JASPER (自閉症療育法)

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JASPER(ジャスパー、Joint Attention, Symbolic Play, Engagement, and Regulation)は、アメリカカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の研究者コニー・カサリらが開発した、自閉スペクトラム症の子ども、主に1歳から8歳を対象とする早期支援プログラムである。共同注意、象徴遊び、関わり合い、感情調整に焦点を当て、遊びを通じて自発性や対人スキルを向上することを目的としている。介入は子どもの発達水準や目標スキルに基づいて行われ、関わりや要求行動の促進、遊びの多様化、自発的な社会的関わりの維持を支援する。プログラムは原則として支援者と子どもの一対一で行われる[1]

JASPERでは、子どもが自発的に遊びを始めることを重視しており、他者からの指示や促しに単に応答するのではなく、主体的に関わりを生み出す力の育成を目指している。また、発達段階に応じて体系化された4段階16の遊びのレベルが設定されており、子どもの発達水準に合わせて段階的に介入を行う構造となっている。

JASPERは、自閉スペクトラム症の幼児における社会的コミュニケーションの向上を重視した早期支援プログラムである。そのため、認知や運動スキル、学業スキルを直接的に向上させるものではないが、間接的にそれらのスキルを向上させることがある。自然主義的発達行動介入(NDBIs)の一つとして位置付けられ、発達と行動の原理を組み合わせたアプローチを特徴とする。

介入は、まず子どもの遊びおよびコミュニケーションスキルを評価し、発達段階に応じた目標を設定することから始まる。評価にはSPACE(Short Play and Communication Evaluation)と呼ばれる15分程度の遊びを通したアセスメントがおこなわれ、3か月ごとに再評価が行われる。

その後、子どものスキルに応じたおもちゃを用意し、子どもが自発的に遊びを始められる環境を整える。支援者は子どもと協働して遊びのルーティンを形成し、社会的スキルやコミュニケーションの発達を支援する。

セッション内では、学習の機会を自然な形で組み込み、新しいスキルの獲得を支援するとともに、問題行動に対しては、行動の機能を特定し、適切な対処を行う。遊びの場には子どもに適したおもちゃや視覚的支援、AACツールなどが用意され、セッション時間は原則として45~60分程度である。

JASPERの主な目的は、子どもが社会的パートナーとの活動を共有する時間を増やすこと、自発的な遊びのスキルの多様性や柔軟性、複雑性を高めること、そして共同注意や要求、意図的なコミュニケーションの自発的開始を促進することである[2]

JASPERでは、柔軟で多様性のある創造的な遊び(生産的な遊び)が重要視されている。一方で、硬直的な行動や限局的興味、反復行動、感覚刺激を求める行動など、いわゆる限定的かつ反復的な行動(RRBs:Restricted and Repetitive Behaviors)に対しては、遊びの相互作用の質を高めるために適切な支援が行われる[3]

歴史

1980年代当時、自閉スペクトラム症(ASD)に対する行動的介入は、主に言語的スキルや認知的スキルの獲得に重点が置かれており、セラピーは長時間にわたって椅子に座らせて行う形式が一般的であった。そのため、学習したスキルが日常生活に般化しにくく、自然な社会的文脈における自発的な関わりや柔軟な行動の発達が十分でないという課題が指摘されていた。

コニー・カサリ(Connie Kasari)は、1985年にカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のマリアン・シグマンMarian Sigman)研究室に博士研究員として所属し、ASDの社会的発達に関する研究に従事した。当時の研究室には、乳幼児期の社会的発達を専門とするピーター・マンディ(Peter Mundy)やジュディ・アンゲラー(Judy Ungerer)らが在籍しており、定型発達児における社会的相互作用や遊びの発達を、自閉症児の発達研究に応用する取り組みが進められていた。

アンゲラーは、定型発達児と自閉症児の遊びの質的な違いに注目し、独立した遊びと社会的な遊びを区別して評価する尺度を作成した。自閉症児は「トラックを動かす」「パズルをはめる」といった操作的な遊びは可能である一方、「人形を生きているように扱う」などの象徴的・見立て遊びに困難がみられることを指摘した。

カサリらは、子どもが遊びや社会的相互作用の中で学ぶことの重要性に注目し、ASDの中核的な課題が「共同注意」にあると位置づけた。シグマンおよびカサリらの研究により、自閉症児は定型発達児と比較して共同注意のジェスチャー(指さしや視線の共有など)の使用が少ないことが明らかとなった。また、共同注意のジェスチャーを多く示す自閉症児ほど、後の言語能力が高い傾向にあることが報告され、共同注意が言語発達および社会的コミュニケーションの基盤であることが示唆された。

これらの研究成果をもとに、1997年頃からカサリらは自然な遊びの文脈の中で共同注意や社会的関わりを促進する新たな介入法の開発を進め、その理論と実践を体系化したプログラムが、後に「JASPER」として確立された[4]

関わり合い

JASPERにおける「関わり合い」は、子どもが人や物とどのように相互作用するかを示す中核的な発達領域である。研究者の中では、関わり合いは6つの段階に分けられている。

  • 関わり合いがない状態
子どもが周囲と関わらず、ぼんやりしていたり、部屋の中を歩き回ったり、窓の外を見つめたりしている状態。人や物への明確な関心が見られない。退屈したり、ぼーっとしたり、周囲の出来事に関心が向かないときなど、一時的に見られることもある。
  • 見ているだけの状態
他者や物を見てはいるが、活動には参加しない。関わり方が分からないなど。たとえば、大人が積み木を積んでいるのを見ているが、自ら参加しようとはしない状態などがある。
  • 人とだけ関わる状態
人に対して注目し、物を介さずに遊ぶ段階。例として、歌をうたう、いないいないばあをする、追いかけっこをするなどがある。定型発達では、生後6か月未満の時期に見られる。
  • ものとだけ関わる状態
社会的な関わりがなく、目の前の物のみに集中している段階。周囲の人との相互作用はほとんど見られない。定型発達では1歳半頃にみられる。
  • 支援のある共同の関わり合い
人と物の両方に同時に関わる「共同の関わり合い」が見られる段階。子どもは大人との一体感を示す行動(顔を見る、模倣する、順番を待つ、一緒に発話する、大人の行動を明確に指示するなど)を取るが、多くは大人の行動に反応して生じる。一瞬的なやりとりが多い。例として、大人と積み木遊びをしているとき、大人から渡された積み木を受け取って積む行為などがある。定型発達では18〜36か月頃に見られる。言語能力の多くはこの段階の中で発達する[5]
  • 協調された共同の関わり合い
子どもが大人の支援をほとんど受けずに、アイコンタクトジェスチャー、言語を用いて自ら相互のやりとりを開始・維持する段階。アイデアを出し、やりとりを自らリードすることができる。

これらのうち、支援のある共同の関わり合いおよび協調された共同の関わり合いが、JASPERにおける主要な介入目標である。共同の関わり合いとは、子どもが能動的に相互作用へ参加し、自発的な選択や行動を通して他者と関係を築く状態を指す。

このような関わり合いにおいては、自発的選択や行動の自発的開始、共同注意を示すジェスチャーや会話など、相手への意識を示す行動が含まれるほか、相手の行動を模倣すること、遊びの中で役割を交代すること、相手のアイデアや働きかけに応じることなどが特徴として挙げられる。相手の働きかけに応じることは、単に相手の指示に従うこととは異なる。

定型発達では、生後6か月間に人への関心が芽生え、「お座り」ができるようになると、周囲を探索し始め、ものに強い関心を持つようになる。初期には「人だけ」または「物だけ」に注意を向けることが多く、両者を容易に切り替えることは難しい。生後9か月から12か月頃になると、共同の関わり合いの状態に入り始め、人と物への注意を切り替えながら関わるようになる。具体的には、ものや出来事に対するお互いの興味を相手に伝えることができるようになる。生後18か月までには、遊び時間の約3分の2が共同の関わり合いの状態になるとされる。

一方で、定型発達の子どもが30か月までに相互作用の約20%を質の高い共同の関わり合いに費やすのに対し、自閉スペクトラム症(ASD)の子どもの場合は約5%程度にとどまる。ASDの子どもは自らやりとりを開始することが特に難しい傾向がある。

JASPERでは、共同の関わり合いの時間を増やすことを主要な目標とする。特に、子どもが「自発的かつ内発的」に行動・コミュニケーションを行う能力の促進を重視する。

  • 自発的行動:自分から他者に依頼や質問をしたり、興味深いことを共有したりする行動。(例:おもちゃを手渡し、大人を遊びに誘う)
  • 反応的行動:相手の反応を待ったり、自分の新たな考えを付け加えたり、他者からの問いかけや促しに応じる行動。(例:「どっちが欲しい?」と聞かれて答える)

JASPERは、自発的行動と反応的行動の両方を適切に切り替えながらやりとりに参加できるようにすることを目指すアプローチであり、特に、ASDの子どもが困難を示しやすい自発的行動の促進を重視し、それを通して社会的関わりの質と深まりを高めることを目標としている[6]

遊び

「遊び」は、「子どもがものやおもちゃと関わる中で、自発的かつ創造的に自分自身のアイディアや好みに基づいて活動すること」と定義される。

JASPERでは、遊びを「単純遊び」「組合せ遊び」「前象徴遊び」「象徴遊び」の4つのレベルに分けている。単純遊び・組合せ遊び・前象徴遊びは機能的な遊び(具体的な遊び)に分類され、象徴遊びは象徴的な遊び(想像的な遊び)に分類される。自閉スペクトラム症(ASD)の子どもは、特に機能的な遊びと象徴的な遊びの間の壁が特に大きな課題となる。

子どもの遊びのレベルを向上するため、最初から最高レベルの遊びを目指すのではなく、すでに習得された遊びレベルを起点として、そこから足りないスキルを段階的に補完していくことが目標となる[7]

レベル種類・名称説明
単純遊び区別しない遊びものを口に入れる、叩く、繰り返し落とすなど、対象を区別せずに行う遊び。ものを叩く、ものを落とす
区別する遊び因果関係のある単一の遊び行動。ものを区別して扱う。ボールを坂に落として転がす/車を転がす/飛び出すおもちゃのボタンを押す
分離する遊び外したり取り出したりする操作的な遊び。パズルのピースをボードから外す/積み重なったカップを外す/形合わせ遊びの形を外す/つながったビーズを分ける
初期の組合せ遊び一対一の組合せ特定の場所や形に組み合わせる遊び。パズルをはめる/棒にリングを通す/コップを重ねる/貯金箱にコインを入れる
一般的な組合せ正しい組み合わせ方が決まっていない自由な組合せ遊び。ブロックを積み上げる/物をダンプトラックに入れる
前象徴遊びと組合せ遊びふり遊び自分や他者に対して日常的な動作を再現する。おもちゃの食べ物を食べるふりをする/自分の髪や他者の髪にブラシを当てる/電話を耳に当てる/自分や他者の頭に帽子をかぶせる
物理的な組合せ遊び子どもが特定の対象(物・場所・人・動物など)を意図的に再現するために、複数の物を組み合わせて何かを構成する遊び。ブロックで家をつくる/マグネットタイルを用いて車を作る
子ども主体の人形遊び子どもが主体となり人形に行動を起こす。人形の髪をとかす/犬の人形に食べ物をあげる
日常的な組合せ遊び習慣や日常経験に基づいて、関連するアイテムを一緒に配置する遊び。お皿に食べ物を置く/枕をベッドに置く/椅子をテーブルの横に置く
単一の場面遊び自分を主体とするふり遊びを、複数の人形や対象に連続して展開する。人形Aに食べ物を差し出したあと、人形Bにも差し出す/人形Aの髪をとかしたあと、人形Bの髪もとかす
象徴遊びものを使った見立て遊びものを別のものに見立てて遊ぶ。ブロックを電話に見立て「もしもし」と言う/ブロックを車に見立て、エンジン音を出しながらブロックを押す
ものを使わない見立て遊びものがないときにあるふりをする。目の前に対象物がなくても、その存在を想定し、行為や言語によって表現する。「スープ」と言いながら空のボウルをかき混ぜる/「ジャー」と言いながらお茶を注ぐふりをする/相手に「お金」を渡すふりをする
人形主体の人形遊び人形がものを使ったり、セリフを話したりする。人形に生命があるかのように扱う。ネコのぬいぐるみを動かし「お腹がすいたわ、ニャー」と言う/人形が夕食を食べているかのように動かす/恐竜が空を飛んでいるかのように動かす/農夫の人形にトラクターを運転させる/人形の手に道具を持たせて橋を修理させる
複数の場面遊び人形が主体となって一連の行動を展開するストーリー的な遊び。人形を滑り台→ブランコ→家に帰るまで遊ばせる/ネコのぬいぐるみがイチゴにかぶりつき「モグモグ」と言ったあと、コップから飲み物を飲み「ごくごく」と言う。
現実的なごっこ遊び現実の職業や役割を演じる。保育士/教師/おままごと
空想的なごっこ遊び架空のキャラクターやファンタジーの役を演じる。スーパーヒーロー/魔法使い/妖精

定型発達の子どもは、生後4か月から6か月頃までは、対象を区別せずにものと関わる。9か月から12か月頃になると、ものがどのように機能するのかを探索し始め、意図的に遊ぶようになる。例えば、ボールを転がすなどの単純な遊びが見られるようになる。

生後2年目になると、ものを組み合わせる遊びへと発展し、その後、ふり遊びや物理的な組合せ遊びなど、ものを使って何かを作り上げたりする方向へ変化していく。たとえば、自分で食事をするふりをしたり、積み木で家を作ったり、人形にカップを差し出すなどの行動が見られる。しかし、これらはまだ象徴的な段階には至っていないため、前象徴遊びに分類される。

生後18か月から36か月の間に、子どもは象徴遊びを始める。48か月頃には、より手の込んだストーリーを計画して演じるようになり、たとえば「海賊になって宝探しをする」といったごっこ遊びが見られる。この段階では、子ども同士が役割や行動を割り当て合い、「ぼくは海賊で、〇〇くんは宝を隠す係ね」といったやり取りが生まれる。また、小石を宝物に見立てるなど、周囲のものを創造的に代用品として使用することもある。

このような遊びの中で、子どもたちは互いにアイディアを出し合い、他者の発想に反応しながら、おもちゃを使って共同でストーリーを発展させていく。笑顔や笑いに満ちた遊びの一体感を共有する中で、意見の違いが生じた際には、問題解決を試みたり、相手と折り合いをつけたり、感情を調整したりすることを通して、創造力・問題解決力・コミュニケーションスキルを自然に習得していく。

自閉スペクトラム症(ASD)の子どもは、一般に具体的な遊び(例:積み木を積む、型はめをする)は得意である一方で、抽象的または象徴的な遊びを苦手とする傾向がある。例えば、積み木を積むこと自体は得意でも、「積み木を使って飛行機を作る」といった創造的な遊びは難しいことが多い。また、人形遊びでは、実際に経験したことのある「お風呂に入る」「バスを待つ」といった場面は再現できるが、「人形を宇宙飛行士に見立てて月に行く」といった抽象的な遊びは困難である場合がある。

支援者は、子どもの生産的な行動のみを模倣したり、発達段階に適した遊びを提示して見せる(モデリング)などの方法で関わる。子どもが自発的に遊びのアイディアを考え、それを実行する力を育むとともに、遊びの多様性(遊びの種類や展開の幅)および複雑性(遊びの構造や象徴性の深さ)を向上させる。

「ベース」「拡大」「リスタート」を繰り返すことで、遊びのルーティンを形成する。「ベース」とは、1つの遊びのステップや複数のステップを連続させた短い遊びの流れのことであり、子どもが主体となって繰り返し取り組むことができ、ルーティンの土台となる活動を指す。例えば、子どもが積み木を一つ選び、それを別の大きな積み木の上に重ねる場合、積み木を互いに順に積み上げていくという「一般的な組合せ遊び」のベースが確立される。

「拡大」とは、ルーティンに新しいステップを一つ加えることである。拡大には水平方向の拡大垂直方向の拡大がある。水平方向の拡大とは、子どもが現在いる遊びの発達レベルを維持しながら、そのレベルに属する新たな遊びのステップを追加することである。同一レベル内で遊びの種類が増えるため、遊びの多様性を広げる働きを持つ。例えば、入れ子の箱を積み上げて遊んでいる場面において、同じ「一般的な組合せ遊び」の範疇にある別種類のブロックを組み合わせることが水平方向の拡大にあたる。

これに対し、垂直方向の拡大は、現在の遊びレベルよりも高い発達段階の遊びへと活動を発展させることである。これは遊びの複雑さを高めることにつながる。たとえば、子どもが「一般的な組合せ遊び」の段階でブロックを積み上げている場合、積み上げた構造物の上に人形を配置して物語性を帯びた前象徴遊びへと促すことが垂直方向の拡大となる。一般に、水平方向の拡大は既に可能な動作との連続性が高く、子どもにとって取り組みやすい。一方、垂直方向の拡大はより高度な遊びを必要とするため、より難易度が高い場合が多い。両者を適切に組み合わせることで、子どもの遊びの幅と深さを総合的に高めることができる[8]

遊びの拡大を促進するためには、子どもに二つの選択肢を提示したり、大人が子どもの拡大行動を模倣したりする方法が用いられる。拡大の選択肢となるおもちゃは、子どもの視界に入る位置に配置し、常に子ども主導で遊びを拡大できるように環境を整える。例えば、オーブンのおもちゃとうさぎの人形を用意し、子どもがどのように遊びを拡大させるかを選択できるようにする。子どもがピザの一切れをオーブンに入れる遊びを始めた場合には、大人も同様の行動を繰り返すことで、子どもの行動を模倣する。これらを繰り返すことで自然な形で遊びを発展させることができる[9]

「リスタート」はルーティンをやり直したり、より前の段階のステップに戻ることを指す。例えば、大人と子どもが積み木で動物園を作る活動を「ベース」とし、動物園を倒して再び作り始めることを「リスタート」とする。その後、別の動物園を作ったり(新たなベース)、動物を追加するなどして遊びを「拡大」させ、さらにそれを一緒に倒して再び作り直す(リスタート)といった流れで遊びを展開していく。ベースが不安定な場合は、新しい要素を取り入れる(拡大)前に、安定したベースとなる遊びを十分に繰り返す必要がある[10]

社会的コミュニケーション

JASPERでは、共同注意と要求の両方を重要なコミュニケーション機能と考え、すでに見られるスキルを評価しながら、不足しているスキルの発達を支援する[11]

共同注意

  • 共同注意への反応:大人の働きかけに応じて視線を動かし、他者の注目している対象に注意を向ける。
  • 共同注意の見る:大人と物との間で視線を往復させ、関心を共有する(例:物→大人→物、大人→物→大人)。
  • 共同注意の見せる:興味のあるものを大人に向かって掲げ、注意を促す。
  • 共同注意の指さし:腕を伸ばして人差し指を立て、面白いと思う対象を示したり、経験を共有する。
  • 共同注意の渡す:共有ややり取りを目的として、物を大人に手渡す。
  • 共同注意の言葉:話し言葉や補足的な言葉を用いて物や出来事についてのコメントをし、出来事や対象への興味を共有する。
  • 共同注意の組合せ:上記のスキルを組み合わせて、他者と何かを共有する。例えば、子どもが対象物を見て大人に見せ、「リンゴがあるよ!」と発言することで、視線、ジェスチャー、言語を組み合わせて経験を共有するなど。

要求

  • 要求のアイコンタクト:欲しいものや必要なものを伝える際に、人と対象の両方を見る。
  • 要求のために手を伸ばす:腕を伸ばして対象物を要求する。
  • 要求の指さし:人差し指を立て、欲しい物や助けを求める物を示す。
  • 要求の渡す:操作や修理を依頼するため、または片付けを促すために物を他者に渡す。
  • 要求の言葉:話し言葉や補助的手段(例:「ジュースがほしい」など)を用いて要求を伝える。
  • 要求の組合せ:上記を組み合わせて、要求を伝える。例えば、子どもが大人を見て指さしを行い、「直して」と言葉で伝えることで、車輪の修理を依頼するなど。

定型発達の子どもは、言葉で会話ができるようになるはるか以前から、非言語的手段を使って他者と関わり始める。生後1年以内には、視線や身振りを通して他者の働きかけに応じ(共同注意への反応)、他者と注意を共有し始める。

視線やジェスチャーなどで意図的にコミュニケーションをとる力は、その後の言語発達において極めて重要であることが示されている。特に、相手の視線を追う行動、物を見せる行動、指さしなどの初期の共同注意行動は言語の発達と強く関係しており、自閉スペクトラム症(ASD)の子どもでは、現在や将来の言語能力を予測する手がかりになることが研究で示されている。

定型発達の子どもは、生後20か月頃までに、共同注意や要求といった非言語的なコミュニケーションスキルを身につける。一方、ASDの子どもは、視線やジェスチャーを使用した共同注意の行動があまり見られず、共同注意よりも先に、欲しいものを伝えるための要求のスキルが発達することも多い。このような発達の違いは、ASDの子どもを他の発達障害と区別する特徴の一つとされている。

ASDの子どもは、アイコンタクトをほとんど用いない、人差し指を伸ばしたはっきりした指差しを行わないなどの特徴がみられる。また、視線やジェスチャーを使う代わりに、泣いたり叫んだりするほか、大人の手を引いて欲しい物のある場所まで連れて行ったり、大人の手を物の上に置いたりするなど、いわゆるクレーン現象によって意思を表現することも多い。このように、子どもの要求が曖昧で明確に他者へ向けられていない場合や、理解しにくい形で表現される場合には、周囲の大人にとってその意図を読み取ることが難しくなり、子どもに情緒の不安定さが見られることがある。

支援の目標は、ASDの子どもが視線やジェスチャー、言葉などの言語的・非言語的手段を用いてコミュニケーションを行い、自分の欲しいものを伝えたり、興味や関心を他者と共有したりできるようになることである。そのため、これらのスキルを自然な形で組み合わせ、状況に応じて柔軟に使えるようにすることが重要とされる。

まずはコミュニケーションの回数を増やすことを重視し、必要に応じて大人が支援を行いながら、最終的には子ども自身が自発的に考えやアイデア、要求を他者と共有できるようになることを目指す[11]

遊びのルーティンの中で、コミュニケーションの模倣と拡大を行う。子どもがジェスチャーを用いた場合、大人はそれを模倣し、さらに一語を加えて発話する(拡大)。子どもが指さしをした際には、大人も同じ方向を指しながら「車」などと一語加えて応答する。子どもがすでに一語文を話す場合には、それを二語文へと拡大して応答する。例えば、子どもが「車」と発話した場合、大人は「黄色い車だね」と応じることで発話を自然に広げる。

子どもが既に言葉を使用していても、言葉に共同注意のジェスチャーをつけることで、共同注意の発達を促すことができる。ジェスチャーは、子どもの視線の範囲内で通常より1~2秒程度長めに保持する。提示の際には子どもが気づくように明確さを保ちつつも、ルーティンから逸脱しないよう、自然に気づく程度のさりげない方法で行う必要がある[11]

プログラミング

JASPERにおける「プログラミング」とは、子どもが言葉やジェスチャーを学べるように、遊びの中で意図的に学習のチャンスをつくるプロセスを指す。このプロセスでは、ジェスチャーや言葉のモデル提示、スキルを使用する機会の提供、子どもが反応するための十分な待機時間の確保、そして子どもの反応への即時的かつ適切な応答という一連の段階を通して、コミュニケーション行動の学習を支援する[12]

プログラミングの機会は、自然な状況を活用する場合と、意図的に作り出す場合の両方がある。例えば以下のような方法が挙げられる。

  • 2つの選択肢を示す。
  • ルーティンの中に「ふざけたステップ」や予期しない出来事を挿入し、共同注意を引き出す。
  • 人形を多く積み上げ突然落ちるなど、子どもが何かを伝えたくなる状況を作る。
  • 子どもが探しているおもちゃが大人の近くにあるとき、持ち上げて間を取ることで要求を引き出す。
  • おもちゃの一部を子どもの手の届かない場所に置く。
  • 中身の見えない容器に興味のあるおもちゃを入れる。
  • 手伝いが必要な状況を設定する。
  • 子どもの興味を引きそうな拡大用のおもちゃをあらかじめ準備する[12]

例えば、子どもの手の届く位置に二体の恐竜のパペットを提示する。大人は微笑みながら期待を込めて子どもを見る。子どもが恐竜を見るものの指さしを行わない場合、大人は「何が見える?」といった一般的な言語プロンプトを提示し、反応を待つ。子どもが恐竜に向けて共同注意の指さしを行った場合、大人はそのジェスチャーを模倣しながら「大きい恐竜だね」と肯定的に応答し、子どものコミュニケーション行動を強化する[12]

プロンプトは子どものスキルの補助として用いられる。コミュニケーションの試みや適切な反応が生じた際には、それに対して模倣や拡大を行い、ポジティブな感情で反応することでコミュニケーション行動を強化する[12]

プロンプトは学習を補助するために用いられる支援であるが、過度に依存すると自発的行動を妨げる可能性がある。そのため、支援は最小限にとどめ、可能な限り速やかにフェイディングを行うことが原則である[13]

プロンプトは最小から最大へと段階化されており、以下の階層が設定されている。

種類 内容
環境的プロンプト 玩具を前方に動かす、子どもに手渡す、選択肢を提示するなど、行動を誘発する視覚的手がかり。 玩具を子どもの視野に入る位置へ動かす/2つの玩具を提示し、選択肢を示す
モデリング 生産的な遊びやジェスチャーの具体的なモデルを提示する。 大人が風船に手を伸ばし、期待を込めて子どもが手を伸ばすのを待つ
ジェスチャー・プロンプト 手のひらを差し出すなど、子どもの行動を促す非言語的示唆。 大人が手のひらを出して子どもが簡単に渡せるようにする
一般的な言語プロンプト オープンな質問や一般的なコメントを用いた支援。 「何が欲しいの?」/「わあ、何が起こったの?」/「何がいるの?」/「私、ヘアブラシがいるの」/「ロケットはどうなる?」
具体的な言語プロンプト 特定のスキル使用を直接的に促す言語刺激。 「私にちょうだい」/「私に見せて」/「指さしして」/「手を伸ばして」/「車がほしいと言ってごらん」
部分的身体プロンプト 子どもの手や腕に軽く触れ、ジェスチャーを思い出させるための最小限の身体的支援。 肘や手首にポンと軽く触れて腕を持ち上げるよう促す/手の向きを調整し、共同注意の見せるや指さしを促す
完全な身体プロンプト 子どもの手をそっと誘導し、目的のジェスチャーを形成する身体的支援。 大人が子どもの指を指さしの形にする/優しく手を添えてこちらにブロックを渡す動作を形成する

環境的プロンプトとモデリングは示唆的プロンプトに分類され、それ以外は指示的プロンプトとされる。基本的には侵襲性の低い示唆的プロンプトが使用される。プロンプトは1回につき1種類に限定することが原則であり、子どもの自発的なコミュニケーションを妨げないよう、即座にフェイディングされる[14]

有効性

2006年の研究では、3歳から4歳の早期支援を受けている自閉スペクトラム症の幼児56名を対象に、「共同注意をターゲットとした介入群」、「象徴遊びをターゲットとした介入群」、および対照群の3グループを比較した。各介入は1日30分、5〜6週間にわたり実施され、その結果、介入群ではそれぞれの標的行動の向上が確認された。特に共同注意介入群では他者への注意の共有やその般化が見られ、象徴遊び介入群では遊びの多様性と発達的水準の向上が示された[15]

さらに、約6年間にわたる追跡調査では、幼児期の共同注意スキルが後の表出言語発達に与える影響が検討された。その結果、共同注意の「見る」および「見せる」は時間の経過とともに増加を続けたのに対し、「指さし」は介入後1年間は増加したものの、その後は減少傾向を示した。この現象は、言語発達に伴いジェスチャーによる注意共有の必要性が低下する自然な過程と一致していると考えられる。幼児期の指さし行動が後の表出言語に与える影響を因果的に検証した結果、指さしから表出言語への経路は有意であり、早期の指さし行動は後の言語発達を予測する重要な因果的因子である可能性が高いことが明らかになった。一方で、表出言語から指さしへの影響は有意ではなく、言語の発達が指さしを増やすわけではないことが示された。

共同注意介入群の子どもたちは、象徴遊び介入群や対照群と比較して、共同注意の「見る」や「見せる」の成長が最も速く、表出言語能力の発達においても優れた成果を示した。これらは幼児期から小学校期にかけて安定して増加し、早期介入の効果が長期的に持続していることが確認された。指さしについては、定型発達児においても言語が出現するにつれて自然に減少するため、年齢が上がると指さしへの介入の重要性は低下することが示唆された[16]

2010年のカサリらの研究では、保護者が家庭で介入を行うことで、子どもの「他者との関わりの時間」や「遊びの質」が向上し、その効果が家庭や教室にも広がることが示された[17]。また、教師が実践する介入研究では、JASPERを導入した保育や教育の場で、子どもの共同注意や社会的な関わりが改善し、教師自身の支援スキルも高まることが確認されている[18]

2013年には、発語の乏しい3〜5歳の自閉スペクトラム症の幼児を対象に、12週間の介入が行われた。対象児はすでに週30時間のABAベースの療育を1年以上受けており、それでも10語未満しか自発的・機能的に発話できない子どもたちであった。

この研究では、対象者15名を通常のABAプログラムのみを受ける統制群と、同プログラムの一部をJASPERセッション(1回30分×週2回)に置き換える介入群に分け、自閉症支援の実践経験がある大学院生が介入を実施した。介入忠実度は平均88.3%であった。

12週間の介入の結果、介入群では遊びの多様性が増加し、教室で「遊びに関与していない時間(未関与時間)」が大きく減少した。また、要求のジェスチャーの使用も有意に増加した。一方で、共同注意のジェスチャーには有意な変化は見られなかった。

これらの効果は、介入場面外の教室環境においても部分的に般化し、遊びの多様性と関与状態の改善が確認された。特に、遊びの多様性の向上が教室での関与時間の増加につながる可能性が示唆された。また、音声出力装置(SGD)を併用することによって、介入効果が高まることも示された。共同注意の改善には、より長期的または集中的な介入が必要であると考えられた[19]

外部リンク

関連項目

脚注

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