フリーオペラント法

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フリーオペラント法(フリーオペラントほう、: Free Operant Method)は、日本心理学者である佐久間徹らによって開発された、自閉症児を対象とする介入技法の一つである。子どもの発声や身体動作に対してセラピストが模倣(逆模倣)を行い、子どもが自発的に模倣行動を示した際に微笑み・賞賛・くすぐりなどの肯定的反応を直ちに与えて強化することで、相互的やりとりやコミュニケーションの発達を促す。応用行動分析(ABA)の原理に基づくアプローチである[1]

フリーオペラント法は、言語理解よりも先に言語表出の活性化を重視する点に特徴がある。すなわち、先に表出を活性化させることで、言語理解は後から自然に発達してくるものであるとしている[2]。佐久間は、従来の言語指導が記号(言葉)と意味の対応といった象徴的側面を重視してきたのに対し、言葉の象徴機能は人との音声的やりとりの中で自然に形成されると考えた。そのため、まず「声を出すこと」「音をまねること」といったスピーチ活動を優先的に育てる必要性を強調している[3]

定型発達児の成長過程では、子どもが笑えば親が笑い返し、子どもが手を叩けば親も手を叩くといった相互模倣が自然に生じる。こうしたやりとりの中で、子どもは自らの行動や発声が他者の反応を引き出すことを学び、その経験が快として強化される。これが積極的な発声の増加につながり、言語獲得の基盤を形成していると考えられている[3]

一方、多くの言語障害をもつ子どもでは、発声自体はみられても、それが他者との関係性を伴わず、社会的機能を果たしていない場合が多い。フリーオペラント法では、子どもの発声(喃語などを含む)や身体動作に対して大人が同じ音声や動作で応答する逆模倣を行う。子どもが自発的に模倣行動を示した際には、微笑み、賞賛、くすぐりなどの肯定的反応を直ちに与えて強化する。こうした徹底したフィードバックにより、人や人からの応答を社会的強化子として機能させ、発声・発語・模倣などの自発的対人行動の増加を図る[3]

佐久間は、自閉症児にみられる言語消失の一因として、強制的な言語訓練や発語への関わり方の問題を挙げている。子どもに偶発的に発語が生じた際、養育者は喜びのあまり繰り返し発語を求めたりする。しかし、その発語は複数の条件が偶然に重なって出たものであり、意識的に再現しようとするほど同じ言葉が出にくくなる。さらに、誤った発声を度を超えた頻度で訂正するなどの対応が重なると、発語直後に嫌悪的体験が生じ、発声行動そのものが弱化される。自閉症児は元々、人が社会的強化子として機能していない、あるいはその機能が弱いため、このような関係性と相まって発語の退行につながっていると考えられている[4]

したがって、フリーオペラント法では、発語を催促・強制するのではなく、まず人を強化子として機能させる関係形成が優先される。逆模倣などの相互作用を通じて対人接触そのものが強化的に機能すれば、他者への注意や関心が高まり、その結果として発語や模倣は自然に増加するとしている[3]

また、自閉症児にみられやすい対人回避傾向を和らげるため、「抱っこ」や「くすぐり」などの身体接触を用いた接近技法も取り入れられる。これにより他者への接近行動を促進し、対人関係の基盤形成を図る[5]

佐久間によれば、定型発達児は本来、自己主張や表現欲求が強く、多少の禁止や指示が加わっても発達が阻害されることは少ない。一方、障害のある子どもは自発的な行動が生じにくく、環境に対して受動的になりやすい。そのため、介入では自発的模倣行動の活性化に主眼を置くべきであり、これが達成されれば障害の程度にかかわらず「自ら学ぶ力」を高めることが可能であるとしている[6]

フリーオペラント法には「兵庫医大方式(久野型)フリー・オペラント技法」や「HIROCo法」など、いくつかの派生アプローチが存在する[7][8]

歴史

自閉症児への行動療法は、1960年代頃から発展してきた。1970年代に入ると、オレ・イヴァ・ロヴァスによって実施された応用行動分析(ABA)に基づく言語訓練が一定の成果を示し、体系的な行動療法の基盤が形成された。しかし同時に、ABA的アプローチに対していくつかの課題が指摘されるようになった[9]

訓練によって形成された行動が、訓練場面以外ではほとんど生起せず、時間の経過や状況の変化に伴い消失しやすいという、般化や行動維持の困難が報告された。また、訓練手続きが特定の反応を強く引き出すことに偏りがちであったため、行動レパートリーの拡大が十分に進まず、柔軟な行動の発達を妨げていた可能性も指摘された[9]

さらに、多くの訓練は指示・教示に対する応答的な行動を中心に構成されていたことから、自然な発話や主体的な行動が生じにくいという自発性の問題も明らかになった。自閉症児はもともと他者への働きかけが少ない傾向があり、対人関係発達の遅れと相まって自発的行動の形成が困難であった[9]

これらの課題は1970年代以降、多くの研究によって繰り返し指摘され、ABAの立場から指導手続きの再検討が進められるようになった。特に般化の促進については、般化を前提とした指導計画の不足、過度に強い刺激統制への依存、日常場面には存在しない非機能的な強化随伴性の使用などが問題点として整理された。これらを踏まえ、より自然な文脈の中で行動を形成し、自発性と般化の双方を高めるアプローチが模索されるようになった[9]

ロヴァスらは週40時間に及ぶ集中的セラピーを実施していたが、その人的・経済的コストの大きさや、長時間指導に伴う負担が指摘されていた。これに対し、佐久間は「どんなに障害が重くても、子どもは自ら学ぶことができる」という立場をとり、日常場面においても強化随伴性を維持し、子どもの自発的模倣行動を強化していくことで、週1時間程度の短時間指導でも効果が得られると主張した[10]

フリーオペラント法の原型は、佐久間が障害のある幼児への家庭訪問で経験した出来事に由来する。ある日、佐久間がその幼児をおんぶして公園を歩いていたとき、水たまりを跳んだ瞬間に幼児の背中から「クックッ」という声が出た。佐久間はこの発声に注目し、声が出るたびにジャンプを繰り返したところ、幼児は次第に同じ声を出す回数を増やしていった。この経験から、発声が「結果によって増える行動=オペラント反応」である可能性が示され、発声に対して強化を行う手続きを模索していった[11]

この方法はほかの子どもにも試され、喃語の発声頻度が言語発達に重要な影響を及ぼすという知見が得られた。従来の「あーと言ってごらん」といった先に指示を出す方法は、自閉スペクトラム症の子どもではエコラリア(オウム返し)を引き起こしたり、別の場面で使えるようにならなかったりすることがあった。そのため、子どもが自発的に出した発声に結果を随伴させる方法を重視した[11]

さらに佐久間は、子どもとの愛着関係を重視し、「受け入れられている」「共感されている」と子どもが感じる関わり方が、発声や模倣の意欲を高めると考えた。特に、大人が子どもの行動や発声をそのまま真似する「逆模倣」は、子どもの活動性や他者への関心を高める有効な方法として考案された[12]

特徴

フリーオペラント法は、オペラント条件づけにもとづく技法の一つであり、先行刺激・行動・後続刺激(三項随伴性)のうち、「先行刺激による制御を最小限に抑え、後続刺激(強化刺激)による制御を最大限に重視する」点を特徴とする。ここでいう「先行刺激による制御」とは、発声を促す「リンゴと言ってごらん」といった言語指示のように、行動の発生を直接的に誘導する操作を指す。フリーオペラント法では、このような言葉かけをできるだけ用いず、子どもが自発的に起こした行動を強化することに重点が置かれる。これは、指導場面だけでなく、家庭や日常生活といった自然な環境でも、行動が般化するようにするためである[13]

般性強化子の機能化

般性強化子とは、さまざまな行動に対して恒常的な強化力を持つようになった強化刺激のことである。代表的なものには金銭、社会的な賞賛や注目、笑顔、感謝、尊敬、言語的承認などがある[14]

まず、抱っこ・くすぐり・マッサージ・高い高いなどの身体的接触を通して、子どもに笑顔や笑い声が生起するようにする。全身の皮膚をこするなどの皮膚刺激も子どもによっては効果的とされる[15]

生まれつき対人回避傾向の強い子どもに対しては、安心できる関係形成を目的として、膝の上で過ごす短い時間から段階的に関わりを重ねていく。子どもの反応を丁寧に観察し、離れようとするサインは尊重しつつ、無理のない範囲で再び抱きかかえることを繰り返すことで、徐々に滞在時間を延ばしていく。また、マッサージなどを通して子どもが心地よいと感じる部位や触れ方を見いだし、それを随伴させることで身体の緊張が緩和され(身体的弛緩)、自発的に膝の上で落ち着いて過ごせるようになれば、安心感が育まれた一つの指標とみなされる[16]

既存の強化子を探すのではなく、必要な強化子を新たに形成することは「強化子工作」と呼ばれる。定型発達児は、一般に微笑みやほめ言葉など行動にプラスの結果を与えることでしつけが成立する。一方、自閉症児においては、同様の方法が十分に機能しない場合が多く、その結果として大人は強制や叱責といった嫌悪刺激に頼りがちになる。こうした対応は行動の改善に結びつかず、叱責がさらにエスカレートしてしまい、結果としてアタッチメント形成自体が困難になる[16]

順調な発達を支える基盤は、養育者が提供する肯定的な後続刺激(強化子)であり、それらが機能不全に陥っている場合には、まず強化子としての機能を確立することが優先される。この段階では、行動の抑制や強制(例:しつけや指導的圧力)を極力避け、子どもを受動的にしないよう配慮する。対人回避行動を徐々に減少させ、子どもの側から自発的に接近する状態を目指すことが、アタッチメント形成の基盤となる[16]

発声・発語頻度の増大

フリーオペラント法では、発声の催促や強制は行わず、子どもの自発的な発声や発語に対して、大人が忠実に模倣して応答する音声模倣(逆模倣)を中心的な介入として用いる。逆模倣はそれ自体が強化子として機能するため、子どもの発声・発語の出現頻度を高める効果がある。

発声・発語の頻度が増加したり、語彙のレパートリーが広がった場合には、逆模倣を継続することで、言語表現のさらなる発達を促す。一方、発声の増加がみられないケースでは、比較的よく出る発声や単語を選び出し、その音声を重点的に模倣する。また、自発的な発声のうち比較的大きな声が出たときに、やや大げさに応答し、それ以外の発声には通常の応答を行うという「分化強化」などの方法も取られる。

喃語のレパートリーが増えてきたら、無意味発声の中から有意味発声に近い音声(例:「マ」「ネ」など)を選び、それを積極的に模倣して強化することで、有意味語への移行を助ける。これらの単音が文脈の中で特定の意味を担う場合(例:「マ」が“ママ”、「ネ」が“ネコ”を指す)は、それを「ワン・サウンド・センテンス」として扱い、適切な文脈に応じて大人も一音で応答する。このような単音の「言葉」を増やすことで、二音語や意味をもつ一語文へと発展させる[17][18]

さらに、子どもが大人と同じ音声を発した際には、抱っこやくすぐりなどの身体的な接触を随伴させることで、音声模倣の形成を一層強化する。これにより、社会的強化子としての「人」の価値を高め、自発的な発声や模倣行動の増加につなげる[14][19]

模倣行動の形成

発声の指導と並行して、子どもの自発的な身体の動きに対し、大人が同じ動作を行うことで、子どもと大人の動きが一致すること自体が強化の働きをもつようにする。子どもが飛び跳ねたら一緒に飛び跳ね、「アー」と言ったら「アー」と返す。その後、子どもが自分から模倣行動を行うようになるかどうかを確認する。もし模倣が見られない場合には、子どもがよく行う動作を選び、それを模倣する。そして、子どもがその動作をまねできたときには、抱っこやくすぐりなどの身体的なふれあいといった般性強化子を加えて提示し、模倣行動の形成を促す。

模倣行動が増加した段階では、「オシー」に対して「おいしいね」、「よいちょ」に対して「よいしょ、重いね」といった拡大模倣を導入し、子どもの発声をより適切で発展的な言語表現へと拡張する。また、日常生活の中で、適切な言語や遊びのモデルを提示する割合を段階的に高めて先行刺激操作を行い、行動レパートリーの習得を進める[14]

適切行動の促進と不適応行動への対応

子どもが適切な行動や遊びを示した場合には、拍手やほめ言葉などの社会的強化を与える。子どもの視線、アイコンタクト、笑顔、適切な行動の実行などを観察し、これらの反応が強化の効果をもっているか(般性強化子として機能しているか)を確認する[14]

不適応行動への対処には、反応強度分化強化法が用いられる。これは、同じ行動であっても、場面によって大人が返す反応の強さを変えることで、より望ましい場面で行動が起こるようにするものである。例えば、子どもが注意を引く目的で水をまき散らす場合、お風呂場で水をまいた際には、即座に大げさな反応を示して十分に注目を与える一方、部屋で同じ行動が生じたときには、反応をあえて遅らせ、控えめで落ち着いた反応を行う。このように、場面ごとに反応の強弱を明確に区別することで、より強い注目が得られる場面の行動を強化し、結果として不適切な状況での水まき行動を減少させる[20]

他傷行動への対応でも、行為そのものを直ちに消失させようとするのではなく、まず反応強度に着目する。強い噛みつきには最小限かつわずかに遅れて応じ、甘噛みのように弱い反応には即時かつ十分に応じるという分化強化を行うことで、「弱いほうが確実に要求が通る」という関係を形成する。その後、甘噛みが安定すれば、触れるだけ・指さし・言語的要求など、より弱い、あるいは適切な代替行動に対してのみ強化を与えるよう基準を段階的に移行させる。こうした手続きにより、行動はより低コストの反応へと変化し、最終的には他傷とは呼べない水準へと弱化していく。行動の弱化後は、再発を防ぐ観点から、適切な拒否行動の形成を図る。発声や身振りなどによる拒否の意思表示がみられた場合にはそれを尊重し、拒否の要求が受け入れられたという経験を十分に積ませる。その上で、拒否を受け入れることが困難な状況においては、一旦停止(アクションストップ)して意思を尊重しつつ、子どもに対して拒否に応じられない理由を明確に説明する必要がある[21]

脚注

参考文献

関連項目

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