば、玄関のチャイムが鳴ったとき、すぐに大人が出るのではなく、子どもが声や動作で「誰か来たよ」と知らせてくれるのを期待しながら待つ。
子どもが何らかのアクションを示したら、すぐに反応することが重要である。たとえば、子どもが飛行機を指さした瞬間に「飛行機が見えるね」と応答することで、子どもの注意の対象と言葉を結びつけることができる。返答が5秒遅れると、子どもの注意はすでに別の対象(鳥など)へ移ってしまい、言葉と対象の対応づけが成立しにくくなる[14]
  • L(Listen - 聴く):子どもが発した音や言葉を逃さず聴き、すべての発信を尊重する。たとえ内容がすぐに理解できなくても、途中で遮らずに最後まで聴くことで、子どもにあなたの言うことは大切だよという自信を与え、自己肯定感を高めることにつながる。意味が分からない場合でも、子どもの音を模倣したりして理解しようとしている姿勢を示す[1]

「OWL」は、親が賢いフクロウ(Owl)のようにじっと見守ることで、子どもがより多く、より主体的にコミュニケーションを取るチャンスを広げるための戦略である[15]

特徴

4つのS(The 4S's)

言葉を理解しやすくし、学習を助けるための最も基本的な関わり方である。

  • 言葉の数を減らすSay Less):短く簡潔な文で話しかける。たとえば、「幼稚園にエバを迎えに行く時間だから、靴を履かなきゃいけないよ」ではなく、「靴を履こうね」のように伝える。ただし、言葉を減らすことは、文法を崩すこととは異なる。「積み木、下」「箱、中」「ママ、外」のように助詞や語尾を省いた発話は避け、「積み木が下に落ちたね」「箱の中だよ」「ママは外に行くよ」のように、文法的に正しい構造を保ちながら短い文で話しかける[16]
  • 強調するStress):重要な単語を少し強めに、はっきりと発音する。「おっと!」「わあ!」といった擬音や感嘆詞は自然に強調されやすく、子どもの注意を引きやすい。たとえば、寒い日に外へ出る際に「うわぁ、外は『寒い』ね!」とアニメのような抑揚をつけて伝えるといった方法がある。
  • ゆっくり話す(Go Slow):普段より少しゆっくり話すことで、子どもが言葉を聞き取りやすくなる。大人は日常会話で1分間に120語ほど話すが、この速さでは子どもが言葉を十分に拾えない。「おやつを持ってきて、それから食べてね」と一気に言うのではなく、一つひとつの単語を聞き取れる速さで話す。ただし、自然な話し方のリズムを崩すほどゆっくりにする必要はない。
  • 見せるShow):言葉の意味を、実物を見せたりジェスチャーを加えたりして視覚的に示す。たとえば、「靴を履こう」と言いながら子どもの靴を提示する、「おじいちゃんの家に行くよ」と言うときにスマートフォンでおじいちゃんの写真を見せるといったやり方がある。読み聞かせの際に絵を指さしながら読むことも、子どもの理解を助ける方法の一つである[17][18]

新しい言葉を覚えさせるのに特別な玩具やフラッシュカードは用いない。日常生活の中で、子どもと会話する際に「4つのS」を意識的に使う。4つのSを使うことに加え、言葉を頻繁に、さまざまな状況で繰り返すことも効果的とされる。子どもは、言葉を理解し覚え、自分でも使えるようになるために、何度も、さまざまな場面でその言葉を聞く必要があるためである。

新しい言葉を使う際は、1回のやり取りで全部言おうとせず、会話の中で何度か自然に使う。たとえば、子どもとボールを転がして遊ぶときに、「ボールを転がすよ!」と言いながらボールを転がす。その後、子どもがボールを返そうとしたら、「ボールを転がすんだね!」と言うことができる。順番に転がして遊ぶ中で、もしボールがテーブルの下に転がってしまった場合は、「あっ、ボールがテーブルの下に転がっちゃった」と言うこともできる。「転がす」という言葉は、粘土を一緒に転がすときや、子どもが外で坂を転がって遊ぶときにも使用できる[19]

ピープル・ゲーム

ピープル・ゲームとは、おもちゃを用いず、人と人とのやり取りのみで成立する相互作用的な遊びであり、繰り返しの多い一定のルーチン(決まった手順)をもつことが特徴である。代表的なものとしては、いないいないばあ、追いかけっこ、くすぐり遊び、馬乗り、手遊びなどがある[20]

1. ゲームを決め、名前をつける

  • 子どもの感覚的な好み(揺れる、回る、追いかけっこなど)に合わせた遊びを選ぶ。たとえば、毛布で揺らす遊びなら「ゆらゆらブランコ」など、ゲームに名前を決めて、遊んでいる間その名前を繰り返し使用する。これにより、子どもはやがてその名前を言ったり、自分から要求したりできるようになる。

2. 同じやり方で遊ぶ

  • 毎回全く同じ手順でゲームを繰り返す。予測可能性があることで、子どもは次に何が起こるかを理解し、自分が次にするべき言葉や動作を学びやすくなる。

3. 何度も繰り返す

  • 一度きりで終わらせず、その場で何度も繰り返し遊ぶ。

4. 遊びの途中に一時停止し、子どもが参加するチャンスを作る

  • 子どもがゲームの流れを理解したら、ゲームの途中で動作をわざと一旦停止し、子どもが何かアクションを起こすのを期待を込めて待つ。たとえば、ブランコを揺らしている途中で止め、子どもが「やって」と目配せしたり、毛布を引っ張ったり、声を出すなどのアクションを起こすのを待つ。大人が待つことで、子どもが「もっとやって」というサイン(視線・声・動作)を出す機会を作ることができる。5秒以上待っても子どもが反応しない場合には、大人が遊びを再開し、別の機会に再度一時停止を試みる[21]

5. メッセージを送る手助けをする

  • 一時停止しても子どもが反応しない場合は、ヒント(合図)を提供することもできる。「いーくーよー……」と言葉のモデルを示したり、毛布を指さしたり、ジェスチャーのヒントを出したり、あるいは毛布の一部を物理的に渡してゲームを続けるのを手伝ったりする。子どもの手を優しく持ち、物理的に「もっとやって」のサインや動作を出す手助けをすることもできる。

6. 毎回同じ方法でゲームを終了する

  • 子どもが飽きたり、その場を離れたりして遊びを止めたがっているサインを見せたら、必ず決まった方法でゲームを終了する。たとえば、マカトンサインで「おしまい」を示すなど、特定の言葉やジェスチャーを毎回使うことで、将来的に自分自身で終了を伝えるモデルを提供できる。おしまいのサインや言葉を固定化することで、終わりの概念を理解し、状況を予測して自分自身でも終了を意思表示できるようになる。

たとえば、父親が両手を上げて「パパが○○を捕まえるよ」と声をかけながら遊びを始める。やがて追いかけっこが始まり、最後は「捕まえた!」と言って抱きしめ、くすぐり遊びで終わる。この一連の遊びは予測可能であり、子どもはその流れを理解することで、「もう一度」や「くすぐってほしい」といった要求ややり取りを学んでいく。

身体を動かすことを好む子どもは、追いかけっこや「止まれ・進め」といった動きのある遊びに強く反応する。一方で、揺れる感覚を好む子どもには、向かい合って座り手をつないで前後に揺れながら「お船を漕ごう」といった歌遊びやブランケットスイング(大人2人で子どもをブランケットに寝かせ、左右に揺らす)を取り入れる。また、ジャンプすることを好む子どもには手をつないで一緒に跳んだり、柔らかい触感を好む子どもには布を使った「いないいないばあ」やくすぐり遊びなどが有効に働く。

このように、子どもの感覚的な好みをやりとりのある遊びに組み込むことによって、感覚的ニーズを満たしながらコミュニケーションの機会を作り出すことができる[22][23]

R.O.C.K.

ピープル・ゲームや日常生活のルーチンの中で、やり取りを構造化し、子どもの参加を促すための戦略として「R.O.C.K.」がある。

  • R (Repeat - 繰り返す):遊びやルーチンの中で、同じ言葉と動作を毎回同じ手順で繰り返す。たとえば、子どもを膝の上に座らせて真正面に向かい合い、「さあ、ポンポンポンしよう!」などの楽しいフレーズを使いながら上下に弾ませる。同じ動きと言葉を繰り返すことで、子どもは次に何が起こるかを予測できるようになる。
  • O (Opportunity - 機会を作る):子どもが音・動作・言葉などを使ってやり取りを続けられる機会をあえて作る。遊びを始める前に、子どもにどのような役割(順番)を持たせるかを決め、子どもがどのようにして続けたいという気持ちを伝えるかを考えておく。たとえば、もう一度弾んでほしいときに自分の体を上下に動かすことを期待してもよいし、言葉が出始めている場合は「ポン!」などと発声することも考えられる。
  • C (Cue - 合図を送る):子どもに次は自分の番だと分かるように合図を出す。何回か弾ませた後で動きを止め、期待するような表情で待つことで、子どもが大人の方を見たり、体を上下に動かしたり、音を出したりして「もう一回やってほしい」という気持ちを伝えることを促す。子どもが反応しない場合は、より分かりやすい合図を出す。たとえば、かかとを少し持ち上げて弾ませる準備をしながら「さあ、ポンポン…」と言って待つ。それでも反応がなければ、止めたところから再び弾ませて「ポンポンポン!」と最後まで言い、もう一度遊び方を示す。
  • K (Keep it going / Keep it fun - 続ける/楽しむ):子どもが音・動き・言葉・笑顔などで続けたいという気持ちを示したら、すぐに遊びを再開する。遊びに慣れてきたら、スピードを変えるなど少し変化をつけることで楽しさを保つことができる。たとえば「はやくポンポン!」と速く弾ませたり、「ゆっくりポーン…」とゆっくり弾ませたりして、「はやいのとゆっくり、どっちがいい?」と子どもが選べるように問いかける。さらに、大きなベッドの上で膝の上から子どもを軽く倒す「ベッドにゴロン!」という遊びに発展させることもできる。この遊びに慣れてくると、子どもは動きや言葉でまた落としてほしいと自分から伝えてくるようになる。こうして子どもが楽しみながら長くやり取りに参加できるようにすることが、この戦略のねらいである[24][25]

4つのI(4 I's)

  • 興味を取り入れるInclude your child's interests):子どもがその時々に夢中になっていることをやり取りの土台にする。(例:財布の中身を出す、特定の歌を歌うなど)
  • 模倣するImitate):子どもの動きや音、言葉をそのまま真似する。子どもが車を動かしたら同じように動かし、「ブーブー」と言ったら同じように言う。大人が自分の行動に注目し、それに合わせていることに子どもが気づくことで、お互いに意識し合う関係が生まれる。これがアイコンタクトや共同注意の基礎となる。
  • 解釈するInterpret):子どもの不明瞭な発音や行動に対して、それを代わりに言語化する。たとえば、子どもが財布の中からカードを出して何か言ったとき、はっきり聞こえなくても「犬(の絵)を見つけた!」と、子どもが言いたかったであろう言葉を返す。「犬見つけた?」のような質問形ではなく、子どもの発話としてモデル化する。
  • 介入するIntroduce more fun):子どもの遊び方を変えたり指示を出したりするのではなく、子どもが現在没頭している遊びにそのまま入り、やり取りを広げていく関わり方である。たとえば、ブロックを積んでいる子どもの隣で塔を作ったり、電車遊びでは線路の外側に別の電車を走らせたり、子どもが車をスロープから滑らせていれば大人も別の物(ブロックなど)を同様に滑らせたりするなど、子どもの遊びの流れに沿いながら自然に参加する。また、子どもが雪を眺めていたら、「キャッチしよう!」と誘って一緒に雪を捕まえる遊びに変えることもできる[26][27]

読み聞かせ

読み聞かせは、一方向的に情報を伝える活動ではなく、子どもと大人が交互に関わる双方向的な相互作用として捉えられる。子どもは、ページをめくる、音を出す、絵を指さす、言葉を発する、表情を示すなど、多様な手段で意思を伝えようとするため、大人はこれらすべての表出に関心を持って応答し、子どものメッセージに意味を付け加えながらやり取りを発展させていく。

本の選択は、子どもの興味や関心に基づいて行う。音楽に関心がある子どもには歌を題材とした絵本、韻やリズムを好む子どもには押韻の多い作品、触覚的な探索を好む子どもには仕掛け絵本が適している。また、特定の話題に強い関心を示す場合には、そのテーマに関連する内容の本を選ぶことで、関与を高めることができる。

読み聞かせは、子どもと向き合い、顔と顔を合わせて行うことで効果が高まる。このような配置により、大人は子どもの視線や関心の向きを把握しやすくなり、子どもも大人の表情やジェスチャーを手がかりとして言葉の意味を理解しやすくなる。静かに座って聞くことは必ずしも前提とされず、子どもが動き回ったり、物を手に持ちながら関わることも許容される。

やり取りにおいては、OWLの視点が重視される。すなわち、大人はまず子どもの様子をよく観察し(Observe)、発する音や言葉に耳を傾ける(Listen)ことで、子どもが絵本のどこに興味を持っているかを把握する。そして、適切な場面で読み聞かせを一時的に止め、数秒間待つ(Wait)ことで、子どもが自ら興味を示したりメッセージを発したりする機会を確保することができる。大人が発話した後にも少し間を置くことで、子どもが新たな反応を返しやすくなり、やり取りが円滑に展開される。

ページ操作は子どもに委ね、必ずしも順序どおりに進める必要はない。ページを飛ばした場合でも問題とはせず、子どもが興味を示している箇所を中心にやり取りを展開する。子ども自身に本を持たせ、自由にページをめくらせることで、関心のあるページに焦点を当てた関わりが可能となる。

読み聞かせにおいては、ページ上のすべての文章を読む必要はなく、子どもの関心に応じて表現を簡略化できる。たとえば、「駅長は電車が駅に近づいてくるのを見ていました」といった原文をそのまま読む代わりに、「電車が来るよ」「シュッシュッポッポ」「電車だ」といった子どもに分かりやすい表現に置き換えることで、理解を促進することができる。

さらに、重要な単語を際立たせたり、「ガシャーン」「ドーン」「ヒュー」「ブーン」などの効果音を用いることで、子どもの注意を引きつけることもできる。このような相互作用は初期には短時間で終わることもあるが、子どもの主導に従って継続的に関わることで、本に向き合う時間は徐々に延長していく[28]

CSPAR

多くの物語は、登場人物(Characters)・場面設定(Setting)・問題(Problem)・行動(Actions)・解決(Resolution)という5つの要素から構成される。ハネンではこれらの頭文字を取って「CSPAR」と呼ぶ。

要素説明
Characters(登場人物) 誰についての話か 「(表紙を指さして)これがラモン。このお話の主人公だよ」
「これがルイとお母さん。このお話のメインの登場人物だね」
Setting(場面設定) 物語がどこで起きているか 「お話の舞台はラモンの家だよ。ここでお話が進むんだね」
「この本はルイの家で起こったことだと思う。だって、パジャマを着ているから」
Problem(問題) 登場人物が解決しなければならない困難や課題は何か 「ラモンには問題があるよ。自分の絵がうまく描けていないと思って、描くのをやめようとしているんだ」
「ルイはひどい風邪で鼻が詰まっているから、『お母さん(Mom)』と呼ぶと犬の名前『ボブ(Bob)』に聞こえてしまって、みんなが混乱しているんだ」
Actions(行動) 問題を解決するために登場人物がしたこと 「妹のマリソルは、ラモンの絵が好きだと伝えるために、くしゃくしゃの絵を自分の部屋の壁に貼ったよ」
「ルイはもっと大きな声でお母さんを呼んでみているよ」
Resolution(解決) 問題がどのように解決され、最後にどうなったか 「ラモンは、本物とそっくりでなくても特別で美しいものだと気づいて、また描き続けることにしたんだね」
「お母さんとボブが隣に横たわってくれたとき、ルイはやっと気分が良くなったよ」

同じ本を繰り返し読むことは、子どもが物語を意味のある構造として理解するうえで有効とされており、この際にCSPARを意識した読み聞かせが推奨される。

読み聞かせでは、質問と「独り言コメント」を組み合わせた関わりが用いられる。質問は「お話の舞台はどこかな?」「他のキャラクターは誰かな?」「問題は何だったかな?」といった形で行われる。独り言コメントとは、「〜かな」「〜と考えているよ」のように大人が自らの思考を言葉にするものであり、「主人公のクマさんは、本当はおうちにいたいと思っているんじゃないかな」「ルイがママを連れてくるために、他にどんな行動をとれるか考えてる」といった発話がこれにあたる。こうした関わりは、子どもに負担をかけることなく、物語の行間を推測するための手がかりを提供する。ただし、質問が多くなりすぎると子どもがテストされているように感じるため、質問とコメントのバランスに注意が必要である。質問やコメントの後には約10秒程度待つことで、子どもが情報を処理し、自発的に反応しやすくなる[29][30][31][32][33]

POP(Point Out Print)

POPは未就学児が文字に関する基礎的な知識を身につけることを目的とした支援方法である。文字がメッセージや物語を伝えるものであること、文字・単語・スペース・句読点から構成されていること、左から右・上から下という方向で読まれることを、日常生活の中で繰り返し経験させることで、文字への理解を育んでいく。

アプローチには非言語的な方法と言語的な方法がある。非言語的な方法では、文字を指でなぞったり指さしたりして注意を促す。言語的な方法では、「これは『止まれ』と書いてあるね」といったコメントや問いかけを通じて文字への関心を引き出す。

POPは特別な教材を必要とせず、日常のさまざまな場面で実践できる。絵本の読み聞かせでは、表紙のタイトルや作者名を指さしたり、吹き出しの文字が登場人物のセリフであることを示したり、大きな文字や全て大文字の単語を通してキャラクターの感情を伝えたりすることができる。遊びの場面では、おままごとで一緒に「買い物リスト」を書きながら言葉を読み上げることで、文字と意味の対応を体験させることができる。テレビ番組のタイトルロゴや文字の中の隠れたデザイン(例:『パウ・パトロール』のAの中にある肉球の跡)に注目させることも有効である。食事の際には食品パッケージの文字を指さしたりレシピを一緒に確認したりすることができる。散歩中には道路標識の文字や音について話したり、看板の単語の間のスペースを数えてどこで区切られているかを示したりすることができる[34]

介入

It Takes Two to Talk

ことばに遅れがある5歳未満の子どもの保護者を対象とした、家族中心の早期言語介入モデル。ハネン・プログラムの原点となるプログラムである。日常生活での日常的な相互作用を通じて、子どもの言語スキルを高める方法を学ぶ[1]

More Than Words

5歳から6歳未満の自閉症児、または社会的なコミュニケーションに困難が見られる子どもの保護者が対象。このプログラムはIt Takes Two to Talkをベースに、自閉症の特性に合わせて開発された。遊びや日常的なルーティンを通じて、社会的コミュニケーションと遊びスキルの向上を目指す。プログラムは通常、ハネン認定の言語聴覚士によって運営される。グループプログラムには約8家族が参加し、週に1回(各2時間半)、8〜10週間にわたってセッションを行う。そのほか、各家族に3回の個別セッションが用意され、保護者が家庭で子どもとやり取りしている様子をビデオ撮影し、セラピストから具体的なフィードバックを受ける[35][36]

TalkAbility

一定レベルの会話ができる段階に達した4歳から8歳の自閉症児の保護者向け。More Than Wordsの次のステップとして位置づけられる。主な目的は、子どもが大人や同年代の仲間とより長く会話を継続し、より深い人間関係を築けるようサポートすることにある。最大の特徴は、単なる言葉のやり取りを超えて、他者の視点を理解するスキルの習得に重点を置いている点である。自分自身の考えや感情を理解するだけでなく、他人が自分とは異なる考えや感情、意図を持っていることを理解する能力を育むことで、子どもはより共感的で、文脈に沿った高度な社会的やり取りができるようになる。ファーン・サスマン(Fern Sussman)による『TalkAbility』ガイドブックが提供されている[37]

Learning Language and Loving It

0歳から5歳までの子どもが通う就学前施設で働く、保育士などの教育者が対象。子どもたちの社会的相互作用への参加を促し、表出・受容言語、および萌芽的リテラシー(読み書きの土台となる力)のスキルを向上させることを目的としている[37]

ABC and Beyond

3歳から5歳の子どもに関わる幼児教育者を対象とした、読み書きの基礎を育むための専門的なプログラム。子どもが本格的に読み書きを学び始める前の段階である初期リテラシーを、日々の自然なやり取りの中で促進することを目指す。6つの構成要素(話し言葉、語彙、物語の理解、学習のための言語、印刷物に関する知識、音韻認識)が含まれている[38][37]

外部リンク

関連項目

脚注

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